2015/08/29 のログ
ご案内:「女子寮内・サヤと畝傍の自室」に石蒜さんが現れました。
■石蒜 > 脱衣所で、石蒜はまだ湿った感触の髪をつまむ。この長い髪はこの時期鬱陶しいし、重い。
今日もまた畝傍とお風呂に一緒に入っていたのだが、髪を乾かす時間に差があるので、待たせるのも悪いので先に出てもらった。
一秒でも長く一緒に居たいのに……。
出来れば切ってしまいたいが、サヤにとって大事なものだ。我慢しよう。
「ふぅ」サヤは仕方ないなぁ、とでも言いたげに、鼻で笑う。
黒いヘアゴムを取って、髪を後ろでまとめてくくる、こっちの方が楽だけど、サヤは頑として髪型を変えるつもりはないらしい。後ろから首筋を切られた時防御になるとか。
なんで日常生活で後ろから首を切られる対策をしてるのかはわからなかったが、大事なことらしい。
長い髪をヘアゴムで頭の後ろでくくった姿で、脱衣所から出る。
「お待たせー。」にっこりと笑いながら同居人に声をかけた。
「畝傍分補充~~~。」と離れていた僅かな時間を埋め合わせるように、背後からか正面からか、抱きしめようとする。
ご案内:「女子寮内・サヤと畝傍の自室」に畝傍さんが現れました。
■畝傍 > 同居人――石蒜が髪を乾かしている間、畝傍はベッド上に座り、未だ思い悩んでいた。
先日とは異なり授業には出ていたものの、相も変わらず悔恨に苛まれ続けている。
やがて石蒜のほうから抱きしめようとされれば、黙ってそれを受け入れた。
風呂上がりの石蒜の体は、ほんのりと暖かい。
しかし――畝傍の心中では、未だ暗い感情が渦巻いていた。
「……シーシュアン」
どこか物憂げに感じられるであろう、畝傍のその表情。
無邪気な石蒜の姿に、母親のような暖かい笑顔を返す余裕すら、今はない。
■石蒜 > いつもなら優しく抱き返してくれるが、今回はそれはなかった。
「畝傍……。」少しうつむきがちに体を離す。
やっぱり最近の畝傍は変だ、何も言ってこないから無理に聞き出そうとはしなかったけれど、こんな調子じゃ病気にでもなってしまう。
畝傍の横に腰掛けて、手を重ねようとする。
「畝傍、やっぱり、何か悩んでるんだね……。ねぇ、教えてよ、石蒜…ううん……私にも、話せないこと?」いつもの甘えた幼い声ではなく、年相応の声と口調で尋ねる。
■畝傍 > 横に腰掛けてきた石蒜のほうを向く。そして、彼女の声の様子が変わったのを聞くと。
「ボクね……まえに、ボクにやさしくしてくれたヒトを……かなしませちゃったんだ」
畝傍にとっての恩人の一人、薄野廿楽。彼女の名はまだ出さないまま、話しはじめる。
「そのヒト……たぶん、だけど……異能が、なくって」
薄野廿楽という少女が異能をもともと持っていなかったのか、または何らかの原因により、
元々持っていた異能が消失してしまったり、発現することのできない状況下に置かれているか。
それは現時点での畝傍には、判断のつかないことだ。
しかしいずれにせよ、自らの異能が原因で、恩人を泣かせてしまったことに変わりはない。
畝傍はずっとその事を悔やみ、自身を責め苛んでいたのだった。
「ボクとソースケがメイメイさんとたたかって、異能をつかったときから、ボクの中にチヨダっていう、もうひとりのヒトがいるんだけど……このまえ、ボクにやさしくしてくれたそのヒトにあったときに、チヨダが……はいいろの炎が、でてきちゃって。そのヒト、こわがってた」
石蒜は、転移荒野での決戦以後に生じた畝傍の別人格――千代田のことを知らない。
千代田は一度も石蒜の前に姿を現しておらず、
畝傍もまた、今日まで千代田のことを石蒜に話してはいなかった。
だがこのような状況に陥った以上説明しないわけにはいかないと考え、千代田のことについても、話しておく。
■石蒜 > 「……。」懺悔にも似たその告白を、沈痛な面持ちで聞いている。
