2015/07/12 のログ
石蒜 > 「……あなたも、頑固ですね。言ったでしょう、私にとってあなたは二番目だって……一番はご主人様だって……。」あの時の約束、気まぐれにした、とてもわがままで一方的な約束。畝傍に献身を求めるが、自分は何もしない。子どもじみた約束。

「…………。」何も言わずに話を聞く、時間を稼いでいる。畝傍を殺すことも、仲間に引き入れることも出来ずに、ただ先延ばしにしている。だがそれにも石蒜は気付かない、気づこうとしない。

「でも、違いますよ。やっぱり違う……。」顔を振る、理解されるのが、歩み寄られるのが嫌で嫌でたまらない。早く立ち上がって、撃って欲しい、そうすれば楽しめるのに。
「私は罪を悔いていない、罪とも思っていませんよ。享楽に必要だから斬っただけ、食事のために生き物を殺すのと一緒です。だから、違うんですよ。私とあなたは、もう同じ種族ですら無い。私は人間を辞めたんです。」
これ以上話すのは危険だ、そう感じた。もう時間を稼ぐタネもないし、また心が揺れる。もう決めたはずなのに、会話は苦手だ。だから、終わらせよう。

「さようなら、畝傍……。初めて会った時から、ずっと愛してましたよ。」刀を振り上げる。せめて苦しませずに、一撃で殺してあげよう。

鳴鳴 > 「――そうだ!」
高らかに言う。
「そうだ、そうだ、そうだそうだそうだそうだとも!」
賞賛する。感激する。棒手裏剣に身を封じながら、空に舞い上がった蒼介に手をかかげて。
「君の言うとおりだ! 君はまさに今こそ、九万里を翔ける真人にも等しくなったんだ! 絶対の価値なんてない。絶対の善悪などない。全ては相対的な差別のもとにあるものさ!
 全てに意味はなく、そして故にこそ全てに意味があるんだ!
 君がただそれを認めるというそれだけのこと――それで全ては成り立つんだ!
 善悪を語るなんてことよりも、その方がよほどいい!
 君は素晴らしいよ! そうだ、それでいい。それでいいんだ!
 僕を破壊するんだ! 僕を殺すんだ! ただそれだけでいい!」

蒼介が印を結び始める。すると地面に突き刺さった棒手裏剣が光を放ち始める。
大地の脈が引き出され、紫電がバチバチと跳ねていく。

「おお、九天より雷が来るか!」

天に向かって放たれる雷を見る。こちらに雷が迫ってくる。

「ならば僕も応えよう! 君は既に真理に到達した!
 ならば既に答えは決まっている! 君のなしたいことを成すために、僕を殺すといい!」

鳴鳴の九蓮宝刀が黒く輝き始める。
そして、鳴鳴の顔が黒く、染まっていく。それは無貌。
その無貌に、三つの燃える目が浮かび上がっていく。

「――《無為自然》」
混沌たる自然、全てをありのままに、作為を加えずに「道」に至る。
鳴鳴の真実の姿の一端が、「門」の向こう側と一つになる。
そして、一気に剣を掲げたまま、雷へと自ら向かっていく。
「――《万物斉同》」
鳴鳴が現れる。いくつものいくつものいくつものいくつもの鳴鳴が周囲のものと同化して、無数に出現していく。
それらは嘲笑いながら、放たれた強烈な雷へとぶつかっていく。

――強烈な迸りが周囲を埋め尽くす。

畝傍 > 石蒜が刀を振り上げた――その瞬間であった!畝傍の全身から溢れだす炎が、より一層激しさを増したのである!
眼帯が弾け飛び、その左目からは灼熱の炎が、これまでにない勢いで噴き上がる!左目全体が炎に隠され、恐らくこの場の誰にも視認することはできないであろう。
そして右目は、さながら南の魚座の一等星フォーマルハウトが如き輝きを放つ。
今の畝傍に行える最大級の炎化。これ以上の規模となれば、自身への精神的な影響も計り知れないであろう。
石蒜によって今まさに刀が振り下ろされんとする刹那、畝傍は爆発のごとき勢いで背後へ跳躍、間一髪刀を回避した!そして――
「……シーシュアンにとって、ボクがにばんめでも……ううん。なんばんめだっていい。それでも!ボクのいちばんはシーシュアンなんだ!」
語りかける。畝傍はショットガンを構えず、ナイフも抜かず、石蒜に対して一切の攻撃行動をとらないまま、言葉を続ける。
「シーシュアンは……ちゃんと、じぶんの罪を……悔やんでるよ。ほんとうに、罪を……罪だって、おもってなかったら……そんなこと、いわないはずなんだよ!」
何度でも、何度でも――叫ぶ。叫び続ける!

石蒜 > 突如輝きだした畝傍に、咄嗟に左腕をかざす。刀が地面に刺さり「なっ…」驚きの声。
「違う、私は悔いてなど……!」言い返そうとして、思い出す。あの炎は畝傍の正気を代償に燃えているはずだ。
「やめなさい、畝傍。その炎を、消しなさい、すぐ!あなたの正気が燃えてしまう!!」こんな火力で燃え続けたら、燃え尽きてしまう。畝傍が畝傍でなくなってしまう。

止めなくては、早く!焦燥感に駆られて、刀を構え飛びかかる。刃を返して峰打ち、それで首筋を狙う、気絶させれば炎も止まると見込んで。

風間蒼介 > 拙者は刃にござるからな…護国のためには善だの悪だの言ってはおられぬ
しかしそれも後ろに誰かが居るからにござる
風間の名は護国を任ずる、我ら牙無き民の刃にて切っ先
血に塗れるもぶつかり欠けるも誉なれば…
貴様が全てに意味が無いと嘲笑うならば、拙者は全てに意味があると謡おう
(熱い鉄が槌に打たれ火花を散らすように
 鳴鳴という共鳴しながらも相容れぬ存在に打たれ心が純化されていく
 余計な理由は要らない、思うがあるがままに
 驕らず恥じず、己の奥に秘める自覚すら出来ない深層の意識に、言葉にすら出来ないもどかしい何かへと同調していく)

絶対の善がなかろうとも拙者は拙者を誇れるよう善くあろうとするでござる
この世に真理などない、至ろうと手を伸ばし届かぬからこそその先へその先へと歩みを止める事無く進めるのでござるよ
真理に到達したと!至ったと嘯きそこに留まる貴様が、知った風な口を利くな!
(ぞぐりと、泥で出来た釘を背骨に打ち込まれたような吐き気をもよおすような悪寒が全身を駆け抜ける
 虚空を穿つような虚無的で無貌の三眼が意識を、魂を見通し吸い込むような甘美で蠱惑的で、怖気の走る引力を放射する
 それを振り切るように手は緩めず、意を込めた言葉を打ち放ち、雷を蹴りつけ、風を帯び、空を切り裂き加速し続ける
 圧縮された大気が白く爆ぜ、長く尾を引く飛行機雲を引きつれて)

