2015/07/24 のログ
久藤 嵯督 > 驚くほどではないが……なるほど。自分の目の前にいる少女も大概、人間を止めている。
これも前に言っていた『体質』とかいうヤツなのだろうか。
相手の状態もしっかりと確認できている。新人としてはこの上なく優秀な部類に入るだろう。頭のデキ以外で言えば。

「……頭のデキ以外で言えばなぁ」

口に出てる口に出てる。
そして言葉と一緒にポケットティッシュも差し出す久藤嵯督。

「ツッコむ前に鼻血を拭けよ、みっともない。
 ……そうだな。こいつを生け捕りに出来たのは、お前がいてくれたお陰だ。
 ”風紀委員”としては、感謝させて貰うさ」

風ですっかり荒れ果ててしまった白金の髪をかき上げながら言い放つ。
明らかに含みのある言い方だが、そこまで不機嫌そうにはしていない。
腹の中がどす黒い事は否定しないが、答えてやる義理も無い。

平岡ユキヱ > 「あら、ごめんあそばせ?」
ポケットテッシュごとひったくると、一枚をとってぶちーん、と堂々と鼻をかむ。
良い子は鼻血の時に絶対真似しないように。

「ちょっと! 人を馬鹿にするんじゃない! 国語とか世界史『は』得意んなんだからね!?」
期末テストとかの時に泣きついても知らんもんねー! とぷんすかまくしたてている。

「しっかし…よくこんな突発的な事件に早々に対応できたわね。予知とか探索の力でもあるの?」
そしてちょっと真面目な話題に移行する。そういえば、久藤がどういう異能、あるいは魔術なのか意外と知らないのだ。
これを機にと話題を振ってみる。

久藤 嵯督 > 「おい馬鹿やめろ、余計に出てくるぞ」

慌てて止めようとするが、恐らくはもう手遅れだろう。

「それ以外は? それ以外はどうなんだ?
 見ての通り、俺は成績優秀なんだ。テストでお前に頼ることなど、金輪際あり得ん」

腕を組んで、強く断言する。自分の事を頭のいいやつだと思っているが、実際にどうなのかは相手の印象次第といったところだろうか。

「たまたま近くを歩いていただけだ。
 どうやら俺は、やたらとトラブルを引き寄せる体質らしい」

これは嘘だ。実験に関係の無い人間を巻き込むわけにはいかない。
何故巻き込まないのかといわれれば、それは『風紀委員らしくない』から。
だから、巻き込まない。

「CTFRAにおいて俺は、【段階Ⅰ】「規格外」の評価を受けている。つまりは無能力者だ。
 ……そう言えば、お前の異能については聞いていなかったな。何だ?」

平岡ユキヱ > 「なん…だと…」
この世の終わりのような顔で久藤を見上げる。

「見ての通りって…お前のようなガリ勉がいてたまるかぁー!!?
 このユキヱさんをハメようったってそうはいかないんだからね!」
素数を数えて落ち着け! と動揺しながらも嫌な汗が頬を伝う。
「ほ、本当に頭がいいか夏休みの課題の進捗を見て確認してやろーじゃないの!
 はっはっはー! ほら、数学とか物理とかなんとかかんとか?」
ていうか自分がわからん。と内心思ふ。

「CTFRA…。ああ、聞いたことはあるけど、受けたことはないかなあ」
手続きとかねー、と頭をかきながら言葉をつづける。
「私の力は…『覚えた動きを高速で再現する力』よ。も一個あるけど、これはまあ…またの機会に。
 てか制御できてないし」
と、最後は少しバツが悪そうに声のトーンが小さくなった。

久藤 嵯督 > 「問題ない、既に完遂している。確かめたければ見せてやろう。
 先に言っておくが、どんなに頼まれたって写させてはやらないからな」

こう言うと変だが、余裕の仏頂面である。

「面倒そうだが、便利な能力だな。しかしまあ、二つも異能を持っているヤツは珍しいな。
 大抵のヤツは一種類しか持っていないものだが……」

さらっと『もう一個』と言い放つ平岡に対して少し驚いたように。
流石にその手の輩は島の外でも見なかった。

「いや、制御できんのなら無いも同然か。
 ……そろそろ迎えが来たようだぞ」

スラムタワーの下の方に、回収部隊がやってきたのが確認できるだろう。
恐らく窓があったであろう長方形の隙間から、地上の方を見下ろした。

「じゃ、俺は先に行くぞ。事後処理はあいつらがやってくれるだろうし、
 俺のような優秀な人間は常に見回る必要がある」

事実を言ったまでだ。だが、事実を盾に隠していることもある。
同僚の目にナルシスト野郎として映ろうとも、どっちみち構いやしない。
その部屋から去っていく嵯督は、別の部屋の窓から地上へ降りていくことだろう。

平岡ユキヱ > 「…!? 既に…はっ、えっ…? んっ?」
何か信じがたい言葉をきいたように硬直する。
異能がなんとかいう話になっているが、それどころじゃねえ!!

激しくなる動悸を抑えながら、ユキヱは数秒後。

「…。くどーん、お願い♪ ちょっとだけでいいからさー!」
ひゃっほーい、と安寧な道を選んでしまった小物と化す。タオルいる? 疲れてない?
など、熱い手のひら返しがゲスっぷりを際立たせたコトであろう。

久藤 嵯督 > 平岡に背を向けて歩きながら、そのゲスな頼みを聞いている。
そして一瞬だけ振り向くと、口元を歪に吊り上げてこう言った。

「―――いやだね」

それだけ言い残すと視線を前に向けて、窓から飛び降りては夜の街に消えていくのだった。
グッバイカンニング、ハローホームワーク。

ご案内:「落第街上空」から久藤 嵯督さんが去りました。
平岡ユキヱ > 「…。やろうぶっころしてやる!」
逆恨みここに極まれりというか風紀としてだいぶんアレな言動を連発したのち。
にげんじゃねー! 久藤に追随するように帰投しただろう。

おそらく途中で巻かれただろうが。
「ヤツは『完成された宿題』を所持している…!
 これってかなり重要案件じゃないのぉ~!?」
ドドドとかゴゴゴとか言いそうな雰囲気のユキヱさんが、そこにいた。
覚悟はできてる。

ご案内:「落第街上空」から平岡ユキヱさんが去りました。
ご案内:「未開拓地・背景”市街地”」に『名のない少年』さんが現れました。
『名のない少年』 > 風紀委員――否、五代に届いたメールは
奇妙なものだった。
宛名もない、逆探知もできない。
ただ、内容だけが知らされる。

『よい背景だった。七つの色を刻むために
 鈍色を切り裂く闇色。スポットライトはあたらずとも
 主人公であるべき力を持ちつつもエキストラを称し
 それこそ、背景に殉ずるものたち。そこに”正義”
 ”守護”を司るもの。あぁだからこそ、ぼくの舞台にふさわしい
 だから――勝負をしようよ。受けなければ、演劇が叶わなければ
 ”ぼくら”がどうするか、キミたちには、もう。分かっているよね?』


そして、かわいらしい囚人服を着た顔の見えないアイコンがデータを運んでやってきた。
地図――未開拓地。なにもない、そこ。
そこには、ただの更地が広がっているだけ。
とらえるなら格好の的――
そこをあえて、指定してきたのは、つい、先日の話だった。

――そして今、時が訪れる。

『名のない少年』 >   
 恋焦がれた転生の炎は
 なし得ぬままに、戻るはずの身体を焼き焦がす。
 見たいという欲望 と そこに差し込まれた観客たちの眼差し故に
 
