2015/08/04 のログ
ご案内:「斎島山斎島神社」に神宮司ちはやさんが現れました。
ご案内:「斎島山斎島神社」にビアトリクスさんが現れました。
神宮司ちはや > 常世島から飛行機で数時間、本土を渡ってさらに公共交通機関などで数時間かけさらに迎えの車で細い道路を登って行くと、ついた場所は某県にある斎島山は斎島(いつくしま)神社である。
何を隠そうここが神宮司ちはやの実家である。

とりあえず昨日ビアトリクスとともに着いたちはやは祖父で宮司の千秋(せんしゅう)とお手伝いのふくよかな女性、佐紀に歓待され旅の疲れを癒やすよう一晩用意された部屋で過ごした。
夕食は料理好きの佐紀が腕をふるって若い人のためにとたくさんの品数を揃え、
千秋もちはやが友達を連れてきたことにいつもは厳しい表情を崩して目を細めた。

そんなこんなで翌日である。
山の空気は冴え冴えとして、夏だが標高のあるこの場所と木々に遮られたせいか空気は涼しい。
そして何よりこの山は霊峰というか、神社一帯に結界のようなものがあり清らかな空気に包まれているのだ。

ビアトリクスと共に同じ部屋で布団を並べて寝たちはやは上機嫌で起きだして、朝ごはんも楽しそうに笑って食べた。

今はお昼前である。

ビアトリクス > ビアトリクスはというと、借りてきた猫というと言い過ぎかもしれないがやや緊張のほどけきれていない様子だった。
知らない場所で知らない大人――ちはやの家族に囲まれてそうならないはずもない。
以前ちはやと二人でデートしたときのように、異性装の魔力を借りているわけでもない。
今着ているのも持ってきた着替えもすべて男物だ。
旅の疲れもあって、昨日は日課にしていたスケッチなどをする余裕もなかった。
自分の存在がどう受け入れられるかという不安もなくはなかったが、特に何事も無く歓待された。
緊張で普段からよくない人当たりが余計にぎこちなくなってしまったため、無愛想な人物だと思われてしまったかもしれないが……。

「いいところだな……」
うちわで自分を扇ぎながら、外の風景を眺めて面白みもない感想を口にする。
ビアトリクスは都市産まれの都市育ちで、大した旅行の経験もない(本土の学校の行事を除く)ため
このような土地は新鮮に感じられた。
常世島なら青垣山に足を運んだことはあるが、あそことはまた趣が微妙に違っていた。

神宮司ちはや > 和室12畳ほどの大広間にビアトリクスと二人、うちわで涼みながら麦茶などを入れるちはや。

「そう言ってもらえると嬉しいなぁ。
 でもすっごく長旅だったでしょ、疲れてない?
 それにあんまり見る所もないけど……あとで本殿へ行ってみたりする?
 15分位山道を歩くことになるから大変だけど」

都会の喧騒もなく、虫の鳴き声と鳥の羽ばたき、風が吹き抜けるぐらいしか音がない。
静かなひとときである。

ビアトリクス > 「ん……ああ、大丈夫」
麦茶を口にして、小さく手を振る。
一晩眠った今はそれほどでもないが、
体力もなく旅慣れしていないビアトリクスにとって延々と乗り物に揺られ続ける時間は結構大変だった。
考古学試験で体力不足を指摘されて以来、
ウォーキングやジョギングなどで改善を図っているがいまいちうまくいってない。
ちはやの前ではバテている様子は極力見せないようにしているが、
顔色を青くしたりしていたのは見られていたかもしれない。

「本殿、か。
 ……そこでちはやも舞ったり修業したりしていたのかい?
 お言葉に甘えて、あとで見学させてもらおうかな」

いまさらちょっと山道を歩くぐらい、大した労苦ではない……と思う。

「……確かにいいところなんだけど、大変なところでもあるよね。
 イヤになったりすることはなかった? ここで暮らしてて」

浜辺でちはやが言っていたことを思い出す。
たしかにこんな奥地ではろくに友人とも遊べなかったのではないか。
失礼にあたる質問かもしれないが、気になってしまった。

神宮司ちはや > 「ううん、本殿は神様を祀ってある所。
 お参りしたりそういう場所だから、
 舞はこの棟とは別の所に社務所があって、そこの修行場というかお稽古場とかで習っていたよ。
 山伏修行の人達の宿坊ともつながっているんだけど、
 弓道場とかも一応あるけどそれもあとで見てみる?
 本殿はお昼ごはん食べたあとで行こうか」

