2015/08/13 のログ
ご案内:「常世学園没者墓苑」に眠木 虚さんが現れました。
眠木 虚 > セミが鳴き日差しが肌を刺すうだるような真夏の暑さ。
ここは常世島の宗教施設群に存在する墓苑。
名を常世学園没者墓苑という。

ハンカチで汗を拭きながら花を片手に赤い風紀委員の制服を身にまとう男。
墓苑の入り口に立って振り向いた。

「ここが『常世学園没者墓苑』さ」

この眠木虚にとっては毎年の行事であったが独りでというのも寂しいため、
ここに来るがてら目についた風紀委員に声をかけて居たが見事についてきたものはわずかであった。

ご案内:「常世学園没者墓苑」に佐伯貴子さんが現れました。
佐伯貴子 > (制服は正装のつもりだが、普段通りと言ってしまえばそれまでだ)
(手には大きな花束を抱えている)
案内ありがとうございます、眠木先輩。
(代表して、というわけではないが頭を下げる)
(あまり島中を歩きまわることのない自分はここに来るのは初めてであった)
(本土で言う「お盆」のこの時期に来たいと思っていたのだ)

眠木 虚 > 「あっはっはっは、そう気を張らなくていいよ。
 楽にしてくれていい、一人でここに来るのは寂しかったから助かったよ」

まるで慰霊に来たとは思えないような雰囲気だ。
それじゃあと、導くように墓苑の中へ入っていく。
石畳の通りの脇には幾つもの広葉樹が並ぶ。
その先に見えるお堂が目的地だ。

「そういえば君たちはこの墓苑が出来た経緯について知っているかな」

佐伯貴子 > (相手の言葉を受けても真顔である)
(普段の表情でもあるが、死者に敬意を払うべきだと考えていたので)
(眠木のあとに続いて自分たちも進んでいく)
(暑いが、両手がふさがっているので汗が拭えない)
…私は、浅学なので…
(控えめに尋ねるだろう)

ご案内:「常世学園没者墓苑」に久藤 嵯督さんが現れました。
眠木 虚 > と言われれば人差し指を立てて語り始める。

「おおっぴらには語られることはないんだけどね。
 風紀委員《ボクたち》をしては知っておくべきことだ。

 知っての通り、この常世島では幾多の事件が起きている。
 残念ながら生徒が犠牲になってしまう。
 ボクらとしては歯痒い思いなんだけどね。

 死んだ生徒がその後どうなるか……。
 当然、遺族に引き渡されるわけさ」

ここまでは常識的なことだ。
親族に引き渡され弔われる、それは当然なことだ。
しかし……例外は存在する。

「でも困ったことに、その生徒を引き渡す遺族が居ない。
 この常世島ではそういうことも多いんだ。
 異邦人や、引き渡しを拒否する遺族もいる。
 中にはね……家庭の事情で弔うことの出来ない人達も居た。

 そんなわけでこのままではいけないと立ち上がった人たちがいるのさ。

 誰だと思う?」

顔だけ振り返りニッコリと問いかける。

佐伯貴子 > (途中まで聞いて頷く)
(最近亡くなった先輩もいたが、名前からして本土に送られたのだろうと思っている)
(そして知り合いの風紀委員には日本人が多いので、なかなか墓参りはできないと思っている)
(続く言葉を真剣に聞く)
(異邦人は帰る場所も弔われる場所も、いや弔い方さえ知られていないことがある)
(自分も家族と連絡が取れないので、ここで死ねばここに葬られることになるだろう)
…。
(無言で首を少しかしげ、答えにする)

久藤 嵯督 > 自分がここに来たのは仕事の最中に声を掛けられて、丁度いい機会だから付いてきたというだけで。
久藤嵯督に、全ての死者や見知らぬ生徒を分け隔てなく慈しむような趣味は無い。
古い友人への墓参り……その、ついでだ。

墓に供えられた花々と同調するかのように、白金の髪が風に揺られた。

     ジブン
培養された無形達に、親族と呼べるような存在はいない。だから、死体と名前があればこっちに弔われる。

「それは聞いたこと無いな。一体誰が?」

指導課長補佐の問いに対して、答えを求める。
今まであまり気にしていなかったのか、調べたことも無い事だ。

眠木 虚 > さすがに疑問しか帰ってこなかったのでしまったと首を傾ける。

「流石にヒント無しは難しかったか。

 正解は『生徒会』さ。
 誰個人とは言わないけれど、この墓苑は生徒会の主導で作られた。
 言われてみればなるほどと思うだろう?

