2015/07/21 のログ
久藤 嵯督 > 『ギシャアァァァァ!!!!』

コンクリートの森をびりびりと揺らすほどの咆哮。
まったく、五月蝿いヤツは好きじゃあないのだが。
ともあれ風紀委員としてもこれは放ってはおけないし、久しぶりに腕の鳴る案件である。
――一般生徒を巻き込まない程度に、遊んでやろうじゃないか。

ご案内:「学生街の路地裏」にリグナツァさんが現れました。
久藤 嵯督 > サーベルタイガーの牙のように尖った脚の一本が襲い掛かる。
それを横っ飛びで避けると、地面のアスファルトは容易く砕け散った。
腰に携えた打刀を引き抜いて、一太刀のもとに手応えを確かめる。

……駄目だ、斬撃はまるで通らない。
ごくありふれた刀から放たれた極技は、金タワシで削ったステンレス程度にしか殻を傷付けられなかった。

全身を覆う紫檀色の殻を、物理的に傷付けるのは難しい。
わざわざ転移させられたことから、魔術に対する防御力もあると考えていい。
これを自分一人で倒すには、どうすればいい?

七つの思考回路をフルに回転させる―――1.56秒経過にて思考完了。

   コンクルージョン
《―――結論:可能である。》


思考した隙を狙って再び脚を振り下ろしてきた蜘蛛であったが、難なくこれを回避。
         タ ガ
そして一瞬だけ、『限定』を二つ外す。

リグナツァ > 「この辺りにこのリグナツァの設置した『門』はないはずだが……」
ここ最近、教員とて見回りをするように成ったのは自然の流れだった。
しかし、リグナツァにとっては単なる保安上の見まわりではない。
自らの設置した『門』へ現れた不規則なノイズ、その原因を計測、算出した結果として…

ゆらり、と。陽炎のように路地裏に姿を表したのは鳶色の髪の魔術師。
いつものように連れているのは伴の白い大型犬。
誰の為でもなく、自らのために、あるいは自らの目的のために、不必要な『門』を排除しに現れたに過ぎぬ。

「嵯督か。」
だが、顔見知りの風紀委員の学生を
そしてそれを害しようとする化け物を見て、リグナツァは目を細めた。
手に負えるようであればそれでよし、そうでないなら…
教員はどうあるべきか。

そう考えていたリグナツァに、その刹那の動きが見えたかどうか。

久藤 嵯督 > 『ガガギィィンッ!!!』

タ ガ
限定を二つ外せば、体内からは生物らしからぬ無機質な音が。
自身の身体の周囲には稲妻が迸り、七つの思考はよりクリアに。
              スローモー
自分の一挙一同でさえ、今では退屈だ。
急加速を以って蜘蛛へと肉薄し、構える手には白金に輝く光球……『雷』が収束していく。
その間、その場に現れた生体反応の情報を読み取る。

(状況更新、魔術師リグナツァ・アルファニウス・ピセロット及びアルヴァーンの出現を確認。
 行動予測……敵意・戦意共に微弱。考えうる当人の戦闘能力を踏まえ、静観99.9%……その他0.01とする)

一連の思考を終えたところで、嵯督は未だ肉薄を終えていない。
それほどまでに思考速度が極まっているという事だ。
目にも止まらぬ速度で蜘蛛の懐へ潜り込めば、光球を押し潰すような形で
その横っ腹に掌打を浴びせた。

強力な生体電気から生じた電磁波は、殻の中の肉を一気に燃やし尽くす。
殻の間接部からサーチライトを照射した蜘蛛は、口から黒い煙を吹きながらその場に崩れ落ちた。
肉の焼ける厭な臭いが、路地裏に立ち込めた。

    ア ン サ ー
《―――答え合わせ:体内から破壊すること。》


『ガコン、ガコン』
 タ ガ
『限定』を付け直して、ふぅ、と一息。
一時はどうなるかと思っていたが、思いのほか相手がトロくて助かった。
しかしやはり”外す”とエネルギーを使ってしまうので、どうしようもない空腹感がある。

