2015/06/09 のログ
五代 基一郎 > 味があまりにたいしたことない上に、食用じゃないのか食えるというレベルだった体の構造もあり
正直言って二度と食わないだろう、という何者にも捕らわれない正直な感想がずんと圧し掛かり。
あまりの悲しみにこれ慰めかとデザートのモンキーバナナ一本を口にする。
うまい、救世主だ。
昔もなにかこう……こんなことがあった。バナナという誰もが手軽に食えるそんなものが
とてもありがく思う時が。
自分の好みである熟れ過ぎていない、青さの残るさっぱりした味もいい。

五代 基一郎 > あまりに美味かったので調子にのって一房買ってしまった。
モンキーバナナ一房……ご機嫌な量だ。
これが今日の食事、悪くない。栄養の消化もいい。
ここ最近疲れていたことや、そもそも肉体的に疲労する職業だ。
まさしく甘露、砂漠の中の水……オアシス。喜んで黙々と食い始めた。



5本で飽きた。

五代 基一郎 > 味はいい。だがそもそも口に中で咀嚼するときの間食、のど越しもだが
あまりに単調すぎる。もっさりとした、かつねっとりとしたようなその一歩手前。
食っててあまりにも単純だ。おまけに甘さがそれなりにある。
さっき食った1本含めて6本食えば十分だった。

十分だが1房、あと10本残っている。
どうする……食いきるか……?誰かにあげるか……?
バナナを……通りすがりにの学生に……?

事案である。

五代 基一郎 > 事案か……部下に食いかけのバナナを押し付けるわけにもいかない。
見知った顔に押し付けるのもありだが、まぁ閉館時間まで粘ろう。
どうせしばらくは暇なのだ。なにせ件の騒動がそれなりに静かにならないと出歩くには不都合極まりない。

重たい胃と息を吐き出しながら、椅子に体を預けて天井を仰ぎ見た。
空がうっすら伺える温室の空。高い木々に、鳥の囀り。外の些かな蒸し暑さとは違った温暖な気候。
休暇のようなものだ。悪くはない。

五代 基一郎 > バナナののど越しを忘れるためにネクタイを緩め
だらりと体を預けたまま思うところを巡らす。
たぶんだが、まぁ程度はさておきこれはこれで悪くない。
何も起きていないこと。それがどうあれ平和というものなのだ。

バナナが食いきれるか食いきれないかはさておき、今は穏やかな学生の平和なのだ。
そんなことを楽しめる学生の友人がいないのは寂しい所だが、これもまぁ仕方ないことだ。
ある意味自分の中の慎ましい平和という学生らしい時間、その基準のハードルが下がっていることは喜ばしい。

もう一本今ならいけるとおもったが手を出して少し考えてやめた。

ご案内:「植物園」に蓋盛 椎月さんが現れました。
五代 基一郎 > マンゴーにするべきだったろうか。
マンゴーならこう……のど越しも水に近い。
たしかメニューはマンゴー、ドラゴンフルーツ、ウォーターメロン、ドリアンがあったはずだ。
ドリアンは願い下げだったしスイカはなんか、ここで食うより別の場所がいいと思った。
マンゴーは甘いから好みではあるが、あれは独特の香りと甘さが強い。
些かデザート感覚で食うには憚られた。

もっともデザート感覚でモンキーといえど一房バナナ頼むのもどうかと今更思う。

蓋盛 椎月 > (アテもなくブラついていたら入園料が安かったのでついつい入ってしまったが
 そもそもこういう静かな施設は自分にはあまり向いていないことを失念していた。
 もう少しバーンとかキュビーンとか全米が泣いたみたいな感じのがいい。
 そろそろ帰るかなァとか思ってたら明らかに食べきれない量のバナナを抱えて右往左往している男がいた)
……なんかアホっぽいヤツがいるな……
(思わずまじまじと観察してしまった)

五代 基一郎 > 「食べるか?」
モンキーバナナを剥いて、それに向けて差し出す。
他の入園者だろうか。いや違う。
極彩色の鳥だ。気に停まっている極彩色の鳥に一縷の望みをかけて差し出したが

