2016/08/14 のログ
ご案内:「青垣山」に加賀智 成臣さんが現れました。
■加賀智 成臣 > 「………細いかな。」
青垣山の木をぺたぺたと触りながら、何かを打診している。
正確には、木の枝。
「あれじゃ折れちゃうだろうし、位置が高いな……
吊るにはダメか。」
不吉。とても不吉だ。
ご案内:「青垣山」に癒斗さんが現れました。
■癒斗 > 海へ行こうか迷っていたら、山の方まで来てました。
そういえばこっちに来たのはいつぶりだっけと、木々を見渡す。
木を触ってる人は視界の隅にとらえているけれども、
まあ、この島には色んな研究をしてる人がいる。あまり気にする事は無いだろう。
「あ、ちょうちょ」
黒アゲハ。畑の外で眺める分には、オシャレな存在だ。
■加賀智 成臣 > 「あ、この枝とか良さそう……」
見つけたのは、しっかりとした枝。これなら体重をきちんと支えてくれるだろう。
鞄からロープを取り出した。……見てるだけで嫌な予感がする。
「………。」
頭に黒揚羽が止まった。
振り落とすこともせず、揚羽がくっついたその状態で止まっている。
■癒斗 > 黒アゲハが木を触りまくってた人の頭にいるのをみて、微笑ましそうに笑う。
色がそのままカモフラージュされてるじゃないですか。
ちょっとでも眼を離したら、髪の毛に同化しちゃってロープが
ロープが。
「……………えっ、ロープ?」
随分前のこと。
屋上で溜め息をついていた人を自殺志願者と間違えたという、恥ずかしい記憶が頭をよぎる。
いちおう、いちおう見守っておきましょう。まだ分からないです。
もしかしたら、ロープを使って木登りをする人かもしれない。
■加賀智 成臣 > 「………。」
揚羽がパタパタ飛んで行くと、のそのそと活動再開。
ロープを枝に引っ掛けて、結んで輪っかを作る。
まだもしかしたらロープでブランコをするつもりの人かもしれない。
「よいしょ。」
木によじ登って、ロープに手をかける。
そして、ロープを首へ。……確定。
■癒斗 > あれはダメです。疑心暗鬼を起こしている私でも分かります。
別の世界に飛ぼうとしている人でした。
「まっ、だ、ダメェェーーーー!!!」
思い切り声をあげて駆けだすと、それを止めようと背中へタックル。
■加賀智 成臣 > 「え?あっ。」
バランスを崩す。そして、そのまま首がロープの穴にナイスイン。
おまけに体が木から離れて、予定どおり首吊りでぷらんぷらんする形に。
「……………。」
だらりと腕と足が脱力し、少しビクビクと痙攣した後、動かなくなった。
体から血の気が引いていく。
■癒斗 > 嫌な音が聞こえた気がした。
おそるおそる見上げてみると、生気のないその首回りが見えた。
「…………」
抱き付いたまま、頭の中が真っ白になる。
が、よたよたと後ろに下がり、その姿を見上げた。
「…死ん、じゃ、った………?」
■加賀智 成臣 > 「 」
息遣いも、声も聞こえない。
癒斗のタックルの勢いが伝わって、振り子のようにぶらぶらと揺れるのみ。
その指も、時折ぴくぴくと痙攣していたが、癒斗がそれを見ているうちに動かなくなった。
顔は、生気がまるでない。
人が本能的に恐怖する、死の貼り付いた顔だ。
■癒斗 > ああ、どうしよう。どうしたら、人が、私は止めようとしただけで、私が。
うまくタックル出来たら後ろに引っ張ろうって、こんなとこで死んじゃダメって、
思ってた、考えただけなのに、神様、かみさま、どうしたら。
「お、う、冗談ですよね?そんな顔………どこかで見たことある、ような……」
割と身近にいた人な気がするのだけど、パニックでそれどころではない。
前に人を突き落してしまった時とは違う、手ごたえがあったのだ。
とりあえず降ろして、呼吸の確認、それから、そうだ、心臓の音を聞いてみよう。
■加賀智 成臣 > 「 」
呼吸もない。心臓も止まっている。脈ももちろんない。
命という命が、既に途絶えている。
『人を殺した』という事実が、そしてその事実の重さが、皮膚の冷たさを通して伝わる。
どうにも、神は残酷なようだ。
■癒斗 > 改めて【人を殺めてしまった】という事に衝撃を受ける。
