2015/09/26 のログ
ルフス・ドラコ > 「…それは、恩人という言葉が嫌いなんですか。」
歩く速度は酷く緩やかで、"儀式"が進むのが眼に入っていないかのようだった。
「それとも、他人と関係性を持つことが嫌いですか。
……とりわけ、一番大事なものを失ったまま、他の誰かと関係を結ぶことが。」
握る拳は一度に一つだけ。それも間隔を開けながら。
洲崎が血を流しながら笑うのに応えて、ルフスも笑みを顔に貼り付けた。

歩く足から、また炎が上がる。
だが、その火は未だ何を燃やすでもなく。
境内を徐々に紅く塗りつぶして、静かに広がっていく。
たとえ歩みが遅くとも、それは何時かは辿り着く。
たとえ静かな侵食であっても、いずれ境内を埋め尽くし、祭壇さえも塗りつぶす。

近づく気配に注意を払うこと無く。
炎の園をゆっくりと、終わりが近づいてくる。

洲崎 > 「…どうだろうね?でも、君には関係ないよ♪
関係ない…そう、この島で関係あるのなんて僕とメアちゃんだけだ…」

拳を止めるのも限界が近づいてきた
脳がもたない…脆弱な体が嫌になる
最後の最後まで、自分は弱いまま……だから、使えるものはすべて使う

「メェェェェェ!!」

可愛らしい山羊の声が聞こえる
地面を踏み荒らしこちらに近付く子山羊の群れ
それはまるで蕪の様で葉の代わりにのたうつ触手、根の部分は肉塊
いくつもの口は粘液をだらだらと垂らしそしその下には黒い蹄を生やした山羊のような足が5本ほど
醜悪で可愛らしい無邪気な子供達が一直線にルフスへ駆けていく

ルフス・ドラコ > 「無関係であることに異論はないですね」
拳が風を切る音、とは決して聞こえないだろう轟音が止んだ。
手を体の前に組んで、普段のように、かつてのように、
従者じみた姿で立ち止まる。

「……ただ、無関係なものが酷く似ていたから気になっただけです。
あるいは私もそうしていたのだろうか、と」
洲崎との距離は、既に一歩踏み込めばルフス自身の拳が当たるほどに近い。

だが、その一歩を阻む為に横合いから駆け寄る、奇妙で気味の悪い生物の集団。
声だけは現世の生き物そのもので。
ああ、酷く似た生き物はここにもいたのか、と。
溜息をつく代わりに、
「火よ――」
ルフスの背後で、境内をほぼ掌握し終えていた炎の群れが。
「服せ」
馳走に飛びかかるようにして押し寄せる。

賢い子ヤギたちは勇気を持って炎の中へと飛び込めるだろうか。
……そうして、炎の中心で、ルフス自身という最も強い炎によって焼かれることが出来るだろうか。

洲崎 > 「酷く似ていた、か…それは光栄だ……」

自嘲気味に笑う
絶対の災厄
邪神の愛する子が悉く炎に焼かれていく
無邪気なのか無知なのか、己の体が焼かれても母のお願い故
ルフスに突貫し、また焼かれる…
肉を焼いたような香りが辺りに広がり異臭が漂う
もう転移もまともにできない
ただ目の前のルフスを見つめる

「はぁ…もうちょっと生きて、リーネに会いたかった……」

プツリと糸が切れた人形の様に倒れる
最後の抵抗か、ルフス自身を鳥居のところまで下がらせる
脳を無茶苦茶に動かし絞り出した一矢
最後の抵抗

ルフス・ドラコ > 「炎よ――」
倒れる洲崎の胸ぐらに、無造作に手を伸ばした。
「界を、覆せ」
炎さえも焼いて、空間さえも焼いて、異臭が消え、熱が消え、
転移を焼き切って、止める。
元通りの漆黒の闇が、境内を満たした。
ルフスは掴んだ腕がぶるぶると震えるのを止められもせずに、紅い瞳で洲崎の瞳を覗き込む。

分をわきまえない力は同じこと。
赤龍の侵食が深まる中で、
"界覆の火"がこの男を焼かないように押さえ込めたのは奇跡の所業と言わざるをえないし、
そんな素振りを見せずに居たのは、赤龍の力を顕現するなんて人生で最大の無茶がこれで五回目だからだ。

「私は。」
吐息に炎が交じるのを抑えるように。
努めて息を短く吐きながら、赤龍は人間の言葉を舌先に載せた。
「……私は、幕を引くことにしました。その人の不在を、きちんと終わらせるために」
震える腕が更に強く洲崎を近づける。
「あなたが、もう一度、誰かを取り戻して、自分で幕を開けようとするのなら。」
「お願いだから、この世界から目を背けないでください。
……死なないで、ください。
幕引きの後も私が生きていてもいいと、無関係な貴方の生き方で、証明してください」

洲崎 > 「………」

脳へのダメージが大きすぎるのか答えは返らない
もはや指先一つ動かない
言葉も発せず動かず
ただただ人の身で抗った結果…
強力な異能もなく
魔術の才に優れていたわけでもない
それでもここまで抗った
そしてそれは……実る