畝傍 > 刀を構え迫る石蒜に対して、畝傍はその場を動かず構えをとり――
寸でのところで、刀の峰を炎を纏った右手で受け止める。
衝撃で地面を抉りながら後ずさりするも、体勢は崩れない。
そして、そこから反撃に――移らない。輝きを放つ瞳で、畝傍は石蒜の顔をまっすぐに、じっと見据え、微笑む。
「シーシュアンは……やっぱり、やさしいんだね。そう……シーシュアンは、やさしいヒトだよ。どんなにゆがめられてても……こうして、かたなをむけていても……そうやって、ボクのこと……しんぱいしてくれるんだもの」
その炎の激しさとは裏腹な、まるで母のように優しく、囁くような声で、語りかける。

石蒜 > 「畝傍!炎を止めて!お願いだから!」懇願する。全てを無意味無価値と断じ、享楽のみに生きると豪語した少女が、倒すべき敵に懇願している、もう狂わないでくれと。

刀を引こうとして、止める。畝傍の指が斬れてしまうから。もう、石蒜は自分が何を考えているのか、何がしたいのかわからなくなっていた。ただ今は畝傍を止めたかった、さっきまで殺すつもりだったというのに。
代わりに、右足の回し蹴り。狙いは顎、脳を揺らして気絶させる狙いだ。

畝傍 > 顎へ向かう右足を、白刃取りのように両手で受け止める。反撃しようと思えば、この体勢から蹴りを叩き込むこともできただろう。
だが、畝傍にはなおも反撃に移る様子はない。しばし言葉がなかったが、やがて口を開き。
「…………わかった。シーシュアンが、そういうなら……」
石蒜の右足を受け止めた両手から、徐々に炎の勢いが退いていく。
両手首、足首の炎が消え、左目に燃えていた炎の勢いも衰えてゆき、髪の色は元のブロンドに戻りはじめた。
炎を止めた上、畝傍が本来なら苦手としている至近距離。彼女を傷つけることは、石蒜には容易いであろう。
しかし畝傍はそれさえも恐れず、石蒜の右足を受け止めたままの状態で、再び微笑んだ。

鳴鳴 > 「ひひ、あは、あは、あははははは……」

閃光の後に、鳴鳴は天に居なかった。無数に現れた混沌は消えていた。
地に堕ち、倒れ伏していた。
体の半分が混沌となり爆ぜていた。道服も大部分は破れ、褐色の肌が見えている。
傷ついた肌の奥から見えるのは血や臓腑ではない、無数の貌――混沌であった。

「生に意味などなく、答えなどどこにもないと知ったとしても、それでもなお全てに意味があるというのなら――
 僕は君を愛そう。僕は全てを愛そう。
 僕は全てが大好きで大嫌いで。信仰していて嘲笑していて。全てが面白く、そしてつまらない。
 僕は全てを希望し、全てを諦めている。
 僕は混沌そのものだ。全てを内包するゆえに。
 「道」という大きなものの前では、君達の行為も何もかもは塵のようなものだ。君達の行動なんて、意味もなく消えてしまう。
 僕がいる場所は真理の頂点にして、糞便の中――「道」は糞便の中にあると『荘子』はいっている。
 それでもなお、全てに価値があるというのなら――僕も、全身全霊を以て、君達と遊ぼう。
 僕の享楽のために!」

立ち上がり、燃える三つ目で蒼介を見る。
そして、石蒜と畝傍の方を見て、口の端を吊り上げる。

「――さあ、君達はどうなるかな。僕はとても楽しみにしているんだ。
 全てを裏切られることを」

鳴鳴はその身の半分以上を混沌にし、かろうじて人型を保っている。
残った右手を前に出す。

『南海之帝為儵、北海之帝為忽、中央之帝為渾沌。
 儵与忽、時相与遇於渾沌之地。渾沌待之甚善。
 儵与忽諜報渾沌之徳曰、人皆有七竅、以視聴食息。此独無有。嘗試鑿之。
 日鑿一竅、七日而渾沌死』

『荘子』の一節を引用する。

「だが、触らなければ、何もしなければ、よかったということもある。
 自然のままにしておけば、人為など及ぼさなければ、何も起こらなかったかもしれない。
 君の行動ゆえに、悲劇が訪れることを、僕は切望する。
 ――腐条理、腐った条理を見せてあげよう!」

「――九蓮宝刀、太極剣!」

渾沌にまみれた剣がいくつもいくつも現れる。
いくつもの刀が鳴鳴の周りに現れ、地面に突き刺さっていく。
そして、その九蓮宝方から強烈な光が溢れていく。
それは光であり闇であった。混沌の力。
それらが一斉に溢れだし、強烈なエネルギー体のとなる。
原初の混沌が分かれることにより、光と闇が生まれた。
鳴鳴の貌が無貌に戻り、嘲笑うかのように、その顔に七つの孔が空く。七孔をあけられて死んだ渾沌のように。
そのエネルギーが鳴鳴の右手に集まり、剣となり、そして蒼介に照射された。

石蒜 > 力なく、足を下ろす。「どうして、どうして……。」
「どうしてそこまで……私のことなんか、ろくに知りもしないくせに!!
サヤがどれほど苦しんで、人を捨てたのか知らないくせに……!!
もっと早く、来てくれれば……私は、私は……石蒜に堕ちることも無かったのに!!」衝動のままに、怒鳴る。それは駄々をこねる子供にも似ていた。

「もうどうしようもない!手遅れだ!!万一助けられても、私は消える!サヤは私の存在を許さない!サヤだって、一生罪を抱えて生きることになる!!だから!だから!!もう私はご主人様と生きるしかないんだ!!私の罪を許してくれるのは、ご主人様だけなんだ!!」髪を振り乱して叫ぶ。
それがジレンマだった。助けられたい、だが石蒜は消えたくないし、サヤの今後を考えてもいた。だから狂人として、悪として振る舞い、鳴鳴こそが唯一の人だと必死で思い込んで、付き従ってきたのだった。
だがそれも畝傍の前では取り繕えなかった、本心と嘘の間で、石蒜は苦しんでいた。

風間蒼介 > 生に意味などなく…この世のどこにも答えなど無い
ゆえに白紙、そこに意味を持たすも、価値を与えるも自分自身にござる
なればこそ筆を取るべきは自身の手!その手を奪おうとする貴様の所業…許せぬとか、悪だとか言うつもりはござぬ
ただただ気に食わぬ!
ああ、そうだ気に食わぬでござるよ!おぬしの言う事は判る、理解出来てしまう、何かを一つ掛け違え得れば隣に居れそうだというのがなによりも!
(逆さ雷で空へと打ち上げられた大地の気脈を、それにより増幅された雷気を螺旋の動きで絡め、掻き集める
 高空に流れる風気を手繰り、取り込み、練り上げる)

たとえ意味が無かろうとも、いずれ消えてしまおうとも今を諦める気はござらぬ!
それでもなお全てに価値が無いというのならば……その目に、焼き付けろ!
(魂の深奥を揺さぶるような殺気…鳴鳴の意識が今自分に収束したのを確信する
 それはつまり)

畝傍殿!
(預かった鞘を電磁投射、離れた戦場で石蒜と向かい合う畝傍のすぐそばの地面へと突き刺さり)

