2016/07/23 のログ
ご案内:「転移荒野」に獅南蒼二さんが現れました。
■獅南蒼二 > 荒野を白衣の男が静かに歩む。
眼前には墜落した旅客機の残骸や,独裁者のブロンズ像。
近代以降の遺物たちが並んでいる。
この荒野では魔術の使用が全面的に認められており,
獅南が大規模な魔術実験を行う時はきまってこの場所を選ぶ。
だが今日は,この荒野を吹き飛ばすつもりも無ければ,時を巻き戻すつもりも無い。
■獅南蒼二 > 限られた魔力。己の才能の限界。
その中でいかにあの男と戦うかをずっと考えていた。
あの男の作りだす芸術のように,洗練された魔術によって。
獅南はそのほかの全てを打ち捨てて,その一点だけに集中していた。
「………。」
ごく初歩の,水と炎の術式。
それは彼の授業を受けた生徒なら,殆どの生徒が記憶しているであろう術式だ。
獅南はそれを単純に組み合わせて…己の僅かな魔力を注ぎ込んで発動させる。
■獅南蒼二 > 加熱された水は爆発的に体積を増やし,そして周囲の空気に冷やされて“霧”となる。
荒野の一角に,10m先が見えぬような霧が,不自然に形成された。
「…お前は金属を操るのが,得意だったな。」
うわごとのように,小さく呟く。
それから眼前のブロンズ像に向けてその手のひらを翳した。
■獅南蒼二 > 精神を集中させる。
続いて構成される術式は,またもあまりに初歩的なものだった。
それは,些細な,雷属性の操作魔法。
「…だが,これも金属の宿命だ。」
何の変哲も無い術式だ。
唯一,異常だったのはそのあまりにも緻密な指向性。
獅南は電流を発生させることもなく,雷を作り出すこともなく,
ただ,金属から連続的に電子を奪い去る。
■獅南蒼二 > まるで早回しの動画を見ているようだ。
ブロンズ像はその輝きを失い,青黒く変色し,急速に劣化していく。
やがて威厳ある髭を湛えた頭部が転がり落ち,ぐしゃりと砕け散った。
手をそのまま旅客機へと向ければ,
塗装が剥げ堕ち,ステンレス鋼の機体には赤黒い錆が浮かぶ。
強度の限界に達した金属の破壊音が響き,翼が地面に落ちるのを皮切りに,
その巨大な機体はその形を保つことが出来なくなり,自重によって内側に崩れ落ちた。
■獅南蒼二 > 術式は非常に複雑だが,出力が非常に低いために魔力の消耗は限定的である。
獅南のもつ常人以下の魔力量でも,ブロンズ像と旅客機を完全に朽ちさせるには十分であった。
石から削り出された台座や,窓にはめ込まれていたガラスだけが形を残し,
金属によって構成されていた全てが,腐食によって破壊されている。
「……………。」
静かに手のひらを下ろして,それからポケットの煙草を取り出し,火をつけた。
■獅南蒼二 > あの男は,今頃,開かれる個展の準備でもしているのだろうか。
今も鉄塊を叩き,削り,新たな作品を創造しているのだろうか。
あの男が目指す,言うならば“最高の芸術”にでも向かって。
「………………。」
“最高の芸術”には至らずとも,あの男の努力と研鑽は実り,小さいながらも形を成した。
そして,あの男の論ずる“共生と融和”という価値観は広く受け入れられるものだろう。
「………。」
自分自身を,あまりにも醜いと自分でも感じる。
だが,それはこれまでも,同じだった。
才能ある者を妬み,羨み,恨み,呪い,
才能なき自分がそれを打ち倒すことだけを追い求めてきた。
獅南の魔術はあの男の全てを葬り去るに十分な準備を終えた。
ヨキが欲望をして戦う意味とするのなら,獅南は嫉妬をして戦う意味とするだろう。
■獅南蒼二 > …そうでもしなければ,フェアではないような気がした。
異能者と魔術師,人外と人間,元よりフェアな戦いであるわけがない。
欲望と嫉妬,理想と理想の醜いぶつかり合い。
それは血生臭く,そして醜悪で幼稚で,誰の目からも無意味なものだろう。
「…まさか,躊躇などないだろうな?」
そこに,別の価値を求めてしまうのは,ロマンチズムが過ぎるかもしれない。
ご案内:「転移荒野」から獅南蒼二さんが去りました。