人を呼ぶことすら頭からすっぽ抜け、辺りをきょろきょろと忙しなく見わたす。
どうしよう、どうしよう。私は何て事を、なにをしたら、どうしたら。
パニックを起こした生物がどう行動を起こすか、というのは予測できない。
結果、癒斗はこの青年を土に埋める事にした。
眼の奥をぐるぐるさせながら詠唱を続け、地面を掘り終わる。
ごめんなさいを連呼し、そこへ青年を落す。横に盛っていた土を両手でばさばさと落す。
■加賀智 成臣 > 妙に温かい土が掘り返され、その中に浸り、また埋まる。
死んでしまった青年にかける謝罪の言葉も、耳には届いていない。
本来なら、人を呼びに行ったりするのが基本だろうが……
「 」
追いつめられたネズミがネコに飛びかかるように、生物というのはそういうものだ。
ここで癒斗を責めるのは酷というものだろう。
土に埋まった指が、癒斗の視界の外に消えた指が、ピクリと動く。
■癒斗 > 「うう゛、ごめ、ごめんなさい、うう、うっ、うぅぅ……」
盛り終えた土を軽く馴らし、大き目の石を置く。
墓石というよりは、獣などに掘り返されないようにというのに近いのだろう。
汚れた手で目元をぬぐい、ふらふらと立ち上がる。
ふと、ロープをそのままにしていいのか?という疑問が脳みそを叩く。
一緒に埋めるべきでは無かったのか。
■加賀智 成臣 > 「………。ん?」
目が覚めた。辺りは真っ暗だ。今回は蘇生に時間がかかったのだろうか。
どちらにせよ、ここがあの世でない限りは、また死ねなかったのだろう。
「……………。」
土の香りがする。呼吸が苦しい。
というか、口の中に土が大量に入ってくる。不味い。
これは間違いなく、土に埋められている。
「(親切な方が埋めてくださったのかな。良い人だなぁ…
でも僕が蘇ったら、せっかくのご厚意が無駄になってしまうなぁ…申し訳無いな……)」
どこまでもネガティブ。
■癒斗 > ロープを取るのに時間がかかったのは、魔法や魔術を使うでなく、
自力で無理やり取ろうとしていたからだろう。
枝にロープのこすれた痕が残っているわ、枝の下でジャンプしまくった痕がある。
証拠隠滅という点を鑑みてもボロボロだ。
「…お花くらいはそえ……いや、ロープどうしよう…」
その場でのろのろと思考している。
■加賀智 成臣 > 「………。」
どちらにせよ、このままではどうにもならない。
埋めてくださった方には申し訳ないが、一旦外に出ることにしよう。
そう思い、動きにくい体をなんとか動かして土をちょっとずつ掘り始める。
癒斗のことには一切気付いていない。
■癒斗 > ロープをぐるぐると巻き、青年を埋めたすぐ横を軽く掘る。
軽く埋めるだけで、ロープの端が土から顔を出していた。
「ああー…………まさか異界でこんな……」
またきょろきょろと周りを見て、他の人がいない事を確認した。
青年が蘇っている事など感知できるわけもなく、思考はまとまりを得ず、まばらに。
足を引きずるようにしてその場から離れ始めた。
■加賀智 成臣 > 「………。」
ちらっと、光が見えてすぐに消えた。
どうやら、浅く誰かが土を掘り返したようだ。
もしかしたら、自分を埋めてくれた人かもしれない。きちんとお礼を言わなければ。
「……………。ふん。」
癒斗の背後で、ぼこんっ、と音がした。
振り返れば、そこには。
「……誰か、いらっしゃいますか……?」
低い声を垂れ流す右手が、這いずるように周囲の地面を探っている姿が見える。
ホラーどころの騒ぎではない。
■癒斗 > 「…???」
何か聞こえた気がする。
音と、声と。何の音だろう、というのは考えたくなかった。
ただそこに誰か、そう、誰かがいたのなら、青年と自分以外の誰かがいたのなら――
そう思い、腹の底から冷えるような【バレる恐怖】を抱え、振り返る。
手。
手だ。
手が、動いている。
「ひっ?!!」
■加賀智 成臣 > 「あの~、申し訳ありません……」
べた、べた、じゃりじゃり、と周囲の様子を探るように手を動かす。
本人は真面目なのだが、傍から見ると恐ろしいなどというものじゃない。
気が弱ければ卒倒しそうだ。
「………あ、すいません。怖がらせましたか……?