「チヨダ…もう1人って……もしかして私みたいに、暴れようとするの?どうして……」話してくれなかったのか、と聞こうとして口をつぐむ。
違う、どうしては自分だ、どうして今まで気付かなかったのか……決戦の後なら、もう二月は経とうとしている。ずっと一緒に居たのに、すぐそばに居たのに。
「ううん、ごめん、今はそっちじゃないね……。」話から類推するに、千代田は灰色の炎として姿を表すのだろう、それで、恩人を怯えさせ、泣かせた。それを畝傍は悔やんでいるのだろう。
狂気に陥ってはいるが、畝傍は心優しい人間なのだ、こんな自分を愛してくれる人を悲しませたくなくて、重ねた手を握る。
「畝傍、きっと違うよ、悪いのは畝傍じゃない、そのチヨダが……勝手に出てきたんでしょう?なら怖がらせたのは畝傍じゃないよ。大丈夫、私が居るよ。また会えたら謝ろう、会うのが辛いなら、私が代わりに謝っておくよ。ね?」だから自分を責めないで欲しい、そう願いを込めて、いつも畝傍がかけてくれるような優しい声で、慰める。
■畝傍 > 「ううん。チヨダはいじわるだけど……あばれたりしてないよ。ただ、ちょっと……『混沌』のちからをもったヒトのこと、きらってるみたいなんだ。チヨダは、『炎』だから」
千代田は、かつての石蒜のようにはっきりとした邪悪な存在ではない。
今のところ、千代田が畝傍の肉体を支配し、表に出てきたということもない。
ただ嗜虐的な部分があり、畝傍が精神的な不調に陥ると、千代田はここぞとばかりに自らの言葉を用いて畝傍を苛むのだった。
また、『生きている炎』の力の断片である千代田はそれ故に『混沌』の力に敏感で、
『混沌』の力を持つ存在を激しく嫌悪、あるいは憎悪していた。
「ボクをたすけてくれたひと……ツヅラ、っていうんだけど。このまえツヅラに会いにいったとき、もう一人……ヒシナカさんっていう、おとこのヒトにも会ったんだ。それで……ボクもチヨダも、ヒシナカさんから『混沌』のちからをかんじて。でも、わるいひとじゃなさそうだったから、ボクはチヨダをとめようとしたんだけど」
恩人を――薄野廿楽を泣かせてしまったあの日の状況を、さらに詳しく説明する。
あの時、廿楽と同じ場に居合わせた包帯姿の男、否支中活路から、
千代田は混沌の力を感じ取り、畝傍に警告せんとしていた。
「そのときに、はいいろの炎がでて。ツヅラを、こわがらせちゃった」
改めて説明を終えると、石蒜の言葉に。
「……ありがと、シーシュアン。でも……わるいのはボクだよ。だからボクがもういちどツヅラにあって、あやまらなきゃ……だめだとおもう」
そう答え、ほろりと涙を零す。
石蒜に代わりに謝ってもらうという手も無くはないであろうが、畝傍にはその選択をとれない。
無論、廿楽に謝りもせず、ただ時の流れに任せるなどという選択もまた然り。
■石蒜 > 「『生きた炎』の力ってこと?なら……。」生まれたのが決戦の時、畝傍の『炎』は正気を薪に燃えるのだ、ならやはり……あの時力を使ったせいで……。畝傍は更なる狂気に陥ってしまったのだろうか、私のせいで……。
「私の責任でも、あるね……。」
「ツヅラさんだね、わかった。もし会ったら、畝傍が謝りたがってたって伝えておくよ。」
そしてヒシナカ、両者の名前に覚えはなかったが、『混沌』を感じたというのは気にかかる。悪い人ではなさそう、混沌を身に宿してそれを制御しているということだろうか……。かつて同化していたからわかるが、ただの人間に出来る芸当とは思えない。
違う、今は畝傍だ。脱線しかけた思考を引き戻す。
あくまでも自分が責め、涙をこぼす恋人に、こちらも悲しみがこみ上げてくる。
どうにかしてあげたい、純粋にそう思った。自分が泣いている時、畝傍はどうしてくれただろうか……。
「ごめんね、私……喋るの苦手みたい。なんて言えば畝傍が楽になるのか、わかんないんだ。」何度も、いろんな人の言葉に救われてきたのに、自分の言葉は畝傍の悲しみを和らげることも出来ない。