その極彩色の鳥は、飛び立てば近くのベンチにどこのマナーの悪い学生か知らないが残されたピラニアのから揚げを加えて飛んで行った

「食わないか……」

どこか虚空を見つめるように一点だけを見つめ、そのままバナナを口に押し込んだ。
剥いてしまっては食うほかない。

蓋盛 椎月 > (あっ鳥にバナナ食わせようとしてる……)
(鳥はバナナ食べないだろ)
(いや食べるのか? どうなんだ?)
(あ、諦めて自分で食べ始めた……)
(面白いのでもう少し観察してよっと……)

五代 基一郎 > 「食べるか?」
今度は剥かずに、モンキーバナナをそれに向けて差し出す。
他の人類だろうか、いや違う。
巨大な獣だ。角があるのでおそらく牛とかそれらしい、何かそんな感じの動物だ。
そんなものなんで植物園にいるんだ、という疑問は今はおいておく。
とりあえずバナナを処分せねばならないのだ。

だがその獣は跳躍すると、その先ほど消えたと思っていた極彩色の鳥を食った。

「……」

なんでだろうか。あれは地球外生命体……?もしや今、鏡張りの部屋とか六角形のなにか隅を封じた部屋にいかないとまずいのだろうか。

足早に他のバナナを食いそうな動物を探し始めた……

ご案内:「植物園」にカエラムさんが現れました。
蓋盛 椎月 > …………そのバナナもらおうか?
(バナナを抱えて徘徊している彼にとうとう背中から声をかけた。
 声をかけたら負けなような気がして観察するだけにとどめてしまったが、
 ガマンできなかった。
 ……っていうか何この空間)

五代 基一郎 > 「食べるか?」
今度も向かずに、モンキーバナナに向けて差し出す。
なにか、今まずいことになっている気がするんだが、とりあえず何か今はバナナが先決である。
なによりもバナナだ。
それは、差し出した相手はそれなりに体格のいい猿だった。
猿の類である。ならばバナナは食う筈である。
猿と言えばバナナ、バナナと言えば猿である。
つまり残り10本処分できたようなものである。
素晴らしい。

が。その猿は跳躍すると、轟音がなった。何事かと顔を向けると
そこでは先ほどの有角の獣が砕かれ、猿が貪り食っていた。

「………」

猿は肉食だったんだろうか。雑食とは聞いていたが……しかし。
早く先を急がないとバナナが危ない。そんなよく分からない思考に捕らわれながら足を動かそうとすれば

「あ、あぁ……バナナ、食べるのか」

と、声をかけられたことに気づき。顔を向けて聞き返した。
もった所在なさげだったバナナをその相手に見せて。
若干顔色が悪かったのは食い過ぎか、この温室の温かさからくるものか。

カエラム > 『――――チチッ、チュンチュン。』
【なんかバナナを勧めて回ってる人間の男がいるらしいばい。】

「――gg?」
【へぇ……】

背の高い植物の陰から、小鳥を肩に乗せた巨躯がのっしのっしと歩いてくる。
噂のバナナ男の近くを通りがかったのは、ほんの偶然か。
マフラーやゴーグル、フードで顔を隠してはいるが、その実とんでもない珍獣がやってきたのである。

蓋盛 椎月 > うん……(差し出されたのを一本受け取る)
ねーねー、ここってサファリパークかなんかだったっけ?
あたしは確か植物園に入ったつもりだったんだけど……。(怪訝な表情であたりをキョロキョロと見渡しながら)

あっなんかデカいのが来た。
あれもここの動物なのかな……。(バナナをゆるゆると剥いて、頬張りはじめる)

五代 基一郎 > 「………」

見た事のある姿だ。たしか以前路地裏で未見不君と見たし彼女の関係者だったはずだ。

だが。そこに学園七不思議の死神だったということが思い出された。

魚、鳥、獣、猿と食物連鎖的に来て人間が来た。
素性は知れないが、それなりに人間の姿をしているものである。
そこに俺は今バナナを渡そうとしている。バナナを薦めてはいないが、バナナを受け取ろうとしている人間だ。

そこにどうだろう。何か素性の知れない巨躯の何かが現れた。
つまり。人間の次に来た物だ。

バナナを一本渡した今……乃ち。
次が来る。いや、もう来ていた。植物の陰から現れた。
巨大なそれが。もちろん未見不の知り合いだろうし悪いものではないのかもしれないが何かが、何かの力が働いているのかもしれない。
何か魔術……いや異能めいた何かを感じずにはいられない。
気を抜きすぎた。物騒なことは終わったというのに、自分としたことが完全に無防備だった。

この、今ここにいる誰もがどういう意図か。どういう心境かわからないが
何か生まれつつある法則のようなものにのれば危ういことは間違いない。

「ありがとう、それじゃよろしく。」

そのバナナを渡した相手の疑問に答えることなど一切なく。
ただ急いでその場を後にした。このままいるとまずい……

バナナが、バナナが導いてしまった。
バナナが何かを呼んでしまった。
バナナが法則を呼んでしまった。
バナナによりこの世界の法則が乱れてしまう……!

