2015/09/14 のログ
クローデット > ひいおばあさまは、おはなしをおえると、しばらくないていらっしゃいました。
わたしは、ひいおばあさまのかなしみがすこしでもかるくなればとおもって、いすにのぼって、ひいおばあさまのあたまをなでてみようとおもいました。

『………ありがとう…優しい良い子ね、クローデットは』

ひいおばあさまはまだなみだをながしていらっしゃいましたが、それでも、わらってくださいました。
わたしは、それがうれしかった。ひいおばあさまのかなしみが、かるくなったとおもったからです。

クローデット > 『…私は、ベルナデットが死んだのを、無駄だった事にしたくないの。
…クローデットだって…大事な人が、無駄に死んだなんて思うのは、嫌でしょう?』

わたしは、うなずきます。
おかあさまや、おじいさま。おばあさまや、ひいおばあさまが…いみもなくしぬなんて、かんがえたくありませんでした。

『…ありがとう…愛しているわ、クローデット』

ひいおばあさまは、わたしのおでこに、やさしくくちづけをしてくださいました。

そのひは、そのあとすぐにおかあさまがおむかえにいらっしゃったので、わたしは、ひいおばあさまとまたおはなしするおやくそくをして、いえにかえったのです。

ご案内:「クローデットのおもいで」からクローデットさんが去りました。
ご案内:「研究区・異能力研究特室」にダリウスさんが現れました。
ダリウス > ガチャリと研究室の扉が開く
「よいしょ…よっこいせー…っと」

両手いっぱいの買い物袋を下げて室長のお帰りである

「いやぁ、買いだめしすぎましたかねぇ」

テーブルに買い物袋を置いて、ふぅやれやれと汗を拭う

ご案内:「研究区・異能力研究特室」に白椿さんが現れました。
白椿 > ……遅い。
待ちくたびれておったぞ。

(室長の椅子に座り、不機嫌そうな顔を向ける狐。
もっとも、本心からではないのは見てすぐ分かる。単にそう言いたかっただけのようだ。

彼女は基本的にほぼ毎日、長くても2日に一回の割合で顔を出しており、揚げを取りに来る。
新鮮なうちに食べないと勿体無いとのことで、研究室で食べていく。
また、必要があればメンテナンスベッドにてチェックなり改造を受けていた)

ダリウス > 「いらっしゃってましたか。
 いやぁうっかりコーヒー豆を切らしてしまいましてね。
 見ての通り買い込んできたんですよ、ははは」
不機嫌そうな顔をさらりと笑顔で受け流す

「牛乳も買ってきましたよ、飲みます?」
白く薄いビニールのスーパーの買い物袋からパックの牛乳を取り出して見せた

白椿 > うむ。
牛乳は好物であるぞ、入れてまいれ。(何故か命令口調)

……して、いきなりではあるがしかるべきモノは手にいれてきてやったぞ。
ギルゲイオスという魔王であるの。
随分と良い気をしておった。

もっとも、あれ以上や同程度となると相手が限られる気がするの。
我も魔王ならばモノになっても良いというところもあるしの。

(発情を仕込まれたことは表層人格は理解していない、故に惚れたものだという認識をしており
また、抱かれる相手を魔王かそのクラスと同等の異能を基準に考える、ということである。
なお、本来ならば説明する必要など無いことを口にし、場にそぐわない話題を直接的に入るのは
ダリウスに従う命令を入力されているせいだ。
やや回りくどいが、要は、サンプルを手に入れてきた報告とその基準設定に関する報告である)

それと、聞いた時はあまり深く考えて居らなんだが、もし相手が女子であればどうするのだ?

(それと質問)

ダリウス > 「はいはい、今お持ちしますよ白椿さん」

笑ってそう言うと、ガラスのコップになみなみと牛乳を注ぎ、
彼女の座る自分の机にトン、と置く

「それはまた大物ですねえ。
 自称魔王なのか本物の魔王なのか存じ上げませんが。
 まぁ調べてみればわかることですかね。………ふむ」

ひとまず彼女の持ち帰った成果に感嘆、そして続く言葉には少し思案する
落第街でのサンプル集めの1ピースとして彼女を利用しようと思っていた
なので、はっきり言って彼女の表層感情に現れたそれは『邪魔』である
調整を行い、消してしまうことは容易い、が、
そのたびにメモリーをリセットしては不自然な行動が多くなってしまうというリスクが伴う
『不自然』は『警戒』へと繋がる