 これだけの規模となると予算のやりくりも必要になってくる。
 そういう意味でもいろいろな意味でも最適だったのさ」

足が止まる。
目的のお堂へと着いたのだ。
お堂の中央には『陶棺』が設置されており納骨堂となっている。
その手前には献花台が設置されており、それ以前に参拝したであろう客の手により献花されていた。

「本来であればこういうものは造られないのが良かったんだけど。
 君たちが知るように各地で起こる事件に巻き込まれる生徒は後を絶たなかった。
 過去には大きな事件もあり、それもある意味契機になったのかな。
 そういうわけで引き取り手の居ない生徒を弔うための墓苑が完成したというわけさ」

お堂の中に入ると献花台へと歩み寄り手にしていた花を献花台に置いた。

佐伯貴子 > 生徒会…
(普段意識することはないが、妙に納得する)
(さすがに風紀委員会だけでは作れないだろうし)
(常世財団が作ったのかもとも思ったがあそこは得体が知れない)
(納骨堂ということは、大体は火葬にされるというわけか)
(流石に他の方法で弔われるのは特殊な例だろう)
(遺言や遺書でも残しておいたほうかな、などと考える)

(犯罪がなくならない限り、こういう施設は必要になる)
(事故がなくならない限り、病気がなくならない限り)
…。
(眠木に続いて自分も花束を供える)
(こういう時何を考えればいいのかわからないが)
(死者の霊が安らかに眠ることを祈りながら)

久藤 嵯督 > いや良かった。
『財団』が作った、などと聞いたら気色悪さで卒倒していたかもしれない。
学園生のセンチメンタリズムがそれを必要としたというのならまだわかる。

「まあ確かに、これだけの規模の設備だ。
 少し考えてみれば、それが妥当なトコか……」

自分から見ても、こういった施設は必要不可欠だと思っている。
でなければ死体の置き場が何処にも無い。
常世島を平和な場所にすればいいとか考えるヤツもいるだろうが、実際そうはならない。
争いは消えないし、無くならない。少なくとも自分が生まれてから死ぬまではそうだ。
唯一出来る事と言えば、墓にぶち込まれる人間を選び直してやることぐらいなものだろう。

献花台には、道中で買った花を供えておいた。
面倒だが、付いていく以上は自分の用だけを済ませてしまえばいいと言うワケにはいかないのだ。

「造られるべくして造られた場所……だな」

如何なる思想が交じり合えど、この施設は望まれてここに在る。
その存在が無駄でないのなら、まあ特に文句を言う事も無い。
いつか自分も、あっちに仲間入りするかもしれないのだから。

眠木 虚 > 手を合わせて黙祷する。
この墓苑で手を合わせるというのは人によって様々な意味が込められるであろう。
死者への弔い、事件を防ごうという決意、後悔、反省……。
何かしら思いを抱えているものだ。

「さてと、参拝も済んだところで他にも見てもらいたいものがあるんだ。
 ここにあるのは参拝のためのお堂だけじゃないからね」

人差し指を立ててウインクをする。
お堂の外へ、再び暑い真夏の日差しに照らされて墓苑のさらに奥へと導いていく。

佐伯貴子 > (手を合わせるのは、習慣と知識がなかったのでしなかった)
(代わりに祈った)
(死者たちの冥福を)
え、他にも何かあるんですか?
(祈るために来たつもりだったので思わず声を上げてしまうが)
(わざわざ足を運ぶというのはそれなりに意味があるのだろうと)
(眠木に続く)

久藤 嵯督 > 別に儀式をしに来たワケでもないので、黙祷はしなかった。
両手を合わせてナムアミダブツをしたって死んだ人間が救われるとは思っていないし、
そっちに関しては無駄なことだと思っているからだ。

