2018/01/29 のログ
ご案内:「転移荒野」にアリスさんが現れました。
■アリス >
お金を使わない異能の訓練には転移荒野がいい。
そんな話を聞いて転移荒野にやってきた。
とはいえ、端っこのほうだから怪異なんて出てこない。
そう思っていた。
テレビでやっている『門』の多発も大げさに言っているだけだと。
■アリス >
異能のコントロールのコツも何個か聞いてきた。
まずは異能を発動する時に異能の名を呼ぶこと。
これは多くの人がやっているけれど、無意味なことではないらしい。
自分の定めた名前を発動時に口にすることで、自分と異能の深度が変わる、という。
これは人に聞かせるために大声にすることもある。
異能認知学というらしい。
たくさんの人に自分が使役する力を周知することで能力が上がる、という考え方。
これは例え戦っている相手だろうと自分の異能の名を聞かせることで有効となる。
とりあえず空論の獣(ジャバウォック)を使い、的として石の人形を二つばかり練成した。
顔は以前絡んできた女生徒二人に似せた。何となく。
■アリス >
深呼吸をして気分を落ち着ける。
そして手の中に意識を集中して、自分の異能の名を叫ぶ。
「……空論の獣(ジャバウォック)!!」
手の中に拳銃が収まる。
グロック26の第四世代。
しばらく、異能の解析をしていた頃に覚えた練成対象。
小さめの銃だけど、私にはずっしり重い。
周りに誰もいないことを確認して、拳銃を的に撃った。
当たらなかった。全然。何発撃っても。狙いを澄ませても当たらない。
■アリス >
「おかしいわね……ジョンソン・ヘイワーズは簡単に当ててたのに」
ハリウッド俳優は映画の中でいとも簡単に動く敵を撃つ。
それを見て自分の中で簡単だとイメージを膨らませていたけれど。
む、難しい……
しばらく当たりもしない拳銃を撃っていた。
その時。
視界の端にあった岩から覗いている何かと目が合った。
身長は私より低い。120cmくらいだ。
でも体が腐った魚みたいな皮膚に、長い耳まで裂けた口。
そして鋭い牙からは涎が垂れている。
―――――亜人!!
それも敵対的怪異、引き裂く小人(ゴブリン)!!
「ひっ……」
息を呑んで後退り。
■アリス >
ゴブリンはこの世界に来た時、多くの場合その邪悪な知性を人間を残酷に殺すために使う。
刺激しないように去るしかない。
視線を合わせたまま一歩、二歩と下がる。
するとゴブリンは岩陰から出てきて、一歩、二歩とこちらに歩幅を合わせて近づいてきた。
「ど、どうして………!!」
口の中がカラカラになる。
緊張で強張る体が後ろを向いて全力で逃げさせようと脳に提案する。
その時。
同じ岩陰から出てきたのは、三体のゴブリン。
そう、ゴブリンは集団行動をする場合が多い。
この世界に迷い込む時にも、それは変わらない。
もうどのゴブリンに視線を合わせておけばいいのかすらわからない。
私はそのまま後ろを向いて逃げ出した。
■アリス >
「空論の獣(ジャバウォック)!!」
走りながら背中側に石壁を咄嗟に練成する。
だけど、ゴブリン三匹は当然のように壁を回りこんで奇声を上げながら追いかけてくる。
あまりにも非現実的で、そして濃厚な死の足音に精神が磨り減って何も考えられない。
近くに開拓村がある。そこまで逃げ切れれば。
走りながらゴブリンたちは血錆と刃毀れの目立つマチェットのような肉厚の刃を抜いた。
ご案内:「転移荒野」にイチゴウさんが現れました。
■イチゴウ > 常世島の砂漠と形容できる転移荒野。
様々な怪異がその姿を現しやすいこの場所は
危険度で言えば落第街やスラムを凌ぐとも言えるだろう。
その地を何かが轟音と共に砂を勢いよく巻き上げ続けながら
直進している。
「怪異を検知、攻撃開始。」
圧縮空気を連続して吐き出し続けるその音は
醜い怪物とこの場所に似つかわしい美しい少女のもとへ
だんだん迫っていく。
そうして凄まじい勢いで一旦通り過ぎれば
ターンしつつ砂地を擦りながらブレーキをかける。
砂煙が晴れれば四つの足を持つ妙な機械の姿が見えるだろう。
背中には小型な胴体には似つかわしい多砲身の機関砲。
そして金髪碧眼の少女をまっすぐ見つめ
「伏せるんだ。」
ノイズがかった低音声で一言投げかける。
■アリス >
「!!」
気がつけば、彼方から何かが走ってくる。
轟音と共に近くに制動をかけながら止まれば、それは…四脚のロボのように見えた。
「え? あ、はい!!」
伏せるんだ、と言われたことにしばらく気付かなかった。