「メ゛ェ゛ェ゛ェ゛……」

大地を震わすような重低音
地獄の窯のそのさらに奥から漏れ出た異音
背後の祭壇で黒い山羊が鳴いた

ルフス・ドラコ > 「……死なないで、ください」
それだけ繰り返して、ゆっくりと洲崎を境内の地面へと横たえる。

境内は再び夜気に満たされ、とっくのとうに異界へと傾いて滑り落ちていっている。
もはや青垣山との接点が残っているかわからない。

その中で、最も異界への傾斜のきつい場所で。
"捧げられた"祭壇で、何かが終わろうとしていた。

黒と黒と黒で塗りつぶされた闇の中では、
ルフスの瞳でさえそちらに向けられているのかわからない。

洲崎 > 暗いくらい闇は晴れ、それはルフスを見つめる
目があるわけでもないのにはっきりとした視線を感じる
自分の子供を焼いた者、その悲鳴はまだ耳に残っている
だが母として神としてそれはルフスに害を為すことはない
これ以上の闘争は無意味
呼びかけに答え全ては終わった
そしてもう一つ気になるとすれば横たわるあの男…
放っておけばすぐにでも死ぬ
むしろ今死んでいない方が奇跡に近い

ルフス・ドラコ > 紅い瞳は伏せられて、辺りはただ黒く塗りつぶされたように夜が広がっている。

ひどく静かで、ルフスが動き出すまでの間にはひどく時間がかかったようでさえ有った。
ブーツが境内を踏むと、祭壇に向けて一歩近づく。
「その子」
もう一歩。それと同時に、瞳が開く。
紅色がもう一度境内で主張を始めた。
「……私が探している子かもしれません」
たとえ何処でさらわれた少女だとしても、ルフスには彼女を連れて行く義務があるのだが。
あの、開拓村の少女だったとしたら。
その場合は、取るべき対応が少しだけ異なる。

その球体を模した何らかの存在に言葉が通じる、とはルフスも思っては居ない。
まず第一に翻訳魔術が通じる相手かどうかもわからないし、
ただただ彼岸のはるか先の存在として、ほとんど無関係の存在として捉えているだけだ。

そのために、ルフスが『その視線が洲崎を見ている』ことを感じ取るのは、
少女を確認してから後となる。

洲崎 > 母は答えずただ闇が晴れていく
明確な主張
この少女を連れていく、ただその意思だけで母はルフスから、この島から離れていく
分厚い壁の様に折り重なった雲の向こう
何も見えないその先へユラユラと帰っていく
少女はルフスの考え通り開拓村でさらわれた少女だった
外傷はなく健康状態に問題も見受けられない

「……リー…ネ……リーネ…」

呻くような声が漏れる
物言わぬ肉塊となっていた洲崎が息を吹き返す…まるで神の奇跡の如く
脳への損傷がほんの少し回復されていた

「何で……なん、で……」

自分が言葉を話せる理由
少女に変化が見受けられない理由
その全てが理解できないまま、意識が離れる

ルフス・ドラコ > 「……火よ、服せ」
小さな小さな炎が、周囲を照らす。
明かりに誘われて虫が集う。
夜の空にむけて開けた、山の中腹の廃神社。遠方には学生地区の町並み。
……そこは間違いなく、青垣山だった。

血液の乾いた祭壇の上で眠る少女は、確かに探していた通りの相手で。
眉をしかめて、火を消すと少女の臍下辺りに手を置いた。
別にこういうことが得意なわけでもないが、触れれば体調の判断くらいはつく。
「……この子自体は無事、なんでしょうか」
少しだけ表情を緩めるものの、
背後で息を吹き返した洲崎を見れば、薄い表情は今度は困惑の様相を呈するだろう。


少なくとも、儀式はたしかに終わっていた。
だというのに、どうしてここには新たな生命が一つも…

一つも?

「……算数で言えば、確かに数は合いますけれど」
つまり、りいねという女性の分の命が一つ。
この場所には、確かに存在している、と。

そんな仮説を脳裏にとどめながら、スカートの下、太ももに括っていた信号銃を空に向けて撃ち上げた。
やがて優秀なトラッカーの先輩がもう一働きしにやってくるだろう。
少女か洲崎のどちらかが抱えて降りられない状態になることは想定済みだった。

作戦終了を告げる、青色の信号弾を焦げ茶色の瞳が見上げていた。

洲崎 > その後の展開は順調に進んだ
風紀委員による洲崎の拘束
仮面の男事件の終焉

暴走した科学者の人体実験
危険な宗教によるミサ
謎の組織による陰謀
様々な憶測を撒きながらも事態は収束し白い仮面の男は消えた
その後の洲崎の処遇はどうなるか…今はまだ誰も知らない

ご案内:「廃神社」から洲崎さんが去りました。
ルフス・ドラコ > 「ひとまずは都合が良い結果となりましたし、報告書には……」
右手を握って、開く。
ペンくらいは握れるだろう。…モノのたとえであって手書きは御免なのだけれども。
「企ては未然に防いだ、とでもしておきましょうか」

……本当なら、誰かが。
こんなことを始める前に、誰かが、止めてやるべきだったのだから。

ご案内:「廃神社」からルフス・ドラコさんが去りました。