2016/05/04 のログ
ご案内:「青垣山」に士尺 流雲齋さんが現れました。
士尺 流雲齋 > 緑が生い茂った、山の一角。
ぽっかりと空いた場所に、空の彼方から、一筋の黒雲が尾を引いて流れてくる。
やがて空き地の真上まで来ると、黒い雲はゆっくりと降下し、地面から50cmほどの高さになったところで、
小柄な一人の老人が軽やかに降り立った。

「さてさて、思ったより時間がかかってしもうたわい。
余計なものが出てこぬうちに、ささっと済ませるとするかの」

杖を雲に向かって掲げると、黒雲はあっという間に霧となり、宙に消える。
それが終われば、老人は手拭いを顔に巻いてほっかむりにし、懐からガサガサとビニール袋を取り出した。

士尺 流雲齋 > 袋を腰につけ、軍手をつけた両手は時折小刀や鋏で前方をかき分けながら。

「はて、確かこの辺りに……おお、ここじゃここじゃ」

きょろきょろと辺りを見回し、やがてこんもりとした笹原にたどり着く。
その中でも傷や汚れのない、比較的綺麗な笹の葉を見つけては、尖った先で腕を切らないよう、慎重に摘んでいく。

士尺 流雲齋 > この老人、毎年この時期に、山に入って笹をとりに来る。
例年であればもう少し、早めに来るはずであったが、急な気温の変化に追われ、なかなか手が回らなかったのである。
やがて、両手にわさわさと笹の束を抱えて出てくれば、それらをまとめてビニールに突っ込んだ。

「……ふうむ。
ちと、多かったかの? まあ、足りないよりはよいかの」

袋一杯に詰まった笹が零れないよう、しっかり口を縛っておく。
パンパンに膨れたビニール袋を脇に置いて、懐から、別の袋を取り出した。

「さて、柏の木……は、どこじゃったろうな?」

ぐるりと見渡してみるが、それらしき影は見当たらない。

士尺 流雲齋 > 「む、むむ……」

記憶を頼りに、周囲を探す。
やがて、柏の木“だったもの”を見つけ、思わず唸り声が漏れた。
落雷にでもあったのだろうか、その幹は二つか三つに裂けてしまっている。

「こんなところで落雷かの。いや……
なんぞ、ここらで暴れよったかのう」

落ち着いて周囲を調べれば、辺りの草木が高さもバラバラ、不自然に焦げて黒くなっている。
勿論葉っぱはすべて台無しだ。地に落ちて虫が這い、土の養分と化すのだろう。

「大きい、良い葉がとれる木じゃったんじゃがの。
仕方がない。今年はあきらめて、商店街で柏葉を買おうかの」

士尺 流雲齋 > 「あとは、餅をこさえて、餡を練って。
……今年も、余ったら他の先生方に持ってゆくかの」

さっきの空き地に戻ってくると、笹が入った袋をひょいと持ち上げ、肩に担ぐ。
空いた手で杖を手に取り、地面をとんとんと叩けば、あっという間に暗闇が集い、雲の形になる。
年寄とは思えぬ身軽さで飛び乗れば、老人を乗せた黒雲は、あれよあれよと高度を上げ、やがて街をめざして飛んでいった。

ご案内:「青垣山」から士尺 流雲齋さんが去りました。