2015/07/16 のログ
■レイチェル > 「……オレの魔剣がっ!」
焦る表情のレイチェル。
少女の身体は魔剣ごと、男の所へ、尋常でない力で引き寄せられる。
無防備に振り回された少女の身体――『付属品』を引き裂かんと、
初老の悪魔の蜘蛛脚が迫る。
レイチェルの身体は肉塊となることだろう。
ただし。それは、レイチェルが並の『人間』であったらの話である。
「……なーんてな。ありがとよ、頼んでもないのにわざわざ迎えに来てくれて、よっ!」
その瞬間、レイチェルは自らの魔剣から手を離す。と同時に。
「時空圧壊《バレットタイム》――!」
クールタイムは十二分に。
レイチェルは己が異能を発動した。
途端に、再び時間は刻み方をすっかり忘れたかのように。
壊れた刻み方を始め。
ゆっくり。
ただゆっくりと。
その速度を落としていく。
減速、減速、減速、減速――。
今や、蜘蛛の脚はレイチェルからしてみれば、止まって見える。
すかさず、彼女はクロークの内から小瓶を取り出した。
その小瓶の内に収められた液体は、悪魔祓いの聖水だ。
その小瓶を男に向けて放り投げ、レイチェルは一言、呪文を口ずさむ
「Exorcizamus te, omnis immundus spiritus《不浄なる魂、我が眼前より消え失せるべし》――」
刹那。クロークから、リボルバーを抜き、大きく十字を切れば、短い口づけを。
瞬間。その呪文と十字に反応するかのように、小瓶の内の液体が、神々しく光り輝く。
乾いた銃声が壊れた時の中で、幾重にも響き渡る。
弾丸は、小瓶を貫き、聖水を浴び、壊れた時を突き進み、初老の悪魔の顔へと――
「……時間切れだ」
――そして世界は、再び時の刻み方を思い出す。
■ライガ > 『奪った!!奪ってやったぞ!!
魔狩人、破れたり!!』
レイチェルが魔剣から手を離せば、注意はまっすぐ魔剣にいく。
“付属品”はもはや不要、ついでだ、このまま引き裂いてやろう。
初老の男の顔が、八本の蜘蛛脚が。
狂喜したままのろのろと怠慢になり、やがて停止する。
──次の瞬間、目前に迫ったそれは、いつの間にか投げられた小瓶を貫通して中の光り輝く液体を被った、何発もの聖なる弾丸であった。
防御のために蜘蛛脚を動かすも、さっきのテーブルとは違い、銃弾のスピードにはついていけなかった。
驚愕する初老の男。その険しい額に、見開いた両眼に、尖った鼻に、牙を鳴らす口に。
次々に、銃弾がめり込んでいく。
『な……!!?
な、なんだ……これヴァあああアアアア?!!??!』
苦しみに歪み、形を変えていく初老の顔。
蜘蛛脚が小刻みに痙攣し、ぴんとまっすぐ伸びた後。
黒い煙が大気に溶け出すように、散り散りに砕け散っていく。
初老の男の顔が崩壊していく。
やがて呪紋の一部が消え去り、ライガの顔を覆う暗い瘴気が、裂けた腹が、
まるで時間が巻き戻るように、元に戻っていく。
異形が跡形もなく消えると、最後に『パキン』と何かが割れる軽い音がして、青年はその場に倒れ伏した。
その消滅後、やや遅れて。
レイチェルの体を貫いていた針が、音もなく霧散する。
■レイチェル > 「悪ぃが、てめぇみたいなのを祓うのは本業の一つでな。聖水の準備くらいしてあるのさ」
苦しみながら崩壊していく悪魔の顔に向けて、ふっと笑みを浮かべる金髪の少女。
魔狩人の目は悪魔の最期を冷酷なまでに。
静かな瞳で見届けていた。
「……こりゃあいい、抜く手間が省けたぜ」
身体を貫いていた針が消滅すれば、流れ出ていた血も止まり、彼女の傷は塞がっていく。
リボルバーを構えたまま、レイチェルはライガの所へと近寄る。
「おい、ライガ。大丈夫か? 荒療治ではあったが死んじゃいねーだろ」
そう言って、リボルバーの銃口をぐりぐりと、ライガの頬に押し付ける。
■ライガ > 悪魔は去り、ライガの気配は元のように、人間のそれだ。
しばらくつつかれていたが、やがてピクリと肩が動き。
意識が戻ったのか、頬に押し付けられた冷たい感触にビックリする。
「…ふぁっ!?
