2015/09/01 のログ
ヨキ > (それは外から付着したものでなく――内から自ずと沸き上がる臭いだ。
 その夜は一人も手に掛けていないというのに、ヨキの肌は随分と血腥さが濃かった。

 身じろいだ衣擦れが、そのまま香りを持ちえたかのように。
 微かな布の音の隙間に、あえかに漂う)

「そうか。
 それが君の……人間に憧れる理由か」

(笑う。笑んだ瞼の形に合わせて、目尻に引いた紅が細められる。
 潤んだ唇を開く。微笑みに歪められる肉の音。
 小さな牙が、嘲笑うように)

「残念だったな。
 それじゃあ君は……『本当の人間』へ至る道を、自ら閉ざしてしまった訳だ。

 個の人間は強い。強い人間は集団を作る。
 君の憧れた人間らは、果たして各々が孤独であったか?

 個にして全。それが真なる人間の在りようだ。

 人に紛れずして、いかに人間へ辿り着くつもりだね。
 罪が漱がれるのを待つか?
 惑わされずして潜んでおれば、全く楽に人間を学べたろうに。

 そうして影に身を潜める日々を過ごして――
 君は人間のすべてを見聞きすることが出来るか?」

シイン > 「そうだ。」

短い返事。
憧れる理由について。
非情に短い返事だが、十分な言葉。

「とても残念に思うよ、自ら閉ざしてしまったと同時に。
人になりたいという夢を諦めなければならなくなった。

否、個にして強い人間が集団を作ることになんら問題はない。
個であろうとも強大と言いたいのだ。
個が集団を、集団が次世代に託し、更に強さを磨く。
それもまた一つの人間の強さの境地に至る道。

私を龍にした張本人は言った。
私の時は悠久の時だと。
時間はあるのだ…例え夢を諦めようとも、求めることは許されよう。
全てを見聞きできるかは、はて、ハッキリとはいえないがしてみせよう。」

ヨキ > 「あはッ、」

(両手を広げる。笑いながら、ゆっくりと後ずさる。
 ブーツの底が足を踏むたび、眩い金色の――真鍮の草花が、足元から芽吹いては消える。
 まるでそこかしこ、春に満たされているかのように。
 感情の昂ぶりが、熱を孕んで若葉を芽吹かせるかのように)

「前向きだな、シイン。
 生徒を襲い、病院を襲い……それでいて夢を語るか。

 君が夢を求める先はどこだ。この常世島か?
 君が闇が深すぎると称したこの島で……
 『人間』を見てゆくつもりか?

 ここは未だ産まれ得ぬ島さ。
 闇の深いのは胎の底。

 産まれ出でた暁には、君の求めた人間は輪郭を失っているよ。
 人間もまれびとの境もなく――ただ坩堝の渦巻くままに。
 それがこの島だ。

 ――それで?
 ヨキは金を稼ぎ人間と交わり人間と遊び人間の飯を食って人間を見る。

 悠久のときに任せるにしたって、君のプランは随分と空疎だ。
 何か具体的な計画は立てているのか?『人間を求める』ことの」

シイン > ヨキの動きと光景にを見て。
小さく鼻を鳴らして笑い、懐にしまってた葉巻を取り出す。
滅多に吸わないが、今は吸いたい気分になった。
未だに手に持ってたナイフで、切断面が葉巻に対し垂直となるように切り落とす。
吸うための作業行程を行いながら言葉を紡いでいき。

「それは前向きだとも、私はな。
後ろをもう向かないと決めたのだから、夢を語ることは誰にだって許されるはずだ。」

ナイフは懐へと収納して、ガスライターを手に持ち、葉巻を斜めに持って
ライターから火は付けられ、葉巻は徐々に煙を産む。

「闇が深いこの場所でも、輝きを見せる人は少なくはない。
今暫くは、この場所で見るのも悪くはない。そう私は判断する。」

葉巻の煙は濃く重く、白い煙は夜の闇を塗り潰すかのように。
一度に吸う煙の量は極少量。吐かれる煙もまた然り。

「計画か、最初は考えてたがな、そうだな。
ヨキ。君のように人間を見るのも悪くはないが、私は私のやり方で人間を求めてみよう。」

それは当初の自分が創られた内容とその意味のままに。

「私は人を育てる。人の成長を助けよう。
だが常に手を伸ばすわけではない。時々に手を差し伸べる。
最終的には自力で成長を遂げた人間にするために。

その成長過程から私は人間を求めて、見ていこう。
成長とは人の証。成長とは強さの証にして弱さの証。」

なるべくヨキには煙が掛からぬように配慮をしつつ、煙の味を堪能する。

「ここで昨晩の問いを答えようか。
ヨキ。貴方は落第街の秩序を守れと言った。
あの闇に塗れた世界で、闇の中のルールで守れと。

私はそれを拒否しよう、だが同時に肯定しよう。
私は正義の味方とは程遠いが、私は私なりの手で、秩序を守るとしよう。
一度普通の人生の歩みをやめて、後ろを歩いた者達に手を伸ばして。救いの成長を与えよう。」