触れていれば、何かをしていれば…何かが変わっていたかもしれない
自分に出来る事があるのに、なにもせずに居ればもっと悪い事になるのかも知れない
悲劇が訪れ自分の過去を後悔する事が拙者は何よりも怖い…

常夜の果て 嘆く唄は聞こえず 晴藍の空は遥か彼方 伸ばせ伸ばせその手を伸ばせ
(だから自分の言葉をつむぐ、故事に、過去の人物が紡いだ偉業の力を借りず)

常世の夢 希望の詩は誰が為  星嵐の灯りは雲間の向こう 手繰れ手繰れ希望の糸を
(自分だけの言葉をコマンドとして意識誘導
 おぼろげに見え始めた自分の力のビジョンに重ね合わせ、先ほどの術で練り上げられた天の気を束ね)

太秦は 神とも神と 聞こえくる 常世の神を 打ち懲ますも 
(遥か昔、常世の神を下したとされる豪族を謡う言葉で、風間の血に受け継がれる力を引き出し)

煉気化神・大周天 飛翔天墜!
(螺旋に束ねた風雷の力、いつか破壊の神にぶつけたそれを遥かに拡大化した巨大な力の本流を足に纏い、光に向けて流星の如き蹴りを放つ
 理を持って束ね、獣の如き闘争心でそれをぶつける
 自分の中に眠るもう一人の自分、深層心理と呼ばれる知覚不能の意識の海に眠る形と同じ方向性を力に与え光の本流にぶつかる
 勝てるはずが無い、打ち抜けるはずが無い、だがそれでいい、それだけでもいい
 ここで稼いだ数秒は畝傍と石蒜が鳴鳴の意識から外れる数秒だ
 薄紙を重ね焔を食い止めるような競り合いを重ね)

っせい……やぁぁぁぁぁ!
(搾り出すような咆哮をあげ、束ねた力を解放し、混沌の光にそれを叩き付ける
 至近での炸裂に霊糸で編まれた装束はかぎ裂きに裂け目を増やし、放出される太極の奔流が肌を焼く
 喉も裂けよ力よ枯れよとばかりに力を振り絞り…鳴鳴の剣を捌いたのと同じ、自分の体を力と力のぶつかり合いの余波にのせ、軸線上からはずし、しのぎきる
 その真横を天を貫かんと伸び行く混沌の柱が伸びていって)

畝傍 > 「……ごめんね」
石蒜の足が下りると、畝傍はショットガンをその場に置き、石蒜の小さな体を両腕で抱き寄せようとする。両目からは、再び涙が溢れ出していた。
「そうだね……ボクには、シーシュアンのことも、サヤのことも……しらないこと、いっぱいある。もっとはやく会えてたら、何かちがったのかもしれない。でも……ておくれなんかじゃ、ないよ」
さながら、自らの娘をその手に抱きなだめる聖母のように。石蒜に語りかける。
「ボクが、シーシュアンを……ゆるすよ。それがどんな罪だって。もし、せかいじゅうのヒトが、ゆるさなくたって。ボクは……ゆるすから。だから。シーシュアンがひとりでくるしまなくて、いいんだ」
言い終えると、蒼介の声とともにすぐ近くの地面へ飛来してきた『鞘』に気付き。
「……ありがと、ソースケ」
右手でそれを抜くと、石蒜が持っている刀を、その鞘に納めんとした。

石蒜 > 抵抗せず、抱き寄せられる。
負けた、という実感があった。私は負けた、人の想いや、優しさに。
全てを無意味と笑っても、無価値と諦めても、心の何処かでそれは違うと思っていた。それを必死にねじ伏せて、狂ったふりをしていた。まるで拗ねた子供のように。

どこか人事のように、鞘に収められていく刀を見る。刀の中に自分が押し込められていくのがわかる、サヤがそうしているのだ。完全に収まれば、石蒜は刀に封じられるだろう。その後、刀を破壊すれば私は死ぬ。
刀から手を離し、畝傍の抱き返す。
「さようなら、畝傍。サヤによろしく、とても臆病な子です。優しくしてあげてください……。」鞘に完全に収まる直前に、一言だけ言えた。

そして、カチンと音を立てて鯉口と鍔が接すると、くたりと石蒜の体から力が抜け、倒れた。

鳴鳴 > 「はは、あは、あはははは!
 当り前さ! 僕は渾沌なんだから! 僕は光も闇も内包している!
 もし、何かが違えば、僕がそっちを面白いと思えば! 君達の隣にいたかもしれないな!
 ひゃ、あは、あはひあ、あああああ!!」

げらげら、げらげらげら。
嗤う、嗤う。この世全てが無意味で無価値であるのに、それらにすがる人々を、世界を嗤う。
自分の言葉を理解しながら、決して同じ道を歩むことのない人間を見て嗤う。

「見せてくれ!!! 君の、力を!!! 君がまだ本当に諦めていないのなら!
 僕の腐条理を!! 否定してくれええええええ!!!」

鳴鳴の享楽は今高みに達している。
そして、今鳴鳴はその瞳を全て蒼介に向けていた。鞘が飛んだことに対して、何かをすることはない。

蒼介の言葉が紡がれていく。
自らのことばで、自らの思いのままに。

「ハハ、アハハハ!!! おお、常世神を討った太秦の歌か!!
 いい、いいね、いいよ!! この常世国の名を冠した島で!!
 不老不死を人々に与えると謳われた邪教の神を討つ言葉を用いるか!!」

蹴りが放たれる。鳴鳴という不老不死の不条理、天災が放つ光に向けて。
けたたましい笑いが響き渡る。狂った笑いが響き渡る。
最高だ、最高だとの声が響く。
流星の如き光が蹴りに衝突し、さらに眩い光が放たれる。
陰と陽を内包する混沌に向けて、一人の人間の力と意志が、そこにぶつかる。

さらに鳴鳴は力を籠め、その光がいや増しに増していく。

――そして、再び光が爆ぜ、鳴鳴の体が後方に吹き飛ぶ。

風間蒼介 > 拙者の詠唱はただの意識誘導にござってな…
神の名を出そうともそこに神威は降りぬ
故事を持ち出そうとも神秘の積み重ねは味方をせぬ
ただ思う、そうありたいと、そうであれと思い描く…
お主が嗤うただの人の技にござるよ
(許容量以上の力を取り込み放った事で内臓を傷つけたのか
 はたまた混沌の余波が体を侵したのか、こぷりと血を吐きスカーフに染み出し風に散る
 霊糸で編まれた装束はその力を半ば失いただの頑丈な服と成り下がり
 蹴りを打ち込んだ右脚の膝から下の感覚がほとんどない
 ゆらりと体を風に舞わせ、落下しながらも五指を伸ばし
 指の一本一本から電磁レールを発生させ落下速度を殺す方向へと力を生み、空に爪を立て引き裂くような軌跡を残しながら、畝傍のすぐ近くへと降り立つ)