……っ。ぬっ。……抜けないので手伝ってもらえませんか。」
そう言う間にも、土の中からいろいろ出て見えてる。
具体的には、死にきった光のない金の目とか。
■癒斗 > 生きてる。生きてた。生きていた?
「ひぴっ、生、ふっ、ふきゃーーーーー?!!!」
心臓は止まってたのに、呼吸も止まっていたのに。
腰を抜かした癒斗は、叫びながらその場にへたりこむ。
近づく事も逃げる事も出来ず、その眼をとらえて離さないのは、
柔かい土をぼこぼこと盛り上がらせながら戻って来る青年。
「ご、ごめっ、ごめんなさい!ごめんなさ……っっ」
ホラーである。立派なホラーである。
映画を見たってここまで感情を揺さぶられないだろう。
金色をした眼と視線があえばもう、何故気絶出来ないものかと意識を呪う。
■加賀智 成臣 > 「……ああ、申し訳ありません……怖がらせてしまって……
せっかく埋めていただいたのに、ご厚意を無駄にしてしまって……」
何故か、殺されて埋められた本人が感謝したり謝ったりしながら、柔らかい地面を掘り抜いて戻ってくる。
まるでゾンビ映画で墓から蘇る半死人。
ぼさぼさの長い黒髪とそれに付着した土が不気味さを引き立てる。
「………よい、しょ。」
ぼこぼこ、ぼこん、と起き上がり、いよいよ上半身全てが抜けた。
しかし下半身がまだ埋まっており、出るのに苦戦している。
黒い髪。高い背。金色の目。
何もかもが不気味にしか見えない。
■癒斗 > 何か言ってる気がする。言われている気がする。
冷静に耳を傾けた方が良いのかもしれないけれど、もごもごとした声で聞き取りにくい。
自分がパニックを起こしているのが一番良くないのだろうが、それでも。
なんで何も無かったように地面から出て来てるんですか。
もうあと体半分だけじゃないですか。
申し訳ないって、こちらのが申し訳なさすぎるんですが。
震えながら青年の動きを眺める。
どうにかして立ちあがりたいのに、下半身に力が入りきらない。
「あの、あの………………出来れば、痛くしないでお願いします……!!」
殺されても仕方がないとはいえ。
■加賀智 成臣 > 「………あぁ……すみません……」
謝りながらずるずると体を引き抜く。下半身も多少出てきた。
「……あっ。……すみません、手伝って……
いえ、痛くはしないので……大丈夫です……」
手を伸ばして、手伝って欲しい旨を伝える。
どうやら、土の中で靴が脱げてしまったようだ。踏ん張るにも中途半端な靴が邪魔だ。
「……あ、でも嫌ならいいんです…遠慮しますから……
大丈夫です、自力で出れますし…頑張れば……時間はかかりますけど……
あっ ズボンが…裾が切れた……」
もごもご。
■癒斗 > 癒斗は涙をつたつたと流していたが、青年の言葉がようやく耳に届いた。
ますます訳が分からない。こちらを恨んでいてもおかしくない気がするのに。
う゛ぅっと小さく唸り、地面を這う様にしながら青年のもがく穴まで向かう。
おもむろに青年の腕を両手で抱えるようにして、
「む、む゛んうぅぅぅ゛!」
思い切り引っ張り始めた。もう、野となれ山となれだ。
■加賀智 成臣 > 「……………。」
ぼここっ、と下半身が引っこ抜けた。そのままずるずる引っこ抜けて、直立したまま地面に転がる。
薄汚い。土が黒い服に付きまくってとても薄汚い。
「…ありがとうございます。助かりました。
……あ、眼鏡と靴……」
癖で眼鏡を直そうとして、スカッと空を切った。
どうやら、土の中に取り残されてしまったようだ。掘り返す体力もない。
靴も脱げて、靴下だけになってしまった。
■癒斗 > 後ろに尻もちをつきかけながら、青年を抜き終わる。
ぜはぜはと肩で息をしているところに、お礼が響いた。
お礼を言われるようなことを一つもしていないはずなのに、この人は何を言っているんだろう。
「なんにも、何にもお礼を言われるようなことなんかして……」
指を土に向け、へとへとに弱った声で詠唱する。
眼鏡と靴が土からずるずると生えるように出てきた。青年と同じように、土まみれだろう。
「ない………です……」
■加賀智 成臣 > 「……あ!眼鏡……ありがとうございます、買い換えることになるかと思いました……
何かお礼を……」
なにかおかしい。
どう考えても、何かの価値観がズレている。死が、何も勘定に入っていない。
「あ、えーと……貴方が埋めてくださったんでしょう?