久藤 嵯督 > 「―――なんだ、野次馬か? リグナツァ・A・ピセロット」

路地裏へ来ていた教員の方を向き、何でもなかったかのように声をかける。
路地裏に立ち込める異臭も、紫檀色の蜘蛛の亡骸も、まるで最初から備わっていたオブジェクトのようだ。
その表情は浜辺であった時の仏頂面と何も変わらず。

あの声を聞きつけてやってきたにしては、随分と対応が早いように思えるが……

リグナツァ > リグナツァの瞳は嵯督が『限定』を2つ外した早さを追いきれはしない。
だから、目で追うことは出来ない。
しかし、見えていないかといえばそれは否である。
リグナツァは通常の視界とは別に、魔術で拡張した距離や範囲、対象識別、及び魔術識別を行うワイヤフレームじみた視界を持つ。
その視界はリグナツァの肉体的な目に依存せず、思考速度の制限を受けず、
反射的と言ってさえ遅い知覚力で以って転移術に必要不可欠なものである。

「済んだな。……無事で何よりだ。」
付け足す一言は、間違いなく心中から出てきたものだった。
見当違いの方向を向きながら、隠すように呟いたとしても。
この魔術師には久藤 嵯督が接敵し、
『雷』を用いて蜘蛛を焼き焦がすのが見えていた。

肉の焦げる匂いに、アルヴァーンが低く唸る。
たとえ動かなくなろうとも、警戒を緩めずにじっと蜘蛛を睨みつける使い魔を宥めるでもなく、
魔術師は蜘蛛の奥……『門』の魔法陣に向けて歩みを進めるだろう。

「『門』が開いているのが検知されてな。何が出て何を為すとも知れぬ。
だからここへ来た。
少し『門』を調べるぞ。」
先ほど無事だのなんだのと言った時とは打って変わって。口調は尊大なものに戻っていた。

久藤 嵯督 > 「この程度の相手なら心配はいらん。
 そっちも、飛び火せずに済んで何より……」

社交辞令だ。
風紀委員として、必要最低限の礼儀には気を使わねばならない。
やけに冷静に言葉を紡ぐリグナツァを見て、『やっぱり、やかましくないのはいい』などと思いつつ。

アルヴァーンが唸り声を上げるのを見ると、ちょっとした罪悪感に襲われる。
一度アルヴァーンのそばに座り込んで

「臭いだろ、悪いな」

とだけ言って、頭を撫でようとする。
さっさと後処理を済ませてしまいたいものだ。

「ああ、どうぞ。こういったモノは正直専門外なのでな。
 むしろ調べてわかった事を、俺に知らせて欲しいぐらいさ」

小さく肩をすくめる。
頭痛と『門』との関係性が見えた以上、自分は『門』について知っていかなければならない。
目の前にいる教員がそれを解き明かしてくれるというのなら、是非ともそうして貰いたい。
ただこの未来の侵略者とも言えなくもない者を信用できるか、と言われればまた別の話なのだが。
真偽はともかく、情報として得ておいて損はない。

リグナツァ > 「そうか。頼もしいことだ」
たとえ魔術で拡張した視野が有ろうとも、リグナツァは他人の戦力を判断し得るような知見は持たない。
あくまでも専門的な魔術師であり、義兄のような戦巧者ではない。
だから、襲われていれば心配もするし、容易く勝ったのであれば感心もする。
「このような学生が風紀委員であることは良いことだな」と。

頭を撫でられて、アルヴァーンはクゥンと喉を鳴らして、唸るのは控えた。
目線は蜘蛛から外さぬまま、『何を為すとも知れぬ』という主の言葉を忠実に守り、
たとえもう一度動こうと何をも為せぬよう、じっと見つめている。