ヨキ > (真鍮の花々はすぐに溶けて崩れ、その輪郭を失う。
 ある花は土に消え、ある蔦はヨキの足に絡んで同化し、ある草は血溜まりに変じて大地を塗らす。
 その雫もまた、乾いた大地に呑まれてすぐに見えなくなる)

「人を育てる。
 ふふ、火器の扱いを教えてきた君が?
 何を教えるつもりだね。龍に変じて、龍の叡智でも得たか?

 ……救うがいい、掬い取るがいい。
 それこそ常世に根ざした我らの使命よ。
 教師として、教師から外れたものとして、蒙きを啓くがいい。

 そうして巣食われてしまうがいい、この島に。

 ――道を誤るなよ、バロム・シイン。

 君の与える成長が畸形を生じ、島に在る秩序のそれぞれを侵すときには、
 ヨキは君とこの刃を交えなければならなくなる。……」

(目を細める。まるで文字どおりの、『山車燈篭』を透かし見るように)

「……君がナイフで裂いたその身体。どうなってる。
 皮膚の裏側。そうして骨組み……ただの張り子でもあるまい?
 ヨキはうつくしく形作られたものにこそ興味がある」

シイン > トンっと、まとめて葉巻の灰を地面に落として。
煙を吸いこみ、吐いてと繰り返す。ヨキの足元へと視線を配れば、不可思議な現象を目にしつつ。
特に突っ込むこともせずに、光景を眺めては煙を味わう。


「殺す術だけを、殺す為の道具の扱い方を、殺す為の動き方だけを。
それだけを教えてきたが、なに、それは過去の話。
叡智など関係ない。龍になり得たものなど少ない。

あぁ、救うさ。私のやり方で。
既に存在する秩序にルールに縛られずに。
元教師が教えていこう、その道は険しいがな。

――誤りなどしないさ、何故なら約束をしたからな。」

約束は守られてこそ約束となり、結ばれる。
葉巻を吸いながらも、細められた目を見つめて返し。

「……中身を知りたいか、ヨキ。
ならば既に秩序を変えようと、秩序を犯そうとしている。
眼の前のものに刃を向けるといい。
知りたければ、自らの刃で斬り付けて知るといい。」

ヨキ > 「君の未練は……よほどこの地に根深いらしいな。
 罪を犯した者こそ、犯した地から離れるものかと思っていたが。
 それもまた、常世島が君に植え付けた情か」

(肩を竦める動きで、水平に滑らせた左手に真鍮の葉が芽吹く。
 血管めいた葉脈がどくりと震えて、苔のように手首を覆う。
 身体じゅうに巣食った金気が、皮膚の外側へ染み出しているかのように)

「……さあ、」

(知りたいか、と問われて、小首を傾げて笑ってみせる)

「知りたいと思うが、知ろうとは思わないな。
 ヨキの間合いへ入り込むことのなかった君の――
 中身を切り開いてまで知ろうとは、思わない。
 このヨキが求めるのは……ひたすらに、切り結び交わるような関わりさ。

 芸術が横っ面を叩くみたいに。
 諸刃のつるぎが我々を諸共裂くように。
 清廉な無遠慮を以てして、間合いを詰めるかのような。

 ――人間を知るとは、そういうことさ。

 ヨキと鍔迫り合いを交わさぬ者に、ヨキの刃は閃かない」

シイン > 「コレも全て過去の行いと未練の所為。
未練がましいと言われるのは承知だが、そうさな。
縛られてしまったというべきか、この島に。」

その不可思議な現象は未だに続き、異能の一種かと。
それとは別のナニかだろうか。わからない、この世は未知で満ちている。
葉巻を手から具現化させた白き炎で"呑み込み"
灰以外にはこの場を汚さずぬようにして。

「――なるほどな。」

納得した表情を見せる。最初から刃を向けずに対等に打ち合わない者とは交じらないと。

「それなら機会はまた別の時に。
――僕は貴方の事をまだ知りたい。
知らないことが多すぎるから。
知って知って知り得ることが出来たら、その時は…ふふっ。」

不敵に笑みを見せた。
一人称は代わり、本来のモノへと変わって。

ヨキ > (『縛られた』。その語に深く、にんまりと笑う。
 下卑て見えるほどの喜色を露わにして、同類を見つけたと言わんばかりに)

「そうだ――それでいい。
 人の子が産まれて増えるように、常世の子も縛られ絡め取られてまた増える。
 産めよ、増えよ、地に増えよ。この我が母なる暗黒の奥底に」

(躍るように身を翻し、踵を返す。
 掛け替えのない友を得たと、今にも叫び出すかのように)