「ははは、なんですか?高貴な狐さんともあろうものが、惚れてしまいましたか」
からかうように笑う
様子を見るとしよう、これはこれで面白い行動パターンとなるかもしれない
多くのサンプルが欲しいのは事実ではあるが、選別の手間が省けるというようにも考えることができるわけだ

「女性の場合ですか?体液を採取してくださればそれで十分ですよ。
 男性の場合は精子のほうが情報量が圧倒的に多いのでベストというだけの話ですから」

そう言いながら自身もコップへと牛乳を注ぎ、口につける
冷たくて仄かに甘い、健康のためにも毎日飲むことにしようか

白椿 > うむ。善き哉。
(例によってコップを両手で掴むとちびちびと飲む)

……惚れたかはまだわからぬが、どうにもその気になってしまったからの。
それに我が抱かれるに気を許せる相手だというのもわかったのでな。
我くらいになると、事の最中にも能力を抑えぬといけなかったりもするでの。
それを受け止めきれる相手というのはそれほど居らぬ。
壊れてしまうからの。

……ふむ。
其方からの要請があった故、精も唾液もしっかりと保存してあるからの
女子の場合や子供の場合は唾液で良いのかの?
血である必要はあるのかえ?

(体液という表現なので、分泌物と体液の線引の違いについて聞きたいようだ。
DNA鑑定に使えるならなんでも良いのだろうか、となると口腔粘膜細胞ということになるだろうが。
要は舌を絡めるということになる)

ダリウス > 牛乳を美味しそうに飲む様子を見てにっこり笑うと数歩歩み寄り机の前に立つ

「それを人の常識では惚れたというんですよ白椿さん。
 まぁ、構いませんよ。元々僕達には貴女にお願いすることは出来ても強制することはできませんからねえ。
 採集対象とする相手の選別は貴女の領分で判断してもらって結構です」

続く言葉には
「唾液でも構いませんし分泌物でも構いません。
 遺伝情報というのはそれぐらい僅かなものでも膨大ですからねぇ。
 血液に関しては、騒ぎにならない程度に採取できるなら、ということで。お任せしますよ」

白椿 > ……ふむ、そうであるのかの?
我はまだ惚れた、というのはよくわからぬであるからな。
そういった選び方で良いのであれば、我は良きに計らうぞ。
もっとも、其方の頼みであれば、何事も断るべくもないのだがの。

ふむ。
そうであるなら、我が裡に保存しようぞ。
我も相手を選んでしまう故、そうそう機会があるかどうかはわからぬがの。
其方が良いというなら、問題ない。

(狐は自身で従うと言ってしまっているのだが理解していない。
狐にとって、ダリウスは信頼に足る男であり、その言葉は信用に値するため軽々に扱わない
という認識であるのだが、その実、命令をきくだけの優秀な人形である。
狐はそうしなければいけない気がするだけで、その事実を理解できない)

ダリウス > 「素晴らしい心がけです」
その言葉を聞いて、なでてあげようと頭に手を伸ばして

「今日の分のお揚げもちゃんと届いていますから、後で食べて帰るといいですよ」

白椿 > ……うむ、そうであろ。
む、気易く我に触れるでない、その意味、わかっておるであろ?
(ダリウスには完璧に知られている。
狐の行動方針が寂しさと狐のプライドがせめぎあうため、一度は突っぱねた上で、
だが触れて欲しくてしかたのないため、相手がどうしてもというなら仕方がない
という距離感の取り方をすることを。
知っていれば、なんということはない。
突っぱねたあとは、むしろ人待ち顔になるのも遊び甲斐はある)

うむ。
やはりあの揚げは別格であるの。
松坂牛が毎日食せる、といえばわかるかの?
(揚げについては相当ご満悦のようだ)

ダリウス > 「勿論、気安く触ろうとは思っていませんよ。
 今回の功績などを踏まえた上で、畏敬を以ってこう接するわけです」

にっこり笑ってくしゅくしゅと頭を撫でてやる

「それはそれは、垂涎ものですねえ。
 さて、喉も潤ったところで一休みしては如何です?
 ベッドは空けてありますから」

白椿 > む……ならば仕方ないの。
特別であるぞ?
(特別も何もされたくて仕方がないのだが、されると目を細めて安心したように気を緩める。
きっといつまででもしていればその身を任すだろう)

