2018/10/03 のログ
ご案内:「列車内」にアリスさんが現れました。
■アリス >
私、アリス・アンダーソン。
今年の四月から常世学園に通っている一年生!
放課後の夕暮れ。
ちょっと遠出してしまったので門限までに帰るために路面電車に乗ってます。
帰宅ラッシュに巻き込まれたものの、
座れないけど満員電車ってほどじゃないかな?
くらいの混雑具合。
吊り革が遠いので手すりに寄りかかるように立ってる。
ガタンゴトン。軽い揺れは心地よく、遠目に見える夕陽が美しい。
■アリス >
ぼんやり窓から見える光景を眺めていたら。
「………っ」
ぞわわと背筋を走る怖気が。
今、お尻触られなかった!?
気のせい……?
混雑してるし、鞄とか当たるかも知れないよね。
気にしすぎ、気にしすぎ……
と、思っていたらまた触られたー!?
こ、今度は間違いない!!
指先が、指先が!!
首だけでグギギと振り返ると頭部が寂しい男の人がニヤリと笑っていた。
ち、ち、ち、痴漢だコレ!?
■アリス >
なんで私が!?
いや、落ち着け……落ち着くんだアリス・アンダーソン…
素数を数えて落ち着け…いち!! 1は素数違うこれ!!
鼓動が早鐘を打つ。嫌な汗が流れる。
後ろのおっさんはなぜわざわざ私の貧相ボディを触りに!?
いや、そうじゃない!! 犯罪だ!!
風紀案件で鉄道委員会沙汰で……とにかく痴漢はダメ!!
「や……」
半泣きになりながら後ろのおじさんにトークを試みる。
「やめてください……っ」
あ、ダメだこれ!! 声も全然出てないし相手に聞こえてるかわかんないし弱々しすぎる!!
自分では『殺すぞ』とにらみつけるくらいに気合を入れたのに体が完全に萎縮している!!
痴漢怖い……痴漢めっちゃ怖い!!
■アリス >
どうしよう本気で涙が出てきた。
今まで異能犯罪者とは何人も会ってきた(いや何人も遭遇するのは十分まずい)けど、
自分の性の部分を狙ってきたやつなんて初めてでどう対処していいかわからない!!
振り返る? 振り返ってどうするの?
異能で拳銃でも作っておっさんを脅す…?
そしたら私が銃刀法違反か! アハハ!! もうダメ!!
思考が全然回ってくれない………周りに人がいっぱいいるのに誰も助けてくれない!!
そもそも周囲は私が痴漢に遭ってるってことすら知らないのかも知れない。
体を撫で付けるように触られる嫌悪感で体が強張る。
後ろのおっさんってロリコンなのかな……私14歳なんだけどな…
怖っ!! 相手が変態である可能性を考えたら余計に振り返れないし何もできない!!
パパ、ママ!! 助けて!!
もうシイタケ残したりしないし、ワガママ言ってパパを困らせたりしないから!!
