2018/07/30 のログ
ご案内:「列車内」に神代理央さんが現れました。
神代理央 > 夢を見ている。

そうはっきり自覚出来る事を明晰夢と言うのだろうか。
だが、明晰夢とは自分の思い通りの夢を見ることが出来ると聞いた事もある。
ならばこれは、単なる記憶の反芻なのだろう。

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『此の子は再び、レーヴェンタール家へ光を齎す!』

『異能への順応率が予想値よりも低い。より短時間での発動訓練を実施せよ』

『いやはや、御父上に似て、ご聡明であらせられる』

『私の魔術は引き継いでいないのかしらねぇ…』

『実地訓練だ。中東へ2週間。異論は許さん』

『貴様の様な男に、欧州の崇高なる貴族の血筋が理解出来ようか!』

『御父様は御多忙です。御引取願います、坊ちゃま』

『転校だ。次は常世学園。恐らく数年は滞在することになる。今更付き人は必要あるまいな』



「……フン、下らん夢を見たものだ」

夢を見ている。
黄昏色に染まった電車の中。気づけば他の乗客の姿は無く、自分一人だけがポツンと席に座っているだけの空間。
窓の外には、産業区に立ち並ぶ先進的な工場群が夕陽を背に受けて真っ黒に染まっていた。

島に工業製品を供給する産業区を視察した帰り道。
日頃の疲れが出たのか、随分と寝入ってしまった様だ。
産業区の労働者達とも帰宅時間がずれた列車に乗り込んだ結果、己一人だけが運ばれる車両の中でつい気が緩んでしまったらしい。

夢を、見ていた。

神代理央 > 「…寝過ごしては…いないようだな」

軽く背を伸ばすと関節の鳴る小気味いい音が身体に響く。
座席の横に置かれたタブレットには、入力途中だった査察のレポートがぼんやりと明滅していた。

「…いかんな。気が緩んでいる。まだまだやるべきこともあるというのに…」

小さく溜息を吐き出すと、タブレットを起動して空中にキーボードを展開する。
そのまま指を滑らせれば、崩れたパズルの様になっていたレポートはみるみる内に組み上がっていくだろう。

真っ赤な夕陽に照らされた車内で、レールの上を滑る列車の音だけが空間を支配していた。