……ふむ、そうであるな。
では準備の方をよろしく頼むであるぞ。

(メンテナンスベッドで開腹され、別個に保存してある精液と唾液のサンプルを取り出されることになるのだが
その認識はない。

ギルゲイオスとの交わりは相当激しかったのもあり、量は申し分のないほど揃っている。
解析すれば面白い結果が得られるだろう)

ダリウス > いつまでも、というわけにもいかない
しばらく撫でつけて、その手を離す

「えぇ、いつも通りのことですからご心配なく。
 これまでと同じように衣服を脱いで横になってください」

にこにこと笑ったまま、自分のコップに残った牛乳をくいっと飲み干す

さて、魔王とやらの持つ遺伝情報はどんな研究成果へと道を繋いでくれるだろうか
研究者としては胸の高鳴ることである───

白椿 > ……んぅ
(名残惜しそうにしつつ。頭を撫でられるのは好きなのだ)

……ふむ、では休むとするかの。
(言いつつ服を当たり前のように脱ぎ、メンテナンスベッドに横になる。
明らかに狐のプライドを無視した行為なのだが、ダリウスの命でメンテナンスベッドに寝るよう指示されれば
人間風情の前だというのに惜しげも無く裸体を晒す。

……白椿AF201=N1019R、魔物型特殊戦闘用諜報アンドロイド、ダリウス=W=雪城の指示によりメンテナンスモードに移行します。

(ベッドに横になれば、機械らしく淡々とした声でメンテナンスモードへと移行した。
初回に比べればすっかり従順な人形であり、おとなしいものである)

ダリウス > カチリ、と眼鏡の位置を直して向き直る

頭上に位置するケーブルを白椿の耳の後ろへと繋ぐ
ベッドの上に備え付けられた、いくつものマシンナリーアームのついたアタッチメントを降ろし、パネルで指示を与える

アームが複雑な動きで目の前の見目麗しい狐の少女の肢体を『開いていく』
手順通り、口腔摂取したものは腹部に、
性行為で取り込んだものは女性器ユニットの上部に、

それぞれ保存用のケースが備え付けられている

ケースを開くと中には既にアンプル状になった魔王の体液が数本並んでいる

「……精子を生きたまま採取できる、というのが一番のメリットでしょうねぇ」

ダリウス > 慣れた手つきでアンプルをアルミの保存用ケースに移し替えていく
空になったケースへ、空の容器を補充しておしまいである

あっという間の作業であった

アタッチメントへの指示を書き換え、少女の次第を元通りに戻していく
間もなく、美しく起伏に富んだ姿に逆戻りである

「…メモリーのバックアップ作業もついでにやっておきますかね」

今すぐに目覚めさせてもおそらく不信感は抱かないであろう、そう設定されている
ただ、一仕事を終えて、成果を出したのだから
メンテナンスという呼称がつくとはいえ、一休みしてもらっても良いものである

「ゆっくりとお休みください、白椿さん」

アルミの小型ケースを白衣に仕舞い、男は研究室の奥へと姿を消す
未知のサンプルを解析する
科学者として至上の喜びを、おそらく完徹で楽しむことだろう───

ご案内:「研究区・異能力研究特室」からダリウスさんが去りました。
白椿 > (狐は明らかに人形らしい様を晒し、メンテナンス用のパネルを開かれ、機械仕掛けの腹部を晒している。
意思のない瞳と表情のままケーブルに繋がれ、ダリウスが搭載した採取用のケースを晒している。
滅菌状態で選別保存できる優秀な機能であり、状態は申し分ない。
狐に言っておけばやれるだけはやってくれるだろう。

交換が終われば、元の姿に戻され、狐は休止状態のまま機能チェックとともにメンテナンスベッドで一夜を過ごすことになるだろう。
何も知らない人形のまま。)

ご案内:「研究区・異能力研究特室」から白椿さんが去りました。
ご案内:「『常世神社の森の中』」にアリストロメリアさんが現れました。
ご案内:「『常世神社の森の中』」に蒼穹さんが現れました。
アリストロメリア > ~前回までのあらすじ~