そちらはやったようでござるな?畝傍殿
(ぜいぜいとあぶくの様な音を呼気に混ぜながら膝を付き、噛み締めるような笑みを浮かべ視線をやる)

畝傍 > 「…………さよならじゃ、ないよ」
倒れた石蒜/サヤに向け、そう呟いた。刀を破壊すれば石蒜は死ぬ――だが当然、畝傍はそうしなかった。
彼女が救うべき相手、それは――サヤと石蒜、その両方であったからだ。
この後も続くであろう戦闘の衝撃で刀が破壊されてしまえば、畝傍の努力は無に帰してしまう。
畝傍は、サヤが目覚めるにはまだ時間がかかるだろうと推察すると、ヘッドギアを操作して頭上に円形の収納ポータルを開き、納められた刀を収納した。
それが仕舞われると、ポータルはすぐに閉じていく。
その後、自身のすぐ近くに降りてきた蒼介に。
「うん……ソースケ。ボク、やったよ……。だから、サヤのこと……おねがい。あとは、ボクがなんとかするから」
そう、頼んでみる。
そして、畝傍の体は再び炎へと変じていった。

風間蒼介 > お断りにござるな
(その頼みを舌下一刀に切り伏せ、萎えそうな脚に電流を流し、無理矢理に筋繊維を収縮させるぎこちない動きで立ち上がる)

後をなんとかして…どうするつもりにござるか?
その炎は尋常な物ではござらぬ、今も以前口にした「代償」を消費し続けているのでござろう?
ならば……ここで拙者が引けば残りの負担は畝傍殿にすべて降りかかろう
それは看過できぬ…言ったでござろう?この戦いの勝利目標ではサヤ殿の救出ではござらぬ
一切合財なにもかもハッピーエンドにダンクするためには、欠けは認められんでござるよ
(混沌に侵され、刃を曇らせた霊刀風切り羽を取り出し、逆手に構え、視線は前に向け、隣に立つ)

畝傍 > 「……えへへ。そうだね……ありがと、ソースケ。やっぱり……ソースケはすごいや」
戦いの中で傷つき、ぼろぼろになりながらなおも立ち上がる蒼介に、畝傍は笑顔を向けた。
そして地面に置いていたショットガンを拾うと再び抱え、前を向いて構える。
橙色に身を包む少女は、再び戦闘態勢に入った。
「……ここから……だね」
隣に立つ蒼介に聞こえるか聞こえないかの声で、そう漏らす。

風間蒼介 > 拙者ほら…忍者でござるし…な?
一応プロにござれば…畝傍殿にだけ任せて見てるなど出来んでござるよ
それに戦力的な意味で見るならば畝傍殿は切り札…無駄な消耗を拙者が引き受け確実に、全力で送り届けるのが勝利のカギにござるよ
(ぐっぐっと地面を踏みしめ、脚の調子を確かめる
 さっきまでの戦闘で渦巻いていた体内の熱は、意思の鋭さは失われてはいない
 ただ、それを実行する肉体の負荷がそろそろ限界に近い
 死ぬつもりは無い、命を使うつもりは無い…しかし、目減りしないギリギリは、痛いや苦しいで済むレベルならば躊躇はしない)

これからにござるな
(戦いも、そして自分達も)

鳴鳴 > 「――なるほど、人の力か。そのために、僕は負けてしまったわけだ。
 アハ、アハ、アハハハ!! 自分が無意味で無力だとした存在に敗北する!!
 嗚呼、何と最高なんだろう! 何と享楽の極みなんだろう!」

混沌の声が響く。
数多の化身を持つ混沌の神の笑い声が響く。
全ては無意味だと嗤い、全ては無価値だと断じる神。
腐った条理、天の災い。
それは理不尽。
それは絶望。
混沌の神はそれを振りまく使者である。

崩れ去った鳴鳴の体が再び凝固していく。
混沌が這い寄り、童女の姿を成していく。

「ク、クク、アハ、アハハ……予想外だ。だけど、これこそ、これこそを僕は望んでいた!
 神たる僕が人に敗れ去る! 何と甘美で栄光に満ちているんだろう!
 だけど、その希望さえも僕が打ち砕こう。僕は腐った条理、天災だから1
 石蒜とサヤは気に入っていたんだ。愛していたんだ。あんなに面白い子だったから。
 でも君達に取られてしまった! 僕も玩具が! 愛していたのに!
 アハ、アハアハ――さあ、呼ぶんだろ? あいつを、呼ぶんだろ?
 なら僕も、そうしよう! あいつが来るならさア!!
 君達で呼べるのかな? あいつを狂わずに呼べるのかな?
 楽しみだ!! 君達の人の力というものを、僕に見せてくれ!!」

「――《窮極の門》よ! 《全にして一》なるものよ! 僕の願いを聞き入れてくれ!
 僕は君達の魂魄にして使者だ! そして君達を嘲笑う者だ!」

「外なる虚空の闇に住まいしものよ、今ひとたび大地にあらわれることを、我は汝に願い奉る。
 時空の彼方にとどまりしものよ、我が嘆願を聞き入れたまえ。
 門にして道なるものよ、現れいでたまえ。汝の僕が呼びたれば。
 
 ベナティル、カラルカウ、デドス、ヨグ=ソトース、
 あらわれよ、あらわれいでよ。
 聞きたまえ、我は汝の縛めを破り、印を投げ捨てたり。
 我が汝の強力な印を結ぶ世界へと、関門を抜けて入りたまえ。

 ザイウェソ、うぇかと・けおそ、クスネウェ=ルロム・クセウェラトル。
 メンハトイ、 ザイウェトロスト・ずい、ズルロゴス、ヨグ=ソトース。
 オラリ・イスゲウォト、 ほもる・あたなとす・ないうぇ・ずむくろす、
 イセキロロセト、クソネオゼベトオス、アザトース。
 クソノ、ズウェゼト、クイヘト・けそす・いすげぼと・ナイアーラトテップ。
 ずい・るもい・くあの・どぅずい・クセイエラトル、イシェト、ティイム、
 くぁおうぇ・くせえらとる・ふぉえ・なごお、ハスター。
 ハガトウォス・やきろす・ガバ・シュブ=ニグラス。
 めうぇと、くそそい・ウゼウォス。

 ダルブシ、アドゥラ、ウル、バアクル。
 あらわれたまえ、ヨグ=ソトースよ。あらわれいでたまえ」

「そして今こそ! 僕の力を解放してくれ! 既に僕の印は解かれた!
 遥かな世界の僕を! 数多の世界の僕を! 偏在する僕を! 唯一の僕を!
 この僕の印を解き放ち、時空連続体の彼方の僕を今こそ!!」

高らかにうたうように呪文を詠唱する。
すると、鳴鳴の背後の「門」が強烈な光を放ち始める。
門の向こう側には虹色の球体が見え隠れしている。
それが鳴鳴に放射し、鳴鳴の体の五芒星が再び現れたかと思うと、それは砕け散って行った。
時空が歪む。転移荒野の周囲で異常が起こる。
空の雲が張れ、星々が禍々しいほどに光り輝いていく。
地平線上に、本来この時期にあるべきではない星が瞬いている。