一心不乱に何も言葉にださず、誰かに答えることもなく植物園から逃げるように出て行った……

ご案内:「植物園」から五代 基一郎さんが去りました。
カエラム > どこかで見た白衣の女性を目にすると、巨躯は軽く会釈をした。
彼女は確か、グリーンドラゴン騒動のときに市民を手当てしていた人物だ。
ひとこと挨拶をしておくべきか。

「やあ。らくがいがい、どらごん、ひさしぶり。」

カエラム > 「――?」

こちらを見るなりそそくさと去ってしまった男性を見て、解せぬといわんばかりに首を傾げる。
ああ、また驚かせてしまったのだろうか。
屈みこむタイミングはもう少し早めに取っておいた方がよかったか……

――バナナ、貰えたらいいお土産になったのになぁ。

蓋盛 椎月 > ……行っちゃった。何なのよもー。
(切羽詰まった様子で去っていく男を不満げに見送る……。
 一体何が彼を駆り立てたのだろうか。
 それは彼女にはわからぬことであった……)

あ、これはどうもお久しぶり。あの時はお疲れ様。
学園で養護教諭やってる蓋盛だよー、よろしく。
(ぺこりと会釈。
 そういえば例のドラゴンの一件で似たような姿を見た。
 人間離れした巨躯、なんだかたどたどしい口調だが、悪い気配は感じない。
 バナナの男は彼を見て逃げていったのだろうか?
 だとすればそれはいらぬ心配であったろうに……)

カエラム > 「ふたもり、おぼえた。じぶん、かえらむ、という。よろしくおねがいする。」

『がくえん』『きょうゆ』……なるほど、彼女は学園関係の人間だったのか。
多くの命を救った彼女に対して、死神の抱く好感度は決して低いものではない。

「よく、ここにくる?」

ここに来たのは通算二回目で、静かな場所は好きな部類だ。
しかしここに来る人間は決して多くは無いし、こうして人と出会うのは珍しいことだった。

蓋盛 椎月 > カエラムさんねー。よろしくよろしく。
(片手を挙げて気安い調子で挨拶)

ん~。
あたしはもっと光って音が鳴るほうが趣味だからなー。
思ったよりはなんか面白い場所みたいだけど。
まあ、気が向いたらまた来るかもね。
(うねうねと蠢く、冒涜的な見た目の触手状植物を
 スマートフォンで撮影しながら。)

……カエラムさんは普段は何やってる人なのさ?
(生徒や教師にこんなのがいたらさすがに把握している。
 そういえば学園で彼と似たような不審者目撃情報が
 あったような気がしたけど……。)

カエラム > 「そうか。まちがすきか。」

被写体の植物と目が会うと、軽く会釈をした。
うん、今日も元気そうにうねっている。この様子なら、まだまだ長生きすることだろう。

「かえらむ、げんだい、よくわからない。ゆえに、べんきょうちゅう。」

つまり、何の仕事もしていないということ。
住所不定無職と言って相違ない。
たまに現れる能力暴走<オーバー・ロード>を鎮めたりはするが、
普段からやっていることかと聞かれればまた違う。

蓋盛 椎月 > たまにはこういう野性味溢れる場所も悪くないけどねー。
あたしってば文明大好きな現代っ子だから。
(食べ差しのバナナをムシャムシャして皮だけにする)

なるほど勉強中かー。
あたしもこの世界とか言う奴はよくわかんなくて勉強中だよ。奇遇だねぇ!
(人懐っこく笑い、めちゃくちゃ適当な調子で合わせる)

そーだ、気が向いたら学園に勉強しに来なよー。
学園ほど勉強に向いてる場所はないからね。
ちょっと手続きがめんどくさいけどさ!
あたしもたまーに教鞭取ってるし。
(名案だ、といわんばかりに思いつきを語り)

せっかく入園料払ったし、反対側のほうもちゃんと見ておこっと。
んじゃまたー、縁があったら!
(背を向けてひらひらと手を振り、どこぞへと消えていく……)