魔法陣に向かったリグナツァは、しゃがみ込むでもなく触れるでもなく。
ただ、魔法陣をその視野ではっきりと捉えた。鳶色の瞳がその陣の深奥を覗きこむように、ただ見つめていた。

「……専門外?
専門家よりも先に『門』にたどり着くのが専門外であるなら、
このリグナツァの見立てよりもはるかにこの学園は進んでいるのだな」
『門』が開いているから来た、と。そう告げた時に嵯督に動揺が見られなかったこと。
また、門外漢であればそれこそ、たとえ目の前で開くのを目撃しようとも、
この路地裏に『門』が開いたなどとは思わず、学生の異能や、召喚術で同世界から呼び出したものだと考えるものだろう。
特に浜辺での件から鑑みれば、嵯督がそのような可能性の高い事象よりもリグナツァの意見を採るとは考え難い。
「まあ、これが何であるかわかっているのならば話は早い。
この魔方陣はこの辺境でいうところの『門』、異世界への扉であり卓越した転移術の粋だ。
既にどこに繋がっているかは見て取った。繋ぎたければ繋げよう。
陣の構成から言えば…このリグナツァの知る者ではないな」
「形式があるならば、それに従って風紀委員会まで所見を提出しよう。」
用は終わった、とばかりに魔法陣からリグナツァが踵を返し、邪魔な蜘蛛を通り過ぎる。
嵯督に向き合い、蜘蛛に背を向ける形で立った。

「それで、これはどうする。解剖するなら転送するが」

久藤 嵯督 > 「だろう? やはり風紀委員は、俺が規範であるべきだ。
 理解のあるヤツに会えて嬉しいよ」

そう言われれば気分を良くして、若干胸を張る。
大体、風紀委員にはクセの強い者が多過ぎる。
何、自分の事を棚に上げておいてだ? そんなことは知らん。
とにかく戦闘能力は仕方ないとして、理念に対してもっと真摯であるべきなのだ。

             コイツ
「巡回中、たまたま近くで『門』が開いたってだけだ。
 俺が特別詳しいってワケじゃあない」

嘘ではない。自分の持っている『門』の知識は、学園内に存在する公的組織の上層部程度のもの。
財団や研究区から全てを聞かされたワケでもないので、専門家と言うにはいま一つ足りないものがある。
しかしやろうと思えば、『門』を追うことだって出来るかもしれない。
今度頭痛が起きたときは、ひとつ試してみようか。

「……ここで繋いだままにしておくのは危険だ、こいつは消しておくか、厳重に塞いでおこう。
 行き先の座標を記録して、所見を風紀まで提出しておいて貰いたい。
 貴君の協力に感謝する」

ぴくりとも動かなくなった……もう息絶えているであろう蜘蛛に視線をやって。

「当然、解剖だ。転移荒野で出会っていれば生け捕りにしたかったが……ここは学生街だ。
 2から5番の保管室が空いているので、そのどれかにでもぶち込んでおいてくれ。刺さってる『刃』もまとめてな」

生徒の平和と安全が第一、それが風紀委員だ。
もっとも、風紀委員自身あまりが平和で安全ではなかったりするのであるが。

リグナツァ > 「だからこそ、規範足り得ぬものは嵯督を頼るだろうな。
……規範、あるいは主席、筆頭たるは前を向いて歩くばかりでは務まらんよ」
胸を張るさまを見れば、ほんの少し、たったの一年か二年前の自らを見るようで。
苦笑とも微笑ともつかない笑いを漏らしてリグナツァは言う。
あるいは皇帝陛下を例えに出そうかとも思ったのだが。

「たまたま、か……学びたいのならば召喚術の講義を勧めておくが」
それこそ。
…それこそ、『門』についてはこの学園では開く技術さえ忌避されている、というのがリグナツァの認識である。
かつての大量発生において失ったものが多すぎたからか、『門』が開くさまを見て平静でいる方が難しいと思っていたが、
あるいはこの青年であればそうするかも知れぬ。