「ふふ。そうだ。そうしてヨキの元へ来い。
 ヨキを愛するがいい……バロム・ベルフォーゼ・シイン。
 このはらわたのうちに眠る甘美を、君にも分けてやろう。
 生きものが孕む熱よりなお熱く――君を捕えてみせよう!」

(諸手を広げる。
 その左手の先から、するすると鋼の蔦が伸びる。
 真鍮の金ではなく、冷たい鋼の銀色。

 ――伸びゆく蔦はやがて、一振りの剣の形を取る。

 ヨキの身の丈ほども巨大な、すらりとした片刃の太刀だ。

 日本古来の武具のようなフォルムをして、しかしその柄は異国の剣の護拳に似ていた。
 切っ先が、剣舞のように、指揮棒のように風を切る――)


(刀身が、月の光を捉えて光る)


(――その刃が閃いた次の瞬間にはもう、巨大な太刀は露と消え失せていて。
 この場で会ったときと同じ、巨大な黒い獣が、四足で大地を踏み締めてシインを見ていた。
 襲い掛かるような殺気はなく、夜風の中に、ぐふる、と濁った音の息を吐く)

シイン > 「――これもまた"龍の呪い"というのならば、なんと因果なことか。」

一人静かに呟く言葉。笑みを浮かばせた相手に対して掛けた言葉ではない。
"呪いは最初から" "貴方に引き寄せられた"
言葉を思い出していく。結果として龍となり縛られた事を考えれば、コレもまた一つの呪いなのだろう、と。

何を分けるというのか、何をどうして捕えるというのか。
無言のままに、その場から決して動こうともせずに。結果を見届けるが為に。
強大な太刀を振るうヨキを、瞳に映させた。
手先から伸びた鋼と思わしきモノにより作成された得物。

来るかどうか、思考の矢先には既に太刀は消えていた。
目の前に居たのは、太刀を手に持ち振るうヨキの姿ではなく。
獣としてのヨキの姿。

「――てっきり襲い掛かって来るかと思ったが。」

どうやらその気はないようだ。殺気も感じ取れない。
単に隠してるだけかも知れないが。真相はいかに。

ヨキ > (――その巨躯の黒犬は、ひどく傷付いていた。
 脇腹の傷から、粘り気のある血をばたばたと絶えず流している。
 その赤茶色の血溜まりは、生きものの血液というよりも、錆を溶かし込んだ泥濘のように見える。

 旧い錆の臭いが、一段と濃くなった。

 金色の焔が、渦巻いて脇腹の傷から燃え上がる。
 その傷口から垣間見える骨格は、黒色を帯びていた。
 それは鉄の骨――まさしく金属で出来た肋骨が、鳥籠のように身体を組み立てているのだ。

 シインの頬から噴き上げた火とは違って、その金色は炉のように熱く空気を灼いている。
 毛皮と、獣の皮膚の焦げる臭い。

 しかして流れ落ちる血は乾かず、燃える火は獣を焼き尽くすこともない。

 傷付き続け、灼かれ続ける獣の姿が、そこに在る)

「(――バロム・シイン、)」

(犬の息遣いが、低く響く。
 その喉から発されたものでない、ヨキの声が空気を伝ってシインの耳へ届く)

「(これがヨキだ。
  この姿、君に晒してくれてやる。

  ……覚えていろ。この犬が、君の喉笛を常に狙っていることを)」

(犬の大きな口元が、歪んで嗤ったように見えた)

(――ぐるりと身を返す。
 地を蹴り、荒野の向こうへ風のように消える。
 金色の残像だけを残して、あとは気配さえも残さない)

ご案内:「転移荒野」からヨキさんが去りました。
シイン > (……傷)

一目見ただけでもハッキリと分かる。
犬となったヨキはワキ腹に傷を負ってると。
そしてこの鼻に付く錆の臭い。

先までの血の臭いはコレだったのだ。

血とは言えない、鉄その物の臭いに近しいか。
コレが彼の本当の姿か。
金色の焔は熱を帯びており、離れている位置からでも熱さを感じ取れる。
自分とはまた違う、否、自分が異質なだけなのだが。

声が、ヨキの声がハッキリと耳に伝わる。
それは警告にして忠告か。

「覚えていようとも、忘れないさ。」

この"臭い"がヨキを忘れようとしないだろう。
拭えぬ臭いなのだから。

完全にヨキの気配が消えてから、彼は翼を羽撃かせる。
空へと浮かび上がり、空き家へと。

「――有意義な時間だった。」

暇を潰すどころではなかった。とても、とても有意義な時間を過ごせたことに感謝をしながら。
間もなくして、夜の闇へと消えて行った。

ご案内:「転移荒野」からシインさんが去りました。