夏も終わりに差し掛かりつつも、夜空にはまだ夏の星座が輝く頃
蒼穹とアリストロメリアは肝試しをしに、常世神社の森へと入っていく
森の番人を思わせる鴉の姿と、不気味な森の中へと足を踏み入れれば――……

アリストロメリア > 暗い森の中を、ワンドで照らしながら
足元に気を付けつつ、その領域へと入って行けば――……

不気味な鴉の鳴き声が、まるで合図の様に
或いは、この神社に住まう土地神への伝達かの様に、夜の闇に木霊する

木の根の張り巡らされた地面に、足を取られないように気を付けつつ歩いていると
森の中を歩いていた筈なのに、何故だろう……?
いつの間にかその道は、竹藪の中へと続いていた
竹は生命力が非常に強く、竹藪の中では他の木は育たない
故に、この森の様に、森と竹藪の共存というのはありえない光景なのだ

一本道のその道を抜けてゆけば、そこに広がる景色は
『常世』島の名の通り、かぐや姫の聖域を思わせるかのような
おぼろげに、闇夜に輝く月の光を思わせる様な、平安時代の貴族の屋敷の庭に出ていた
けれど、不思議な事に空を見れば月は無く、変わりに北斗七星と南斗六星だけが浮かんでいた

目の前には、まるで誘うかのように お屋敷の入口が目の前にある

……そして、自分たち以外には、誰も居ない筈なのに……何故だろう……?
何処からか、子供達が歌うわらべ歌が永久の闇の中で繰り返されていた

『夜明けの晩の常世島

竹藪の中のかぐや姫

八月の満月の夜に月の都へと帰る

この世とあの世の境目で

北と南の精霊が囲碁を打って待っている

姫はどちらを選ぶのか

丑三つ時に鶴が舞い

今宵の宴はお終いだ』

蒼穹 > ん…あれ?
(ふと周囲に違和感を覚える。
その境界は何処だったのだろうか。
木々と竹林。いつ入れ替わっていたのか。
気付いたら入れ替わっていたとしか言いようがないが。
不気味に薄ら暗く、注視してみないとシルエットにしか見えないのも災いした。
これでも、人外並みに目は良い方だが。
或いは、これは何者かの咒いだとか、そんな類だったのかもしれない。

本当に土着の神の怒りでも買ったのだろうか。

辺りはいつも通りの夜。月が出ていない今日は、新月だったか。
タイムスリップでもしたらしい。
大凡現代風とは言えない、そんな作りの建物の庭。

ともすれば、暗い中に池があり、それらに橋でも浮いていようか。

向かって真っすぐ、いつの間にかお屋敷の入り口まで。
扉は半開き。入るのにも覗くのにも十分すぎるスペース。

おかしな声が聞こえるのは、この中からだろうか。
その意味について考える程に、重要視はしていない様子。
気にも留めない程に楽観的なのは、生来の恐れ知らず故。)

あの竹林、タイムトンネルか何かだったみたいだね。

(冗談半分だが、割と本当なのかもしれない。
一種の怪異現象と見て間違いなかろう。
所謂土着神の神隠しか、全く別のものかなどは分からないけれど。
邪神様が神隠しに遭うとなれば少々滑稽でもある。)

…どうしよっか?
竹林に引き返したら帰れるって思うけど。ちょっと入ってみる?

(半戸の扉へとゆっくり歩いて、ちょっと覗いてみる。
根拠はないが、あの妙な竹林をくぐってこちら側にやってきたなら、逆方向を辿れば帰れそうだ。

それから、振り返って悪戯に笑った。
何者かの作為的な誘い込みがあるなら、受けて立ってやろう所存。
土着神だろうが、その他怪異現象だろうが…そんな、恐れ知らずも甚だしい物言い。)

アリストロメリア > 邪神様ですら気付かない、その森と竹藪の
自然とも見て取れる変化に、人の身の自分としては、到底気付く事も無く
『彼女の一言で』竹藪に入っていた事に気付いたほどだ