そして、鳴鳴は変化した。
胸元から不揃いな多面体が現れたかと思えば、それが闇に閉ざされる。

「教えてあげよう! 君達が相手にしているものがなんであるかを!」

鳴鳴の体が変化していく。混沌が溢れ、人型から離れていく。
それは巨大な何か。それは円錐状の頭をもつ貌の無い何か。
三本の足をもつ巨大なもの。

それは闇に光る三つの燃える瞳。
闇に彷徨う何か。

それは古代のエジプトで信仰されていた闇の無貌の神。
暗黒のファラオ。貌の無いスフィンクス。

それはいくつものコードに繋がれた機械の男。

それは人間では理解できない神の方程式。

いくつもの化身、いくつもの姿、千の異形。

這い寄る混沌、無貌の神、闇をさまようもの、大いなる使者、カルネテルの黒き使者、ナイ神父、顔のないスフィンクス、百万の愛でられしものの父、月に吠えるもの、ユゴスに奇異なるよろこびをもたらすもの、膨れ女、チクタクマン、ルーシュチャ方程式、千の異形――


「二度と再び千なる異形の我に宇宙に祈るが良い! 我こそは這い寄る混沌、ナイアルラトホテップなれば!」

異形の、月に吼える者が、そう叫んだ。

ご案内:「転移荒野」から石蒜さんが去りました。
ご案内:「転移荒野」にサヤさんが現れました。
サヤ > 「う……うぅ。」うめき声をあげながら、目を開ける。
「あ……私……石蒜を……。」立ち上がろうと地面に腕をつくが、体に力が入らない。
「痛っ」見れば、左腕はひどい有様だった、皮が裂け肉がえぐられている。そして思い出したかのように傷口が血を流し出した。

「ああ……。」首を動かし、戦場を見る。戦っている、あの人達が。私のために。
私、私ってナンダッケ…?

サヤ > 体に残った混沌が、制御を失って暴れまわる。ワタシ、ワタシハ

赤のア女王 悪心影  暗黒の男 ウ暗ィッカーマン 大いなる使者 ナクルーシ月るュチャ方程式
黒いト雄牛 ココペリ 鳴ナジャック黒・オー・ランタン チルクタクイマン 嘆にもきだえるもの ロイヤル・パント
バロゥン・サムディ 緑のイ男 鳴羅門火手恐 闇にの棲みつロくもの 暗黒のフ吼のァラオ ハーレイ・パッテン サター・ケイン
無貌の神 顔持たぬスフィアンクス 魔物大いなる使者 燃えグる三眼父 膨れ女えカルネテルの黒き使者

無数の名前、無数の姿が頭に浮かぶ。でもチガウ、これらはワタシじゃナい!!

  アトゥ エル・ドラド    暗フ  闇に棲みつくもの サター・ケイン
 ナイ神父 石 チクタクマン  黒ァ 蒜 クルーシュチャ方程式
 ウィッカーマン 鳴羅門火手恐 のラオ    嘲笑する神性   顔のないスフィンクス

チガウ、どれも違う。


  悪心陰   燃える三眼         赤   もだえるもの
 バロン・サムディ    月に吼えるもの  の     膨れ女
   ルログ    サター・ケイン  石蒜 女王  鳴羅門火手恐

私は、ワタシハ

サヤ > 「私は、サヤ!!」暴れまわる混沌をねじ伏せ、叫ぶ。
横になったまま、這い寄る混沌へと右手をかざす。
石蒜は私から生まれた、石蒜はあれを操っていた、だから。私に従え!!
混沌の漆黒の触手の一部が、這い寄る混沌を抑えようと巻き付き始める。
「ぐ、うぅっ……!!」歯を食いしばり、わずかでも動きを止めようと、全力を尽くす。

畝傍 > 「……ナイアルラトホテップ」
現れた異形。月に吼える者。畝傍はそれを見据える。
常人ならばその姿を見ただけでも精神に何らかの異常をきたしていることだろう。
だが既に、彼女は狂っていた。ゆえに、眼前に聳え立つ巨大な異形に恐れをなさず、その炎をさらに激しく燃やす!
「呼ぶよ……呼んでやる、望み通り!そして……お前だけは!」
畝傍の左目に再び炎が灯った。そして両の手首足首から噴き出す炎もまた、今の畝傍に出せる最大の火力で燃え盛る。
そして畝傍は――詠唱を開始した。否!畝傍の口が、精神が、魂が――自然に、それを詠唱していたのだ!

――Ph'nglui mglw'nafh Cthugha Fomalhaut n'gha-ghaa naf'l thagn! Ia! Cthugha!――

『炎』を呼び出すため必要な詠唱は三回。
あと二回分の時間を稼ぐことができれば――可能性は、ある!

風間蒼介 > ……先ほどの鳴鳴殿の方がまだ恐ろしかったでござるよ
理解できるがゆえに理解できぬ境地へと達した御仁が
今のおぬしは何者でもない…何者でもあって何者でもないが故、閉じてござる
人の生は白紙と言ったでござるが…今のおぬしは言うなれば墨染めの紙
ならば恐れる理由など、最早無い
(それはただの強がり、口にしていなければ心が…魂魄がもろともに砕けそうな重圧
 それに対し、軽口を叩き、奥歯を噛み締め、唇の端を吊り上げ笑みを形作る
 自分の中の獣を肯定する、暴れ敵を討ちたいと意地を張ろうとする自分を肯定する
 迸る稲妻を、渦巻く風を鎧のように全身に纏わせ、獣のように低い姿勢を取り…)

……
(前に飛び出す、詠唱に入った畝傍と、鳴鳴…いや、混沌の間に割り込み、盾となるべく)

鳴鳴 > 「……はは、あは、あはははははあひあはあはアハアハハ!!!」
いくつもの化身に変化しながら、鳴鳴は、ナイアルラトホテップは哄笑を響かせる。
巨大な異形が、不定形の異形が、いくつもの形を取りながら三人に迫る。
そのときであった。混沌の触手の一部が混沌の化身に巻き付き始めたのだ。
それはサヤ、石蒜の意志か。サヤが這い寄る混沌の化身の一つとなった石蒜を制御しているのか。
その事実に、鳴鳴は言葉通り、狂って笑う。
それは歓喜の響きだった。それは狂喜だった。

「おお、おお――! 素晴らしい!! そうだ、君ならば、僕の呪縛を離れて!!
 そうしてくれるんじゃないかと――ああ、素晴らしい、素晴らしい、絶頂してしまいそうだ!
 君なら、僕を裏切って、僕の予想を裏切って!! そうしてくれるのだと!!
 ああ、ああ、素晴らしい――!!」

歓喜にむせび泣くように狂いながら、混沌はもがく。

そして、畝傍が詠唱を始めた。これこそ、この混沌の神のひとつを滅ぼすための手段だ。
本来、この時期には見えないはずの星も時空の歪み、星辰のゆがみによって地平線上にある。
全ての呪文が唱え終ったときこそ、それは、来る!

