2016/01/28 のログ
獅南蒼二 > 僅かに生まれた歪みから、異世界のものと思われる魔力が噴き出した。
一切の指向性をもたず、一切の属性を持たず。
しかしそれは恐ろしい濃度であるが故に、全てを飲み込んで消滅させる。
土を、空気を、礫を。

白衣の男は右腕を突き出して、障壁を展開する。
硬度操作には意味が無い、魔力障壁は瞬時に破壊され、呪術的防御は意味をなさない。

思った通りだ。
“防ぐ”事の出来ない脅威に対して、魔術師は非常にもろく、そして無力だった。

右腕が魔力の渦に巻き込まれ、激痛が走る。
いや、痛みがあったのはほんの一瞬。
神経を含めてすべてが瞬時に消滅し、痛みを感じるべき機関が失われた。

獅南蒼二 > 「……………。」
獅南は悲鳴を上げることもしなければ、特に何の感情も示さなかった。
失われた白衣の二の腕から先を見て、こうなるのか、と小さく笑ったほどだった。

獅南蒼二 > 誰もその光景を見ていた者が居なかったのだとしたら、幸いである。
腕を失ってなお笑うなど、到底、正気の沙汰とは思えない。
だが、獅南もただ腕を持って行かれたわけではない。
あの致命的なほどに濃厚な魔力の渦が、
濁流ともいえる魔力の暴走が、その空間の何処へともなく失われていた。

獅南の足元には小さな指輪が落ちている。
隻腕となった男はそれを左腕で静かに拾い上げて、何事かを呟いた。

獅南蒼二 > 指輪が僅かに光る。
不可視の術式が消滅した空間全てに描き込まれていき、まるで生き物のように周囲を塗りつぶしていく。
自らの右腕があった場所にも、同様にしてまるで包帯のように術式が描き込まれていく。

高位なる魔術師は、魔術は、万能ではないと語った。
だが、この獅南に言わせれば、それは限りなく万能に近い学問だ。

失われた腕を再生することなど、どのような西洋医学の先端技術でも不可能であっただろう。
そして魔術をもってしても、腕を“再生”することは非常に困難である。

だが、もっと簡単な方法がある。


【時間を戻せばいい】

獅南蒼二 > ……………数瞬の後、そこには何事も無かったかのように、向日葵が咲いている。

相変わらず混沌の様相を呈する荒野に、白衣の男が1人。
静かに煙草を吹かしながら、歩いていた。

ご案内:「転移荒野」から獅南蒼二さんが去りました。