 だからこそ、望め。元を焼くほどの視線を送れ、オクレ。
 その望みこそ、ぼくの”背景―ユメ―”
 取り繕うな、渇望しろ。
 そうここは、”劇場”――
 見たいものを見るための場所。
 
 そう――

 その観客も、演者も――この世のすべても――

 ”神”が用意した創造物故に――

 そうさ――人間は――

         傑作だ

ご案内:「未開拓地・背景”市街地”」に五代 基一郎さんが現れました。
『名のない少年』 > 紡がれる”詠唱”
強制同意。
その光景を知っているのは望んでいるのは
場所にいる少年だけではない。
観客が”電脳世界の住人たち”が
情報が、望む。かの”伝説”の末路を。
ひとりの魔術師の終わりを。

だからこそ。その”情報―かりそめ―”の世界は
いま、”機械仕掛けの神”によりここに降臨する。

舞台は――市街地。誰一人そこにはいない。
いや、たった一人の囚人と。
あの時相まみえたドローンの群れが生息する魔地へと

”改竄”されていく。

これで、すべては整った。

『さぁ、ゲームをしよう。キミたちが勝ったら好きにするとよい
ぼくが勝ったら好きにさせてもらう
殺しはしない、フェアじゃない。これは、ゲームだから』

送られてきたのは複雑な将棋にも似たオンラインゲーム。
現実の組織と、隊が連動してしまう。
駒取りゲーム。

――あとは、役者がそろうのを待つだけだ

五代 基一郎 > 「要約するならば『七色』の件で遭遇した何者かからの招待状だ。」

特殊警備一課、その彼らが保有する硬式飛行船『マリア・カラス』
そのブリーフィングルームにて第一小隊長ではなく第二小隊長の五代が
説明を行っていく。

先の戦いで実働でも組織犯罪ではなく、と対策が映り
対応部署も移ったため本来彼らが出ることではない。
が相手が先の戦いにもいただろう、『七色』の支援者であること
その一小隊以上を導入できる『実力』という二つの要素から
五代個人に当てられた……特殊警備一課の人間に向けられたもの
ということを以って、彼らが導入されるにあたった。

五代も人間である。仮定の話として人間でなかったとしても
一つの個体存在なので群体を相手にすることは不可能である。
二つの手を持つ人間はそれ以上の手の数を裁ききれない。

という基本的な点をまず彼らに説明する。
その点は納得するし、何より前回遭遇し戦闘した相手であり
確保できなかった相手。部署がどうこうあれど、やれと言われなくとも
対応するに十分な気、モチベーションが彼らにあった。

五代 基一郎 > 「『七色』戦と今回出された電子声明文をも見るに、相手はフェニーチェの裏方であると断定できる。
 前回全く姿を見せず裏方に徹していたことから”凶行を主とする”フェニーチェを傘に来た凶悪犯罪者ではなく
 演劇を主とする、演劇に心理的中心に置く劇団員。彼らのフェニーチェという違反部活組織らしい人間と思われる。
 が、その裏方が直接出てきた。舞台を用意し招待状……出演依頼を出してきた。
 文面から察するに演劇が叶わないことどうこうが主ではない。受けることがほぼ前提だからな。
 なぜならこの文面で、演劇を主とするものが叶わなければどういう凶行を起こすか想像させることで既に決まったようなものだ。
 あの『実力』を見せられて我々治安維持組織が動かざる負えないことも理解している。
 奴がこの声明文を俺に送りつけたことで、既に舞台徒演目、キャストは出来上がっていることになる。」

そう。前回のことからこの『何者か』が演劇に盲目な、むしろそのために組織にいると察せられるには十分なものを見せてきた。
『七色』は己の劇を、亡き団長の言われたものを。自らの劇というものを完成させるため。
『癲狂聖者』は己の演技力を亡き団長に見せて華やかなスポットライトを浴びて認めてもらうたあめ。
そしてこの『何者』かも己の手がけた物が映る舞台の為に舞台に狂い。
彼らは団長という首謀者がいなくても確かに劇団の団員と呼べる者らであろう。
だがその団長がおらず残党という残されたものであったからこそ
組織ではなくなり崩壊が、退場を望まれるに至ったのだ。

「舞台会場までアクセス、場所の指定が未開拓地であることも不可解だ。
 『何者か』の能力はドローン操作や電子戦というのを我々は見せられた。
 だがそれらを使うに十分でない場所となるとそれ以外のもの、電子戦闘とは全く別の
 能力を持っている可能性は十分にある。何もないからこそ、何が起きてもおかしくない。
 加えて電子のない荒野を指定したものの、電子データであるゲームソフトを添付してきた。
 意図は読めんが現状これ以上のことは出来ない。
 我々は指定の場所に近づき次第『ベッコウバチ』と『シェパード』『ハウンド』にて確保に向かう。
 装備は何でも好きに持って行くんだ。今回もだが現地での柔軟な対応が求められる。以上。」

全員待機、準備に移れと第一小隊の隊長の号令と共に各々解散していく。
送られたオンラインゲームの意図は読めない。
こうしたもの……大型のロボット兵器もだが機械や電子は第二小隊の方に回る。
現在送られたデータが納められたPDA(安全上特殊装備のヘッドマウントディスプレイ、フルフェイスバイザーヘルメットに納められている)と接続したお茶くみロボットが解析を行っているが現状それ以上のものはでず。

五代 基一郎 > そして指定された場所に近づけば
硬式飛空艇『マリア・カラス』から輸送兼攻撃ヘリ『ベッコウバチ』が
フル装備の……一人総重量0.5㌧あるアーマーを着込んだ特殊警備一課の隊員を乗せて運び
また『マリア・カラス』から共に投下された四輪バギー『シェパード』に軽四輪装甲車両『ハウンド』
に乗った隊員達が現地へ先導するように疾走していく。

■オペレーター>「対象地点、沈黙。未だに動きはありません。」

未だに荒野のそこを観測するも何も現れず、何も起こっていない。
イタズラだったわけなどない。『何者か』は確かにそこで待っているはずだ。
どのような意図があるか、何を見せる気なのだろうか。

■お茶くみロボット>「五代サン!ネットワーク上デ 何カガ!」

ドラム缶のような体にキャタピラの足をつけた、彼が古めかしい
頭のタコメーターやら電子音を鳴らして警告を行う。

「何かがって、それは今」

確かに添付されたオンラインゲームを調べてくれと頼んだが
それと関係あることなのか、と言おうとした瞬間。

それは現れ始めた。


■オペレーター>「前方……いえ、指定地点に何かが出現していきます!」

『マリア・カラス』と特殊警備一課の面々が指定地点に近づけば
その荒野に今からと構築されていくようにそれが実体として徐々に現実へ出現していく。
何もなかったはずの場所に、舗装されたビルが、建物が、最初からあたかも存在していたかのように。
常世島の一部がここに転送されたのかとでも思えるほどにそれが目の前に現出していったのだ。
加えて言えば、そこに続々と出現していく反応。ドローンの群れ。

何もなかった荒野から一転して何が起きるかわからない、何もかもが有り得る市街地……魔地”まち”が
出現した。

■第一小隊長>「これも電子の舞台演出というのなら、大したものね」


隊員を投下した『ベッコウバチ』が攻撃モードに入り市街地でのサポートに移り
『シェパード』や『ハウンド』に乗った隊員達が続々と市街地に乗り込んでいく。
まさしくそこは市街地戦が行われるのではないか、というシチュエーションが
もしかしてではなく確実なものとしてせり上がった。