神社について一応説明を加えてみる。
だがあまり引っ張り回してもビアトリクスにだって体力の限界はあるだろう。
数日はゆっくりできるのだから、そう急いで案内したりしなくても良いのかもしれないと思い直す。

イヤなこと……と尋ねられるとうーんと腕組みをして考える。

「確かに友達と遊べなかったりはしたけど……ぼく、常世学園へ行くまでこの山を殆ど出たことがなかったから
 いやと思うほどの何かを感じたことがなかった気がする。
 それに、ずっとこの山で育ってきたからかもしれないけど人が多いところよりかはここのほうがずっと落ち着くかなぁ……」

ちはやの言う落ち着くの意味に、たぶんこの山の結界の作用も少なからず含まれているような口ぶりである。

そうこうしていると廊下から祖父の千秋が顔をのぞかせた。
灰色の髪、シワの刻まれた、だが背筋のしゃんとした60歳代の壮年。
紫藤紋の袴を着付け、足音を立てずに歩く姿は堂に入ったものである。
ビアトリクスとちはやを見つけると、低い声で呼びかけた。

「ちはや、佐紀さんがお昼の準備で忙しそうだから手伝ってあげなさい。
 私は日恵野さんと、少しお話があるから」

はーいと返事をして、ちはやが大広間から台所へと移動する。
入れ替わるように千秋がビアトリクスの前に正座をすると改めて一礼した。

「日恵野さん、遠い所をお出で下さりありがとうございます。
 ちはやから手紙で聞いておりますが、常世の島ではちはやが大変お世話になっております。
 何かとご迷惑をお掛けしているかと思いますが、ちはやが友達を作って連れてきたことなど稀でして、これからも良くしてやってくだされば幸いです。

 どうでしょう、日恵野さんから見た学校でのちはやは……」

穏やかに、威圧を感じさせないような丁寧な物腰でそう尋ねた。

ビアトリクス > 「そうなんだ……なるほどね。説明ありがとう。
 うん、じゃあ後で、そっちもよろしく」

続く、ここでの暮らしについてのちはやの言及に、ふむ、と納得した様子で頷く。
確かに、ずっとここで過ごしていたなら、そういう発想すらないだろう。
“よくないもの”に好かれやすいという彼の特性も慮ると、
ここは、間違いなくちはやにとってベターな場所なのだろう。
やはり要らないことであったかな、と少し反省。

だからといって、ずっとここにいるわけにもいかないのもまた確かなのだろう。
もしそうであるなら、わざわざ遠く常世学園にまで来る必要はない。
それ以上のことは、ビアトリクスの推測の域を越える。

「…………」

ちはやの祖父を名乗る人物を前にして、ビアトリクスも居住まいを正し、
正座で一礼を返す。やや緊張した面持ち。

「いえ、こちらこそ、ちはやくんにはお世話になっています……」

続く問いかけには、一瞬意味を測りかねて、首をひねる。

「ええと……。優しくて、いい子だと思います。
 ちょっと無茶に思える行動もして、見ている方としてはヒヤヒヤしますけど……」

とりあえず、客観的な評価を告げる。
無茶云々は言わなかったほうがよかったかもしれないな、と言った後で思いながら。

神宮司ちはや > ビアトリクスの言葉に一つ一つ頷いてから

「そうでしたか……。何かとご心配やご迷惑をおかけして申し訳ない。
 ここではあまり表しませんでしたが、あれはなかなかに頑固な所もありまして
 そのせいで要らぬお気遣いなどをさせていましたらどうぞご容赦ください。」

深々と再び頭を下げる。そうしてから面を上げ、
そっとビアトリクスへ老人が眼差しを向ける。

「して、またひとつお尋ねしたいのですが……
 日恵野さんは『魔術師』や『異能』の家系、あるいはそういった何らかの知識はお持ちでしょうか」

不躾な質問ではありますが、と控えめには言うもののその瞳に込められたものは確かな答えを欲しているようにみえる。

ビアトリクス > 頭を下げる千秋に、ビアトリクスは恐縮そうにする。
続く質問に、少しどう答えるか考えて、

「……ぼくは永久(ながひさ)イーリスという女魔術師のもとに産まれました。
 名のある術師ではありませんが、常世学園に入学する前から、彼女のもとで
 魔術についての手ほどきを受けています。
 なにぶん修行中の身ですから、人様に教示できるほど熟達はしておりませんが」