ひゅへひゃい、ひゅひぇひひひゅひっぇひゃあ」
何やら抗議しているようだが、銃口を押し付けられているので、
何を言ってるかさっぱりわからない。
■レイチェル > 「何言ってるか全ッ然わかんねー」
そう言って、リボルバーをくるりと掌の内で回転させると、クロークの内へとしまい込んだ。
と同時に、足元の切り札《イレギュラー》を拾う。
そして、ライガの顔に自分の顔を近づけ、じーっと。
眺めること数秒間。
「どうやら悪魔は祓えたみたいだな。顔色よくなったじゃねぇか」
そう口にすると、レイチェルは顔を離して、腰に手をやる。
■ライガ > 「だから、冷たい、しゃべりにくいって……あ、喋れた」
瞼を開け、黄金色の眼が見えれば、もう明滅はしていない。
すぐ近くにレイチェルの顔があるのに気付き、とっさに目をそらす。
だるそうに起き上がって胡坐をかき、手鏡を取り出して自らの服装を改めると、身体に刻まれた呪紋の一部が消滅しており、鳩尾付近にあった呪術印にひびが入っていた。
そのあとレイチェルがリボルバーを仕舞い、魔剣を拾っているのを見ると、
ああ、と小さくつぶやいた。
「あ、それ……
そうか、そうなったのか。
……畜生、魔剣でしか消せないとか出鱈目じゃないかよ」
■レイチェル > 「畜生はこっちの台詞だ。下手すりゃ今頃この部屋中にばら撒かれてたぜ」
冗談っぽく笑いながらそんなことを言うレイチェル。
それから頬をかくと、小首を傾げる。
「あ? 魔剣でしか消せない? 出鱈目?」
ふむ、と整った顎に手をやり、レイチェルは思案する。
「詳しいことは知らねーが、悪魔に騙されてた……って訳か?」
それでこんなことをしたのか、と。
呆れた顔でレイチェルは問うた。
■ライガ > 腕や足を曲げ伸ばし、痛ててて…と呻く。
「騙されてたっつーか、呪われてたっつーか……
僕なりに、意識の底で抵抗してたから、死ぬってことはなかったんじゃないかな。結果論だけどさ。
……事の顛末はあとで、数日後……かな。
日をあらためて落ち着いたときでも話すよ。
いまはちょっと、気持ちの整理が追い付かないや……」
あ、そうだ、と手をたたき。
スラックスのポケットを漁り始める。
あちらこちらを探していたが、札束の入った一枚の封筒を取り出し、それをレイチェルに差し出す。
「……依頼料、っつーか迷惑料。
依頼を出したのは紛れもなく僕だ、“あいつ”じゃない]
■レイチェル > 「はぁ? 数日後? まぁ、いいけどよ……この借りは高くつくぜ?」
やれやれ、と。ただただ肩を竦めるレイチェルであった。
少なくとも、今目の前に居るライガは、明確な敵意を持っていないようだ。
そう感じ取ったレイチェルは、万の言葉を胸の内に押し込みつつ、
仕方なくその言葉を受け入れることにしたのだった。
「銃弾四発、聖水に小瓶。それから制服。どれもタダって訳じゃねぇんでな。貰えるもんは貰っとくぜ」
そう言って、封筒を片手で受け取り、クロークの内にしまった。
■ライガ > 「ごめん、今は話せなくてさ。
もしかすると面倒事増えるかもしれないし、今は風紀も忙しいだろ。
あんまり迷惑かけてもいられない」
『なんかあったら力になる』っていったのに、逆に力借りちゃって悪いね、と申し訳なさそうに頭を下げる。
「ああ、銃弾と聖水は嵩むだろうなー。
まあ、足りないって金額は入ってないはずだけど」
■レイチェル > 受け取った封筒の重さからして、それなりの金額であることはレイチェルも
把握していた。
「ま、別にいいぜ。生徒に力を貸すのが風紀ってもんだからな。あんな悪魔、放っておく
訳にはいかねーし」
そう言うと、クロークを翻すレイチェル。
魔剣もクロークの内にしまうと、ライガに背を向けて歩き出した。
「それに、久々に悪魔とやりあったお陰で勘を取り戻せたぜ。ある意味感謝だ」
色々聞き出したい気持ちが完全に消えた訳ではなかったが、
レイチェル自身も少し疲れていた。
出来ることならば、早く帰ってシャワーを浴びて、ぐっすり眠りたい。
彼女はそう思っていた。
「次会った時はしっかり話聞かせて貰うからな、覚悟しとけよ」
そう言って振り返らぬまま、適当に手を振って去っていくのであった――。
■ライガ > 「お、お手柔らかにお願いします……」
去りゆく背中を見送る。
その姿が完全に見えなくなると、立ち上がり、改めて呪紋の大きさを確認する。
「首元から胸にかけて、消えてるな。……1回でこれか。
あと何回繰り返せば、まっさらになるんだ…?」