「ハハ、アハハア!!
 そう、僕は何ものでもあって何ものでもない! 僕は混沌なんだ!
 君達には理解の及ばない原初の混沌! 僕たちは原初の混沌の表れなんだ!
 だから、君達もその混沌の一つに飲まれて!
 全てを尽くした上で、悲劇に泣き、世界の真実を!
 知るがいい!!」

風と稲妻を纏った蒼介が混沌へと割り込み、立てにならんとする。
それを見て、混沌は笑い声を上げながら蒼介に向けていくつもの触手を伸ばす。
空にはいくつもの光景が浮かんでいる。それは太古の昔、この宇宙にいたとされる古き神々の姿だった。異形の神々、常人には耐えられないような恐怖的な姿。
それらが狂った時系列のままにいくつもいくつも移り変わり、空に浮かんでいく。
混沌がいくつもの形を取り、コードとなり、牙となり、翼となり、あまねくすべてに姿を変えて、蒼介を潰さんと襲い掛かる。

畝傍 > すでに、畝傍の精神は完全に詠唱のみに集中している。
その瞼は閉じられ、肉体は無防備。それでもなお、詠唱は続く。
体から溢れだす炎はさまざまな色で輝き、揺らめきながら。

――Ph'nglui mglw'nafh Cthugha Fomalhaut n'gha-ghaa naf'l thagn! Ia! Cthugha!――

二度目の詠唱。畝傍と『混沌』の間、そのはるか上空にわずかに裂け目が生じ、徐々に広がっていった。
裂け目からはごく小さないくつもの光球が、出入りしはじめている。
しかし恐らく、この場の誰もまだそれに気付かないだろう。
そして三度目の詠唱が完全なものとなれば、この裂け目は――――

サヤ > 「私は、あなたの玩具じゃない……っ!」どろどろと、傷口から血に混じって漆黒の液体が流れる。混沌が体の中から追い出されている、完全になくなったらもう這い寄る混沌の邪魔は出来ないだろう。だからもう少しの間だけ、混沌よ、私の中に居続けて。

「ふんっ……くっ……。」食いしばった歯の間から息が漏れる。風間さんに襲いかかる混沌の動きを鈍らせようと干渉する。
まるで暴れ狂う巨大な馬を、子供が止めるような力関係だ。ぶちぶちと右腕の血管が切れていくのがわかる、人の身には過ぎた力が、反動を送ってきている。でも止めないと、少しでも動きを鈍らせねば、誰かが死ぬ!

風間蒼介 > 貴様の思惑など知った事か!
混沌であるならばそこに内包されるのは全てでござろう
悪意を煮詰めたような闇しか持たぬ身で全てを名乗るな!
(触手を払う、焼く、切り捨てる
 怒涛のように押し寄せる末端に対し霊刀を振るい、腕に纏った雷撃を飛ばし、脚に纏わせた風を刃に換えて踊るように、あがくように
 しかしそれはあくまで末端、無尽蔵に攻め寄せる物量は徐々に均衡を崩していく
 時系列を越えて忍び寄る不意の一撃を予知することは適わず、纏った異能の結界に触れる瞬間を狙い反射的に対処するしかない
 たまった疲労とダメージは動きに遅滞を生み、遅滞はミスを呼び、そのリカバリのために余計な手筋を要し遅滞を生む悪循環)

っぐ……あぁぁぁぁぁぁぁ!
(声を張り上げ、体力の限界を振り絞り、変幻する混沌に呑まれんとした瞬間
 それを、内から沸き起こる風が食いとどめた、深く深く海の底の底からくみ上げたような黒く重い風が
 風間の血は退魔を担う
 積み重ねた血の奥底からほんの一瞬湧き出た力が印を組む手にまとわりつき…陽炎のような虚像を浮かべる
 無数にぶれた指の影がそれぞれ別の印を切る多重起動
 蜂の羽が一度空を打つにも満たない一瞬だけそれを行い…)

そこに遮るものは無く 青く青くどこまでも青く 高く高くどこまでも高く 紫電清霜 迅雷風烈
その道を…開けろ! 届け、北落師門へ!
(風の渦が錐の如く伸び異形の群れに風穴を開ける
 それはあくまでも末端を吹き散らしたに過ぎない、本体である混沌には未だ届かず…しかしかまわない、それで十分
 木気は火気を生み、風は火を煽る、これは道だ
 長く細いバレルだ
 その反対側は畝傍の方へと伸びていて)

畝傍殿!
(後は、任せたと)

畝傍 > 畝傍は瞼を閉じたまま両腕を広げ、詠唱を続けていく。

――Ph'nglui mglw'nafh Cthugha Fomalhaut n'gha-ghaa naf'l thagn! Ia! Cthugha!――

やがて、三度目の詠唱が完全なものとなった――その時である!
先程まで上空に生じていた裂け目が開いてゆき、鳴鳴が作り出したモノとは異なる、巨大な円形の『門』として展開し――そこから何かが、ゆっくりと這い出してきた。
『それ』が放つ高熱により、周囲の空は次第に橙色へ染まってゆく。
その形は、まるで太陽のようだが――その実、異なる存在。形状と色彩を自在に変転させ続ける巨大な火球。
かつて、畝傍が探し求めていた『生きている炎』。あらゆる物を焼き払わんとする炎の神性にして、『混沌』がただひとつ恐れるもの。
それが今、畝傍の召喚に応じ、確かにこの場へ顕現したのだ!

「……来たんだ。『炎』が……!『生きている炎』が……!来た……ん……だ」

詠唱によって力を使い果たしてしまった畝傍は、膝から地面へ崩れ落ちた。
霞む視界で、どうにか自身の呼びだした『それ』の姿を捉えんとする。
『門』からは『炎』の本体のみならず、小さな光球が次々に溢れ出てきた。
それら光球が放つ熱はたちまち地上に広がってゆき、周囲を焼き払ってゆく。
そして――現れた『炎』は、畝傍の眼前に聳え立つ『混沌』へと迫る!

鳴鳴 > 理不尽。不条理。それらが襲い掛かる。
蒼介の一撃一撃に、混沌の化身の末端は払われ、焼かれ、切り裂かれる。
サヤの、傷つきながらの必死の抵抗により、蒼介への攻撃が阻害されていく。
それでも、理不尽なる神の天災は続く。混沌がさらなる力を出せば、彼らに一気に襲い掛かるだろう。
一気に蒼介へと混沌が襲いかかろうとしたときである。
風が舞い起こった。風の渦が舞い起こり、異形の混沌達が打ち砕かれていく。
五行の相生。風は火を煽っていく。それは混沌の本体を狙ったものではない。
それは、遥か宇宙の彼方に輝く星への道――

畝傍の呪文が終わる。三度目の詠唱。
そして、空から何かが現れる。空の裂け目が開いていく。それは「門」だ。
鳴鳴が呼び出したものではないそれが、今こそ開いていく。
『それ』は生ける炎、遥かフォーマルハウトより来たるもの。北落師門より来たるもの。
『それ』はまさしく炎であった。あまりの高熱により、空が焦げたかのように橙色に染まっていく。