その、死なない身としては…きちんと埋葬して頂けるのはいいことですし……」
土まみれのメガネを付けて、土まみれの靴を履く。
とてもみすぼらしい。ズボンの裾も石で切れてボロボロだ。
……だが、首のロープの跡は消えていた。
■癒斗 > 「………埋めたって、いうか。私が、こ……殺しました。
タックルした拍子に、あ、あなたを、引っ張ることになって………」
もっとちゃんと拭いてから靴ぐらい履けばよいのに。
さっきまで脅えていた気持ちがずるずると流れていってしまいそうになる。
恐怖はともかく、この人を殺めてしまったというのは流してはいけない…はずだ。
「いいことじゃないです、なにも!アナタを殺したことを、無かったことにしようとして…
ああもう、ハンカチ、つかってください!」
何故こんなにポジティブな返答をされているのだろうか、自分は。
青年にハンカチを押し付けながら、蘇生とは別の混乱が癒斗の頭を漂う。
■加賀智 成臣 > 「ああ、直前に違和感があったと思ったらそういうことでしたか……
ああいえ、気にしないでください。最初から死ぬつもりでしたし……死ねませんでしたけど。」
殺めてしまった事実を押し流すように、高い身長を猫背に丸めて頭を掻く。
ぱらぱらと土が落ちた。
「……ああ、良いんです。タンスの角に指をぶつけたくらいに思ってください。
忘れて下さって結構ですよ。僕に負い目なんか感じる必要はありませんから……」
ハンカチを押し付けられてぐいぐい。
相変わらずネガティブで、癒斗と目を合わせようとしない。土で汚れたレンズの向こう側の金の目が逸れている。
■癒斗 > 気にしないというのは、流石に無理な話だった。
「こっ、こんな強烈なタンスはありませんよ!!
だめです、せめてちゃんと顔くらい綺麗に拭いてください!
聞き捨てならない理由も聞こえましたけど、今はちゃんと拭いてください!!」
ハンカチを押し付けた瞬間に、ハンカチから手を離す。
死ぬつもりで死んで(殺されて)、死ねなかったというのもいうのもおかしな話だ。
ただ、それ以上にこの青年の価値観のがおかしい気がした。
「………………死ぬって、なんで死のうとおもったんですか……」
■加賀智 成臣 > 「あ、はい……」
押し付けられるがままに顔を拭く。ハンカチが汚れる。
ちょっと顔が汚れたから拭く、程度の態度だ。…先ほど死にかけた……
否、死んでいたとは思えないほど、日常的だ。
「……死にたいからですが。」
当然だろう、という声。
「早く死にたいんですよ、僕。……あ、すいません。変なこと言って。
聞きたくないなら切り上げます……」
面倒くさい男。
■癒斗 > 「早く死にたいの理由は、わかんないですけど……。
この島での生活って、意外と他人と関わってて…あなたが死ぬことで困る人も、いるとおもうんです、けど……も……」
見上げて、どう声をかけたらよいのか分からない気持ちになった。
切り上げますという言葉には、小さく眉をつりあげた。
もうここまで聞いたので、続けて。といった顔で。
■加賀智 成臣 > 「……………………。
いえ、居ないですね多分。」
はっきりきっぱり。死んで困る人など居ないのだ。
親も居ないし、友達も居ない。
ああ、でもクラスの人は虐める相手が居なくなって困るかもしれない。
「……僕、死ねないんです。いくら死んでも、いくら死んでも。
何をやっても、死ねた試しがないんです。」
■癒斗 > 「……それは……」
冗談でしょう?という顔をする。
が、青年の声色を聞くにそれは嘘では無いのだろう。
現に生きてる。殺してしまったはずなのに。
それにしてもこの人、どこで見たのか。こんなに大きかったら覚えてるはずなのだが。
「………たいへん、ですよね。私には想像のつかない世界です、けど」
視線をそらす青年に対し、癒斗は相手の顔をじっと見ている。
■加賀智 成臣 > 「……本当ですよ。あ、何でしたらここで……」
シャーペンを取り出す。次に何をやるかわかりやすい。
体には、もう異常はないようだ。首に付いたロープの跡の痣も既に跡形も無い。
「……ええ、まあ。だから何とかしたいと思って、死に方の模索をしてるんですが……
あ、いえ。想像しなくて良いんですよこんな世界。」
卑屈な目をどんどん曇らせ濁らせて、申し訳無さそうな顔をする。
■癒斗 > 「いいです、やらなくて、いいです!