「一通り巡るつもりか?」

さて私用を済ませてしまいたいと思っていた矢先にこれだ。
全く、無用な期待や先入観は持つものじゃあない。
やれやれ、といった様子で後に続いていく。

眠木 虚 > 「あぁ、風紀委員《ボクたち》は知っておいた方がいい」

通りとは外れた砂利道を歩く。
歩くたびに砂利を踏みしめる音が響く。

「さて、この墓苑には引き取られなかった生徒が弔われているわけだ。
 それは事件の被害者だったり、事故で死んだ者、さらには病気で死んだ者……。
 もちろん殉職した風紀や公安の生徒も含まれる。
 まぁ原因は色いろあるんだけどね。
 それ以外にも弔われている生徒、教師が居るんだ。

 どういう人達だと思う?」

再び顔だけ振り返り問いかけた。

佐伯貴子 > (今回は答えたほうがいいだろうか)
犯罪を犯した者…でしょうか?
(消去法で行くとそういうことになるが)
(自分には未知の場所なので正解の確信はない)
(ハンカチを取り出して汗を拭く)
(下着は汗びっしょりだが、毎日のことである)
(外からは見えない)

久藤 嵯督 > 真夏に黒いロングコートを着ていても、汗一つかいていない。
体質が体質なので体温調節はお手の物だし、それだけ熱くなったところで体機能には大した影響は及ぼさないのである。
ただ、それで激しい運動をするともなれば流石に別なのだが。

「……単純に考えるなら犯罪者。もしくは自殺者といったトコだな。
 それで、ご解答の方は?」

この島に犯罪者が蔓延っているのは今更な話だが、自殺者とてそう少なくは無い。
最近でも何件か確認されている。

眠木 虚 > 「正解だ」

言い当てた佐伯と久藤にニッコリと笑みを返した。

「さぁ、着いたよ」

目の前に現れたのは慰霊塔と慰霊碑の数々であった。
よく見るとその慰霊碑には名前が刻まれていた。
つまり、ここに名前を刻まれた生徒がこの墓苑で弔われているということだ。

「死んでしまえば犯罪者も被害者も変わらないただの死者だ。
 中には良くないと思う人もいるだろうけど、死んでしまったものを弔うというのは大事さ。
 たとえ生前どんなことをしていたとしてもね……」

名前の刻まれた慰霊碑を一つ一つ巡っていく。
知らない名前ばかり、それこそ過去になくなった生徒のものであろう。
そして後ろの慰霊碑となると知った名前がちらほらと見かけられる。
その中には元ロストサインの害来腫と呼ばれていた者。
ここ最近の名前にはフェニーチェとして活動していた人物の名前も刻まれていた。

「それに名前をここに刻まれるというのは……この常世島にとって大事なことなんだ
 どうしてだと思うかい?」

佐伯貴子 > (ほっと胸を撫で下ろす)
ええ、犯罪者だから弔われないというのは理屈に合いません。
(『悪』100%で出来ている人間などいない)
(『善』100%で出来ている人間がいないように)
(そう、人間以外も)

うーん…
(また難しくなった)
(今度もお手上げであった)
(常世島にとってとなると、異能や魔術関係だろうか)
(それとも存在した証?)
(色々考えるが適当な答えは出てこない)

久藤 嵯督 > 『死んでしまえば犯罪者も被害者も変わらないただの死者』

同感だ。どのような善人も悪人も、死んでしまえば全てが同じ。
そいつそのものに、今とこれからを変えるだけの力は無い。生きてるヤツだけが立ち上がる。

「過去の反省を記録するためだろう。
 今を生きる俺達には、過去の人間の記録をその礎にする事が出来る。
 犯罪を防ぐ一つの手段としても、『犯罪者を作らないようにする』という手を取ることもある位だ。
 そういった事もまぁ、生徒の安全と平和を守る風紀委員の務めの一つだろうしな。違ったか?」