「魔術との区別がつかないな。魔術かもしれないが。相手からはまだ何か来ないか」


■お茶くみロボット>「待機チュウデス。確認シマスカ?」

頼む、とお茶くみロボットと繋がった専用のヘルメットを装着する。
フルフェイスヘルメットが密閉されれば
ヘッドマウントディスプレイのバイザーがデジタル情報を映し出す。

サブウィンドウには先ほど起きた常世全体のネットワーク概念図にて
一度起きた何かしらの揺らぎを捉えた瞬間がリピートされ
メインウィンドウにはオンラインゲームのログイン画面が映し出されていた。
最も奇妙なのははそこにID入力スペースも、パスワード入力スペースもなく
ただログインボタンだけがあるというところだった。

「状況は既に動き始めた。こちらもログインしよう」
■第一小隊長>「虎穴に入らずんば虎児を得ずというには穴が広すぎないかしら」


そもそも穴なのかどうかすらわからない。底の見えないその電子の海に
お茶くみロボットのサポートを得つつ没入していく。
尚、立ちっぱなしになるのもあれだからと艦橋の適当な場所に
持ってきた椅子に腰掛けて座ってゆっくり意識を電子世界に向け始めた。
アイコンはお茶くみロボットがサポート、かつメインでもあるため
のっぺりした体のマスコット。古代の人を模した土器であるハニワのようなシルエット。
目が2つ、口1つと点で表されたものだ。シンプルすぎて誰も作らなさそうだが
それなりにわかりやすい。それがゆらゆら揺れつつオンラインゲーム上で待機している。

『名のない少年』 > オンラインゲームが始まれば――
チャット画面が出現した

『やぁ、”騎士職―ヒーロー―”。いらっしゃい、ボクの世界に』

そのあとのアニメーション。プレイヤーには市街地が、徐々に徐々に
盤面へと変わり。チェスなのか将棋なのか……いやそれらを複合したともいえる
複雑な、駒取りゲームへと。
理解する。いや、させられる。ゲームを起動したとたん情報の羅列が
無作為に流れ込んでくる。これは――
今から行われる、制圧戦、もしくは殲滅戦を形とる。
現実を侵食するゲームなのだと

『キミは、ぼくとおなじ。整える側の人間だ。だから感情などのまえに
方程式が先に立つ。理屈が優る。だから、この手のゲームがふさわしい』

自陣の駒が青で、ここに配属された人数分表示される。
それに対して、赤がところどころにちりばめられている。

『さ、始めよう。やりながら覚えるのも一興、だろ?』

チャット画面。表情や、声音は見えない。
が、静かに。メールでも見た囚人服のアイコンが
仰々しく、お辞儀した

五代 基一郎 > 制圧戦”コンクエスト”ゲーム
お茶くみロボットがルーリング等をネットワークから探し
簡易にサブウィンドウに表示させていく。
概要的にもオーソドックスであり、かつ発達したネットワークシステムと
モデリング技術から奥が深く常世の外でも人気があるようだ。

だが今そこにプレイヤーとしている男は
そもそもゲームに費やす時間がないのもあるが
この手のゲームを触ったことなどない。

加えてこれはただのゲームではなく現実を侵食するとしている。
そんな一文どのサイトにもないため、恐らくこれが『何者か』の異能か
魔術であることをお茶くみロボットは推察した。

であるならばこの対面の相手のいうような『やりながら覚える』
ということは相手なら出来るだろうが自分では決して許されない。

なぜなら今このディスプレイに映し出された赤い点はさておき
青い光点は自分が日頃から接してかつ訓練もして顔もしっている人間だ。
いくらリチャージ機能のあるバリアシールドを搭載し最先端の重装甲を纏う戦士であっても
何が起きないということはない。ゲームである、というまず前提上限を頭から外さなければいけない。

失敗して覚える、などということは許されない。


「名前は?そちらの名前を伺ってないが。」
礼儀とかではなく分からないと呼びづらいもんでと
”音声入力”のチャット、ボイスチャットで呼びかける。
ネットワーク上のサポート、メイン共にお茶くみロボットであるがゆえに
マスコットのような胴長のアイコンが揺れながら音声を伝える。
声色に全くあっていなかった。

状況はハッキリ言えばほぼ風紀の警察的、特殊であってもそれらの案件とは違う様相になる。
これはほぼ紛争時の状況に近い。小規模であれど都市戦闘を想定した戦いになるのが
またハードルを上げる。本当ならばバトルタンクや手厚い航空支援や砲兵支援が欲しいところだ。

状況も相手の本陣。防衛に対しての攻撃
そしてこちらは命という絶対に軽視できないものがある。
不利な状況しかない。開始早々でここまで困難な事態に直面させられたものだと思う。

『名のない少年』 >  
『”美術屋”。それ以上でも以下でもないよ』

問われれば。謳う。
もうすでに彼女に取られてしまった称号を
ただこの一時だけ、黄泉から還す。冠を取り戻す。
この脚本において、自分は。そうでなくてはならない
そうあればこそ、目の前のそれたちは自分を無視できなくなる。
対処せざるを得なくなる。
そう、事態をおさめる抑止力。
日常のために非日常に半身を沈める者ども。

”天秤―ちょうさ―”の果ての傾き
裁きの刃を手にする、執行者――

それが彼らであるがゆえに。

『”チュートリアル”は省くほうでさ。じゃあ、やってみるよ』

―防衛ターン―
そう表示された後
赤が迫る。
エフェクト。”現実”が目の前で展開。

コマンド表示……”止まって迎撃”か”強行突破”

ゲームの中では――


現実――その場所では。

無数の機械仕掛けの獅子が、バギーと車両を追うように
並走する。その身体から出たのは、対装甲機銃。
それらが連射されていく。

『選択を間違えないように。命を取るつもりはない
 こちらは命がないからね。でもそれ相応の傷は負ってしまうよ
 このゲームでは。復帰できないくらいの、ね?』

五代 基一郎 > 「”美術屋”ね。」

フェニーチェの『美術屋』 符号が合致していく。
あのドローン群もあの荒野に突然現れた市街地も『美術屋』が用意したものだということか

音声入力、ボイスチャットの声と同時に艦橋にて配信されるゲーム画面を見て
オペレーターの面々は息を飲んだ。
ほぼ組織犯罪のような規模が今一個人の力で行われているのだから、何をとも誰もが思うだろう。

このゲームで戦うことで、どうかすることでどうなるのだろうか。
そもそも盤を蹴りあげてもと思うがそれは選択肢としては妥当ではない。

まず『美術屋』の目的はさておき、我々の目的は最初から決まっている。
それは『美術屋』の身柄の確保であり法の下で裁くことにある。
故に『美術屋』の言う通り、勝てば好きにしろという勝利報酬とでもいうものだろうか。
そのために正統に戦わなければいけない。
何故ならばそもここに、この指定された場所に『美術屋』がいる確証はない。
確保する対象がいないのであればゲーム破棄して乗り込んで確保したとしても
それはご破算を意味するだろう。何をされても文句は言えない。

『美術屋』が約束を守るか、という疑問はあるだろうが
そこは確信のようなものがある。『美術屋』という裏方が表に出て
劇団長のように招待状を送り、舞台と公演とキャストを決めて来たのだ。