助けて………
ご案内:「列車内」に神代理央さんが現れました。
■神代理央 > 基本的に、学園内の移動で公共交通機関を使用する事は余り無い。
産業地区や遠方かつ駅に近い場所へ移動する時くらい。基本は風紀委員の連絡車か、馴染みのハイヤーを手配するのが常。
しかし『他委員会との円滑な業務連携の為に各委員会との実務的な交流を図るべし』というお題目の元、こうして授業を終えた学生達で賑わう列車に揺られる事となっていた。
傍らに鉄道委員を伴い、混雑する時間帯や鉄道委員会の業務について説明を受けながら車両巡回。
交通インフラに携わる業務も大変だな、と感心しながら人混みをすり抜けつつ車両を渡り歩いていたが―
「……おや、奇遇だなアンダーソン。相変わらず貧相な面構えだな。見ている分には面白いから構わんが」
見知った顔を見つけただけなら、案外声もかけずに立ち去っていたかも知れない。
しかし、その恐怖と嫌悪感に彩られた表情に気付いてしまえば話は別だ。念の為、同行していた鉄道委員に視線を向ければ、間違いないと言わんばかりに頷いている。
となれば、後は彼女に近づいて世間話のノリで声をかけつつ、風紀委員の腕章を見せつけながら背後に立つ男を軽く睨みつける。
男が抵抗する様なら、腰に下げた拳銃を使うことも辞さないつもりだが―
■アリス >
絶望に染まった表情で震えていると声をかけられた。
憎まれ口を叩くその人は、以前にこっちから嫌なことを言ってしまった神代理央。
でも助けてくれるようで……涙が出るほどありがたい話で…
「ち、ちか、痴漢が………っ」
自分のことながら歯の根も噛み合わないという体で彼に近づいていった。
後ろの男は風紀委員の腕章を見てただ私の後ろに立っていただけというフリを始めた。卑劣。
「あの人…………っ!!」
痴漢おじさんを指差すのが限界、立っているのが精一杯。
涙目で今自分の小さな肺に残っている僅かな空気を全力で吐き出し、声にしようと努力した。
■神代理央 > 「……心配するな。こういう奴を捕まえるのが風紀委員の仕事だ。良く耐えたな」
余程の恐怖と嫌悪感だったのか、言葉を発するのもやっとという様子の彼女になるべく穏やかな口調で声をかける。普段出し慣れていないので、柄じゃないかと思わなくもないが。
彼女を背に庇うように立ち位置を変え、そんな柄でも無い事をさせた原因の男を睨みつける。
次いで男に発した言葉は、我ながら冷え冷えとした口調だった。
「さて、良かったな外道。鉄道委員のお墨付きで現行犯だ。視界に入れるのも鬱陶しい。公務執行で死にたくなければ、後ろの奴と一緒に車両を移動して次の駅で降りろ。それとも、今此処でしょっぴいて今夜スラムに放り込んでやろうか?」
罪を認めるならまだしも、誤魔化そうという態度が実に気に食わない。無造作に腰の拳銃を引き抜き、失せろと言わんばかりに銃口を左右に降った。
流石にやりすぎだと言いたげな鉄道委員は、苦笑いを浮かべながら男の肩を掴んで同行を願うだろう。
■アリス >
神代理央がかばうように移動したので彼の背中に隠れて。
変態おじさんが何かを喚きながら連行される様をじっと見ていた。
後からわかったことだけど、彼は常習犯だったようで。
もう関わりたくないから、これ以上は聞かないことにしようと決めた。
鉄道委員が降りてさぁ大変。彼と二人(いやまぁ周りにいっぱい人いるけど)になった。
以前に割とひどいことを言った手前、とてもやりづらい。
「あ……あの…」
無茶苦茶な身振り手振りで彼に説明を始める。
「あの人ロリコンで……私のお尻を触ってきたぁ…!」
怖い。怖い。性犯罪者というのは初めて見たけど。とんでもなく怖い!
そして前に言ったことをどう謝ろうかと機会を窺う。
ガタンゴトン。電車は揺れるだけ。
■神代理央 > 連行される男を見送って小さく溜息を一つ。
つくづく鉄道委員会は大変だな、と彼等の仕事っぷりに感動を覚える。
そんな取り留めの無い思考が走りかけた時、背後から聞こえる小さな声に気付いて振り向いた。
わたわたと身体を動かしながら此方に言葉を伝えようとする彼女を困った表情で見つめていたが―
「……あー…うん。怖かったな。辛かったな。助けに入るのが遅くてすまなかった。ごめんな」
憎まれ口の一つでも叩いてやろうかと思ったが、流石に彼女の精神状態を鑑みると控えた方が良いだろう。