「わかった。何、学生の安全に協力するのは教員としては当然のこと、
そのために働く風紀委員への協力を惜しむ理由もあるまい。」
学生に危害が及ばぬよう、教員として行えることは行う。
……人から聞いた話だ。ただ、自分にできる事であればそうしない理由もない。

「さて。では門外漢には為し得ぬことをさせてもらおうか」
尊大な魔術師の本領。人に出来ぬことを為すのが魔術師であり、それを誇るのがリグナツァである。
視線を投げかければ……パキリ、と硬質だが薄い何かが自壊するような音を立てて魔法陣が消滅する。
次いで袖を払って蜘蛛に触れると、「では2番だな」
これもまた一瞬で"飛ばした"。言うまでもないがリグナツァには保管室を見たこともなければ、構内図で場所を確認したこともない。
……だが、確実に蜘蛛はその部屋に転送されているだろう。少し条件が悪いからわざわざ"触れて"いるのだ。失敗などあり得ようはずもない。

「さて。為すべきことは為し終えた。風紀の増援を頼んでもここに調べるべきこともあるまいし」
「手近な詰め所にでも報告に向かうのなら送るが?」
自分も見回りの途中では有るが…どのみち報告するのなら立ち会ったほうが早い。まして学生を置いていくこともないだろう。

久藤 嵯督 > 「それは忠告か? ……いや、心得ておく」

性根は案外単純だったようで、心象が良ければあっさりと意見を聞き入れる。
そんな自分に自己矛盾を感じずにはいられないが、自分がそうしようと思ったのだからそれでいい。
表情は相変わらずの鉄仮面だが、以前のようなツンケンした雰囲気はない。

「なんだ、そっちで教えられていたのか?
 ならばいいだろう、二学期になったら謹んで履修させて貰う」

決して危機感が欠如しているワケではない。
『門』は基本的に『脅威』である。だからこそ、それに立ち向かう人間は冷静であらねばならないのだ。
毒を以って毒を制す。毒を知らねば、毒に殺されるだけなのだ。

「……2番保管室への転送を確認した、見事な手際だな」

携帯端末から、無事転送されたことの由を受けた。
自分が転移魔術で送る場合は、10万円もする外付けの魔力を二つも消費する必要がある。
お陰で小遣いを減らさずに済んだことを切実に感謝するのであった。

「一人で帰れないほどヤワじゃあないつもりなんだがなぁ。
 いやいいさ、”先生”の顔を立ててやるよ」

嵯督が誰かを『先生』と呼ぶのは、これが初めてだ。
そう言うと嵯督はリグナツァと共に、段々と人の気配が増えつつある路地裏から去っていくだろう。

リグナツァ > 「ああ。置いていくのも置いて行かれるのも、努めて避けるべきことだろうさ」
殆ど歳の変わらぬような教員の言葉を受け容れられるのならば。自分などよりも遥かに良い生徒なのだろうと思う。
あるいはだからこそ…彼が仲間や友人と離れることが有ってはならないだろう。

「うむ。……いや、うむ……このリグナツァも新任だからな。
カリキュラムの上では"あれでは"ほぼ『門』について教えぬようなものだし、それを変えることも出来ぬ。」
「カリキュラムで『門』に触れるときはそのほとんどが歴史についてだ。
有れば封じねばならない。開けることはならない。
……それで良ければ、嵯督の自由時間を使わずに教えられるな」
言外に…言外に、何かを求めながら。

「当然のことだ。歩く、走る、飛ぶ、そういったことと変わらぬ技に過ぎぬのだからな。
さて、それでは…行くとしよう」
つまり、これから詰め所に向かうのに、歩くのも転移するのも変わらぬという意識にほかならず――
せっかくの"先生"という呼称が転移先で剥奪されるのかどうかは、ただ二人と、当番の学生だけが知っているだろう。