全ての人間を”そう”させる事が出来るとは思わないが、仕事は仕事だ。

眠木 虚 > 「ゴメンゴメン、難しすぎたかな。
 久藤くんの答えは風紀委員的な考えだね。
 でもこれは生徒会の作った施設だから残念ながら間違いってことだ」

謝っている割には笑顔を浮かべている。
その気があるのかないのかがわからない。

「生徒が亡くなった場合は、遺体が回収されて最終的に納骨堂に納められる。
 だけどね……肝心の遺体が回収できない。
 そういう事例もあるんだ。

 そのために納骨できない。
 けど弔う必要がある、そのために名前を刻むようにしたのさ。

 ……だから、ここに名前が刻まれるというのはこの学園の生徒であった証なのさ」

最後の言葉は何か別の意味を含んでいるようでもあった。
そう思わせるかのように眠木は入道雲の浮かぶ空を見上げていた。

佐伯貴子 > 生徒であった証…
(思考の中ではそう遠くなかったようである)
(しかし言葉にするのとしないのでは0と1の違いがある)

(特に誰に、というわけではないが黙祷を捧げる)
(花束はさっきおいてきたのでもうない)
(祈る義理などないのかもしれないが、そうではないと自分でさっき言った)
(死者たちの冥福を祈る)

久藤 嵯督 > 「……さてな」

自分のいた証を残したい、というのはまだわからなくもない。
誰かのいた証を残したいというのもだ。
すべてを理解したとは言い難いが、それだけでもこの施設がここに在る理由としては十分だろう。

眠木 虚 > 「さて……後もう一つだけボクに付き合ってくれないかな」

その手にはまだ『花』が握られていた。
先ほど献花した花とは別にとっておいたである。

「ちょっと足場悪くなるから気をつけてね」

墓苑のさらに奥。
その道はほかと違って整備がほとんどされていない草木の茂った山道であった。
道幅もようやくすれ違えるほどであり、土がむき出しであるがためようやく道と分かるほどであった。

「生徒であった証。
 あそこに名前を刻まれるのは……生徒として認められた者だけなんだ。
 わかるかい?

 でもね……名前を決して刻まれることが『許されなかった生徒』が居る。
 悲しいことにね……」

山道を進む中、一人の女子生徒とすれ違った。
なにやら泣き腫らしたような目をしていたが、互いに会釈を交わしてそれっきり。
そのまま一行は奥へと進んだ。

佐伯貴子 > (ここまで来たらもちろん最後まで付き合うつもりだ)
(久藤はどうか知らないが)
二級学生…
(そんなことを言いながらついていく)
(花束は必要だった)
(予想していなかったのだから仕方ない)
(来年は何本の花束が必要だろう?)
(それまで生きていれば、だが)

(そういえば山にのぼるのはこの夏始めてだな、と思う)

久藤 嵯督 > (まあ、そうなるだろうな)

いい加減に自分の用を済ませてしまいたいものだが、
目の前にいる人物はまだ何かあるとおっしゃっている。
これが最後になってくれればいいのだが。

特に何かを口にする事も無く、道を進んでいく。
道なき道であれど、多少道が険しいぐらいでどうこうなるようなタマではない。

眠木 虚 > そこには慰霊碑とは違って何も書かれていない墓碑が寂しそうに建っていた。
それだというのに先ほどすれ違った女生徒が手入れしていったのであろう、汚れは一つもなかった。
眠木は持っていた花を、すでに供えられていた花とともにまとめて備えた。

「そうだよ、二級学生は存在していないことになっているからね。
 公式に名前を残せない生徒はあの慰霊碑には『名前を刻まれることはない』。
 生徒会にもそれに異議を唱える人は居たよ。
 それでも名前を刻むことは許されなかった。

 それでも諦めきれなかったんだろうね。
 せめて弔う場所を作ろうと、こうして離れた場所にお墓を作ったんだ」

解説を終えると手を合わせて黙祷した。
『名も無き墓碑』に向かってただ静かに。

佐伯貴子 > でしょうね…
(生徒会が作ったのなら『存在させてはいけない』石碑)
(それがここに存在する)
(学園の良心とも言えるそれが)

(供える花はないがただ黙祷した)
(名も無き生徒たちに)

