2016/10/02 のログ
ご案内:「転移荒野」にオーギュストさんが現れました。
オーギュスト > 転移荒野。
さびれた荒野に一人、倒れている男がいた。
男は血塗れで、体には幾つもの刺し傷がある。

それでも男は死んでおらず、握った大剣を手放そうともしなかった。

「く、そがぁ……」

ぎりと歯軋りをしながら、口の端から血を流す。
あまり長くはもたない……急いで助けを呼ばなければ。

「誰、か、生きてるか――」

唸るように問いかけながら

オーギュスト > 「……って、どこだ、ここ、は?」

辺りを見回すと、おかしい。
自分はあの吸血姫に負け、タナール砦の中に転がったはずなのに。
気がつけば、一面の荒野だ。一体……?

「……ちき、しょ」

目が霞む、思考が纏まらない。
タナールには至る場所にマジックアイテムが保管されていたはずだが、その影響か。
はたまた適当に買っていたアミュレットあたりの効果か。
もしくは、ここが地獄か。

「いずれに、しろ……」

誰か、通りがかった相手に助けてもらうしかない。

ご案内:「転移荒野」にヨキさんが現れました。
ヨキ > ビビッドな色合いの現代的なスポーツウェアは、果たして相手の目にどのように映ったろうか。

視界の端にきらめいた金属のきらめきに、不意に足を止めたヨキの姿があった。
訝しげに目を凝らし――倒れているオーギュストへ、足を向ける。

「……人?」

それが頽れた人間であると知れた瞬間、足取りを速める。

「おい、君――大丈夫かね。どうした?」

人間のなりをして、滲ませる警戒心は獣のよう、二本の足から迸らせる魔力の残滓は魔族のよう。
いずれともつかない気配を露にしながら、オーギュストの傍らへ跪く。

オーギュスト > 「――あ?」

幸い、誰か通りがかった者がいた。
第一段階はクリア。残るは――

「――その、前に。お前、人間、か?」

人間ならば助けてもらおう。礼は王都に帰ったらたっぷりしてやる。
魔族ならば――その時は仕方が無い。悪運も尽きたという事だ。
せめて、道連れにくらいしてやる。そう決意して、大剣を握りなおす。

ヨキ > 人語だ。首肯して、淀みなく口を開く。

「人間?――ああ、そうだ。人間だ」

低い男の声で、明朗に即答する。
種族を偽るにしては、放つ気配はあからさまに過ぎていた。

大剣を掴む様子に、片足をいつでも踏み出せるように力を込める。
が、今はまだ落ち着いた声で、相手へ声を掛け続ける。

「君……落ち着いて聞いてくれたまえ。
 ここがどの世界か、判るか?『地球』だ」

背中から回した鞄を探り、スマートフォンを取り出す。
画面は点灯させない。魔導具と間違えられては堪らない。

「安心しろ、ヨキは君の敵ではない。少なくとも、今はまだ。
 怪我の手当てが要る……君、目覚める前はどこに居た?」

オーギュスト > 「……そうか、人間か」

人間だと言うなら、まぁ、そうなのだろう。
少なくとも魔族ではあるまい。わざわざ瀕死のオーギュストの前で、種族を偽る必要があるとも思えない。
大剣を握っていた手の力を、少しだけ抜く。

「『チキュー』……何処だ、そりゃ」

何とか助けてもらえそうな状況に、少し安堵する。
が、『チキュー』などという地方も都市も知らない。
一体どんな場所まで飛ばされたのやら。よっぽど辺境まで飛ばされたらしい。下手をすれば別大陸だ。

「俺は、王国軍第七師団長、オーギュスト・ゴダンだ……ここは、マグメールの領内か……それとも、別の国まで、飛ばされちまったか……?」

ヨキ > オーギュストの反応をつぶさに見遣る眼差しは冷静だ。
返ってきた言葉に小さく頷きながら、小さく笑う。

「……君、運が悪かったな。国や大陸どころか、“世界”を跨いでるぞ。
 何かの魔術か……それとも、事故に巻き込まれでもしたか」

言い聞かせるよう、ゆっくりと言葉を選びながら答える。

「残念ながら、この地球にマグメールという地名があるとは聞いておらん。

 自分はヨキという。ゴダン、かつてはヨキもそうだった。
 元の世界から、この『地球』に飛ばされてきた者だ」

オーギュスト > 目を見開く。
国や大陸どころか、世界……?