ご案内:「植物園」から蓋盛 椎月さんが去りました。
カエラム > 「そうなのか。おんなじだな!」

適当結構。ソウルが通じていれば万事おーけー。
そんなカエラムは、フタモリの人懐っこい笑みだけで満足してしまうのだった。

「……かえらむ、せいと、なれる? rrrrr...」

その発想は無かった。
そうしてみるのも悪くないなと思ったカエラムは、唸りながら考え込んでしまう。
考え込んでいるうちに手を振られたので、手を振り返した。

「またっ!」

カエラム > 「――YaYa, Pochi.」

ポチと呼ばれた触手に手を振って、
死神もまたその場を後にするのであった。

ご案内:「植物園」からカエラムさんが去りました。
ご案内:「回想」に橿原眞人さんが現れました。
橿原眞人 > 三年前。日本関東圏某都市。とある高層マンション周辺にて。
高層マンションを下界より眺める者たちがいた。

――「鍵」の発現因子を確認。

――ここで間違いないのか。

――はい、間違いありません。「鍵」の発現因子を持つ人間はこのマンションにいます。

――わかった。ここの制御システムはどうなっている。

――既に掌握済みです。人払いも済んでいます。

――……では、これより実験を開始する。

――このような大がかりな実験は本当に必要なのですか? 単に「鍵」の発現因子を持つ者を捕えればよろしいのでは。

――「鍵」は生半可な事では目覚めない。《彼ら》と接触させることが必要だ。精神的な傷もな。

――“奴”の手が回る前に「鍵」の発現はさせなければならん。次に星辰が正しく揃うのはかなり先だ。今しかない。

――……了解しました。これより疑似「門」を発現させます。《電脳・究極の門》に接続完了。

――未知なるカダスへの道は我々が拓くのだ。《銀の鍵の門》実験、開始。

橿原眞人 > 深夜。高層マンションは全て静かな眠りについていた。
眞人は家族と共にマンションの5階に住んでいた。
世界は変容すれども、眞人は変容前の世界を知らない。この時代の子供達同様、この変容した世界こそが、普通の世界であった。
眞人は穏やかな眠りについていた。世界の変容のために様々な問題は起こっていたものの、混乱が激しい地区よりは遥かにマシであった。
日常。変わることのない日常が続いていた。
そして、それは唐突に終わりを告げることとなった。
それもまた、この世界の“日常”であるために。

橿原眞人 > 突如、マンション内全体に警報が響き始めた。サイレンの音がマンション内に高く響く。
それを聞いたマンションの住民たちは次々と飛び起きていく。
当然、眞人もそうであった。
「な、何だ。火事か……!?」
寝ぼけ眼のまま眞人は飛び起きる。そして、不意に視界に入った窓の外を見て絶句する。
「あ、あれって、まさか……!」
それは、異界の「門」であった。
21世紀の初頭の世界の大変容以降、世界中に現れる異界の扉。
異邦人を運んでくることもあれば、災厄を運んでくることもある「門」――

橿原眞人 > それが、マンションの真横に出現していたのだ。
「や、やべえっ……!」
眞人は慌てて部屋を飛び出し、リビングへと向かった。
このマンションでは、万一異界の「門」が出現した際は退避することになっていた。
異界の「門」が開くときは何が起こるかわからない。突如異界の「門」が開いて大規模な事故に巻き込まれるというのもこの世界では珍しくない。

「父さん、母さん! 弥代!」
眞人がリビングに到着すると、既に父と母と妹も揃っていた。
ホッと眞人は胸をなでおろす。兎に角急いで逃げようとしていたときである。
「門」に異変が起こった。その様子を見て、眞人たちは、マンションの住民は、声を失った。
「な、んだ、これ……!!」

橿原眞人 > マンションの横に空いた空間。そこに「門」が出現した。
だが、眞人が今までテレビなどで見た「門」とそれは大きく異なっていた。
「門」の周縁部には何やら機械のようなものが取り付けられていた。
そして、「門」の奥にはマトリクスが広がっていた。電脳世界のそれが広がっていたのだ。
格子状に広がる無数のライン、溢れ出す文字列に数列。それは、どれもこれもが非常におぞましいものだった。
未だ人間が知らざる言語。死すら死を迎えるほどの過去に用いられていた言葉。
非ユークリッド的幾何学の織りなす歪んだ世界が門の奥から広がっていく。
「う、うぅっ……!」
それを見ただけで、人々はひどい嫌悪感と嘔吐感を覚えた。思わず眞人は口を押える。
「門」の奥から何かが出て来ようとしていた。
名状し難いものが。
慄然たる何かが。
聞いただけで狂気に落ちてしまいそうなあり得べからざる鳴き声を発して。