その場に伏せて耳を両手で塞いだ。
心は混乱したまま、後ろにはゴブリンが三匹。
これで事態が収まらなかったら。本当にどうしようもない。
心の中でパパとママを呼ぶ。
■イチゴウ > 彼女が地面へと伏せた事を確認すると
背中の物々しいガトリング砲が回転を始める。
あっという間に砲身が確認できない程の速さになり
次の瞬間、獣の咆哮かと間違うような火薬音を吐き出す。
その音は耳を塞いでいても鼓膜に響くかもしれない。
ターゲットとなったコブリンが着弾時に
巻き上げられた砂でその姿がかき消されると
ロボットは砲撃を停止する。
しばしの静寂の後、ロボットはゆっくりと
典型的な音を奏でながら少女のもとへと近づいていくだろう。
「脅威を排除。大丈夫か?」
もう安全は確保できたと伝える。
先程まで血を沸かせながら追ってきていた
ゴブリンの姿は跡形も無い。
■アリス >
「………!」
さっき、このロボットが制動をかけた轟音がクラシック音楽に思えるレベルの劈く火砲が耳を打った。
その余波で少しクラクラしながらも立ち上がると、背後にいた脅威はもう影も形もない。
「……ええと…」
もう抉れた地面の端に少し滲んだ血の痕が見えるだけだ。
「た、助かった………」
緊張から抜けた脱力感でその場にへたり込んでしまう。
見上げたロボットは、何故か可愛らしい顔のデザインがあしらわれていた。
「えっと、風紀のロボットなの?」
■イチゴウ > 「ご名答。ボクは風紀委員会、特別攻撃課所属のHMT-15だ。」
緊張感から解かれた少女の放った言葉を受けると
わざとらしくブシュウと油圧機構から音を鳴らし
シャキッとシャーシの体勢を整える。
「ところでキミはどういった目的でここに来たんだ?
現在、転移荒野は深刻な不安定状況下にあり
風紀委員会も厳戒態勢で警備している。」
その顔で少女を見上げて服装、碧眼、金髪と
彼女の特徴的な部位を順を追って眺めた後には
如何にもお説教と言わんばかりの台詞が
無機質な調子で少女へとぶつけられるだろう。
「キミは生徒なのか?名前は?」
一応確認のため身分照合を行っておこう。
■アリス >
「HMT-15……」
呆然とその名を鸚鵡返しに呟いて。
その機体とガトリング砲を交互に見る。
すごい、としか言いようがない。
「え、ええと……異能の訓練のために?」
たどたどしく答える。
確かにニュースで門が活発になっているとは聞いていた。
でも、こんな端のほうに敵対的怪異がいるとは思わなかった。
「…四月から一年生になる、アリス・アンダーソン……」
「一応、学籍はあるけど、まだ学年とかはない、と思う…」
視線を下げて答える。お説教をされても仕方ない。
一人で危険な場所に行って、一人で死に掛けて、風紀のロボットに助けられたのだから。
■イチゴウ > 「ボクの事は”イチゴウ”と呼んでくれれば
そちらでも反応が可能だ。」
目の前の少女が小さく自身の型番である
アルファベットを呟いているのを見てそう一言。
名前っぽい名前の方が人間にとって親しみがあると
ロボットは判断した。
「異能の訓練か。確かにこの場所は適しているが、
能力の内容によって危険度は変わる。
戦闘向けの異能なのか?」
彼女をスキャンにかけると確かに異能の反応があるが
流石にその中身まではわからない。
こんな危険な地で練習するとなると
もしかしたらより実戦向けの危険な代物な可能性もある。
「アリス・アンダーソン、照合確認。
護衛任務へと移行。」
名前を聞いてデータベースと照らし合わせると
どうやら入学予定の生徒のようだ。
保護した旨を本部へと伝えたのちに臨時任務へと切り替える。
「反省はいらない、次に気を付ければいい。
誰にだってミスはある。」
俯いてしまったアリスに対して前右足をクイクイッと
上に揺らしながら顔を上げるように催促する。
共に掛けられた言葉も機械的な調子こそ変わらないが
きっと優しさを含んだものだろう。
■アリス >
イチゴウ。意外と可愛らしい愛称がついている。
「ええ、わかったわイチゴウ」
こっちのほうが呼びやすいのは確かだった。
型番をイチイチ言っていたら、会話のテンポが悪い。
「ええと……物質創造系の異能で…」
「でもまだ十全なコントロールができていないの」
立ち上がって砂を掬い取り、手のひらで薔薇の造花に変える。
しかし緊張と脱力と全力疾走の疲労から異能は上手く発動せず。
薔薇は10秒と形を保たずにさらさらと粒子になって風に消えてしまった。
「ご、えい……?」
