2016/10/02 のログ
ご案内:「転移荒野」にオーギュストさんが現れました。
■オーギュスト > 転移荒野。
さびれた荒野に一人、倒れている男がいた。
男は血塗れで、体には幾つもの刺し傷がある。
それでも男は死んでおらず、握った大剣を手放そうともしなかった。
「く、そがぁ……」
ぎりと歯軋りをしながら、口の端から血を流す。
あまり長くはもたない……急いで助けを呼ばなければ。
「誰、か、生きてるか――」
唸るように問いかけながら
■オーギュスト > 「……って、どこだ、ここ、は?」
辺りを見回すと、おかしい。
自分はあの吸血姫に負け、タナール砦の中に転がったはずなのに。
気がつけば、一面の荒野だ。一体……?
「……ちき、しょ」
目が霞む、思考が纏まらない。
タナールには至る場所にマジックアイテムが保管されていたはずだが、その影響か。
はたまた適当に買っていたアミュレットあたりの効果か。
もしくは、ここが地獄か。
「いずれに、しろ……」
誰か、通りがかった相手に助けてもらうしかない。
ご案内:「転移荒野」にヨキさんが現れました。
■ヨキ > ビビッドな色合いの現代的なスポーツウェアは、果たして相手の目にどのように映ったろうか。
視界の端にきらめいた金属のきらめきに、不意に足を止めたヨキの姿があった。
訝しげに目を凝らし――倒れているオーギュストへ、足を向ける。
「……人?」
それが頽れた人間であると知れた瞬間、足取りを速める。
「おい、君――大丈夫かね。どうした?」
人間のなりをして、滲ませる警戒心は獣のよう、二本の足から迸らせる魔力の残滓は魔族のよう。
いずれともつかない気配を露にしながら、オーギュストの傍らへ跪く。
■オーギュスト > 「――あ?」
幸い、誰か通りがかった者がいた。
第一段階はクリア。残るは――
「――その、前に。お前、人間、か?」
人間ならば助けてもらおう。礼は王都に帰ったらたっぷりしてやる。
魔族ならば――その時は仕方が無い。悪運も尽きたという事だ。
せめて、道連れにくらいしてやる。そう決意して、大剣を握りなおす。
■ヨキ > 人語だ。首肯して、淀みなく口を開く。
「人間?――ああ、そうだ。人間だ」
低い男の声で、明朗に即答する。
種族を偽るにしては、放つ気配はあからさまに過ぎていた。
大剣を掴む様子に、片足をいつでも踏み出せるように力を込める。
が、今はまだ落ち着いた声で、相手へ声を掛け続ける。
「君……落ち着いて聞いてくれたまえ。
ここがどの世界か、判るか?『地球』だ」
背中から回した鞄を探り、スマートフォンを取り出す。
画面は点灯させない。魔導具と間違えられては堪らない。
「安心しろ、ヨキは君の敵ではない。少なくとも、今はまだ。
怪我の手当てが要る……君、目覚める前はどこに居た?」
■オーギュスト > 「……そうか、人間か」
人間だと言うなら、まぁ、そうなのだろう。
少なくとも魔族ではあるまい。わざわざ瀕死のオーギュストの前で、種族を偽る必要があるとも思えない。
大剣を握っていた手の力を、少しだけ抜く。
「『チキュー』……何処だ、そりゃ」
何とか助けてもらえそうな状況に、少し安堵する。
が、『チキュー』などという地方も都市も知らない。
一体どんな場所まで飛ばされたのやら。よっぽど辺境まで飛ばされたらしい。下手をすれば別大陸だ。
「俺は、王国軍第七師団長、オーギュスト・ゴダンだ……ここは、マグメールの領内か……それとも、別の国まで、飛ばされちまったか……?」
■ヨキ > オーギュストの反応をつぶさに見遣る眼差しは冷静だ。
返ってきた言葉に小さく頷きながら、小さく笑う。
「……君、運が悪かったな。国や大陸どころか、“世界”を跨いでるぞ。
何かの魔術か……それとも、事故に巻き込まれでもしたか」
言い聞かせるよう、ゆっくりと言葉を選びながら答える。
「残念ながら、この地球にマグメールという地名があるとは聞いておらん。
自分はヨキという。ゴダン、かつてはヨキもそうだった。
元の世界から、この『地球』に飛ばされてきた者だ」
■オーギュスト > 目を見開く。
国や大陸どころか、世界……?