手で腰を浮かせて、少し離れる。そして「畝傍っ、そのままこっちに横になって。」ぽんぽん、と膝を叩いて、そこに頭を置くように示す。膝枕になる形だ。相手がそれに従うなら、髪を手で梳きながら、優しく頭を撫でることだろう。いつも畝傍がしてくれるように、母親めいた微笑みを浮かべながら。
■畝傍 > 「ううん。シーシュアンのせいじゃ、ないよ。ボクはあのとき、シーシュアンをたすけるってきめたんだから」
千代田が生まれた要因が決戦時の異能の行使にあったにせよ、
このことは石蒜のせいではなく、あくまで自分自身の問題なのだという点を強調するように告げた後。
石蒜が膝を叩けば、そこに頭を置いて横になる。
その目からは、相も変わらず涙が零れていた。
「ねえ、シーシュアン。……あのね」
畝傍は石蒜に、後悔と苦悩の末に思い至った一つの可能性についても伝えんとし、また口を開く。
「ボクにサヤのかけらをくれたレイハは、そのあと……路地裏でおそわれて、けが、してた。そのとき、ボクもレイハをたすけるためにたたかって、すこしけがしちゃったんだけど。ツヅラはそのときに、けがしておなかもすいてたボクを、やたいまでつれてってくれたヒトなんだ。おかねも、はらってくれた」
かつて自身に『サヤの欠片』たる折れた刀の切先を授けた白崎玲刃は、
ある時落第街の路地裏で、50人以上に及ぶ異能者と無能力者の集団に襲われた。
その後の彼の行方については、畝傍は未だ知り得ていない。
そして、その際の戦闘で傷ついたまま大通り側に出た畝傍を、自らも杖をついている体でありながら屋台まで案内し、
食事の代金も支払ってくれたのが薄野廿楽である。畝傍にとっては、そういった認識だった。しかし。
「ツヅラ、足をかたっぽけがしてて、つえをついてるんだ。そんな体で落第街にいたのに、ボクをたすけてくれた。でも……ツヅラは……。だから、もしかしたら、ボクは……ボクにやさしくしてくれたヒトを、不幸にしちゃうのかもしれない、って。もし、そうなんだとしたら……ボクは……」
畝傍が思い至った可能性、それは――自分が恩人に何らかの不幸をもたらしてしまう体質があるのではないか、というものだった。
■石蒜 > 「…………。」黙って、優しく髪を梳き、頭を撫でながら。口を挟まないで話を聞いている。邪魔をセずに、言いたいことを言えば、気持ちが落ち着くかもしれないと考えたからだ。
だが、畝傍が至った仮説を聞けば、手が止まった。
「違う、違うよ畝傍……。」こみ上げてくる悲しみ。こうまで思いつめてしまった恋人に、それに今まで気付けなかったことが、やはりどうしようもなく情けなくて、悲しかった。
「それじゃあ、私は、サヤはどうなるの?私は、優しくしてるつもりだよ?サヤだって、家のこと手伝ってるよ?でも私達幸せだよ……それが正しいなら、一番不幸になるの私達じゃないのかな。」声が震える。決して幸福とはいえない過去を持ち、正気すら失ってしまっても、誰かのために自分を責める少女が、哀れでならなかった。
「違うよ……畝傍は少し、そう…ほんの少し運が悪かっただけだよ。だから……そんな悲しいこと言わないでよ……。一番辛いのは畝傍だって、わかってるけど…私も、辛いよ……。」視界が滲む。畝傍の顔に涙を落としたくなくて、上を向いた。
「ごめんねは、言わないで……一番辛いのは畝傍だから…私は、勝手に泣いてるだけだから……。自分を、責めないで……。」自分が泣けば畝傍はまた自分を責めるだろう、それが予想出来るのに、涙をこらえられなかった。
■畝傍 > 頭を撫でていた石蒜の手が止まる。
その震える声からは、彼女が悲しんでいる様子が、横たわっている畝傍にもはっきりと理解できた。
だからこそ、畝傍は未だ、涙を零し続ける。
「うん……わかってる。サヤもシーシュアンも、ボクにやさしくしてくれてる。ボクも、しあわせだよ。だから……こわくなっちゃったんだ。今はしあわせでも……そのうち、またよくないことが起きるかもしれない……って」