劇団の団員であることを重んじる『美術屋』が行ったそれは裏方であることに反する。
それはある種の最後にしか出来ない一手だ。何せよ『美術屋』はこれで最後の仕事のつもりで挑んでいる可能性が高い。
ほぼやけっぱちみたいな好きにしろというのもそこから来ている可能性がある。
だからこそ前回の『七色』の時より苛烈になるのはわかりきったことだ。

殺しはしないというがそれを許容した指示など出すわけにはいかない。
起きてしまったらそこまでだ。
だが慎重になり、長考できるような状況ではない。

故に役割を分ける。
データの補助、システム上のサポートはお茶くみロボットに任せ
自分はコマンドの決断を選択。
第一小隊長は現場レベルでの詳細な支持を出すというものだ。


─防衛ターン─
そうしたディスプレイの表示に出てくる二つのコマンド
”止まって迎撃”か”強行突破”かの二択

「強行突破を選択」

迷わず後者を選ぶ。

お茶くみロボットが敵のマーカー、と現在システム上で探知しうる
敵のユニット情報と進路予想を各々のディスプレイに伝達する。


■第一小隊長>「六班。対処は任せる。決して止まるな、囲まれたら一つずつ潰される。」
■六班長>「わかっています。しかし可愛くないヤツだ。家には起きたくないな。」

第一小隊でもとくに厳ついシルエットを持つ六班長が
車載ではなく自身が構えるガトリング砲を車両の荷台から機械仕掛けの獅子に掃射する。
目的は破壊もあるが、近寄らせないための壁として射線を流す。
揺れるように、波状にその弾丸を撒くことで近寄らせず、また正確な射撃を抑制することになる。
ただでさえ正確性がズレる移動中の射撃をさらにその精度を落とすために壁を作っていく。
道路状況に影響されずしなやかに動くその機械の獣の射撃制度は
人間が狙うよりもずっと制度がいい。だからこそ少しでも状況を不利ではない方へ維持しなければならない。

先にも言った通り乗りこまれたらその機動力が封じられる上に
止まって迎撃などすれば方々からドローンがやってきて各個撃破されていくのが関の山だ。
誰だってそうするだろう。一対一より一対二、相対するなら数は多いほうがいい。
つまり先に数を減らせるのならば足を払って食いかかるのが常套手段だ。

故に今こちらの防衛となるのは拠点を防衛することではなく
機動力とユニット、隊員達を防衛することにある。
だからこそ一見攻撃的な”強行突破”が防衛の意味を持つ。
これは何に向かって強行突破するのではない。
状況を突破するため、強行する防衛なのだ。

攻勢に移るチャンスを伺いつつ、相手の機動力を見定めながら
相手のリアルタイムで動く配置を三次元的に考察していくことが
必要とされるのだ。

『名のない少年』 > ――あぁやっぱり”分かってる”

その光景をもうひとつの世界と、現実
両面から見つめる、囚人服。

裏の世界のサイトでは、その光景に歓喜していた

 はじまった  ついに、あの美術屋が
    綺麗な背景を描くのか?   いや犯罪者はさっさと退場するべき
    青の装備やばくね?   ドローンかっけー

などなど、湧きたつ。
ふわりと、微笑みを浮かべた。

打ってきた手、強行突破。それは正解だ。
いや”現実”が”正解”とした。
戦争において、正解など結果論だ。
最適解だと思えば、不慮の事態で”最悪”になりうるし
最悪の単独行動が勝利に導き、正解の場合もある
このゲームは、思考の実力と現実の実力
作戦と、実行力。そして運を兼ね備えたゲームだと
今の攻防で理解できることだろう。

六班長のガトリングが獅子を穿つ。
一体を穿てば、そこからは総崩れだ。
機械のような精密さで、仕組まれた戦術パターン。
そこに穴ができてしまえば、それで終わりだ。
あとは、一体ずつ殲滅されて終わりだろう。
そして、青を囲んでいた赤は消えていき――


―防衛成功―

『やるね。さすがだよ。やっぱ強いね』

ターンが後退する。赤の攻撃ターン。

市街地が一瞥できるよう全体図に変わり。
そこから敵の拠点が複数表示される。
敵が本当に要るかは探知できていないが
攻め入る場所は全部で5つ。

ここからそう遠くない、巨大なビル。
少し遠いが、廃研究所。
まだ稼働しているかわからない発電所。
ひっそりたたずむ武器庫

そして、中央に配置された巨大なタワー

攻撃パターン選択。
一点集中。
分散、各個撃破

――さぁ、どうでる……? 戦術担当……

五代 基一郎 > 状況は厳しい。悠長に待ってくれる相手ではないし状況は動いている。
その中で最善以上のものを出さなければいけない。
これも劇の演目だというのならば、若干どころではなく癪に障るが
今はそれを考えている余裕はない。
深く、また考える。

実際特殊警備一課はその実力を遺憾なく発揮している。
恐ろしいほどに洗練されて鍛えられた、かつそれに見合った装備を渡されている。
故にこの状況でも、信頼して伝えることができる。
一応教育には関わったが直属の上司でもない自分に命を預けてくれることに感謝しているぐらいだ。

■六班長>「こちら六班。迎撃に成功しました。指示を求む、どうぞ」
■第一小隊長>「道を直進、第五班とインターで合流しろ。道はそのまま、指示は追ってだす」
■六班長「了解」

再び六班の班長が荷台からガトリング砲を構えて周辺の警戒にあたる。
大型のベルト弾倉で繋がれたはそれは熱を未だに放っている。

「どうかな。何せこのゲームは初めてなもので。」

そう冗談めかして話しつつ状況の映像をサブウィンドウで見やる。
こちらの実力は見せているものだが相手がどこまで出来るのかがわからない。
相手に情報を渡しているようなものだ。何せ相手はドローンを使うわけだが
それも指示プログラムや使うもののどこまで、という程度を決められる。
それこそ先の機械仕掛けの獅子が”ビギナー”向けのであったならば、この先どのような戦術パターンで
来るかは想像できない。あれ以上のものが来る可能性は十分にある。

そして赤の攻撃ターンに移行すればディスプレイに映し出される
『美術屋』サイドの拠点が5つ。

巨大ビル、廃研究所、発電所、武器庫。市街地中央に配置された巨大なタワー。
そこに大して分散して各個撃破となるか、一点集中でどこかを攻め落としにかかるか。

状況は常に動いている。全てに対してどうでるか、どこかを選んで分散させるか
全てに分散させるか、一点集中か。どこを選ぶか。

市街地を移動する部隊を常に走らせておくわけにはいかないし
相手に時間を与えることも状況を流動させ攪乱させられかねない。

「一点集中。目標は発電所だ。」

■第一班長>「了解。これより全部隊と共に発電所に向かいます。」

■第一小隊長>「ベッコウバチは道中の支援と該当施設周辺の制圧にかかれ」


と、現場へ指示するも何か言おうとする第一小隊長へ頷きボイスチャットをオフにして
出るだろう疑問に答える。


「分散はまず考慮外だ。相手にも各個撃破される可能性があり拠点に攻め込むというのならば
 それは相手のほうが圧倒的に有利だからだ。
 となると残りは一点集中でまず重要だろうところを先手で叩く。

