2016/07/28 のログ
ご案内:「列車内」に尋輪海月さんが現れました。
尋輪海月 > 「――……」

学校からの帰り道。定期券を使って、乗り慣れた列車。
鞄を膝の上において、がらんとした列車内を見渡しながら、窓の外を通り過ぎていく線の灯りに照らされる。

髪を弄る。今日は奨学金の納入に関しての説明があったので、夏休み中でもこの格好となったが、結構暑かった。
まぁ夏冬共用制服なせいだけれども。
そのせいか、列車内の涼しい冷房を浴びていると、兎も角、
疲れやら、難しい内容を必死にメモを取るのやらで疲れた頭を、
じんわりと睡魔が襲っていた。
列車内は、この路線では大きな駅を通ることもないので、
殆ど人もいない。というか、自分一人だった。最後尾車両でも、こんなに静かだと、ちょっと不安になってしまう。

尋輪海月 > 「……ふ、っわぁ……」
大きな欠伸が出た。片手で口を覆いながら、涙が滲む眼をこする。
ぽろっ、と。

「っ、あ、いっけな……ッ」
コンタクトレンズが外れそうになったのを取って、片目を覆う。
……窓側に顔を寄せ、手をどける。
深紅の瞳が、窓に映って薄れながら尚、鏡面から自分を見据える。
この眼のせいで、色々と酷い目に遭ったこともある。
それが嫌でカラーコンタクトの着用が常時になって、何れ位経つだろう。
それもこの場所ならと思って外して登校しようと思ったこともあったが、自分の臆病さに負けて、今も付ける癖が治らない。
……髪は、もう地毛なので染めるしか無いが、ちょっとだけ髪を持ち上げて窓に映せば、ちらりと瞳と同じような色の髪が黒髪の下で見え隠れする。

「……黒染め、しなおさないとなぁ」

尋輪海月 > 「……っと……」

速度が遅くなっていく。次の駅に到着するらしいが、その駅で自分が降りる事はない。もう少し何駅か先、
……列車で通うにしても、なんで学生寮じゃなくて、個人寮の方に住んでるのだろう。
片道が結構長いので、通学の時間もそりゃ長い。故に列車の中は割りと暇だ。
朝はぎゅうぎゅう詰めになるので逆に辛い。
なんて事を考えるうち、列車は駅へと止まり、扉を開けた。
外から、時間も時間な御蔭でちょっとだけぬるい位にまでなった風が吹き込む。

「……あー……まだ結構ぬるい感じあるなぁ……」

ご案内:「列車内」から尋輪海月さんが去りました。
ご案内:「列車内」に尋輪海月さんが現れました。
尋輪海月 > 「…………ふぁ……」

扉が閉まり、また走りだす。 ことん、こととん。
……ふわ、と、頭の中に入る眠気に従って、うつらうつらと首を揺らす。
ぼんやりしていると、どうでもいいような事が頭の中を巡り始める。
明日の予定のこと。バイクのフロントスポークの交換のこと。奨学金のこと。以前在学していた工業高校での、こと――。

「……うあ……やな事思い出した……」

尋輪海月 > 「……あぁ、もう……なんで思い出すかな、あれを……」

口から、ため息と共に、文句の一つが転がり出た。
……眠い時程、無意識に記憶を投影してしまう。それが、自分にとって、嫌で嫌で仕方ないような記憶であろうとも。
鞄を持つ手に力がこもる。嫌な事を振り払うように首を振り、窓にどつっと後頭部をぶつける。
……線の光に顔の半分を照らされながら、呟いた。

「……異能なんて、……なくなってしまえばいいのに」


――普通になりたい。そんな願望を浮かべながら、睡魔につられ、……いつの間にか、うとうととする事もなく、すとんと、眠りへと落ちた。

……無事、自分の目的地である駅で目覚められたが、その時、
あまり良い顔をして、起きる事は出来なかったという。

ご案内:「列車内」から尋輪海月さんが去りました。