何となく分かりますから!私ますますだいじょうばなくなります!!」
そこでようやく、青年の首にあるはずのロープ痕が無い事に、ほんの一瞬だが眼を大きくした。
「………と、とにかく、身体を引っ張って埋めてしまって、ごめんなさい。
あなたがよくても、貴方の服や体は汚れちゃったわけなんですから」
汚れたハンカチを受け取ろうと、手を差し出す。
■加賀智 成臣 > 「あ、そうですか……すいません。」
シャーペンをしまう。そこは素直だった。
目を丸くされれば、気付いたように自分の首を撫でる。
「……いえ、良いんです良いんです。大丈夫です。気にしてませんから。
あ、すいませんハンカチ。洗って返しますよ…?」
申し訳無さそうに背を丸める。体が小さく見える。
■癒斗 > 「いいんです、気にしなくって。
私が使うようにと押しつけたんですから、ね?」
隠すことでも無い気はするが、男子寮にいますとは言いにくい。
癒斗は小さく太ももをもじりと動かし、両手を差し出してハンカチを受け取ろうとする。
何か気にするようにしながら視線を動かし、ああ、と声を。
「……穴、埋めておかないと」
■加賀智 成臣 > 「……手伝いますよ、穴埋め。」
すっとハンカチを差し出して、とんとんと靴を直す。
黒い靴から、白く乾いた土がパラパラと落ちた。
太ももの動きに特に気付くことなく、のそのそ穴のそばに移動する。
「……どうしましょうか。」
流石に素手では埋められない。
役に立たなかった。どうしたものだろうか。
■癒斗 > 「…ま、魔術で掘ったので、魔術で埋めるのが一番かなって…」
さっきまでこの穴にいたんですよね。この人。
ちょっとだけ下がっててくださいと声をかけ、人差し指をタクトのように振る。
小さく詠唱すると風が土を運び、わずかにぶどうの匂いを残して穴を埋めた。
掘った位置は土の色が違うので、見る人が見れば分かってしまうだろう。
「…そういえば、お名前、なんていうんですか」
手をはたきながら、ちらりと見上げて。
■加賀智 成臣 > 「……ああ、魔術で掘ったんですね。
羨ましいなぁ。僕、魔術の才は無いみたいで。……勉強もできないし運動もできないし、魔術も使えないし……」
どんどんネガティブになっていく面倒くさい男。
埋め立てられる土を見て感心しつつ、質問に答えた。
「……加賀智、です。……加賀智 成臣です。
忘れてくださっても構いませんよ。」
少し嫌そうな声色に聞こえた。
■癒斗 > 「私も練習をしてこの程度なら、までになったとこですから…。
加賀智さん、加賀智さんも何かの形で見つかるはずですよ」
困ったように微笑んで、ロープを片手に。
とりあえずこれを回収して置けば大丈夫だろう、という気持ちで。
「私は夜久原 癒斗と申します。
図書委員会にいますので、本の関係があればまた会うかもしれませんね」
相手も同じ所属とはつゆしらず、そう言うのであった。
■加賀智 成臣 > 「……羨ましいですね、努力できるの……
何やっても物にならないので、とっくに諦めちゃって。」
そういえば、ロープを回収するのを忘れていたが……埋まっていたか。
失念していたとはいえ、そんなところまできちんと対応してくれるのは嬉しい。
「……あ、図書委員。
………ああ、どこかで見たと思ったら。僕も図書委員です。」
そう言えば見たことがあるような気がする。
集会でだったかな?
■癒斗 > 「……………あっ、加賀智さんも」
そうだ、だから既視感があったのだ。
いつかの集会で、頭一つ抜けた身長の人がいるなあと思ったのだ。
姿はなんとなく見れていたものの、ずっと後ろの方にいて全身は確認できなかった。
相手をちゃんと覚えていなかったということに、少し恥ずかしげな眼の反らし方をする。
小さく頬をかいて、ロープを握り直す。
「…街の方まで、戻りますかね」
■加賀智 成臣 > 「すみません、見覚えはあったのですが……忘れてしまって申し訳ない。」
ぺこりと申し訳無さそうに頭を下げる。
すれ違った時の葡萄の香りを、ふと思い出した。
「……そうしましょうか。
あ、そのついでに何かお茶でも……」
お礼は言っておきたい。そのためのお茶の席の用意をしたかった。
そう考え、町の方へ歩き始める。
「あ、ロープ……ロープ持ちますよ?」