 この5つの場所のうち即断できたのはまず2つ。発電所とタワーだ。
 巨大なビルは『ベッコウバチ』で外周からの機銃掃射等で制圧にかかれるオーソドックスなプランだ。
 時間もそう掛からない。常世の市街ではないから”多少”荒っぽいやり方も許される。
 廃研究所は些か遠い、離れすぎているのが大きい。
 他にかける時間も考えれば攻めるには後にするべきだ。
 武器庫は確かに危険だ。相手の武器の質で戦いの有利不利は確かに変わる。
 だが現状それも流動的であるしそこと潰しても現状の打破にはつながらない。
 巨大なタワーは明らかに制圧目標として大きい意味があるように見せている。
 そこに向かえば何がしかあるだろうという誰もが思うだろう。
 だがそこに向かった時、何をどうこうできる程のものがあるかと可能性を考えれば
 発電所だ。エネルギーソースとして十分なものが用意されている。
 他の施設にもエネルギーが供給されている可能性もあるしここを落とせば全体として有利に運べるかもしれない。
 そこに何かしらのものがあり、タワーに目を向けている間に背中から叩き込まれたら一網打尽だ。
 分散してても、施設ごとどうこうできそうなものがあってもおかしくない。
 何もないというのもありえるがそれなら確認を済ませれば変えればいい」

そこでちょっと待ってと第一小隊長が口を挟む。
先の『七色』の件のようにエネルギープラント、発電所をオーバーライドさせ
爆発物に変えれば施設に来た人間ごとそれこそトラップとして機能して
諸共に爆破するのであればと。

「それは十分あり得る話だし、やることも十分考慮している。
 がそれはまず前提から外していい。最初に『美術屋』が言っただろう。
 人死にはないと。発電施設の暴走によって引き起こされるものがどのレベルの災害を起こすか。
 そんなことは言う必要もない。例え仮想であっても島の地形が変わる程度の被害の想定はできる。
 怪我どころでは済まない。
 だからこそその可能性はまず考慮から外していいんだ。
 リアリティのある戦争的舞台だがリアルでもあるしリアルではないからだ。」

納得したように頷き、現場へ向かう指示を出すことに第一小隊長は戻り
お茶くみロボット共に戦況を見続ける。そろそろ到着する頃合いだ。

■一班長>「到着しました。これより一班から四班より編成、突入します。」
自動小銃を構えたスクワッド・ユニットたちが突入を開始し
施設周辺を『ベッコウバチ』が旋回する。


■第一小隊長「第五班と第六班は『ベッコウバチ』と共に周辺の防衛にあたれ。
       ……しかし爆発物がないとしたら、何があるのかしら」

「発電施設のエネルギーリソースが使える何か、とかか。
 ドローンであれば想定するのは難しいレベルのものだ。
 まぁ、何もないことを祈るよ」

有り得ないけどな、と思いつつまたディスプレイに戻る。
蛇が出るか鬼が出るか。

それとも。

『名のない少年』 >    
どこまで考えてんだ……    すげぇ
    現場と、上層。信頼ってのができてるって感じするよな
 こんなのに守られてんだ、安心する
           いやいや、ちょっとまてよ。こんなもんで終わるわけないだろ
  そうだ、フェニーチェだぞ

いろいろな思惑が躍る。
そのなかで、静かに。囚人は嗤った。

――あぁ、いい。満足できる

だから防衛ターン。囚人は”眼を瞑った”

走らせるプログラムは――”盲目打ち”……
発電所における、全ての指揮と前もって打っていた戦術を
すべて放棄。全部――ドローンに忍ばせたAIに”一任”する。

――暴れろよ、人形たち。傀儡だけじゃ、面白くない。電子の先の世界
そのひとつを見せてやれ

動く。迎え撃つ。
発電所にいたのは、この発電所の核――龍を模した巨大なドローン。
趣味的な、ド派手な見た目に反して。その装備は凶悪だ。
そこに視線をとられれば、あたりに展開された人型の殺戮兵器が牙をむく。
侵入者を排除する、ステルス機能をもった暗殺”機人”。
それらが虚を突いて、腕から飛び出た特殊装備には到底及ばない鈍。
しかし、鋭い刃で足と腕の腱を狙って動きゆく。
その動きは機械に見えない。
まるで”人”を相手取っているような――

そうこうしているうちに、発電所の核である龍が
エネルギーをためて――翼よりなにかを打とうとする。

”殺しはしない”? 何をばかな
あれを食らえば、死ぬより酷い目に合うのは明白だ。
以下に頑丈な鎧があれども――

『はじめてにしては冷静な判断。しかも一番痛いところ。
 切り札の場所をつかれたかぁ……
 英雄に龍はつきもの、だから奮発したんだけど
 どうしのぐかな? 現場は』

楽しそうなチャットログが映し出された

五代 基一郎 > 「なるほどな」

ボイスチャットに変えて、聞いたことの感想をそのまま口に出す。

何がなるほどだ、と第一小隊長はマイクを切り訴えてくる。
確かに爆発するような事態はなかった。
だが蓋を開ければどうだ、発電所の炉心そのものが迎え撃ってきた。
趣味的な外装がただの舞台装飾でないことなど用意に察せられる。

■お茶くみロボット>「現在公開サレテイル、各国ノ軍事データヲ参照。
           該当データ、ナシ」
「だろうな。趣味的な軍事兵器なんて聞いたことない。大陸のものでもないだろうしさ。」
■第一小隊長>「ならあれをどうやって……まさか」

思い当たる節があった。想像しうるものがあった。
だからこそ確認のために第二小隊長へ顔を向ければ、頷いて返す。


「おそらく自作だろう。ドローンをこれだけ操れるんだ。
 最初は一機二機だったかもしれないが、製造プラントを作れる程に強大になってたのさ。
 電子戦闘能力からみてもインフラシステムの構築することはワケないだろう。
 ドローンだけじゃなくAIを構築して並列処理させ続ければ一人で制御しているわけじゃなく
 もう一つの組織だ。とんだ裏方がいたもんだ。」

天津重工のビル管理制御が乗っ取られていたのもこれが関わっていたからか、と納得する。
この常世島は狭いようで広く、また広いようで狭い。
人材も限られている。卒業する人間もいるわけで流動的だ。
だからこそそうしたインフラや機械産業の場所ではオートメーション化が進んでいる。
それら工場の管理システムデータや工業機械の図面データ等を複製し
ドローンにより制作、組み立て等続ければ一人で重工業会社の立ち上げなど夢ではない。
普通に考えれば制御できる人間がいないだけであるが、それが出来る電脳世界の魔法使いがいる。
この未開拓地域にていつからかドローン工場を作り上げていたのだろう。
それでいてそれらは全て劇団の演目のために使われた。企業を立てるわけでもなく
反政府活動に使うわけでもなく、檀上の美術のために。恐ろしい話だ。


■第二班長>「隊長、そいつだけじゃありません。光学迷彩を積んでるヤツがいますね。
       数は不明。動きはドローン以上。人間の達人というんですかね。
       風紀の生活指導課との合同訓練を思い出しますよ。厄介なもんですよ。」

■お茶くみロボット>「”機龍”ヨリ高エネルギー反応増大。危険デス。」


「確かにとんでもないものが迎えてくれたもんだ。
 しかし、まぁどうしのぐ、か。
 どうするもこうするもないさ。
 指示は出した。あとは現場が”いつもの通り”
 対処するだけだよ。」


そう。現場が対応するだけだ。
第一班の班長が無線越しに頷き自動小銃を構えて戦闘に立つ。
それに並ぶのは先ほどの第二班長。超合金製のファイティングナイフとオートピストルを構える。
第三班の班長が構えるのはアックス。本来隔壁やドアを破壊して突入するためのそれを担ぐ。
第四班の班長はそのアーマーに付けられた特徴的な手榴弾の弾帯を確認し、重工業に使われている
対重金属解体用のレーザーメス(といっても大型のものでコの字型。真ん中が取っ手)を構えて”機龍”を見据え