橿原眞人 > 逃げろ! というような言葉を誰かが叫んだ。それが自分であったのか他の家族であったのか、眞人はわからなかった。
おぞましい悪寒に襲われながら、眞人たちは必至で部屋の出口まで駆けた。
その時である。突如自動的に扉のロックがかかったのである。
警報音が鳴り響き、部屋全体の照明が赤黒く変化する。
扉がロックされましたという機械的なアナウンスが鳴り響く。
このマンションは最新鋭のものだ。全ての設備はコンピューターが管理している。
『まさか……ハッキングされたのか!?』
眞人の父親は大手電脳機器メーカーのプログラマーである。
すぐにコンピューターがハッキングされたことを悟る。
いくら眞人の父が扉を開けようとしても扉は開かない。

橿原眞人 > ガシャン。窓の割れる音がした。
眞人たちが振り返ってみれば、そこには何かがいた。
何か、としか表現できないものである。それを眞人たちは自分たちの言語で表現することが叶わなかった。
「う、うわ、うあああああっ!!」
「門」の向こう側から、非常におぞましい「何か」が這いだしていた。
無数の触腕を備え、目を妖しく輝かせる何か。
それは冒涜的にも人の形に似ていながら、魚類のような特徴を備えていた。
眼窩と思しき箇所にはいくつもの目玉が蠢いている。
巨大な何か、時折体の一部が数列などに置き換わる何かが、眞人たちに迫る。
その何かは次々と「門」の向こう側から現れ、マンションの部屋へと入ってくる。

妹と母は泣き叫び、父は眞人たちを守るようにして前に立つ。誰もが皆、気が狂いそうになるのを必死に耐えていた。
逃げ場所は既にない。扉も開かない。マンションの住民たちにはどうしようもなかった。

橿原眞人 > 『―――――――――!!!』
通常の人間では発音できない叫びをあげ、眞人らの前に立つ「何か」はその巨大な触腕を振るった。
刹那、眞人たちを守ろうとした父親の首が千切れ飛んでいくのをみた。眞人の父の体は触手に絡め取られ、口と思しき器官に飲み込まれて行った。
「と、父さんッ! あ、ああ、あああっ……!!」
眞人にはもう何もできない。眞人は魔術も異能も身に着けていない。母も妹も同じだ。
既に母と妹は狂乱状態にあった。次の瞬間、口と思しき器官が伸びて、妹を丸呑みにした。

そして、眞人に向かって触腕が伸びる。そのときであった。正気を振り絞り、母が眞人をかばうように彼を突き飛ばした。
眞人は扉にぶつかり、眞人の代わりに母親が触腕に絡め取られていく。
『逃げて、眞人ッ……!』
母親はその下半身を貪り食われながらそう叫び、事切れた。
「何なんだよ……」
眞人はガタガタと震えながら、そう叫ぶしかなかった。
「何なんだよこれはぁあっっ!!!」

橿原眞人 > 眞人は扉に張り付き、何とか扉を開けようとする。狂乱状態だ。家族の死をこの目で見てしまった。
しかし、扉は岩のように固く開かない。完全にロックされていた。
何度も試したが、非常用の開閉スイッチも効果がない。完全に外部からハッキングを受けいた。
眞人の体は伸びた触腕に強く扉に打ちつけられ、眞人の口から血が流れる。
再び触腕が眞人に伸びようとする。ところどころ機械で形作られたような、電子の情報で構成されたかのようなそれが、眞人に迫る。

橿原眞人 > 「――ッ!!」
その時であった。突如、眞人の脳裏に一つのイメージが湧き始める。
それは、「鍵」であった。それは、「門」であった。
アラベスク模様の彫刻が成された、「鍵」であった。
巨大なアーチを作る奇怪なレリーフの「門」であった。
眞人は、その使い方がすぐに分かった。直感で理解できた。
眞人は扉のほうに向きなおり、鍵を回す所作を行う。
すると、今まで一度も開かなかった扉のロックが解除され、扉が開いたのだ。
眞人は一心不乱に逃げた。ただ、母親の逃げてという言葉のままに。