いや、ありえない話ではない。
現に、マグメールにも異世界から召喚されたものがいた。
なら、逆に異世界に飛ばされる者がいて、おかしい話はない。
「……マジかよ。っつ――!」
が、まずは怪我を治すのが先だろう。
吸血姫の魔術により、オーギュストの体は穴だらけだ。
頑丈なこの男でなければとうに死んでいる。
■ヨキ > 傷の痛みに耐えるオーギュストに、その背を支える。
鞄を地面に置き、スマートフォンの画面を点ける。荒野に掻き乱された電波が、圏外と圏内を行ったり来たり。小さく舌打ち。
「……どうやら、あまり良くない怪我らしいな。
その甲冑、脱ぐことは出来るか?
軍人で、その身なりということは……戦闘中だったか」
手を握っては開く。右手の指輪に、ごく小さな紫電が跳ねる。
周囲に沈む魔力の気配が、ひととき強まった。
「悪いが、ヨキの腕では止血くらいしか適わんだろう。
あとは街の病院で、肉なり骨なりを繋げてもらわんとな」
■オーギュスト > 「おう、すまんな――礼はする、って言いたいとこだが、生憎持ち合わせもそんなにな。っつぅ……」
鎧の留め具をガチャガチャと外す。特注品で、外しやすいのが幸いした。王国軍の既製品だと面倒な事このうえない。
肌着は血塗れなので破ってしまう。出血が夥しい。
「面倒な吸血姫に絡まれてな――っつ、次会ったら容赦しねぇ……」
ぶつぶつ言いながら、体の様子を確かめる。
出血は激しいが、幸い内臓は傷ついていないようだ。骨にも異常はなさそう。つくづく幸運な男である。
■ヨキ > 「構わん。ここの飛ばされてきた人間は、初めはみなそんなものだ。
命拾いしても、礼などとても出来るものではない」
意識を引き留めるために連ねていた言葉が、安堵でわずかに緩まる。
傷の様子を見て眉間に皺を寄せたのは、嫌悪のためではない。
「うわ、それはまた結構な……。
普通の怪我ではないな?爆発か、それとも魔術師の仕業か」
鞄から取り出した新品のガーゼを、放って寄越す。「傷口を押さえておきたまえ」。
「失敬」
一言添えて、傷のひとつへ手を伸べる。
ぎりぎり肌に触れぬほどの距離で止めた指先が、小さくぶるりと震える。
その瞬間――オーギュストの傷口のごく表層を、肉の蠢く感触が奔る。
魔術への抵抗さえなければ、無数の傷が次々と塞がってゆくはずだ。
だが、あくまで肌の表面に開いた穴が塞がるだけだ。
奥底で引き裂けた肉はそのままであるから、急に動けば変わらぬ痛みが襲うだろう。
■オーギュスト > 「魔術だよ。槍を召喚して串刺しにしやがった――お、おぉ!?」
傷口が塞がる感覚。
この感触には覚えがある。高位神官の使う、緊急治療用の魔術だ。見かけによらず、凄い術者なのかもしれない。
「すげぇな、あっという間に血が止まった……っつ」
痛みまでは止まらないらしいが、これでまぁ、死ぬ事は無いだろう。
ありがたい限りだ。
「それで――なんだ、『チキュー』ってのか、ここは」
■ヨキ > 「槍を召喚か。あっちこっちには色んな魔術があるものだ」
オーギュストの表情から治癒魔術の手応えを察する。
真剣そのものだった面差しに、安堵が過ぎった。
「凄くはない。でかい魔力に任せて、傷口にぶつけてるだけさ。
少しでも集中を欠けば……、逆に大怪我になりかねん。
云わば、未熟な魔術師のビギナーズラックだ。肝が冷えるだろう?」
軽口を叩いて、にやりとする。
怪我が最低限でも塞がったと判れば、長い息を吐いて地面に座り込む。