「――来たか」

太陽のような火球。しかしそれは不定形であり、自在に色彩を変えていく。
かつて一度この地上に現れ、混沌の住処を焼いた神性。
混沌の天敵。大いなるもの。全てを焼き尽くすもの。
それがついぞ、この空に現れたのだ。

「――来たか! クトゥゥゥゥゥグアアアアア!!!」

混沌へと迫る『炎』を見上げ、混沌は叫ぶ。
ついぞこの時が来た。再び彼の神性と相見えたのだ。
本体だけではなく、いくつもの炎が混沌へと迫る。

「アハ、アハハア、アハハハハ!!! さあ、行くぞ! 僕を焼いてみろ!!」

混沌は一気に空へと飛びだった。
何度も姿を変えながら、神々の使者が飛翔する。
生ける炎目がけて、おぞましい叫びと、おぞましい何かが迫る。
神の戦いが始まったのだ。
近づくだけで、混沌の一部が燃え盛っていく。
それでもなお、混沌は生ける炎――クトゥグアに迫る。
そしてその炎の化身でさえも取り込もうと混沌を広げていく。

「ああああアアアああああアアアアあああああ!!!!」

燃える。燃えていく。
いくつもの化身が。いくつもの異形が。
炎に飲まれて燃え盛り、消え去っていく。
かつて混沌の住処を焼いた大いなる神が、混沌を焼いていく!

サヤ > 混沌を使役するということは混沌と接続しているということだ。
『生きる炎』が這い寄る混沌を燃やすと、サヤの右腕も炎に包まれた。
「う、うぅ……」叫ぶこともできず、小さなうめき声をあげる。それでも右手を必死にのばし、かの混沌の動きを、阻害する。ここで負ければ、全てが無駄になる。右腕ぐらい、くれてやる!

風間蒼介 > …………っぐ…
(混沌が炎に飲み込まれるのを見届け
 風の回廊を維持していた右手から力が抜け、一瞬遅れズタズタに切り裂かれた右袖が舞い散り、無数の裂傷を得た右腕から鮮血が飛び散る

 煉気化神…人体のエネルギーたる気、精、神のうち最も根源的であり随意にならない神へとアクセスを果たし結び付ける風間神伝流の奥義の入り口
 確固たる意思により己の力に一つの像を結び強い方向性を得る段階
 それは本来長い修行の後に行き着く境地であり十代半ばの少年が手を出せる領域ではない
 この異常事態とも呼べる戦場に引き出された結果至った力ではあるが、器の方それに追随し切れなかった
 経絡はズタズタに乱され、血管はあちこちで破裂している)

あと…少しだけ…
(散っていく回廊の残滓を手繰り、サヤと畝傍へと纏わせる
 少しでも炎の神性の影響を和らげようと
 それは吹けば散るような弱々しい風だったが)

畝傍 > 畝傍はその場に倒れ伏し、瞼も閉じられている。だが、まだ命はある。
炎と化していた体は呼び出された『炎』の影響にも耐えることができていたが、
力を使い果たし倒れてしまったことで、肉体の炎化は再び、徐々に解除されていく。手首と足首の炎が弱まり、髪の色は元に戻っていく。
しかし、『炎』はまだこの場にいる。このまま完全に炎化が解除されてしまうと、いかに畝傍といえど危険だ。
そこに、蒼介が起こした風が吹いてくる。風は畝傍の体を守るように包み込んでいた。

鳴鳴 > 燃えながら混沌は火球を飲み込まんとしていく。
いくつもの化身が燃え盛りながら、皆、嗤いながら消えていくのだ。
千の異形。この多くの化身ですら、そのわずかでしかない。
混沌の表象。原初のもの。それらが大いなる神の炎に焼かれていく。
確実に、確実に。

「ああ、アア、アアアアアア!!」
サヤの動きにより混沌に僅かな隙が出来る。
その瞬間、一気に混沌は燃え上がっていく。
一気に混沌の全てが燃えたち、名状しがたい色彩や臭いとともに消えていく。

いくつもの混沌の化身が消えていき――やがてそれは、一人の童女の姿になっていく。
鳴鳴だ。

「かは、あは、あははは……!!」

鳴鳴は笑っていた。心底楽しそうな表情だ。
混沌に身を変えながらも、鳴鳴としての「個」となった童女が嗤っていた。

「ああ、嗚呼。こうなってしまったか。アハ、アハ、アハハハ!!
 僕の、負けか! ああ、素晴らしい、とても、素晴らしい。
 これもまた、享楽の一つ、僕は全て、を、楽しむ、ままに……」

左の眼窩から炎が溢れ出す。右手もはじけ、そこから炎が吹きだしていく。
鳴鳴はわずかに顔を向ける。サヤを見ていた。

「あははは、あは、あはははは!!! そうだ、全てに価値はない、この僕にさえも!
 大いなる「道」の前では、君達も僕も、同じなのさ! これこそ、まさに僕のいう万物斉同だ!!」
嗤う、とてもとても楽しそうに。これもまた結末の一つ、享楽の一つだというように。
期待通りだった。サヤは混沌に打ち勝ち、その友はついにクトゥグアさえも呼び出した。
本来自分が導くはずだった悲劇は起きず、鳴鳴は焼かれている。
これこそ、鳴鳴の最も望むもの。自分が否定されること。自分の予想が覆されることだった。

しかし。

「……あア、サヤ、石、蒜……君達のことは、ああ、好きだった。
 とても愛していた、よ……結局君達には理解できないだろうし、理解できないだろうけど。
 僕は君と会えて本当に面白かったよ。僕にとって、君を弄ぶことも、愛することも、皆同じ、だった。
 だけど、残念、だな……残念だ。
 君と、一緒に、この炎の中に、いれなかった、こと、が……。
 さよなら、君/僕……生と死は同じだ。いずれ、また会おう。
 ありがとう、大好きだ。僕の玩具にして、可愛い可愛いサヤ/石蒜。
 僕の享楽は、ついにここに、成就した――!
 これが僕の結末というわけだ……グランドマスター!」

「アハ、アハ、アハハハハハハ!!!!」

「ありがとう! やはり人間は、大好きだ!」

――少女への呼びかけの後、狂気の嗤い声が響いて。

童女の姿の混沌は、狂った笑いと共に、炎の中に飲まれ、消えて行った。
鳴鳴が呼び出した「門」も同時にこの空間から消えていく。

風間蒼介 > 道は巡る、環は廻る……万物は流転し姿かたちを変えながらあり続ける
そういうものでござろう?おぬしの掲げる道の思想は
ならばまたいずれ、今度は違う形で…この道が交わらん事を願うでござるよ
鳴鳴殿
(閉じる門へと言葉を投げかけ
 終わったという実感に浸りながら空を見上げ
 ほ…と、溜めていた息を吐いた)

畝傍 > 童女の姿をとっていた『混沌』が『炎』の中へと飲まれ、門が消えた後。
『混沌』を焼いた『炎』とその眷属たちもまた、召喚に応じて現れ出たときと同じようにゆっくりと上空へ昇り、畝傍が開いた門の向こうへと消えてゆく。
だが、その様子を畝傍が自らの目で見ることはなかった。
『炎』が完全に門の向こうへと消えると、門はひとりでに閉じてゆき、空の色も次第に戻っていった。