ご案内:「学生街の路地裏」からリグナツァさんが去りました。
ご案内:「学生街の路地裏」から久藤 嵯督さんが去りました。
ご案内:「学園街の通り」にサヤさんが現れました。
サヤ > 「ふぅ……。」先ほど、常夜保険病院を無事退院したサヤは、ベンチに腰掛けてため息をついた。
財布や学生証の類と、袋に入った黒漆塗りの打刀が一振、そして一番大事な、ガーベラの造花、それが今のサヤの所持品であり、全財産だった。
少ししか歩いていないのにもう疲れてしまった、これは大分体が鈍っている、早く取り戻さないと。

サヤ > 「石蒜、起きていますか?」打刀に、そこに封印されたもう一人の自分である石蒜に声をかけるが、返事はない。
あの夜の決戦以来ずっとこうだ、外界を遮断し、一人で閉じこもっている。
きっと殺される気でいるんだろう、確かに私も最初は彼女を殺す気だった。
体を奪われ、心もズタズタにされた、純潔すら奪わされた、殺しても余りあるほど憎んでいた。
だが今は違う、憎んでいないといえば嘘になるが、石蒜も私の一部なのだ。
双子のような、あるいは一枚の金貨の裏と表のように感じている。だから、殺せない。

サヤ > しかしそれを伝えようにも、石蒜は完全にこちらを遮断している。仕方ない。
「本当にわがままですね、あなたは。」もう一度ため息をついて、ベンチの上で座禅を組む。
膝の上に刀を置き、精神を集中する。絆を結ぶ容量で、刀の中に自分の魂を少しずつ移して行く。
いくら語りかけても答えないなら、直接行くしか無い。
サヤの精神が、深く深く、刀へと潜っていく……。

ご案内:「学園街の通り」からサヤさんが去りました。
ご案内:「石蒜の精神世界」にサヤさんが現れました。
サヤ > 全てが漆黒に染まった世界、空には唯一、ワイヤーフレームの多面体とその傍で薄紫色の星が輝いている。その世界で、石蒜は胎児のように丸まって、泣いていた。
『さようなら、さようなら、鳴鳴様。さようなら……。』止めどなく涙を流しながら、壊れたレコードプレイヤーのように、それだけを繰り返す。
その目は何も映しておらず、耳や鼻も含め、全ての感覚器官は何の働きもしていない、外界からの刺激を全て拒絶して、ただただ悲しみと過去に浸り続けていた。
『(私は死ぬだろう、サヤは私を許さない。いつ死ぬのかな、出来れば何の前触れも無い方がいい。覚悟するのは怖い……。)』
もう何度目になるかわからない思考、死ぬ時を知らされて、みっともなく喚きたく無かった。命乞いをして、万が一受け入れられるのが嫌だった。
死ぬのは怖い、だが自分は死ななくてはならない、それが石蒜の思いだった。自分のような悪が生き残ってはならない。

サヤ > 『……!』近づいてくる何者かの気配に気付き、体を起こす。
『(誰だろう、いや、こんなこと出来るのは一人だけだろう、私に直接死刑宣告をしに来たか……。)』
『(何も知らずに死にたいなんて、虫が良すぎる話だった、サヤは私が命乞いをするのが見たいのだろう。)』
そこまで憎んでいるなら、万が一にも自分が生き残ることはあるまい、と、石蒜はある種の安堵を覚えながら立ち上がり、来訪者を迎えた。

サヤ > 全てが漆黒に染まった空間に、サヤは降り立った。「ここが……。」万物斉同、絶対無差別。鳴鳴の歪んだ思想を石蒜なりに理解した世界がそこに広がっていた。
「石蒜」