自らの異能の対価としての狂気のように。
幸福の対価としての不幸。そういうものも、あるのかもしれない。
どん底に落ちかけている畝傍の頭の中には、そのような思考さえあった。
もしかすれば、石蒜の言葉通り、畝傍自身も、その恩人たちも、ほんの少し巡り合わせが悪かっただけかもしれない。そうかもしれない――だが。
「シーシュアン……」
ごめんねは言わないで。そう言われ、畝傍は返す言葉を無くしてしまう。
■石蒜 > 「畝傍……畝傍は、幸せになって…大丈夫だよ。きっと私が知ってる誰よりも、幸せになる権利…持ってるよ……。怖がらなくて、いいんだよ……ぐすっ」鼻をすすり、右手の甲で涙を拭った。
「私が、石蒜が保証する……誰が何を言っても、何があっても……畝傍は、畝傍・クリスタ・ステンデルは、何も恐れずに、幸せになる権利があるって…だから、大丈夫だよ……畝傍は、幸せになってもいいんだ……。」震える左手で、優しく撫でる。
「一緒に……幸せになろうよ……。」笑おうとして、目元に涙を浮かべたままの、泣き笑いで、畝傍に顔を向けた。
■畝傍 > 涙を浮かべたままの笑顔を向ける石蒜に対し、
畝傍もまた涙を浮かべた状態で向き直り、どうにか笑顔を作る。
幸せになる権利がある。幸せになっていい。
石蒜の暖かい言葉を聞いて溢れ出したのは、悲しみの涙ではなく、嬉し涙だった。
「……そう、だね。いっしょなら……しあわせに、なれるとおもう」
いつも石蒜に見せているような暖かい笑顔と、
それとは裏腹に消え入りそうな声で、そう返す。
■石蒜 > 「うんっ。」まだ声は弱々しいけれど、いつもの笑顔に。こちらも笑みを深くする。
また涙が滴りそうになって、手で拭う。
「ぐすっ、元気でた?」鼻をもう一度すすって、目をぐしぐしとこすりながら、確認の問いかけ。涙は、もう少しで止まりそうだ。
「いつも私が甘えてばっかりだから、たまには交代しないとね。今日は一杯甘えていいよ、何でもしてあげる、梨剥こうか?」手についた涙をパジャマで拭って、また頭を撫でる。
サヤが買ってきた梨、ちょうど熟してきたから冷蔵庫で冷やしてるはずだ。
■畝傍 > 「うん……もう、だいじょうぶ」
元気かと問われれば、これ以上石蒜に心配をかけまいとし、そう答える。
畝傍のその目から、すでに涙は流れていない。
「なし、かあ……たべたいな」
いつもは聖母のように石蒜の言動を受け入れている畝傍だったが、今は立場が逆転している。
果物は柑橘系を好む畝傍は、普段あまり梨を食べていない。
とはいえ苦手なわけではなく、石蒜が剥いてくれるということもあって、
今の畝傍にそれを拒む理由はなかった。
■石蒜 > 「そっか、良かった。」安心したように、ふう、と息を吐く。
「じゃあ剥いてくるから、待っててね。」と、優しく畝傍の頭も持ち上げて横にずれ、また寝かせる。
「アハ…ちょっと痺れてる……。」太ももに走る痺れた感覚を笑いながら、冷蔵庫に向かって、野菜室から、梨を取り出す。
「~~♪」畝傍が甘えていることが嬉しくて、上機嫌に鼻歌を歌いながら果物ナイフを取ると、まず4つに切ってから芯を取り、皮を剥き始めた。
皮を剥き終われば、それをさらに半分にして8切れに。
ガラスの器にうつして、爪楊枝を刺せば出来上がり。
器ごと持って、畝傍のすぐそばに腰掛けて、梨を口元に差し出す。
「はい、あーん。」声は優しく、その顔は嬉しそうだ。
■畝傍 > 優しい声と共に梨を差し出されれば、口を開け、爪楊枝の先に刺さっているそれをぱくりと口に入れる。
校内に入った梨を咀嚼するたび、しゃくしゃくと鳴る音が心地よい。
しばらく咀嚼した後、それを飲み込むと。
「……おいしい」
心からの笑顔を見せ、そう答えた。
声の調子もすっかり戻った畝傍のその姿からはもう、悲しんでいる様子は見えないだろう。