呪術印のひび割れも気になる。後で調べておこう。
ご案内:「どこかの廃墟」からレイチェルさんが去りました。
ご案内:「どこかの廃墟」からライガさんが去りました。
ご案内:「落第街の路地裏(乱入ご遠慮願います)」に佐伯貴子さんが現れました。
ご案内:「落第街の路地裏(乱入ご遠慮願います)」に雨宮 雫さんが現れました。
■佐伯貴子 > (制服のまま歩いている人影がある)
(武器は持っていないが襲われなかったのは制服のおかげだと言っていいだろう)
(暗がりで顔がよく見えないが、眼の焦点が怪しい)
■雨宮 雫 > 佐伯の歩く先はより暗く、灯りの無い、汚れた細く路地の奥だ。
何かが、見えるものは何もないが。
奥へ奥へと誘うのは、佐伯の手足や首に絡みついた髪の毛のように細い呪力。
■佐伯貴子 > (暗がりにためらいもなく入っていく)
(意識ははっきりしていないようだ)
(ただ操られるままに進んでいく)
■雨宮 雫 > そのうち、大通りの灯りが届かなくなってから。
一人通るのがやっとだろう通りに別の灯りが生まれる。
地面に ぽつ、ぽつ、と蛍のように小さいが、緑色の灯りが二つ。
佐伯が進むごとに段々と、二つが四つ、四つが八つと倍に倍にと数を増やすソレに合わせて
キチキチ キチキチキチ
キチ キチチチ
と硬いものを擦り合わせるような音が聞こえ始める。
■佐伯貴子 > (虫の気配がする)
(虫は苦手ではないが人並みに嫌悪感はある)
(しかしそんな普段の意志とは関係なく、手足は動き進んでいく)
(先に何があるのかなど考えてはいない)
■雨宮 雫 > キチチ キチ
キチチキチチキチ カチ
何時の間にか、佐伯を取り囲んだ蟲の群れが手足を、顎を擦り合わせる音がする。
カチカチカチと音をさせながら地面を這い寄り、綺麗な円を画いて包囲して―――
―――靴に集り、足首へ、脹脛へ、膝へ 上を目指して一斉に登り始める。
緑の目に、青黒い甲殻を持った蟲の群れが、佐伯の体を登っていく。
■佐伯貴子 > (まるで人形のように立ち止まり、蟲に覆われていく)
(足元からペンキを塗られるように色が変わっていく)
(瞳には光沢がなく、その状況を受け入れているようだ)
(いや、受け入れられされているのか)
(わからない)
■雨宮 雫 > 頭以外をしっかりと隙間無く覆い尽くした蟲の群れ。
緑の目の輝くを強めると一斉に、顎を大きく開いて咥内から粘性の強い液体を付着させた鋭い針をせり出させて
全部が同時に、佐伯の体に突き刺しにいった。
強い神経性の麻痺毒を、服を貫き皮膚の下へと届けるために。
■佐伯貴子 > むっ…?
(針の痛みのためか、一瞬意識が戻る)
(ここはどこだろう)
(何でここにいるんだろう)
(GPSつきの携帯デバイスは女子寮に置いてきてしまった)
(部屋の鍵は開けっ放しだっただろうか?)
(誰か助けに来てくれるだろうか)
(いや、毎日連絡を取る友人はいないし、試験も終わったところだ)
(このまま自分がどうにかなっても気づかれない可能性が高いだろう)
(――そして意識が途切れた)
■雨宮 雫 > 脱力した佐伯を、地面に触れるより先に体に取り付いた蟲らが支えた。
開いた背中から青白い羽を露にさせて、一斉に羽ばたきを始める。
しっかりと佐伯を足で掴んで、更に奥へと運んでいくのだ。
目的地はもうすぐそこ。
路地の終点にある下水に繋がるマンホールが、真っ暗な中でもより一層に濃い黒さで口を開いている。
■佐伯貴子 > (暗黒の入り口へと運ばれていく)
(意識はもうないが孤独感が最後にあった)
(蟲が運ぶ方へ、物のように運ばれていく)
(待っているのは少なくとも、天国ではないだろう)
■雨宮 雫 > 佐伯を地の下へと引きずり込んでいく蟲の群れ。
ゆっくりゆっくり、下へと降下していく。
やがて姿が完全に見えなくなった頃。
最後の一匹まで蟲が中へと入り込んだ後のこと。
開いてたマンホールの蓋は、 ゴリ、ゴリゴリ と地面を擦りながら、その口を閉じていった。
■佐伯貴子 > (証拠は追えるだろうか)
(それ以前にこれは事件になるのだろうか)
(ただの失踪)
(それで片付けられてもおかしくない)
(もっと親交を大切にするんだったな)
(などと、意識があったら思ったのだろうか)
(全ては暗闇の中)
ご案内:「落第街の路地裏(乱入ご遠慮願います)」から雨宮 雫さんが去りました。
ご案内:「落第街の路地裏(乱入ご遠慮願います)」から佐伯貴子さんが去りました。