いや、ありえない話ではない。
現に、マグメールにも異世界から召喚されたものがいた。
なら、逆に異世界に飛ばされる者がいて、おかしい話はない。

「……マジかよ。っつ――!」

が、まずは怪我を治すのが先だろう。
吸血姫の魔術により、オーギュストの体は穴だらけだ。
頑丈なこの男でなければとうに死んでいる。

ヨキ > 傷の痛みに耐えるオーギュストに、その背を支える。
鞄を地面に置き、スマートフォンの画面を点ける。荒野に掻き乱された電波が、圏外と圏内を行ったり来たり。小さく舌打ち。

「……どうやら、あまり良くない怪我らしいな。
 その甲冑、脱ぐことは出来るか?
 軍人で、その身なりということは……戦闘中だったか」

手を握っては開く。右手の指輪に、ごく小さな紫電が跳ねる。
周囲に沈む魔力の気配が、ひととき強まった。

「悪いが、ヨキの腕では止血くらいしか適わんだろう。
 あとは街の病院で、肉なり骨なりを繋げてもらわんとな」

オーギュスト > 「おう、すまんな――礼はする、って言いたいとこだが、生憎持ち合わせもそんなにな。っつぅ……」

鎧の留め具をガチャガチャと外す。特注品で、外しやすいのが幸いした。王国軍の既製品だと面倒な事このうえない。
肌着は血塗れなので破ってしまう。出血が夥しい。

「面倒な吸血姫に絡まれてな――っつ、次会ったら容赦しねぇ……」

ぶつぶつ言いながら、体の様子を確かめる。
出血は激しいが、幸い内臓は傷ついていないようだ。骨にも異常はなさそう。つくづく幸運な男である。

ヨキ > 「構わん。ここの飛ばされてきた人間は、初めはみなそんなものだ。
 命拾いしても、礼などとても出来るものではない」

意識を引き留めるために連ねていた言葉が、安堵でわずかに緩まる。
傷の様子を見て眉間に皺を寄せたのは、嫌悪のためではない。

「うわ、それはまた結構な……。
 普通の怪我ではないな?爆発か、それとも魔術師の仕業か」

鞄から取り出した新品のガーゼを、放って寄越す。「傷口を押さえておきたまえ」。

「失敬」

一言添えて、傷のひとつへ手を伸べる。
ぎりぎり肌に触れぬほどの距離で止めた指先が、小さくぶるりと震える。

その瞬間――オーギュストの傷口のごく表層を、肉の蠢く感触が奔る。
魔術への抵抗さえなければ、無数の傷が次々と塞がってゆくはずだ。

だが、あくまで肌の表面に開いた穴が塞がるだけだ。
奥底で引き裂けた肉はそのままであるから、急に動けば変わらぬ痛みが襲うだろう。

オーギュスト > 「魔術だよ。槍を召喚して串刺しにしやがった――お、おぉ!?」

傷口が塞がる感覚。
この感触には覚えがある。高位神官の使う、緊急治療用の魔術だ。見かけによらず、凄い術者なのかもしれない。

「すげぇな、あっという間に血が止まった……っつ」

痛みまでは止まらないらしいが、これでまぁ、死ぬ事は無いだろう。
ありがたい限りだ。

「それで――なんだ、『チキュー』ってのか、ここは」

ヨキ > 「槍を召喚か。あっちこっちには色んな魔術があるものだ」

オーギュストの表情から治癒魔術の手応えを察する。
真剣そのものだった面差しに、安堵が過ぎった。

「凄くはない。でかい魔力に任せて、傷口にぶつけてるだけさ。
 少しでも集中を欠けば……、逆に大怪我になりかねん。

