2016/06/10 のログ
ご案内:「転移荒野」に蕎麦屋さんが現れました。
蕎麦屋 > 久しぶりの登山With蕎麦屋台。少々、どころではなく手間取った。
降りてきてみれば無人の荒野が広がると来た。

「やー、ようやく降りてこれましたね。
 老体には堪えますね、全く。」

空を仰ぎ見れば――ほどほどに時間も経っている。
先にインフラを利用して移動したであろう相手に追いつくなら急ぐべきかもしれないが。

「まぁ――、一服していっても宜しいでしょう。」

蕎麦屋 > 簡易椅子を取り出し、座る。
客でも居れば店を開くが、さすがにこんな場所には居ないだろう。

さて、降りてくる間に大体の思考はまとまった。
纏まった、というよりも放棄したというのが正しい。

「なんせ――訳が分からないんですもの。ねぇ?」

屋台の屋根に留まる烏に同意を求めながら。
そう、訳が分からない。
最初は主人の戦力の欲しがる理由にひっかったのかと思ったが。
狙いは今頃電車にでも揺られているであろう守護の相手と、その妹だという。

蕎麦屋 > 姉の魂を見たところで、少々の捻れはあれどごく普通の人間だった。
今のご時世、この場所であれば捻れていない人間の方がごく少数、そういう意味ではごく普通。
妹の方に何かあるとしても二人とも、という理由が読めない。

「んー……」

降りてきた山を仰ぎ見る。
相手の方が、あの姉妹の理解は深い。そういう反応だったが。
ということは『単身で乗り込む』という選択肢は想定されているのだろう。
今頃は――いや、もう終わっているだろうか。

「ここまでは、情報がなくても想定はできる。――その先。」

蕎麦屋 > 配役の選択理由がさっぱりわからぬ。
――思うに。

明らかに一朝一夕に何かあった、という類のものではない。
根は、相当に深い。一体どこに行きついて、何処に落ち着くのか。
相手の思惑――そもそも相手は単数か?相手にしなければいけない組織は一つか?
相手の条件も不明すぎる。片方を確保すれば片方も釣れる――それはわかるが。
なぜあのコミュニティ能力の明らかに高そうな姉の、数多いであろう友人の中からボッチを選んだ。
あの姉なら誰であれ同じように動いたはずだ。

烏二匹が太鼓判を押すから気楽に、程度の物だったのだが。

「これ、タイミングが悪かったですか。ね?」

正直、配役のない舞台に上がった道化の気分である。

蕎麦屋 > 「ああ、いや――」

考えを訂正。そもそも世界に居ていい類のものではない。
人である部分は削げ落ちて、神というには人に近すぎる。であるからこそ、そこは違えてはならない一線。
であるからこそ名を持たぬ。記録に残らぬ、記憶に残らぬ。
――ああ、なんと。

「滑稽か。笑えて来ますね。
 ええ、もう。それはもう。盛大に。」

ぼっち、という意味ではあの主人と変わらないのだ、自分も。
とりあえず膝でも叩いておきましょうか、この世紀の大発見に。

蕎麦屋 > ひとしきり笑ったところで、素に戻る。
いや、なるほど。気楽に受けたが、そういう理由か。

「孤独は弱らせますね。それが何者であろうとも。」

なら、孤独のまま放置しておけないではないか。
手を伸ばしたのだ、伸ばした手を跳ね退けるのは隣人としてよくはない。
何よりも、ぼっちの大先輩として脱却する後輩の応援はしてやるべきだろう。

――簡単な話だった。

蕎麦屋 > 「なら、とりあえずとっとと追いつきましょうか。」

傍に置いた屋台をぽん、と叩けば。それだけで、跡形もなく。蕎麦屋台を何年かぶりに『片付ける』。
代わりに取り出したのは世界で最も普及した運搬用車両。乳白色と織部色のスーパーカブ。
ご丁寧に出前用の荷台付、車体の側面には『蕎麦屋』と流麗な文字で店名まで入っている。

着物だとごつい車両は乗り辛い、このくらいがちょうどよい。
またがれば、烏が荷台に留まる。

蕎麦屋 > キーを回せば小気味よい振動と音。

「いやもうね。理由の一つもつけないと動けないわが身が呪わしいですが。
 飛ばしますよー、行先は何処か知りませんけど。」

一声啼いた烏に、エンジンの咆哮が響き渡る。

ぼへぼへぼへぼへ。
独特な走行音を響かせてスーパーカブが荒野を行く。

後にはたたみ忘れた椅子が一つ。

ご案内:「転移荒野」から蕎麦屋さんが去りました。