「……っはあ、よかった……。何とか大丈夫そうだな」
頭を掻いてから眼鏡を押し上げ、足を投げ出した格好でオーギュストへ笑い掛ける。
「ああ、『地球』だ。大地が球形をして、ぽっかりと浮かんでる世界だ。
どうしてだか、この辺にはよく色んなものが迷い込む。
ここは、地球の中の――誰が言ったか『常世島』。
君は魔術にやられて、あろうことか常世に迷い込んでしまったという訳だ。
……元の世界に帰れる保証は、ない」
■オーギュスト > 「マジかよ、あぶねぇな――まぁ、助かった、ありがとよ」
賭けには慣れている。その程度の事で動じる程度の胆力ではない。
第一、一度死んだようなものだ。今更その程度で怖気づくものか。
「あらためて、オーギュスト・ゴダンだ。世話になった、礼を言う」
一応、ヨキの方を向き頭を下げる。
命の恩人だ、それくらいは当然だろう。
だが、次の言葉を聞くと表情が曇る。
「帰れる保証はねぇ、か――しょうがねぇ、何とか探すしかねぇな」
向こうでは第七師団が、オーギュストの帰りを待っているだろう。
貴族どもに祝杯をあげさせるのも癪だ。
何より、あの吸血姫。
ロザリアを一度コテンパンにノして、ブチ犯してやらないと、気が済まない。
■ヨキ > 同じく軽い調子の受け答えに、相手の度胸を推して楽しげに笑う。
「どう致しまして。
ヨキはこの常世島にある、学園で教えている教師さ。
どれほどの期間の付き合いになるかは分からんが、よろしく、ゴダン」
会釈を返す。
子どものように笑ったかと思えば、どこか老翁の息遣いで微笑んだ。
「ああ、手立ては行き先によってそれぞれだろう。
この島の街では、帰れぬことを喜ぶ者も焦る者も、数多く暮らしているよ」
再び鞄を探る。
取り出したのは、未開栓の緑茶の、350mlペットボトル。
よく冷えたその蓋を開けて、何事か剣呑な考えに耽るオーギュストへ差し出す。
「これは当世の水筒さ。口に合うか判らんが、こちらの茶だ」
■オーギュスト > 「よろしくっと――あー、そうか。寝床やら飯の確保の必要があるな」
そこまで目の前の男に頼るわけにもいかない。
まぁ……人が居る所には、何かしら諍いや揉め事などもあるだろう。
昔を思い出して、冒険者みたいな事をして、日銭でも稼ぐしかあるまい。幸い、愛剣だけは持ってきている。
「そうか。まぁ、異世界の人間って事で迫害されねぇなら、そりゃラッキーだな」
マグメールでは、ミレー族の迫害など、日常茶飯事であった。
こちらで異世界人が同じ境遇でないだけ、感謝すべきだろう。
「へぇ、茶か。こっちじゃまぁまぁ高級品だったが――つめてぇ!?」
びっくりして一瞬茶を落としそうになる。
冷蔵技術の発達していないマグメールでは、冷えた飲み物など王族の口にすら稀にしか入らない。
■ヨキ > 「幸いにも、街へ戻れば“異邦人”の世話をしてくれる者らが居る。
彼らは『生活委員会』と呼ばれていて……、
……ああ、そうだ。
この地球では、他の世界からやってきた者はみな『異邦人』と呼ばれている。
ここで『暮らせている』異邦人たちは、きちんと保護のための手続きを済ませているのさ。
それに……異邦人を相手にする者は、ヨキのようなお人好しばかりではないでな。
迫害までゆかずとも、不慣れな人間を陥れようとする輩は皆無ではないだろう。
重々気をつけたまえ――まあ、君ほどどっしりと構えておれば、危険もないだろうが」
笑い声が、オーギュストの悲鳴に途切れる。
「冷たい?そんなにか?