「……森に入った筈なのに、何故……?」

我にかえるかのように、ハッとして首を傾げながら夜空を見る
……可笑しい
神社に来る前に、夜空を見ていた筈なのに――……
今宵の月がどうであったかすら、思い出せない
もう一つ、ありえない事と言えば
『夜空に北斗七星と南斗六星しか見えない』こと
夏の夜空がこれだけ見えるのであれば、恒星が5つ見える筈なのだ
……それすら存在しないとは、本来であればありえない事なのである

目の前にある建物も、日本の歴史には詳しくは無いが
確か、随分昔の建物だった筈である
それが、月の光をおぼろげに纏うかのようにぼんやりと光るのも、いささか不気味である

建物というのは、人の手が無いとすぐに『朽ち果てる』ものである
その上、古ければ古い程、その年輪を示すかのように汚れもある筈だと言うのに
新しく建てられた様子も無ければ、人の気配も無い筈なのに
『ただ人がいないだけの建物』にしか見えないのは、何故なのか

周囲には、屋敷の月明りの正体を表すかのように
蛍が漂い始め、おぼろげに輝きながら宙を舞う様子は
まるで、北斗七星と南斗六星以外の夜空の星星が
全て蛍へと変化して宙を舞うかのような錯覚さえ覚えるほど

二人を誘うかのように、暗い池の上にある橋を照らしながら舞う

その間も、ずっとあの妙なわらべ歌の歌は止む気配も無く
屋敷の入り口から聞こえるのだろうかと覗いてみれば
吸い込むかのように暗い闇の中から、まるで此方へ手招きしているかのように見えるのは
錯覚か、或いはそう感じさせるような何かなのか……それすらも、よくわからない

「ですわね」

彼女の言葉に、小さく頷く
本当に、タイムトンネルかのように、まるで平安時代の貴族屋敷
或いは何処か、月の都を思わせるかのような雰囲気の漂う屋敷
続く彼女の言葉に、再び考える

……果たして、神社の森の奥は
こんな竹藪と屋敷が隠されるほどに広かっただろうか?
……実に嫌な予感がする

半戸の扉へとゆっくり歩き、中を覗く友人の手を取ると、迷わず

「……帰りましょう、あまり長居してはならない気がしますわ」

挑戦的に、或いは何か悪戯を企むように笑う彼女に真っ直ぐ返した
邪神であるが故に自信もあるのだろうし、最悪彼女が居れば何も問題は無いかもしれない
『全てを破壊する神』であるのだから――……

とはいえ、何かに巻き込まれる前に逃げる方が賢明である
彼女の手を取り素早く元来た道を戻ろうとするが……
竹藪を出て戻ろうとしている筈なのに、何故かお屋敷の目の前の

竹藪へと足を踏み入れ、初めて足をとめたその場所へと戻ってしまう

「……!? これは どういう……?」

表情が微かに歪み、眉を顰める
目の前にある屋敷の前の半戸からはもう、不気味さしか感じられない

ずーっとずーっと同じ歌を繰り返していたわらべ歌も
竹藪を戻ろうとした所だけ、ほんの1度だけ

『行きはよいよい 帰りはこわい』

と、歌が変化した

蒼穹 > あんまり深い事を考える必要はなさそうだけどなー。

(己にはまるでもって深い考えなどない。肝試しとは言ったものの、怖がる要素も、怖いものもないのだから。
彼女がこちらの手を掴み、引っ張って行くそれは、何だかいつもよりも焦っていて、
少し手に力を入れている様な気がした。

帰って行くその足取りも、同じく焦って早足に思える。
ただ、怖がってしまうのならば、その早足に合わせて戻って行こう。
完全に想定外だし、怖がってしまうのも無理はない。

暗かったのや、早かったのも災いして中身はまだ見えなかった。

竹林を行く。…どちらが前でどちらが後ろだ?
そもそも、この竹林の境界はどこだ?この竹林は何処とどうつながっている?
成程、考えたら不気味だが、これも一口に怪異だ。空間が歪んでいるとか、そういうものなのだろう。)

………面倒事に巻き込まれちゃったな。多分。
それに、多分…お屋敷の人も返してくれなさそうだしなぁ。

(気付けば、元の位置だった。目の前には平安の屋敷。月はでないまま。
仄明るい星々と、時折一際明るい様な星が目に着く。それくらい。

かぐや姫が住んでいたらしい、かの讃岐の造の屋敷にも神社が鎮座されていたんだとか。

子供の囁きの様な声の言葉は、作為的に聞こえた。あたかも、帰さないとでも言いたげに。)