 云わば、未熟な魔術師のビギナーズラックだ。肝が冷えるだろう?」

軽口を叩いて、にやりとする。
怪我が最低限でも塞がったと判れば、長い息を吐いて地面に座り込む。

「……っはあ、よかった……。何とか大丈夫そうだな」

頭を掻いてから眼鏡を押し上げ、足を投げ出した格好でオーギュストへ笑い掛ける。

「ああ、『地球』だ。大地が球形をして、ぽっかりと浮かんでる世界だ。
 どうしてだか、この辺にはよく色んなものが迷い込む。

 ここは、地球の中の――誰が言ったか『常世島』。
 君は魔術にやられて、あろうことか常世に迷い込んでしまったという訳だ。

 ……元の世界に帰れる保証は、ない」

オーギュスト > 「マジかよ、あぶねぇな――まぁ、助かった、ありがとよ」

賭けには慣れている。その程度の事で動じる程度の胆力ではない。
第一、一度死んだようなものだ。今更その程度で怖気づくものか。

「あらためて、オーギュスト・ゴダンだ。世話になった、礼を言う」

一応、ヨキの方を向き頭を下げる。
命の恩人だ、それくらいは当然だろう。
だが、次の言葉を聞くと表情が曇る。

「帰れる保証はねぇ、か――しょうがねぇ、何とか探すしかねぇな」

向こうでは第七師団が、オーギュストの帰りを待っているだろう。
貴族どもに祝杯をあげさせるのも癪だ。

何より、あの吸血姫。
ロザリアを一度コテンパンにノして、ブチ犯してやらないと、気が済まない。

ヨキ > 同じく軽い調子の受け答えに、相手の度胸を推して楽しげに笑う。

「どう致しまして。
 ヨキはこの常世島にある、学園で教えている教師さ。

 どれほどの期間の付き合いになるかは分からんが、よろしく、ゴダン」

会釈を返す。
子どものように笑ったかと思えば、どこか老翁の息遣いで微笑んだ。

「ああ、手立ては行き先によってそれぞれだろう。
 この島の街では、帰れぬことを喜ぶ者も焦る者も、数多く暮らしているよ」

再び鞄を探る。
取り出したのは、未開栓の緑茶の、350mlペットボトル。
よく冷えたその蓋を開けて、何事か剣呑な考えに耽るオーギュストへ差し出す。

「これは当世の水筒さ。口に合うか判らんが、こちらの茶だ」

オーギュスト > 「よろしくっと――あー、そうか。寝床やら飯の確保の必要があるな」

そこまで目の前の男に頼るわけにもいかない。
まぁ……人が居る所には、何かしら諍いや揉め事などもあるだろう。
昔を思い出して、冒険者みたいな事をして、日銭でも稼ぐしかあるまい。幸い、愛剣だけは持ってきている。

「そうか。まぁ、異世界の人間って事で迫害されねぇなら、そりゃラッキーだな」

マグメールでは、ミレー族の迫害など、日常茶飯事であった。
こちらで異世界人が同じ境遇でないだけ、感謝すべきだろう。

「へぇ、茶か。こっちじゃまぁまぁ高級品だったが――つめてぇ!?」

びっくりして一瞬茶を落としそうになる。
冷蔵技術の発達していないマグメールでは、冷えた飲み物など王族の口にすら稀にしか入らない。

ヨキ > 「幸いにも、街へ戻れば“異邦人”の世話をしてくれる者らが居る。
 彼らは『生活委員会』と呼ばれていて……、

 ……ああ、そうだ。
 この地球では、他の世界からやってきた者はみな『異邦人』と呼ばれている。
 ここで『暮らせている』異邦人たちは、きちんと保護のための手続きを済ませているのさ。