『サヤ』
互いの名を呼ぶ。2人はまるで双子のように同じ顔をしている、だが片方は決意を秘めた表情、白い肌に清廉なる巫女装束。
もう片方は全てを諦めた薄笑いに、褐色の肌、穢れた漆黒と血のような紅。
陰陽の白と黒めいて、対照的な2人であった。

サヤ > 『いつですか?』最初に、石蒜が口を開いた。『いつ、私を殺すんですか?』

「聞きなさい石蒜、私はあなたと話に来ました。あなたを殺すつもりなんかない。」目を見て、告げる。

『嘘が上手になりましたねサヤ、私を殺さない?ならどうするんですか、永久に封じますか?死よりも辛い孤独を味わえと?』いつもの嘲るような笑み。

「あなたを、受け入れに来ました。2人で共に生きましょう、一緒に罪を償うために。」毅然とした態度で言って、手を差し伸べる。

サヤ > 『何を言ってるんです、私を受け入れる?一緒に罪を償う?冗談も休み休み言いなさい。私は悪だ、あなたも含め多くの人を傷つけ、命すら奪った相手も居る。
罪があるのは私だ、私だけだ、何故あなたが一緒になる必要がある。私に死を以って償わせてそれで終わり、それ以外に何がある。
こちらは覚悟を決めていたんだ、今更惑わすな。』怒りを滲ませた声。

「あなたが生まれたのは私が弱かったから、現実に耐え切れず、壊れてしまったからです。だからあなたの存在は私に責任があり、罪も私が共に負うべきです。」

『違う、悪いのは私だけだ。全てを私に押し付けなさい、そしてあなたは潔白の身になればいい。』

サヤは一度、目を伏せた。この島の正義がそのように単純明快であればよかったのに。
「あなたは優しい人ですね、石蒜。でも、あなたが死んで全て解決とは行かないんです。
アルフェッカさん、あの時風間さんを助けた女性が言ってましたよ。"死ぬ事は何よりも簡単なこと。本当に大変なのは、罪を背負って尚生きる事。"と。
あなたは罪から逃げている、向き合うことを恐れ、安易な答えをそれしか無いのだと信じ込んでいる。」歩み寄る、もう一人で苦しまなくていいのだと、そう伝えるように。

サヤ > 『なら、ならどうすれば良いんです。あなたまで罪を被れば、牢獄暮らしじゃないですか。』うろたえるように、一歩下がる。
空に1つ、朱色の星が灯った。石蒜がそれに気付き、驚く。

「それはもう大丈夫、咎は受けなくて済みました。けれど、罪が消えたわけじゃない。だからもう一度言います、一緒に償いましょう、と。」鼻がぶつかるほどまで近づき
「もういいんですよ石蒜、あなたは一人じゃない。あなたの主人はもう居ないけど、最後まで私達のことを想っていましたよね?
畝傍さんも風間さんも、あなたのことも助けようとしました。あなたも生きていて、いいんですよ。」抱きしめた。

サヤ > 『私が……生きていて、いいんですか……?』信じられない、という風に呆然とする。
『私、あなたに散々……酷いことを……。罪も、沢山犯したんですよ……。』ためらいがちに、腕を背中に回す。
続いて橙、青、の星が点る。

「大丈夫、皆受け入れてくれますよ。一緒に生/行きましょう、石蒜。」抱きしめたまま、安心させるように背中を叩く。

サヤ > 『ごめんなさい、サヤ……ごめんなさい……ありがとう……。』そして2人は抱きしめ合った。
まるで本物の夜空のように、世界に無数の星が灯った。ワイヤーフレームの多面体の輝きは薄くなり、消えていく。
『(さようなら鳴鳴様、さようなら。本当に、本当にお世話になりました。)』消え去りつつある多面体を見上げて、石蒜は涙をこらえて笑った。
別れの涙は辛いかもしれないから、最後に見て欲しいのは笑顔だったから。

ご案内:「石蒜の精神世界」からサヤさんが去りました。