永久イーリス。隠棲しておりその名前と詳細は表社会には知れ渡っていないが、
有数の強力な魔術師であり、描画魔術の使い手でもある。
人格はともかくとして、ビアトリクスはその実力を評価している。

しかしそれを尋ねる理由はなんだろうか?
意図を探るように、青い瞳が老人の瞳を覗き込む。

神宮司ちはや > 嘘偽り無く答えるビアトリクスに、またひとつ頷く。
探るような眼差しにやんわりと押さえるように、あるいは確信を得たかのように眼差しで答え

「残念ながら私は魔術や異能の世界には遠い身でして、
 その魔術師のご高名も存じてはおりません。どうかご容赦の程を。

 こうお尋ねしたのには訳があります。ちはやに関わることです。
 すでに魔術師の身である日恵野さんにはお気づきでしょうが、この山には霊峰として、
 あるいは山伏たちの修行場として、結界が張られております。
 この山に神社が建てられてからずっと山や神社を、あるいはちはやのような者たちを守るために張られたものです。

 しかし、近年その結界がどういったわけか弱まりつつありまして
 ちはやが大人になるまでに今までどおりの強度を保つことが難しくなったのです。
 他の宮司や山伏たちなどとも協力して補強は続けてはおりますが……
 このままちはやをここに置き続けること自体にも私は疑問を持っておりました。

 これを機会にちはやに広い世界を知ってもらいたい、あるいは自身で力をつけてもらいたいと考え学園へ送り出しました。

 その上で、先ほどお尋ねしたのです。『日恵野さんから見た学校でのちはや』というものを。
 あの子は、成長できているでしょうか、と。」

じっと真剣に老いてなお力を失わぬ瞳がビアトリクスに尋ねる。

ビアトリクス > 「…………」

得心が行く。
そして千秋の、ちはやに対する想いに――多少の羨みを感じる。
自分の唯一といっていい肉親、イーリスはこんなふうに自分のことを気遣ってはくれない。
あるいは、自分の見えないところでは違うのかもしれない。
しかしそんな甘い想像が出来るほど、ビアトリクスは幼くなかった。

咳払いをひとつして、逸れた思考を元に戻す。

「ぼくには……正直なところ、よくわかりません。
 恥ずかしながら、ぼくは自分の研鑽で精一杯で……
 ちはやのことを、ちゃんと見つめられていた自信はありません。
 彼については、まだ、知らないことのほうがきっと多い……」

視線をじっと下に向けて、慎重に言葉を選んでいく。

「かつての彼について、ぼくが言えることはありません。
 けど、今の彼は、強い――と思います。
 立ちはだかる問題に対し、迷って、考えて、悩んで、苦しんで――
 自分なりの答えを、出すことができます」

かつて大時計塔で交わした“強さ”についての論議、それを思い出す。

「ぼくは魔術に通じ、ある程度の、ちはやにはできないような破壊の術を修めています。
 けれど、ちはやに求められている成長、“強さ”は――そうではない」

神宮司ちはや > 少年のゆっくりとした言葉にじっと耳を傾ける。
どんな些細な事でもそれがとても大事だというように。
ビアトリクスの答えに彼の賢さを感じるのだ。
慎重に丁寧に、ちはやについて語る彼には優しい気遣いと先ほどの質問の正しい意味を理解しているということがはっきりと分かる。

「その通りです。ちはやに求められている”強さ”は、
 あの子がこの先、自分の未来を自分で考え、決められる意志の強さです。

 日恵野さんはそばに居てきっと気づかれていることと思いますが……
 ちはやの体質、あるいは能力はとても希少で影響の大きいものです。
 そのせいで人ならざるもの、あるいは人からも狙われる。
 本来はこの山に祀られている神を守り、その神と交信するための力だと思われてきたものですが
 そのためだけではなく、もっと他にも有用性があると考える人々も少なくはありません。

 いつまでも私達があの子を守り続けることは出来ない。
 それならば何がちはやのためになるかと言えば、世界を知ってその中で自分なりに考え答えを出し、進む力をつけること。