■第一小隊長>「任せる、以上。」

■第一班長>「了解。行くぞ。」

第一小隊長の指示を聞けば……その指示とも言えない言葉を聞けば。
四人が一斉に炉心たる”機龍”に向かってかけ出し討伐に駆ける。

各々の班、隊員達は周囲を取り巻く殺気。暗殺者の機人を狩り出すために
意識をそちらに向けて行く。

そう。この発電所の核であり『美術屋』の切り札である機械の龍に向かっていくのは
たった四人である。されとて四人。特殊警備一課の中で各々班を任せられる長たる”チーフ”が
機械の龍の討伐に向かっていく。

施設の外から破壊することは難しい。
発電所というのは対テロの関係上外から攻撃を受けた場合も考慮されて建設されている。
現状の火力で爆撃しても凹む程度になる。
故に今出せる最高の戦力であり、最高のエース”攻撃札”を”ジョーカー”切り札に向かわせる。
それは指示したからではない。
彼らがそう判断したのだ。

『名のない少年』 >  
――やられた……

舌打ちする。
その場面、景色を見てれば明らかだ。
盲打ち。なにも意味もなくただひたすら殴るという言葉だ。
しかし戦場においてはまた別の意味を持つ。

でたらめに見えるそれも最終的には理にかない、戦術として成り立つ

そういうものだ。
だから、でたらめの動きに対してかく乱。錯乱。
指揮系統がいるなら戸惑いがあるはず――
そう思ってた。
だが――……

――誰も迷いがない

こういう事態はなれているのだろう。
しかも、そのひとりひとりが役割を自覚して
連携をとってくる。
悪夢のようなことだ。1+1が2どころではない。
まるで英雄のパーティが、魔王を仕留める風景を見ているかのようだ。

こんな戦力を、この街は抑止力として抱えている。
その事実は――見ているものたちにどう映るか。
安心? それとも――?

『こういうときどんなノリが正しいか分かっているよ』

くすっと、笑った。
AI達も、”友”と同じ意見だった。
覆すことはなく、その流れに沿うように。
隊員たちと死闘を繰り広げる迷彩機人。

AI達は、隊員達を評価する。
”極限までの試行を繰り返した自分たちにはできない猛者たちだと”
AIは、失敗をしない。なぜなら失敗をする思考を持っていない。
だから、”設定”はできれど成長はできない。
その輝かしさに、正面からぶつかりたいと望み――

また4の至高が向かってくる光景を見詰めた龍も
その輝かしき、流星に目を奪われた。
だから――

    全力で迎え撃つ

砲門が開く。龍の咆哮――
翼から出たホーミングレーザー――
それが縦横無尽に……

五代 基一郎 > 0.5t、総重量500kgのアーマーを着込んだ隊員達が
そんな重さを感じさえない動きで迷彩機人達と戦う。
異様な光景だ。全身鎧の戦士と機械の戦士との演武のように。
人間のような動きをし、人間のように考え攻撃してくる機人。
しかし。その人間であるからこそ慣れていると、”経験”を持つ隊員達が
徐々にその動きを把握し始める。

特殊警備一課はその都合上、通常の学園生活では顔を出さない。
顔を知られない……個人情報を一切明かさない。
出るとしたらフルフェイスの仮面をつけ、純白に金の刺繍が施された制服を纏う式典ぐらいだ。
学園生活は確かに送っているが素性は明かされない。
対特殊案件に関わる人間は本人或いは身内への攻撃が想定されるためである。


創設されたのは二年前、新しい部署でありその話を聞けば
程度がしれると思う人間も少なくはない。
しかし平時は学園生活を送りつつも日々訓練が繰り返され
また身分を隠し積極的に島外の治安維持組織に送り込み
実戦と訓練を繰り返し続けてきたのだ。
並の違反部活組織やテロリストにどうこうされない、ではなく
どうこうできる実力があるとするほどに仕上げ続けている。

だからこそ出す時は限られる。
その執行者であり抑止力であるカードを切る時を。
そして出すときは見せる。今回の件もまた然り。
平時では考えられないような事態が起きた時、公として彼らが出るのだと
見せるために全力以上を尽くす。





龍が咆哮して翼から閃光が放たれる。
縦横無尽に炉心があるエリアを光が走っていく。
物理、電磁あるいは魔術等に対して有効なシールド機能を持つアーマー
一度受けてもリチャージし回復する機能もある。
それで防げばいいか、というのは愚かで安直な考えである。

放つ龍は発電所まるごとのエネルギー炉のようなものだ。
そんなものがぶっ放す光学兵器を真面目に食らえば一瞬でシールドは剥がされ
そのまま焼かれるのがオチだ。
ではどうするか。

放たれた瞬間、班長である四人以外は皆ある対策を導きだし即座に実行した。
それは自らが相対している、相対した迷彩機人に体当たりするものと
掴むもの。また担ぎ上げる者が出た。
この場所で攻撃を行い、味方諸共に攻撃するとは思えない。
では識別して攻撃してくるのならば、放たれた瞬間に機龍の味方である機人のいる場所に
割り込み回避を試みる者。掴み担ぎ上げ、同じ場所にいることで盾にするか
また機人に被害が出ぬように減衰させることを試みる者。
一度しか使えない方法だろう。二度目は味方ごと撃つどころか
このエリアを焼きかねない。


だが一度凌げれば
その時間があれば十分だ。

なぜなら班長達は
あの四人は止まらない。流星の如く駆けて行く。
この縦横無尽に走る一度触れれば焼かれて死ぬ光学兵器の中をかいくぐっていく。
光振る夜空を流星が切り裂いて飛んでいくように。


装備の差はあれ用意できるものは最高以上のものを『美術屋』は出してきている。
加えて現場で戦う者達も治安維持組織……一国の軍隊に匹敵する力を持っている。
では何が違ったのか。差となったか。”経験”といえばそれまでだがこういう言い方もある。
マッチョな言い方だろうが……”流した汗”の量が違う。
それが自信となりまた力となり、頭と体を……足を動かすのだ。

『名のない少年』 > ――うん、いいね

にこやかに晴れやかに、美術屋は惜しみなく賛辞する。
”結果”を確信してなお。いや、確信したからこその――

『すごいね。この輝きが、魅せられているのだとおもうと
 ぼくも、心が躍るよ』

チャット欄。そこからわかる。
純粋な、心。これは演劇。
だとしても、そこにリアリティがなければ、心は響かない。

『キミたちは、ぼくとおなじ、影。でもこんな影が舞台になっても
 たまにはいいと、思うんだ。時には理解が、必要だ』

だからほんの一瞬でいいから。それを”舞台”へと引き出したかった。

見よ。この輝きを。この力を。この意思を――

積み上げてきた、彼らの血と汗を。彩るのがぼくの――

『最後の仕事だ。そしてもしかしたら、最初の――』

フェニーチェではない……

盲打ちのもう一つ。裏の効果がここに出る。
美術屋は負けていない。

負けて、いない。

最大の攻撃。なら、瞬の間がある。
ホーミングを打ち終わったそこに――
威嚇するように機龍は吠える。
通常ならすくみあがりかねないそれで――

機人も援護に回ろうとするが――
それを隊員たちがさせてはくれない。
迷彩をすれば、煙幕で捕捉され。
経験で予測され、先読みされて防がれて――
機械だというのに焦りが感じ取れる……