眠木 虚 > 「この学園にはどうしようも出来ない闇の部分がある。
 こうして事件の裏で名を残せず亡くなっていく生徒もいる。
 だからと言ってそれも全て同じ生徒だ。
 決して分けることは出来ないものなんだ。
 それを知ってもらいたかったのさ。

 そして、ほんとうに重要なのは。
 ボクたち風紀委員の役割についてだ。

 それは決して事件を起こした『犯人をやっつけたり懲らしめる』ことではない。
 ボクたち風紀委員は『生徒を守る』ために存在しているんだ。
 それを決して違えないで欲しい」

顔から笑みが消え、真面目な顔で語った。

「うん、これで見せたかったものは以上だよ。
 付き合ってくれてありがとう。
 なんだか最後は説教臭くなってごめんね。

 いやほら、さ……。

 なんたって、ボクは『指導課長補佐』だからね」

その時にはすでにいつもの不敵な笑みが浮かんでいた。

佐伯貴子 > 生徒を守る…
(守る、その言葉にはどんな意味が込められているのだろう)
(そう簡単に出る答えではない)
(自分の経験の中で咀嚼していかなければならないものなのだろう)
(今日のこの日を忘れることは決してないだろう)
(日々心に刻んで生きていこう)
(この墓地に弔われる人間が一人でも少なくなるように)

(やがて、「熱中症が怖いですので帰ります」等と言って立ち去るだろう)
(この体験を噛み締めながら)

ご案内:「常世学園没者墓苑」から佐伯貴子さんが去りました。
久藤 嵯督 > そこにいた証を残すものとしては、あまりにも儚いものだ。
二級学生個人を知る者にとっては価値のある物なのだろうが、
それを知らない人間から見れば『碑面の何もかもが同じに見える』。
ここには、誰の、何も残っちゃいない。
意味があるとするならば、せめて残された人間を慰める事の他に無いだろう。
へらへらした様子から一転雰囲気を変えた指導課長補佐の眼を、その黒く鋭い眼で見返す。

「―――犯人の打倒はあくまで手段であり、結果だ。”風紀委員”の目的ではない。
 それは十分に理解しているし、これから違える事も無い」

そのために、どれだけ闘争のチャンスを逃してきたことか。
だがまぁ、そのような障害もまたハンディキャップというモノだろう。
自分はその中で常にベストを尽くしているのだから、力が発揮できない憤りは比較的少ない。
あるにはあるが。

「まぁ俺がわかっていても、そうじゃないヤツは一定数いるもんだからな。
 あんたみたいな上の人間が、ちゃんと指導を行っているという事が確認出来ただけでも良かったよ。どうも」

特別褒め讃えているのでは無い、これはあくまで正当な評価だ。

「俺はもう少しここにいるつもりだが、眠木虚、お前はどうする?」

このような言葉遣いをしているが、
この久藤嵯督とかいう男、ピカピカの一年生なのである。

眠木 虚 > 余りにもな言葉遣いに頭を抱える。

「やれやれ、キミはもう少し言葉遣いを正したほうがいいよ。
 『組織に所属する』なら尚更ね。
 せめてボクのことは先輩をつけるか『指導課長補佐』と呼んで欲しいね」

呼び合う場合はそういった礼儀は必要である。
対外的にも一年生が上級生を呼び捨てというのは良くは見えないからだ。
そういえば、夏休みに行っていた新人教育講座ではこの久藤という男の顔は見なかった。
自主参加制が仇になってしまったかとしきりに反省するのであった。

「ボクは他にも仕事があるからね、忙しいのさ。
 なんたって、『指導課長補佐』だからね」

いつもの言葉を残すと山道を下っていった。

ご案内:「常世学園没者墓苑」から眠木 虚さんが去りました。
久藤 嵯督 > 「はいよ、先輩」

目の前にいる人間は先輩として認められる。だからさっさと直してもいいと思えた。
しかし……どこぞのサボり魔を先輩とは呼びたくないものだ。いいや呼んでやるもんか。

眠木が山道を降りていったのを確認すれば、左手の『糸』で周囲の状況を探る。
それで誰もいない事を確認すれば、携帯端末に表示された時間と太陽の位置を照らし合わせる。

(ここからなら確か……)

そうして、山道を更に奥へと進んでいく。