2017/01/05 のログ
ご案内:「転移荒野」に常夜 來禍さんが現れました。
常夜 來禍 > 転移荒野の夜は冷える。ごく偶に障害物があることもあるが、その名の通り面積のほとんどを荒野が占めているこの場所では、冬の空っ風を遮るものはあまりない。
その寒空の下、ひとつの炎のそばに胡坐を掻いて頬杖を突く青年がいた。

「新年からこれってのも、寂しいねえおい」

パチパチと燃える焚火にアンバーの瞳が輝く。だが、その光沢とは裏腹に、常夜來禍(とこしや らいか)の表情は自嘲するような悲しい笑みだった。
誰にも聞こえぬ泣き言を呟くと、その場しのぎにもならない深緑色の薄い外套の裾を握る。寒さが、心にも沁みた。
周りに迷惑をかけぬために、ここを住処として自分が選んだ。だから、きっとこんな泣き言を言うのは無責任だ。そう分かっていても、誰もいないという安心感から言葉が漏れ出てしまう。

「風を凌げる建物も探したいが、腹減ってやる気出ないんだよなあ」

來禍の頭には赤茶けた毛色の狼の耳が見える。彼の"呪い"の一端がこれだ。
飢えによって、自分が身も心も狼と化していく呪い。朝に食べた牛のでかい版みたいな異界の生物で、まだ腹は三分目程度埋まっている。が、それでもどこからともなく湧き上がるいらつきも、きっとこの呪いのせいだ。

「ああぁー―――くっそ! なんかうまいもん食いたい!!」

結局のところ、これに尽きるのだ。うまい物さえ食えれば周囲に人がいない寂しさとか、どうしようもない寒さなんてどうにかなるのだ。
だからといってこの広い転移平野に、うまそうな獣が都合よく転移して来る筈もない。知っている。でも食いたい。

常夜 來禍 > まず、うまい物が食えない理由を列挙する。

ひとつ、お金がないこと。來禍は身寄りがない為学費を全て自身で賄うことになっている。ただ、働いて稼ぐには"呪い"のせいで同僚や仕事相手に面倒をかける可能性がある。よってうまい物を食うのは不可能。

ふたつ、そもそも市街部に出られないこと。本能の侵食が始まると人間すらうまそうに見える。今ちょっと、自分の腕すらうまそうに見えた。よってうまい物が手に入れられない、不可能。

「飽きた」

こんなことをしても空腹感が浮き彫りになるだけだった。ならなぜやった。自分でもわからない。
どんどん知能低下してるっぽいなこれ。やべえな、いやでもまあ、だれもいないし、なんとかなるか。がおーん。

「……いやいけねえいけねえいけねえ!!?」

ハッとした顔で頬杖を解くと、ぱんぱんと冷えた両ほほを挟むようにして二度叩く。
冷えた肌には、余計に痛く感じた。

常夜 來禍 > 鋭い痛みに意識は覚めた。同時に、自分はなにをしているんだろうといたたまれない気持ちにもなる。
真剣にこれからどうするかを考えねばなるまい。だんだんと弱くなってきた炎にじっと眼を向けて、良い案はないかと思いめぐらせる。

「貯金、下ろすか?」

一応、学費の為に貯蓄している分がある。ただ、もちろんここで使ってよい物ではない。一度甘えれば、次、その次と貯えをすり減らす流れになることになるのは自明だ。そうなれば、きっとあの嫌な団体に、施設に、またお世話になってしまう。それだけは避けたい。