 ちはやが望む道ならば、普通の人として生きることもあるいは神降ろしの巫(みこ)として生きることも私は支持します。

 日恵野さんがちはやの友達で良かったと、私は思います。
 君はちはやのことを見つめていないとは言いつつも、しっかりとその眼差しを向けていてくださる。
 きっと君との関わりの中で、ちはやも大きく成長しようとしているのでしょう。

 そしてその成長はちはやただ一人、一方的に行われるのではなく、日恵野さんもまた成長しつつあるのだと思います。
 私が願うことは何もちはやだけにとどまるわけではなく、
 友達である日恵野さんにもそうであってほしいと願うものです」

ビアトリクス > 「有用性……」

わずかに表情を固くする。おぞましい意味を秘めた言葉に感じた。
ちはやの持つ特性と異能に関しては、ほんの断片的なものしか知らない。
しかしそれが、彼にとって恐ろしい事態を招き入れかねないというのは――
うすうすは理解している。

結局のところ、最後に頼りになるのは、自分しかいない。
幸福とは、隔離され、あらゆる害から遠ざけられた場所にあるとは限らない。
だから、世界を識り、自分なりの在り方を見つけるしかないのだ。

話が、自分へと向けられ、わずかに困惑したような表情を浮かべる。

「ぼくの、成長……」

瞑目し、想起する。
常世学園で過ごした数ヶ月、そこで幾度かあった、様々な《怪物》との対峙。
時には逃げ、時には立ち向かい、時には抗い……
振り返ってみれば、かつての自分では到底出来なかったはずの、
果敢と言ってもいい振る舞いだってした。
しかし……

「……どうでしょう。
 ぼくは見栄っ張りなんです。
 彼が自分を見ている間は、無様に怯えて屈する姿を見せたくはない……
 そう思っているだけです」

落第街の怪人、『脚本家』との舌戦なんて――特にそうだ。
あんなもの、張り合う必要なんてどこにもなかった。

「ぼくは万が一、彼がいなくなったら……
 また彼に出会う前のような、意気地なしに戻ってしまうかもしれません」

相貌に薄い苦渋が浮かぶ。情けないことを言っている、と自分でも思う。
ビアトリクスは未だ、自身の成長を肯定するつもりにはなれなかった。

神宮司ちはや > 「世界が変革してしまったあの時から、それまで多くの人の目に触れざる場所にあったものたちが
 露わにされ、知られ、そして新たな道を模索し始めてしまった。
 ちはやに宿った力もまた、その一つではあるでしょう。そして君が修める破壊の術もまた。

 多くの人の役に立つというのならばそれも一つの道ではあります。
 ただ、力を持ったものにはそれ相応の代償と責任が要求されること、
 自分の意にそぐわない使い方をされることで、己が傷つくことがあってはならないと、私は考えます。

 故にちはやも日恵野さんも、多くを知り学び考え、自分が正しいと思う力の使い方を選んで欲しいのです。」

そこまで言ってからビアトリクスの苦渋の表情を受け入れる。
彼もまた、ちはやと同様若く迷いのある子どもだ。
学園のような多くの人が行き交う社会の中で自分を知り、立ち位置を知り、意見の違いから傷つけあうことも多くあるだろう。
彼の悩みに簡単に答えることは千秋にも難しい。
ただ孫と近しい彼に少しでも力になれたのならばと話を続ける。

「人は誰しも誰かの眼差しのないところでは愚かで小さなものです。
 ただちはやと出会ったことで、日恵野さんがそうした姿を晒したくないと選べたこともまた成長の一つですよ。
 虚栄心も人には必要な心のあり方です。それが最初は演じていたものでも次第に本当の心に変わってゆくかもしれない。」

ちはやがいなくなってしまったら、意気地なしに戻るかもしれない。
その言葉に、彼のちはやへの深い情を感じる。本当に大切に思って心の拠り所にしていてくれることに喜びを感じた。

「私からはその可能性について何かを言うこともできません、が
 それならば、ちはやにもまた君が居なければ以前の弱虫に戻ってしまう可能性だってあるでしょう。

 ならばお互い、どうしたらそんな事にならないか話し合うべきかも知れませんな。
 人の縁はそう簡単に切れるものでもありません。依存よりは共存、ともに在るための方法を考えだすこともきっと出来ましょう」

ビアトリクス > 人には無限の可能性がある、と言う。
しかし実際のところ、可能性は無限でも、選べる道はそう多くない。
その少ない選択肢を、納得した上で、選べるか。