『ここの勝ちはキミたちのものだ』

発電所の、攻防。
その結果は――知れたものだろう。

五代 基一郎 > チャット欄から現れる『美術屋』の言葉
それに返すことはなかった。理由はただ一つにして
一つで十分だった。

勝ちである、とする『美術屋』の言葉が放たれた時既にそれは幕が引かれていた。
四人が猛る龍に飛びかかる。滅茶苦茶に叩き潰すのではない。目標は炉のバイパス部分と間接等。
エネルギーを流す血管の如きパイプを狙いナイフやレーザーメスを差し込み
翼や腕の根本を撃ち、また斧を振り下ろす。瞬く間にそれは、それらは
龍を討伐した。

その炉を制圧すれば、残る機人らのみとなり。
それらに集中できる隊員達は各々持てるものを以って戦い
そして


■第一班長>「こちら一班長。発電所を制圧しました。」
■第一小隊長>「よくやった。次は……」


「タワーだろう。」

音声チャットで入力し伝える。もはや予告でもなく。
相手である『美術屋』に、そこにいるんだろうと。

「それともそれ以外の3つ。今から虱潰しに
 突入を駆けるのもありだがさ。竜退治の後に見せる演目はあるのかな。
 あるとしたら、是非招いて欲しい所だ。」

予告の呼びかけのように見せかけてそれは事実上のチェックメイトだった。
他にもあるのだろう、ない場所もあるかもしれない。
巨大ビルであるならば『七色』のときのようなビル突入戦、制圧戦が
廃研究所ならば得体のしれない研究機械との戦いが
武器庫ならば武装したドローン群との戦いが想定される。
だが舞台の演目上一番の見せ所だろう機械の龍 それが今幕を下ろしたのだから。
後に何が来たとしてその演目を上回れるのか、と。
そしてそれらの演目が予想できない巨大なタワーこそラストの場所だろうと。
ないのならば、ここが幕の引き所であり最終幕だろうと傍から見れば早すぎる王手をかけた。

『名のない少年』 >   
裏の世界では、喝采だった。
そして同時に、五代と同じ声が伸びる。

 すごかった こりゃかてないわ
    あれが風紀委員の――
        いいぞー、風紀、もっとやれー

観客が望み始めた。そうすれば、世界は変わりゆく。
なぜなら、観客が見たいと思ったものを世界にし。
そして、それを描きたいと思えば発動”してしまう”ものがこれだ。
タワーに、生体反応が一つ、検知される。

討伐される龍。電力の核をつぶされれば、機人も役目を終えたように
沈殿するのみ。壊れた者も、まだ動こうとしてたものも
一斉に、シャットダウンした。

『いいや、十分だ』

そう十分だ、もう魅せるものは魅せた。
風紀のすごさ、風紀の美しさ
隠されていたその姿を、魅せた。
きっと、どの舞台でも映えるだろうと思っていたが
いい意味で予想外。彼女の言葉を使えば

予想以上のアドリブだった

『チェックメイト、かけられたなら。最後の攻撃、受けてみてよ』

―防衛ターン―

最後――組織だった動きの殲滅戦
市街地すべてに埋め尽くす”赤”

美術屋が扱える、最大数――

『――綺麗に投了するのもありだけどさ
 ちょっと会話するのも、あり、じゃない?
 今でしか話せないことがある、かもしれない』

ちょっとした時間稼ぎ。
でもこれが終われば、自分の最後の仕事が終わってしまうから。
彼女がくれた、”彼女たち”がくれた”思い出―イタミ―”が終わってしまうから
だから少しでも伸ばしたかった。

たとえ、機獣の群れが蹂躙されるとしても

五代 基一郎 > タワーに赤い光点が増える。
つまり、それは今回の首謀者である『美術屋』に他ならない。

それと同時に、いや『美術屋』の言葉と共に防衛ターンが始まり
赤い光点が市街地を埋め尽くしていく。
ここは機械地獄”マシーナリー・ヘル”か。それとも。

■第一小隊長>「総力戦か……なら『マリア・カラス』」

「『マリア・カラス』を中心に防衛戦だ。『ベッコウバチ』で補給と攻撃を行い
 円周の機動防衛に専念してくれ。」

■第一班>「了解。合流します。」


第一小隊班長の声を遮るように指令を出せばそのまま立ち上がり
戸惑うお茶くみロボットを連れて艦橋から出ようとする。

■第一小隊長>「こんな時にどこへ行くの」

そう。戦いは決しつつある。ここは総力戦ならば移動しつつ端から排除していくのが定石だろう。
だが何故今になって防衛戦に移るのか。その意味を問うような声色だった。

「王手をかけたんだから、かけた者が王の前に行くもんじゃないの
 時間稼ぎってわけじゃないけど早めの解決はさておき堅実にいけるよ今は」

ばかな、と口にするには遅く。
『マリア・カラス』から『ベッコウバチ』へ移り市街地に飛んで移動していく。
既に二人乗りの四輪バギーの運転席。荷台である部分にはお茶くみロボットが縛り付けられていた。


「今から行くんで、道を開けて待っててくれると助かるな。」

■お茶くみロボット>「五代サン、ヨシンバ攻撃サレナイとして
           流レ弾ガ来ル確率ハ」

「飛ばすから問題ない」

音声チャットでの入力を切り
お茶くみロボットの悲鳴のような声を背中に聞きつつ
低空で市街地に侵入する『ベッコウバチ』から固定リグを解除。
四輪バギーである『シェパード』をフルに踏み込んでタワーに向けて一直線に走らせた。

『名のない少年』 >  
――ずいぶん気のきいた王様だな

そんな感想を抱いた。
もちろん観客もビックリの演出だ。
まったくこれだから、演劇はやめられない。
プログラムを走らせる。

『客人に無礼のないよう、御通しして』

すとんっと、椅子に腰かける。
ぴちゃりっと、下に広がる汗の池にもう一滴、汗が滴り落ちた。

「――着替えてこよ」

迎え入れるためには、表舞台に移るためには衣装が必要だ。
だから静かに目をつぶって、電脳世界から服を取り出して
”客人をまつ”

「ここで合理的とかいってるから人間と仲良くできないんだよ
もっとキミたちは柔軟になるべきだ」

そう、苦言を呈するAI達に告げて

「こっちのほうが盛り上がる。素晴らしいノリ、だろ?」

五代 基一郎 > 観客どころじゃない。

まともな人間なら誰もが止めるだろうし
態々会いに行く必要もない。殲滅に専念すれば自然に干上がるのだから。
だがその最中を縫って男は四輪バギーを走らせて向かう。

タワーへ一直線に。

■お茶くみロボット>「五代サン、ドローン達ガ道ヲ空ケテマス」

「通じたらしい。」

最もそれは演目としてよしとしたためだろう。
そう流が向いたからこそ出来ることだったと思う。
妨害が無ければ早い。そのまま走らせてタワーに乗りつければ
この演目の主と顔を合わせるために中へ入っていく。
特に妨害が無ければ迎え入れられ、面と面を向けて話せるはずだ。


