2018/08/25 のログ
國宏一実 > 「居候...浸食さっさと進めろ。暴走さえしなけりゃそれでいい!!」

『.....分カッタ』

異形が黙る。それと同時に頭が割れそうになる程の痛み、覚えのない様々な記憶が脳内を駆け巡る。
両手両足は液体に覆われ、人間とはかけ離れた、獣のような形状へと変化する。
拳を構えるが、こちらに向かってくるアンデッドの拳が自身の左肩を抉る、かのようにも見える。だが。

「化け物如きがァッ!!甘いんだよ!!」

拳が命中したその瞬間、受け流すように体を反らせば、アンデッドの腕を掴み、その受けた力をそのまま流すように地面に叩きつけ、そのまま頭部を踏みつけ、破壊する。
記憶の技術を頼りに使用する柔術、即興だが十分な練度だと薄っすらと笑みを浮かべる。
頭痛もある程度治まってきた...あとは数さえ減らせばどうにかなると。

國宏一実 > 「一つ一つはどうってことはねェんだ!!片っ端からぶっ潰せば問題ねェ!!」

飛び蹴りでアンデッドを吹き飛ばせば、左腕の爪で接近してきたアンデッドの胴体を引き裂く。
確実に数は減っているはずなのだが、終わりが見えないとはこのことをいうのだろうか。
サマーソルトの要領で敵の体をその鋭い爪で抉り、吹き飛ばす。

「居候...お前もっと派手な能力ねぇのか?」

異形からの返答はない。それ程まで自分をサポートすることに集中しているのだろう。
全くありがたいことだと小さく溜息を吐けば、再び拳を構え、近づいてくるアンデッドを黙々と処理していく。
サメに人間に獣、一体どれだけ種類があるんだと心底うんざりだ、これで生き残れたらしばらくゆっくりしたい気分だ。

國宏一実 > 「はぁ...はぁ...。次ィ.....。」

人間だったことをこれほどまで後悔したのは初めてだ。
体力は既に限界、被弾らしい被弾は一度もしていないのが奇跡だった。
だがその奇跡も終わろうとしていて。

「あ....?まだまだいけんだろクソが...。」

ボタボタ鼻から流れ出る血液、常に送り続けられる膨大な記憶と情報量、浸食の負荷が今になって出てくる。
両手両足に纏う装甲がじわじわと体を覆うこの感覚。異形に思念を飛ばしても反応がない。
・・・あぁ、またか。

「また怒らレちまうナぁ...。」

すっと消える意識、自分の中で何か黒いものが混ざり合う感覚、人間を殺そうとする化け物への憎悪。
生徒を守れなかった自分への憎悪。
それらが混ざり合う頃には、彼の全身は赤黒いゲル状の液体に包まれていた。

『久シぶリだナ、俺等。』

國宏一実 > 気づいたら自分は椅子に座っていた。懐かしい、幼い頃家族と共に来た映画館だ。
今はもう潰れてしまったが、昔ながらの内装で、一部からは人気だった場所。
隣には楕円形のスライムに口のついた見慣れた相棒が椅子の上にちょこんと座っていた。

「あぁ...またか?」
『アァ...マタダ』

目の前のスクリーンには、一人称してんでアンデッドと戦っている誰かの映像。
飲まれてしまった。椅子に座る1人と1匹は大きな溜息を吐き、お互いに見つめ合う。
今度はいつ戻れるのか、なんて思いながら、彼等はそれ以降言葉を交わすことなく、スクリーンに視線を戻した。


『ハはハハはッ!!壊しツくしてやル!!!』

スライムのようなそれを着込むような形で佇んでいた彼は、両腕を刃のような形状へと変化させる。
左右非対称のマスクを付け、前のめりの態勢、体の大きさはゆうに3mはあり、もはや人間とは言えない醜悪な外見だった。

國宏一実 > 「俺等に敗北等存在シなイィィ!!!」

鞭のように振り回される両腕の刃はまるでゴムのように伸び、周囲を切り刻む。
足元にはドロドロと赤黒い液体が流れ出ては、地に伏したアンデッドをまるで飲み込むように包めば、吸収する。
それらを吸収する度に彼の体は僅かに膨張し、わき腹から三本目の腕がメキメキと音を立てて生成される。

『足りナイ!!全然足りナいんダよおおおオオ!!!』

3本の腕は先端が膨れ上がり、裂け、まるで口のような形状へと変化する。
赤黒い巨躯の異形、それは更なる餌を求めて目の前のアンデッドの大群へと向かう。


その姿を映画館で見ていた彼は大きな溜息を吐く。
なんて姿だ、もっと理性をもって戦えないのか。文句しかない。

「おい、中和はまだか?」
『ソウ急カスナ、後少シナンダ。』

國宏一実 > どれだけの時間が経っただろう。異形の腕は近づくものを喰いちぎり、吸収し、体積を増やす。
増えすぎてどうしようもなくなった赤黒いそれは分離し、新たな分身を生み出す。
星さえ食らいつくすと呼ばれた異世界のそれ等にとってここは最高の餌場だった。

『なァ俺等、次ハどうすル?』
『海にイこう』
『いや、山で獣ヲ喰いつクそう』
『街ダ。あソこなラ人間ガいる。』

アンデッドを食い尽くし、十数体にも増殖した異形は口々に意見を飛ばす。
そんなとき、彼等の体は蒸気を吹き出し、急速に萎んでいく。
1体、また1体と消えていき、最後に残ったのは本体である彼だけだった。

『ああアああア?ナンデ邪魔をするンダ?お前等ノ望みヲ叶えてヤろうとしてルノニぃぃィぃ!?』



同じ頃、スクリーンの明かりだけが頼りだった映画館の後ろから光が差し込む。
やっと帰れる。そんな思いで席を立ちあがり、隣に座っていた異形を小脇に抱える。

「さてと...帰るか。足になってくれるよな?」
『アァ、ユックリ休メ。』

そういって彼等は映画館を後にする。
部屋を出たその瞬間、異形の体に付着していた装甲はドロドロと溶け落ち、中からぼとりと彼が姿を現した。

國宏一実 > 「あー....やっぱ動かねぇわ......。」
『休ンデオケト言ッタダロウ。』

うつ伏せの状態ではぁと溜息を吐けば、赤黒い液体が彼を運ぶ。
全身筋肉痛の上位互換のような痛みが付きまとい、口からは赤黒い血液を吐き出す。
またあの連中に文句を言われる等と考えながら大人しく運ばれる。

『コノママイクト本当ニオ前は...。』

異形が声をかけるが、返答はない。既に彼は意識を失い、スースーと寝息を立てていた。
当然といえば当然かと口を閉ざせば、そのまま彼等は帰路につくのだった。

ご案内:「転移荒野」から國宏一実さんが去りました。