しかし、誰かを慰めるといった事が絶望的に苦手な自分では、被害にあったばかりの彼女に何と声をかけるべきか全く解らない。まして、最後に彼女と会った時の状況を考えれば、嫌悪感を抱かれている筈であるし。
誰か助けてくれ、と内心悲鳴を上げながらも、彼女を落ち着かせようとその頭を撫でようとして、そんな柄でも無いかと溜息を吐き出してその手を引っ込めた。
■アリス >
相手もいつもの調子じゃないように感じた。
混乱している。けど、言わなきゃいけないことはきっとあるはず。
「……ありがとう……それと………」
ハンカチを錬成して涙を拭う。
ギリギリ泣き出さなかった。でも今回ばかりはギリギリすぎた。
「ごめんなさい……前のこと…………」
言い過ぎた言葉、言えない言葉に。
無限の後悔と絶対の絶望を感じていたのは。
誰だったのだろう。
「ああもう……次は絶対相手の手を掴んで、鉄道委員会まで引きずっていってやる…」
いつもの調子を取り戻そうとして。
でも次はないほうがいいな……こんな思いはもうたくさん。
■神代理央 > ありがとう、と告げる彼女に僅かに首を振る。
言うなればこれは仕事だ。公序良俗を乱す者を裁くのは風紀委員としての業務。己の仕事をこなしただけの自分に、礼の言葉など必要ない。
――と、偉そうに言おうとした口は、次いで彼女から告げられた言葉に半開きのまま停止する事になる。
「………別に、お前が謝る事じゃないだろう。間違った事を言ったのでは無いのだ。頭を下げる必要等無い。…俺の方こそ、あの時は怖がらせて悪かったな」
まさか謝られるなんて露程も思っていなかった。
それ故に、普段の自分とは思えぬ程歯切れの悪い口調で、彼女に答えるだろう。どうにも調子が狂うと言わんばかりに、己の金髪をわしわしと乱暴に梳いた。
「…お前みたいなちんちくりんが大の男を引っ張っていけるとも思えんがな。というよりも、その貧相な身体じゃ二度とこんな事はありえんだろうよ」
気丈な言葉を発する彼女に、少し安心した様に表情を緩める。
その空気に合わせる様に、誂う様な口調と言葉と共に肩を竦めてみせた。
■アリス > 何度も何度も涙を拭いながら。
「…………うん…」
きっとあの時の私は無理やり関係者になりたがっていたヒロイン気取りで。
その心無い言葉をかける相手はこの世界のどこにも存在しなかったんだ。
「貧相な体言うな」
軽口で返せた。ようやくだけど、歯車が噛み合ってきた気がした。
……人間関係は複雑なカラクリで。砂の一粒で簡単にぎこちなくなってしまう。
「ま、今はちんちくりんでもパパとママを見れば将来有望だし?」
「見てなさい、今にSIZのパラメータ振り切るから」
ハンカチを涙ごと分解して口元に手を当てた。
怖かった。けど、今は怖くない。日常とは、なんて得難いものなんだろう。
■神代理央 > 涙を拭いつつ、恐怖から開放された様に見える彼女に僅かに笑みを浮かべる。
それは彼女を救えたという傲慢な安堵からきたものか。それとも、もっと他の感情があったのか。自分でも分からなかったけれど。
「パラメータの割り振りは早い内に済ませねば、成長期も終わってしまうぞ?個人的には、SIZ全振りというのは豊満というよりも化物に近い様な気もするが。バスターソード背負ったり、魚人を蹴り殺すゴリラとかそんな類だろう」
軽口の応酬という名の平和な時間。
時折揺れる車内で、多くの学生達に囲まれながらそんな取り留めの無い会話を楽しめるというのは、本来学生という身分が享受すべき時間であり、得難い思い出になるのだろう。
だが、果たして自分にそれが相応しいのだろうか。思考の片隅でふとそんな事を考えると、僅かに表情を暗くして窓の外に視線を移す。そんな感傷的な思考自体が己らしく無いか、と直ぐにその視線は眼前の少女に戻るのだが。
■アリス >
家に帰れる。パパとママにはなんていえばいいのだろう。
言いたくないけど、言わなきゃな……そんなことを頭の隅で考えた。
「ええ……まだまだIntもStrもDexも伸ばしたいのにー」
「さ、さすがにマーシャルアーツが似合いそうな感じにはなりたくないかな…」
人差し指を振って器用に片目を瞑る。
「でも拳法には憧れがあるっ」
「八極拳とかね」
一瞬、相手の表情が翳った気がした。
ほんの少しだけど。今は何となく、そのことをツッコむ気にはなれなかった。
学生通り前のアナウンスを聞いてICカードを持つ。
「…またね、神代理央」
またね、ただそれだけの言葉に。全ての感情をこめて。
路面電車を降りていった。
ご案内:「列車内」からアリスさんが去りました。