確かに、さっきここへ来る前に買い求めたばかりだが、……ああ!」
ふと思い至る。
「もしかすると、これから君は諸侯のごとき贅を体験することになるやもしれん。
この世界は、魔法のような技術に満ち溢れているぞ」
■オーギュスト > 「異邦人――なるほど、戸籍登録が随分しっかりしてるんだな。
トコヨ島、って言ったか。まぁ、島国ならそんなに大きくはないだろうし、可能か」
マグメールでは、広大な王国内で平民すべての戸籍登録は無理だ。
おかげで帝国のスパイなどものさばっているのだが……
「あぁ、気をつけるよ。これでも修羅場は幾つかくぐってるんでな」
しかし、にしても冷たい茶だ。
この世界は――
「……そんなに、凄い世界だったのか、ここは」
なにやら狐につままれたような気分だ。とりあえず、渡された茶の蓋を開けようとして……
「――あ? いや、これ開かねぇぞ?」
マグメールでも、ネジを持つ機械は一応ある。
だが、庶民の暮らしの中で螺旋構造を持つ物品など存在しない。機械化されていない世界では、掘るのだけでも一苦労なのだ。
オーギュストは必死に蓋を取ろうとするが、開かない。
これ以上、上に引っ張ると壊れそうだ。
■ヨキ > 「今みたいに制度が整うまでは、随分と紆余曲折があったらしいがね。
ヨキが来たばかりの頃よりも、大層暮らしやすくなっているよ。
君は幸運中の幸運な男であるぞ。
便利になった時代の常世島に辿り着けたことと、そこで初めに遭遇したのがヨキであることは」
えらくでかい口を叩く男だ。
「うむ。指で触れるだけで部屋の照明が点いたり消えたりするし、車は馬を必要とせん。
塩も胡椒も、紅茶も菓子も、子どもの小遣いほどの値段で買える。
――うむ、ちょっと貸してみろ」
言って、ペットボトルを手に取る。
慣れた調子で、手元がよく見えるようにその蓋を開けてみせる。くりくりくり……。
開いた。
にっこりと笑って、ボトルと蓋は再びオーギュストの手へ。
「ほれ、この通り。逆に回せば、中身は零れんし埃も入らん。
どうぞ、召し上がれ」
■オーギュスト > 「そりゃ幸運だな……ってちょっと待て。
胡椒が子供の小遣いで買える? マジか?」
胡椒は今でも花形の商品だ。袋一杯が金貨一杯と同じ値段で取引される超高級品。
オーギュストですら滅多にお目にかかれない調味料である。
そしてペットボトルを見ると、唸る。
「――マジかよ。ただの水筒に、螺旋構造なんて使ってるのかよ」
螺旋構造、いわゆるネジはマグメールにもあるが、魔導機械などでしかオーギュストは見た事が無い。
それをただの水筒に使うとは、なんて贅沢であろうか。
水筒に口をつける。そういえば、昨晩から何も飲んでいない。喉がからからだ。一気に飲み干してしまう。
「――うめぇ」
■ヨキ > 「やっぱり。どこの世界でも、調味料は死活問題であるらしいな。
ヨキなどは、胡椒で味をつけたこんな……(両手で女の足ほどのサイズを作る、)……大きな肉を食うのが好きでな。
何なら、君に馳走してやってもいい。傷を治すに、滋養は必要だろう」
ヨキの笑顔が、どこかにやにやとしてくる。
こんな風に、迷い込んだばかりの人間の世話をするのが好きらしい。
「ははは。この茶も、硬貨のほんの一枚で買ったものさ」
明るく笑う。
「おお、よかった!美味いか、そうか。
ふふ。地球の暮らしに下手に慣れてしまうと、故郷へ帰ったあとは苦労するやも知れんなあ?
地球の人間の良し悪しを学ぶ以前に、文化や生活に魅入られてしまったりして」
■オーギュスト > 「肉……ヤバい、そういえば、飯……」
応えるかのように、腹がぐぅと鳴る。
戦闘が始まってからは、当然のように何も食っていない。
ハラペコで死にそうだ。
「ありがたいが、帰る方法を見つけるまでは、まずこっちで生計立てる事を考えんとな――とりあえず、と」
持っている物を目の前に並べて確認する。
アダマンタイトの大剣
ミスリル銀で補強した重甲冑
精霊糸を編みこんだサー・コート
魔術の媒体が二つ
将軍就任の時に賜った短剣
銀貨が30枚に金貨が5枚
各種宝石が幾つか
「……こっちの世界じゃぁ、役に立つかわかんねぇな」
こんな発展した世界だ。銀貨30枚に金貨5枚は、庶民なら二ヶ月遊んでくらせる程度の額だが、そんな発展している世界では価値も半減しているかもしれない。
■ヨキ > 「街へ戻れば、食事としばらくの宿くらいは工面してもらえるであろうな。
それからの生活は、君次第といったところだが……、おお」
次々と現れるオーギュストの所持品に、ヨキの目がどこか興味深そうに輝いてくる。
その眼差しは、好奇心を刺激された金工作家の――もしくは、「物凄くクオリティの高い海外コスプレイヤー」を目の当たりにしたオタクだ。
「こちらの世界にも体系化された魔術学があるから、それらを知る魔術師たちに見分してもらうとよいぞ。
あとは金貨や宝石が、こちらでどれだけの価値になるかどうか……」
地面に手を突いて、とりわけ武具をじっと見る。
「…………、よい造りをしている。地球では、刀剣や甲冑はほとんど骨董品でな。
現役で使われているのがよく判るよ。
この短剣など、見事な細工をしているではないか」
引き起こした顔は真摯だった。