望むところだよ。隠れてないで出てきたら?
出てこないからこっちから行くけどね。

(目を細めて半笑い。半戸を挟んで向こう側、いるかいないかもわからないわらべ歌の主に向けて言ってみるが。
果たしてそれは聞こえているかどうか。)

…どうしよっか、怖いなら待ってる?一人の方がもっと怖い、かな。

(彼女本人、怖いと言わずとも少なからず不気味さを感じているのはよく分かった。
彼女も人の身だし、それは仕方ない。
というか、己が恐怖感とかが鈍り過ぎているが故の状況であろうし。

誘い込むような、新築の。まるで留守宅の様な家を見遣る。
隠れているのか、人でない者がいるのかは知らないけれど。
このよく分からない歌も、帰ることが出来ない状況もあそこに原因があろう。

最悪無理矢理転移の穴をこじ開ける邪道もあるが、
癪に触るので隠れながら恐怖感を煽ってくる卑怯者の化けの皮を引っぺがしてやらんと言うお気楽半分挑戦半分な思考。)

アリストロメリア > 「杞憂、だといいのですけれど……」

手を引いて前を歩きながら答える声こそはいつも通りなのだけれど
……その早足が、隠しきれない焦燥感の現れのように
力の籠っている手は、いつもより痛かったかもしれないけれど、悪気はなく
いや、寧ろ『この場を早く出なければ』という言葉が秘められているかのようだった

聞いた事の無いわらべ歌の木霊する竹藪の中は気味が悪く
屋敷から離れて随分経ったと言うのに、人影も無く
一体どこから聞こえてくるのか……?

まっすぐと来た道を戻っている筈なのに
何故か、
帰り道は行く手を阻むかのように感じた
……可笑しい、行きの道は確実にもっと広く、歩きやすかった筈だ
いけども行けども竹林で、こんなに長く竹林を歩かなかった気がする
……一向に森の見える気配は無い
恐らくは、きっと
竹藪へと足を踏み入れてしまった時から、この怪異の領域へと入ってしまったのだろうけれど

「……どうやら、完全にそのようですわね」

森を抜けたと思ったら、あの屋敷の目の前に辿りついて やや呆然としながら
友人に短く返す

常世島だけあり、かぐや姫の島なのだろうか?
或いは、この土地神自体がかぐや姫なのだろうか?
――……そう思わせてしまう様な、わらべ歌とお屋敷

一度だけ囁くように歌われる『行きはよいよい帰りはこわい』は
きっと、返す気は無い揶揄でもあるのだろう

居もしない、或いは正体すら見えない怪異に向かい強気な友人は、こういうときは実に頼もしい
彼女の問いに小さく首を振ると

「……いえ、一緒に行きますわ
一人で居るよりも二人で居る方が、安全でしょう
……なにがあるか、わかりませんしね」

再び、そっと手を取る――……
その表情と態度はいつもながらで気付かなかったかもしれないけれど
その手は、微かに震えていた

気味が悪い
此方を誘う様な、不気味な戸口も罠である事を隠す様子も無ければ
それ以外に選択肢が無いのを、分かりながら此方の様子を何処かで伺っていて、愉しんでいる様な怪異も
きっと。出口を探すにしろ、何にせよ、中に入らなければならない事は確かなのだろう

本当に最悪の場合は、きっと邪神様が何か動き出すだろうから
そういう意味では、安全なのかもしれない

楽しそうに、怪異の化けの皮を剥いで今にも仕返ししてやろうと楽しそうな邪神様の横で
必死に歌の意味や、出口に関して考えていた

(もし、あの歌に意味があるとしたら……?
かぐや姫を探す事が目的?……それとも……?)