橿原眞人 > 眞人は廊下を駆けた。すると、不意に巨大な揺れがマンションを襲った。
階段の踊り場からそれは見えた。「門」の向こう側から、非常におぞましい何かが顕現するのを。それが巨大な触腕を用いてマンションを打ち壊していくのを。
それはおぞましくも人間のような形をしていた。
それは西洋の伝説にあるドラゴンのような形をしていた。
それは退化した翼を持っていた。
それはまるで深海に潜む深海魚のような姿をしていた。
「あ、ああああああっ!!」

眞人はそれを見るのをすぐにやめた。自分の精神が壊れていくのを感じた。
もうそれ以上見ることはできず、眞人は階段を駆け抜けた。
部屋のあちこちから人の叫び声が聞こえる。だが、眞人にはあの化物に対抗する手段などなにもなかった。
痛む体を無理やり動かしながら、逃げるので精いっぱいだった。
そしてようやく眞人はマンションから脱出した。振り返れば、マンションのほとんどは倒壊し、炎が燃え上がっていた。

橿原眞人 > 「な、んで、なんで、こんな……」
失血のためか、意識が朦朧としていく。眞人はもう立てなかった。
力なくそこに倒れ込む。視界は薄れ、このまま死を確信していた。
そのときであった。何かが眞人に近づいてきていた。

――「鍵」の反応を確認。間違いありません、発現しています。

――そうか、実験は成功だ。「鍵」は発現した。疑似「門」の一部開放にも成功した。もうここに用はない。「門」を閉じて鍵を回収しろ。

複数の誰かが眞人を見て話しているようだった。
眞人はそれをきちんと認識できない。ただ、「実験」であるとか、「門」を閉じろというような言葉は聞こえてくる。
「お、おまえ、たちが、こんな……」
しかし、眞人の言葉に彼らは耳を傾けてなどいないようだ。
眞人に誰かが迫ってくる――

橿原眞人 > ――ッ! これは、“奴”が来たか……!

――ここで《電子魔術師》と戦うことは得策ではありません。既にこの地区のネットワークの9割が彼女の領域と化しました。

――そんなことはわかっている! クッ、今は鍵の回収は無理か。なんということを……!

――我々のみならば、《電子魔術》が到達するまでに、魔術にてこの領域を脱出できます。彼女の《電子魔術》が到達すればこの地区のステルスは完全に突破されます。

――まあ、いい。「鍵」の発現だけでも十分だ。《電子魔術師》は必ず「鍵」を保護するはずだ。そうなれば回収の手立てはある……。

橿原眞人 > 声が消えていく。彼らの気配すらも瞬時に消えてしまった。
眞人は薄れゆく視界の中で、突如、無数の文字列が輝くのを見た。
それはまるで魔法のように煌びやかなものだった。
マンションを襲っていた化物たちが、一気に数字や記号に分解され、消滅していく。
そして、誰かが眞人の前に立っていた。ほとんど視界がぼやけてみることができない。
ただ、幼い少女のようなシルエットであるのは判断できた。

「……すまぬ。間に合わなかった。お前にも、「鍵」を発現させてしまった」

「だけど、大丈夫。お前は必ず、守って見せる。たとえお前が「鍵」であっても」

「既に助けは呼んだ。そして……」

「必ず、お前を迎えに来よう」

橿原眞人 > 幼い少女のシルエットはそう呟いて、無数の電子記号に分解されて消えて行った。
眞人はそれと同時に意識を失った――気づいたときには、病院のベッドの上だった。

翌日のニュースには、異界の「門」が出現し、その衝撃でマンションが崩落したとのみ書かれていた。
あの化物も、眞人を捕えようとしていた誰かのことも、何一つ、記されてはいなかった。

橿原眞人 > 眞人を襲った突然の理不尽とは、これであった。
おそらくは、そう珍しいものではないかもしれない。
怪異による事件。門による事件。世界中で起きていることだ。

だけれども。
全ては秘匿され、事件は闇に消えて行った。
首謀者と思しきものについて眞人が訴えても、取り合う者はいなかった。

そして、全てに絶望したときに、彼女が現れたのだった。
《電子の魔術師》、《電脳の夢見人》と呼ばれるハッカー。
後に眞人の“師匠”との出会いであった――

ご案内:「回想」から橿原眞人さんが去りました。