静かなタワー周辺とタワー内部と違い
外ではより激しく、市街戦が繰り広げられていた。

『名のない少年』 > 「いらっしゃい、”主人公―ヒーロー―”」

出迎えたのは、色っぽい、肩がはだけた遊郭の着物を身にまとった
長い紫髪の”少年”だった。

「――楽しんでもらえたかな? 演劇は」

煙管をくわえた、150cm足らずの少年が
椅子に座っていた。といっても、安物の椅子で
玉座というものは存在しない。
ただ椅子だけがある、タワーの最上階だ。

どんな高級な、ツールセットがあるかと思ったら何も、ない。

「……ちょっと”運動”した後だから汗臭いけど、気にしないで」

運動とは先ほどの、ドローン操作のことだろう。
今もなお続いている。だから少し肌は紅潮しているし
息も乱れてはいる、がしゃべるのは支障なさそうだ

五代 基一郎 > 「お迎えいただきどうも、『美術屋』さん」

こいつはもういいだろうと音性チャットを切り、ヘルメットを取って
お茶くみロボットに手渡す。
ヘルメットが外されれば出てくるのは迎えた少年の艶やかな顔とは反対の
男らしい顔と黒髪、やる気のない目だった。
そこに英雄らしさもなく、主人公たるものもなく。

「いや全然。確かにドローンの操作等はすごかったよ。
 島でも並ぶものはいないんじゃない?」

そのままに迎えた少年の反対に座るように
安物の椅子を引いて腰を下ろす。
傍からみれば年少の花魁と年長の客だが
艶やかな花魁とは違い、その男は客のように笑顔ではなく
ただ憮然と話し続けていた。

「だけど劇は心動かされるものはなかったな。
 一応聞いておくけどこの後の脚本はどういった類なのさ。」

そう。これからもここまでも。
この戦いで言えば隊員達も、フェニーチェとの戦いを
一瞬たりとも楽しいと思ったことなどなく
そしてこの顔を合わせて話す男にいたっては面と向かって”つまらない”と言い放った。
だからこそ戦いの最中も、舞台を動かす超然たる『美術屋』と違い
今も同じく憮然と、ただ風紀の特殊警備一課として戦いを指揮し
言葉を殆ど交えなかった。感情的な、感傷的な、詩的な言葉などそこには一切なく。
そこにいて、ここに来たのだ。

『名のない少年』 >  
「正しい感想をありがと」

これで楽しいと言われたらどうしようと思う。
きっと、それは異常者だ。
でもそう感じるからこそ、リアリティがある。
その生な感想を持てるからこそ、この配役なのだ。
それに――目の前の彼は演者ではない

「この後? 後は言った通り……好きにしなよ」

ふぅっと息を吐く。
彼は、自分と雑談をしに来たわけではないだろう。
ただ問題の解決と、その先を手にするためにここに来た。

「……もう、ぼくには何も残ってないしね」

五代 基一郎 > 「この件が始まった最初から違和感があったよ。『癲狂聖者』『七色』『死立屋』そして『美術屋』とさ
 彼らを見て聞いて確信できたよ。」

ネット、切ってるよね。これは流すような話でもなく演目でもないからと
断りのようなことを挟みつつ、話を続けた。

「フェニーチェの誰もかもが、”舞台上でのリアリティ”を求めながら
 その誰も彼も”現実”を見ようとしていなかった。”現実”に生きようとはしなかった。
 
 『癲狂聖者』は優れた仮面の演者だった。あれは脇役とされるのがおかしい演者だったよ。
 だが主演たることに狂い、檀上でのもの。檀上で得られるものが全てと狂っていた。
 
 『七色』もそうだ。人間じゃなかったよ、彼女は。だが生きてる人間たるものであり
 演技力もそらすごかったんだろう。求めるものも、育てた人間も多くいる。演技の世界では素晴らしい人間だったんだろう。
 だが自らの演目を終わらせることが何よりだった。劇という世界を、現実ではない世界に生きていた。

 『死立て屋』もだ。如何に素晴らしい衣装を、どのような衣装を作ろうとも
  公安に赴きただ狂言のように回して帰り、ただ死体になって落第街に沈んだ。

 誰も彼も現実を見てすらいない。現実がそこにあるのに、舞台は現実にこそあるもので
 現実の中にある作られた舞台だからこそ、リアリティを求めて
 そのリアリティの中に混ざるまさかと思う再現性、幻想性、物語を求めている。
 人の生は良く出来た物語、劇だと言う輩もいるがそれはただの妄言だ。
 誰が社会的に演じているものはあれど、みんな必死に生きている。真剣に今を生きている。
 そうした必死に生きている人々が世界を構築し、世界が人々を作っていく。
 
 当然のようにそれらがあり、だからこそ檀上の世界で行われる
 生きている演者がストーリーの中で活きて、それが素晴らしいからこそ
 観客が喝采を送るというのにどうだ。

 そこに生きている人間を、現実を、世界を蔑ろにしていく。
 人間を蔑ろにして何が檀上に生きる演者だ。
 現実を蔑ろにして何が檀上のストーリーだ。
 世界を蔑ろにして何が檀上の世界だ。

 現実蔑ろにして、現実から逃避して好き放題やってさ。
 そんなの演者でも、脚本でも、演劇でも舞台でもなんでもない。
 
 茶番劇ですらないし、芝居ですらない。
 自己満足の落書き以下だ。そんなもの誰が求めるんだって話だよ。」


そうしてひと息ついて、無気力なぼやきのような
公然としたその批判を叩き付ければ……先に挙げなかった名前が
言葉が目の前の少年に、その眼差しと共に向けられる。
ただしその目は真剣であり射抜くような……殴りつけるような力があった。


「それは『美術屋』にも言えることだよ。
 確かに未開拓の荒野にあんなものが出たんだ。
 リアリティの再現としちゃすごいよ。
 常世に実際ある街並みも幻に思えるほどさ。

 でもここにあるのは現実であり現実じゃない。
 認識論や哲学的な話じゃなくてさ、それを作った『美術屋』が
 そもそも現実に生きて、生きようとしちゃいないんだから幻でしかない。
 現実を幻のようにしか見ていないのならば、生み出そうとするリアリティもまた所詮幻でしかないよ。
 作り手がそうみてるんならさ。
 なぁ、今お前は何も残っていないというけどさ。
 そこにいるお前は、何もないのか。
 ここにいないのか。幻でこのまま消えるっていうのか。
 
 なら今ここに、現実にいる俺はなんだっていうのさ。
 俺も残らない幻に見えるのか。」

『名のない少年』 >  
――あぁ、なるほど。彼は怒っているんだ

落した、きっとこれは。流していいものじゃない。
きっとこれは自分の、自分だけの”傷―はいけい―”にするべきだと
そう思ったから。フィナーレを続ける一部分として。
音のない、映像として――

「ぁぁ、そうだ。ぼくらは、それが全てだった
 うん、そうだったよ。”美術屋”のぼくはね」

その怒り。糾弾に、いつもの――男娼の仮面をかぶり、こたえる。

「残ってないよ。なにせ、名前すらないからね。今のぼくには」

ふわりと妖艶に笑う。自嘲するようにも見える。

「劇が全てだったもの。そのつながりが全てだったもの
 ないからこそ、作るんだよ。あこがれるんだよ、嫉妬するんだよ
 ぼくには、劇も、キミも、フェニーチェも。”ぼくにはない幻”だ」

この憧れが、美術屋の全てだった。例え自己満足だとしても
そうありたかった。
手を伸ばして掴んでいたかった。だって、現実は、こんなにも――喜劇で悲劇で――どうしようもなく、自分には掴めないものだ

ぁ、でも――と付け足した。

「さっきまでのキミはそうだったけど……今は、どうかな? ちょっとわかんないかも。なにぶん、初めて、だからさ」