サヤ > 燃えていく、かつて私を助けたものが、弄び、歪めた存在が。
それでもあれは鳴鳴は笑っている。
石蒜の陰で、私もずっと見てきたからわかる。死ですら鳴鳴にとっては享楽なのだ。

私と石蒜は確かに愛されていた、普通とは違った形だったし、理不尽な責めを受けるときもあったが、それも鳴鳴なりの表現だったのかもしれない。
そして、私はあの時鳴鳴に出会わなければ死んでいたのだ。恨みもするが、同時に……。
「さようなら、鳴鳴……。あなたの願望が満たされて、何よりです。」傷の痛みに耐えながら、なんとかそれだけ言えた。
様々な思いが混じった、混沌とした感情が浮かび上がる。
本当に最後まで弄ばれたような気分だ。あの人らしい。

「はぁ……。」終わった。左腕の傷口から流れるのは赤い血だけ。もう私の中に混沌は残っていないようだ。右腕の炎も止まった。

風間蒼介 > ところで拙者の術って魔力と生命力のハイブリッドにござってな?
ゆえに意思どおり柔軟に運用出来るんでござるが…消耗しきった場合、意識支えるラインが二本同時に遮断されるようなものでござってな?
(ずり…と体を引きずり、戦いの余波で真っ二つに割れた巨岩の間に体を割り込ませ、保護色の迷彩を施されたシートでカモフラージュをはじめ…)

端的に言って限界にござる…
(どしゃりと地面にへばりついて、ゆっくりと深く浅い呼吸へと変わっていく)

ご案内:「転移荒野」から風間蒼介さんが去りました。
畝傍 > 「…………ん」
やがて、畝傍は意識を取り戻し、瞼を開く。
周囲を見渡すと、すでに混沌と炎の姿は消え、空の色も元に戻っていた。
「……おわった、の……?」

サヤ > 「う、うぅ……うぐっ。」助けを、呼ばないといけない、このまま全員気絶したら、死ぬ。なんとか体を転がして、仰向けになる。それだけで全身が裂けるように傷んだ。

「はぁー……はぁー……。」右腕は駄目だ、動かない。左腕は……動く。
のろのろと、左腕を懐に入れる。けいたいたんまつを、取り出す。
緊急時に押すように、買うときに説明された。赤に白い十字のボタン。救難信号とアイコンには書かれていたが、サヤは読めなかった。それを押すと、どこかに通信しているらしい。
もう動けない、どうか助けが来ますようにと、祈る。

サヤ > 「終わり……多分、終わりました……。勝ち、ですよ……私達の、勝ちだ……。」傷の痛みと、疲労にあえぎながら、何とか伝える。そうだ、私達は勝ったんだ。
畝傍 > 「そっか……ボクたち……」
勝ったんだ――。そう、実感した。
しかし、畝傍には勝利の余韻に浸っている暇はない。
「…………サヤ!だいじょうぶ……!?」
仰向けになり動けずにいるサヤのもとに駆け寄り、声をかける。
そして彼女の右腕と、左手に握られた携帯端末を見て、畝傍は起こった状況を察した。
じきに保健課の生徒が駆け付けるだろうか。せめて、それまでは自分がサヤに付き添っていなければならないと思った。

サヤ > 「そう……サヤです、私は……サヤ。」そう自信をもって言えるのはどれくらいぶりだろう。もう随分長いこと、意識の深層に眠っていたように感じる。

「ようやく、挨拶出来ましたね……畝傍さん…。私は、サヤです……。どうぞ、よろしく……。」ずっとずっと待っていた、この時を。一度は諦めもしたが、今こうやって、助けてくれた。
自分にそんな相手がいることに、涙が溢れて止まらない。
「ありがとう……ありがとう……。本当に……。」

畝傍 > 「うん。よろしくね……サヤ」
そう言って、微笑んだ後。
「ううん……ボクは……あのヒトのことばでいうなら……ボクのしたいことを、しただけだから」
畝傍が倒れている間に『炎』に焼かれ、消えていった『混沌』の黒い童女。
彼女がかつて畝傍に言い放った言葉を思い出しながら述べた後。
畝傍は収納ポータルを開き、そこに仕舞い込んで守っていた、鞘に収められた刀――石蒜を、再び取り出し。
「……そういえば、これ……シーシュアン、なんだけど……どうすれば、いいのかな」
問いかける。

サヤ > 「ぐすっ……では、私も……感謝したいから、そうすることに……します。」石蒜が何度跳ね除けても、決して諦めずに手を差し伸べてくれた。彼女たちにはどれほど感謝してもしたりないだろう。

「石蒜は……私が、持っていますよ……。」受け取るために手をのばそうとして、動かせなかった。
「ああ……胸の上にでも置いておいてください、裁きを受けるときに、重要な証拠に……なりますからね。」いくら鳴鳴に歪められたとはいえ、サヤと石蒜は罪を犯した、それは変わらない。今石蒜を殺せば実行犯の証言が取れなくなる。それでは公平な裁きではない。不当に罪を軽くしようとするつもりはなかった。

畝傍 > 「わかった……じゃあ、かえすよ」
石蒜の魂が込められた刀をサヤの胸の上にそっと置くと、彼女の側に座り込み、救助が訪れるのを待つ。
やがて、転移荒野に複数の救急車が駆けつけてくると、畝傍は立ち上がり、手を振って知らせる。

サヤ > 「石蒜、終わり……ましたよ。私は……穏やかな気分です、もう……苦しまなくていい……。」静かに、胸の上に置かれた自らの片割れに声をかける。
石蒜が助けを拒んだ理由を知っている、私のためだ。私が罪に怯えているのを知って、石蒜は一人苦しんでいた。
恨みが無いわけではない、取り返しのつかないことをされたし、罪のほとんどは彼女が実行した。いくら歪んでしまっても自分の分身のようなものだ、殺したくはなかった。


到着した救急隊員の手で担架に乗せられる。
「畝傍さん、風間さん、ありがとう……本当に感謝しています。本当に……。」言い終わると、安心感したせいか、意識が遠くなっていくのがわかる。
とても着かれた、少し眠ろう。大丈夫、目が覚めても私は私だ。
安らかな顔で、サヤは意識を手放した。

ご案内:「転移荒野」から鳴鳴さんが去りました。
畝傍 > 担架に乗せられ、搬送されていくサヤを、そっと見送る。
畝傍と石蒜。狂った二人の出会いから始まった、畝傍にとっての一つの戦いは、今ここに幕を閉じた。
これから畝傍は、再び日常へと回帰してゆくのだろう。だが同時に、自らの異能を行使する対価として『正気』を支払ったことにより陥るであろう狂気とも闘い続けねばならない。
日常にひとまずの平穏が戻ろうとも、彼女の精神に安寧が訪れることはないのだ――

ご案内:「転移荒野」からサヤさんが去りました。
ご案内:「転移荒野」から畝傍さんが去りました。