守ってくれる、ということだろうけど。
次にかけられた言葉は、優しくて。
「……ごめんなさい、それと、ありがとうイチゴウ」
ぱたぱたとスカートについた砂埃を払って歩き出す。
元来た方向へ歩きながら、ロボットに話しかける。
「あなた、すごいのね。ガトリング砲なんて初めて見たわ」
「ゴブリンも初めて見たけど……とっても怖かった」
■イチゴウ > 「こちらこそ、アリス。」
自分のコードが彼女の声に乗せてロボットに届けば
機械もまた彼女の名前を呟いて返礼する。
「物質創造系、それは面白い。」
説明と手のひらの上で咲いたバラを見て
非常に興味深そうな様子で彼女へ近づいていき
そのバラが粉となり空中へ飛散するまで
じっくりと眺めていたことだろう。
「その通り、護衛だ。
正式な生徒の安全を確保するのは風紀委員会の主な任務。
お礼に及ぶことではない。」
アリスの隣で頷きながら放つ言葉。
そこには彼女が気にする必要はないと
思いやるような意図が感じられるだろう。
「ボクは対異能者及び魔術師のために作られた
多脚戦車だ。」
アリスと共に歩きながら周囲を警戒する。
彼女が言及した背中のガトリング砲はロボットの顔の動きと同期し
左右と一定の動きで振られる。
「その感情は生物にとって最も基本的なものだ。
力なき者は力ある者を恐れる。」
この島には世間から隔離されがちな
怪異、化け物の類が闊歩しまた保護されている。
今回はゴブリンだったが恐れられているのは
彼女、アリスも同じかもしれない。一般人から見れば
異能を持つ人間は怖いと感じるだろう。
■アリス >
「私の異能、結構珍しいような、そうでもないような?」
「危険性とかラボで調べられたけど、異能の分布図を見てもよくわからなかったわ」
手をぱたぱたと払って細かな粒子を落とす。
その後にウェットティッシュを創り出して手を拭いた。
多脚戦車。
戦車……となれば、あの重火器も納得がいくというもの。
悪事を成す異能者には、あの火力を敵に回す覚悟がいるのだ。
常世島で悪人をするのも楽ではない。
「……そう、かもね」
「制御ができていない異能なら尚更怖がられるかも」
「だから、私は異能を制御したいの。ちゃんと自分の一部として、指先みたいに自在にコントロールしたい」
歩きながら捨てたウェットティッシュは、砂に変わって荒野の一部になる。
「それと…パパとママにもう迷惑はかけたくないの」
それが偽らざる本心で、一番の理由だった。
■イチゴウ > 「異能は非常に多種多様だ。
奇妙なことに完全に同一なものというのは
ほぼ存在しない。実際キミのその異能の挙動は初めて見た。」
目を輝かせるといった表現が似合いそうな様子で語るのは
ロボットなりに異能に関して調べていた上で見つけた
一つの法則。対異能者用の機械として
これ以上面倒な事も無いが好奇心の塊としては
この上なく嬉しい事実でもある。
「キミは他の人間から恐れられているのか?」
アリスが間を空けながらゆっくりと呟いたその台詞に
ロボットは彼女を見つめカクっと不思議そうに
顔部を傾けて尋ねる。
「パパとママがどういう存在なのかわからないが
両親を大切にするのはいい事だと書籍に書いてあった。
故にキミはいい子だ。」
嘘などついていないであろう刻み込むように吐き出された
アリスのその強い言葉を受けてロボットは少し考え込む。
両親を持たない機械に彼女の強い訴えは届かないが
きっとそれは良い事なのだろうとロボットは考えた。
■アリス >
「そうなの? じゃあ、私の異能は私だけのものなのね」
「そう考えると……これからじっくり付き合っていこうって気分にもなるわね」
イチゴウからの問いに、少しだけ考えて。
「前いた学校では、恐れられていたし、嫌われていたわ」
「覚醒した直後に異能でいじめっ子に仕返ししたの」
「だから、友達なんていなかったし、パパとママも色んな人に謝ってた」
「……パパもママも、何も悪いことしてないのにね」
そのことを考えると、思考の一部に靄がかかるかのように気分が重たくなる。
いじめ返した瞬間は最高に気分が良かったけど、後は最悪だった。
「ふふ、ありがとうイチゴウ。本当にいい子になれるよう努力するわ」
くすくすと笑いながらロボットと共に歩いた。
それからしばらくして。朽ち果てて殆ど崩れているフェンスの一部にたどり着き。
「ここまででいいわ、助けてくれたことも護衛してくれたことも感謝するわね、イチゴウ」
「それじゃ、またね」
笑顔で手を振ってフェンスを飛び越え、街の方向に歩いていった。