「ともに在るための、方法……」
額を押さえ、答えを求めるような視線を思わず向けてしまう。
千秋もビアトリクスの満足できるような答えを言えるわけではない、とわかっていながら。
これは自分自身の課題なのだ。

「……。そうですね。……お互いが、より良く生きるために。
 必要なことなのかもしれません」
けれど自分で答えが出せるのだろうか。
明らかな不安が、ビアトリクスの顔を覆っていた。

神宮司ちはや > そう、誰かに教示されて出せる答えは少ない。
その答えに深く関わるのも、納得できるのも自分だけなのだから。
彼の答えを求めるような不安げな視線にも申し訳無さそうに千秋は応じる。
ただひとつ自分でも言える、勇気を与えられるようなことならば

「日恵野さんもちはやもまだ途上であり、そして何よりも聡い子です。
 その時が来たのならば、自ずと答えを出せる、あるいは出さねばならなくなるでしょう」

心配はいらないというようにかすかな笑みを口元に浮かべ、それきり話は終わりだというように膝をぽんと手のひらで叩いた。
板の間の廊下を軽い足音がして大広間へ近づいてくる。
ちはやが手にお盆を持ってそれぞれの昼食、今日はそうめんが主食らしい――を運んできた。
遅れて佐紀がこれでもかとまたしてもたくさんの副菜とカルピスなどを運んでは机に並べていく。
にこにことしながらたくさん食べてくださいねと、箸を揃えた。

「トリクシーくんお待たせ。お昼ごはんできたよ。
 おじいちゃんと何話していたの?」

そっと最後は耳元に口を寄せて声を潜めて問いかけた。

ビアトリクス > 「…………」

それ以上返せる言葉はなかった。
出せるかどうか、ではない。出すしかないのだ。
今こうして千秋の前に座しているのもまた、ビアトリクスの選んだ
道の延長線上にある現実なのだから。

笑みに対し、一度頭を下げる。信頼に足る大人であると言っていい。
もしこのような親身な人物が、肉親にいたなら――などと考えてしまう。

「ああ、えっと……孫自慢を聞いていたよ」
話題の渦中にあった当人に尋ねられ、とっさにどう答えていいかわからず
嘘ではないが真実とも言えない微妙な返事をした。
運ばれてきた食事、その前に席につく。

(家族の食事、か……)
それもまた、ビアトリクスにとって縁遠いものだった。

神宮司ちはや > ビアトリクスの微妙な返事には千秋は聞いていなかったような振りをして
めんつゆに薬味などを静かに落としている。
対してちはやは「孫自慢ってなぁにそれ」といいながらきょとんとした顔でビアトリクスを見つめた。
佐紀も席につき、社務所にいた他の神職の人なども揃った所で
みなでいただきますの挨拶とともに箸をつけ始める。

お互いがお互いを気遣いながら麦茶を注いだり、ソースをとったりなど静かながら活気に満ちた食卓だった。

「これ、食べ終えて一休みしたら本殿の方へ行ってみようね」

ちはやが笑顔でビアトリクスの分のカルピスを注ぎながら言う。

ビアトリクス > 「いただきます……」
ワンテンポ遅れての挨拶。
田舎の大きい家特有の妙な副菜の多さに戸惑い、ちらちらと周囲に視線を向けつつも
ビアトリクスも礼儀正しく食事を続ける。
昨夜もそうだが、慣れない場の緊張で食が進まないか、と思ったがそんなことはなかった。
料理が美味しかったのも大きいのかもしれない。

「ん……うん。案内よろしくね」
ちはやにはそう頷いて返事をする。

神宮司ちはや > ビアトリクスの頷きにちはやもまた快く承諾する。
つるつるとそうめんをゆっくりすすりながら、
ビアトリクスが黙々と食事を続ける様を嬉しそうに眺めた。
佐紀さんの料理はどれも美味しいし、ビアトリクスも結構喜んで食べてくれる。

一人で帰省するよりも本当にずっと楽しい帰省になったなぁと思いながら、今後の案内の段取りをゆっくりと食事を進めながら考え始めた。
山での夏休みは始まったばかりである――。

ご案内:「斎島山斎島神社」から神宮司ちはやさんが去りました。
ご案内:「斎島山斎島神社」からビアトリクスさんが去りました。