 それに……異邦人を相手にする者は、ヨキのようなお人好しばかりではないでな。
 迫害までゆかずとも、不慣れな人間を陥れようとする輩は皆無ではないだろう。

 重々気をつけたまえ――まあ、君ほどどっしりと構えておれば、危険もないだろうが」

笑い声が、オーギュストの悲鳴に途切れる。

「冷たい?そんなにか?
 確かに、さっきここへ来る前に買い求めたばかりだが、……ああ!」

ふと思い至る。

「もしかすると、これから君は諸侯のごとき贅を体験することになるやもしれん。
 この世界は、魔法のような技術に満ち溢れているぞ」

オーギュスト > 「異邦人――なるほど、戸籍登録が随分しっかりしてるんだな。
トコヨ島、って言ったか。まぁ、島国ならそんなに大きくはないだろうし、可能か」

マグメールでは、広大な王国内で平民すべての戸籍登録は無理だ。
おかげで帝国のスパイなどものさばっているのだが……

「あぁ、気をつけるよ。これでも修羅場は幾つかくぐってるんでな」

しかし、にしても冷たい茶だ。
この世界は――

「……そんなに、凄い世界だったのか、ここは」

なにやら狐につままれたような気分だ。とりあえず、渡された茶の蓋を開けようとして……

「――あ? いや、これ開かねぇぞ?」

マグメールでも、ネジを持つ機械は一応ある。
だが、庶民の暮らしの中で螺旋構造を持つ物品など存在しない。機械化されていない世界では、掘るのだけでも一苦労なのだ。

オーギュストは必死に蓋を取ろうとするが、開かない。
これ以上、上に引っ張ると壊れそうだ。

ヨキ > 「今みたいに制度が整うまでは、随分と紆余曲折があったらしいがね。
 ヨキが来たばかりの頃よりも、大層暮らしやすくなっているよ。

 君は幸運中の幸運な男であるぞ。
 便利になった時代の常世島に辿り着けたことと、そこで初めに遭遇したのがヨキであることは」

えらくでかい口を叩く男だ。

「うむ。指で触れるだけで部屋の照明が点いたり消えたりするし、車は馬を必要とせん。
 塩も胡椒も、紅茶も菓子も、子どもの小遣いほどの値段で買える。

 ――うむ、ちょっと貸してみろ」

言って、ペットボトルを手に取る。
慣れた調子で、手元がよく見えるようにその蓋を開けてみせる。くりくりくり……。

開いた。

にっこりと笑って、ボトルと蓋は再びオーギュストの手へ。

「ほれ、この通り。逆に回せば、中身は零れんし埃も入らん。
 どうぞ、召し上がれ」

オーギュスト > 「そりゃ幸運だな……ってちょっと待て。
胡椒が子供の小遣いで買える? マジか?」

胡椒は今でも花形の商品だ。袋一杯が金貨一杯と同じ値段で取引される超高級品。
オーギュストですら滅多にお目にかかれない調味料である。

そしてペットボトルを見ると、唸る。

「――マジかよ。ただの水筒に、螺旋構造なんて使ってるのかよ」

螺旋構造、いわゆるネジはマグメールにもあるが、魔導機械などでしかオーギュストは見た事が無い。
それをただの水筒に使うとは、なんて贅沢であろうか。

水筒に口をつける。そういえば、昨晩から何も飲んでいない。喉がからからだ。一気に飲み干してしまう。

「――うめぇ」

ヨキ > 「やっぱり。どこの世界でも、調味料は死活問題であるらしいな。
 ヨキなどは、胡椒で味をつけたこんな……(両手で女の足ほどのサイズを作る、)……大きな肉を食うのが好きでな。
 何なら、君に馳走してやってもいい。傷を治すに、滋養は必要だろう」

ヨキの笑顔が、どこかにやにやとしてくる。
こんな風に、迷い込んだばかりの人間の世話をするのが好きらしい。

「ははは。この茶も、硬貨のほんの一枚で買ったものさ」

明るく笑う。

「おお、よかった!美味いか、そうか。

 ふふ。地球の暮らしに下手に慣れてしまうと、故郷へ帰ったあとは苦労するやも知れんなあ?
 地球の人間の良し悪しを学ぶ以前に、文化や生活に魅入られてしまったりして」

オーギュスト > 「肉……ヤバい、そういえば、飯……」

応えるかのように、腹がぐぅと鳴る。
戦闘が始まってからは、当然のように何も食っていない。
ハラペコで死にそうだ。

「ありがたいが、帰る方法を見つけるまでは、まずこっちで生計立てる事を考えんとな――とりあえず、と」

持っている物を目の前に並べて確認する。

アダマンタイトの大剣
ミスリル銀で補強した重甲冑
精霊糸を編みこんだサー・コート
魔術の媒体が二つ
将軍就任の時に賜った短剣
銀貨が30枚に金貨が5枚
各種宝石が幾つか

「……こっちの世界じゃぁ、役に立つかわかんねぇな」

こんな発展した世界だ。銀貨30枚に金貨5枚は、庶民なら二ヶ月遊んでくらせる程度の額だが、そんな発展している世界では価値も半減しているかもしれない。

ヨキ > 「街へ戻れば、食事としばらくの宿くらいは工面してもらえるであろうな。
 それからの生活は、君次第といったところだが……、おお」

次々と現れるオーギュストの所持品に、ヨキの目がどこか興味深そうに輝いてくる。
その眼差しは、好奇心を刺激された金工作家の――もしくは、「物凄くクオリティの高い海外コスプレイヤー」を目の当たりにしたオタクだ。

「こちらの世界にも体系化された魔術学があるから、それらを知る魔術師たちに見分してもらうとよいぞ。
 あとは金貨や宝石が、こちらでどれだけの価値になるかどうか……」

地面に手を突いて、とりわけ武具をじっと見る。

「…………、よい造りをしている。地球では、刀剣や甲冑はほとんど骨董品でな。
 現役で使われているのがよく判るよ。
 この短剣など、見事な細工をしているではないか」

引き起こした顔は真摯だった。