あの歌は、何を示すのだろうか……?
そう思いながらも暗い暗い屋敷の散策が始まる――……

ぼう、と照らすワンドの光も微かになり
ほの暗い屋敷へと足を踏み入れれば、ギチ、ギチ、と床が軋み
嫌に暗い屋敷の中に響いて気持ち悪い

その廊下の障子には、気配が無い筈なのにきゃっきゃとはしゃぐ子供達の影が動き、笑っている
……徐々に、わらべ歌と重なるかのように、お経を唱える声が聞こえて来た……

蒼穹 > 杞憂も何も。ただ、何か悪い奴に捕まっちゃったって事は確かだろうね。

(屋敷の段を踏む。見た目は綺麗だったけれど、その踏み心地は悪い。
床が軋むなら、雨に晒されて老朽化しているのだろうか。強く踏んづければ床板に穴を開けるのも容易いだろう。

招かれるように中へと入るけれど、何を仕掛けてくるでもない。

障子に、何かの影が見えた。せせら笑う声。
少年とも少女ともつかぬような高い声と、同じく見ただけでは男とも女ともつかぬ、ただ幼さが前面に見える低身長の人陰の端っこ。
駆け回っている様だった。障子を慌ただしく踏む音が聞こえた気がする。

ので。開けてみようとしたが、立て付けが悪いのか開かない。)

ちょっと手離して、離れてて。
―――。

(彼女の手を一旦外して。助走もつけず歩み寄れば、何ら躊躇いなく障子を蹴り飛ばした。
軽々と、薄紙を剥がすかのように。まるで全く反作用を受けていないかの様に。
老朽化した木は折れる、紙は破ける。だがそれだけ。

向こうは和室。何畳間であろうか。そこそこ広い。

壺やら掛け軸やら、何かを置き据えるだろう黒色の台座。そんなものがあるけれど、子供の姿は1つとしてそこにない。
けれど、子供の笑い声とわらべ歌は続こう。)

…はぁ。
何だろねー、これ。

(息を吐き肩を竦めた。
煙や霧を掴んでいる気分だ。怖くはないがもどかしい。

鈍く、何処かの廊下から、これも男とも女ともつかない…低いけれど、女の様な、そんな声の「ぽ」と言う声―――
或いは、わらべ歌と重なるお経の声の主と遭遇するのは、どれくらい後の事だろうか。)

…何か、来るね。

(怪異の持つ、独特の"異様"な雰囲気。魔力とかそういうものではなく、
言葉にするなら、霊力とか、妖力とか。そういったものの類が感じ取れた。)

アリストロメリア > 「そのようですわね」

頷いて返しながらも、周囲に神経を張り巡らせる
綺麗な屋敷の筈なのに、足の動きに合わせて軋む音や踏み心地も不釣り合いでただひたすらに不気味なばかりだ

仕掛けも何も無いが、わらべ歌と共に重なるお経の声もまた、主が分からず薄気味悪い
或いは、怪異を沈める為の何かなのだろうか……? その効果はなさそうだけれど

障子の影絵では、小童であることまでしか分からぬが
行っては来たり、集まっては消えて散らばりながらも笑い声だけが響いて行くのが不気味だ
蒼穹嬢が障子を開けようと試みるが、開く気配も一向にない

「ええ」

小さく頷いて手を話せば、少し距離を取った瞬間――……
障子を蹴り飛ばし、いとも簡単に粉々になり、木片や薄紙がひらひらと舞いながらも
まるで子供が、殺されたかのような悲鳴を、影の数だけ木霊させた

思わず耳をふさぐが、それ以外には何も無い
影の向こう、障子の先に人の気配は無かったが、当然の様になにもある訳が無い

蹴り破られて現れた和室は、ただただ広いばかりである
きっと、こんな物の怪の住まう屋敷でなければ、外から漏れる星明かりが
風情のある趣きだったかもしれないけれど……

壺やら掛け軸やら、黒色の台座はあるけれど、子供の姿は一つも無い
少し気にかかるのは、かぐや姫の屋敷だと言うのに掛け軸に『管輅』の文字が書かれている事だろうか?

……障子を壊したと思ったのに、まだ子供の笑い声とわらべ歌は続く

「何でしょうね、気持ち悪いですわ……」

溜息を吐く彼女に、そうとだけ答えた
……よくよく周囲を見れば、屋敷の所々に盛り塩と、何だかお札が貼ってあるのが見てとれた

『ぽ』

と、言う声が、わらべ歌やお経に隠れて徐々に聞こえてくる――……

『ぽ ぽぽぽ…… ぽぽぽぽぽぽぽぽぽっ……』

声の主は何処からか……?
『…何か、来るね』という彼女に無言で頷きながら
徐々に迫る、湿気た様な特有の異質な空気が禍々しくも、じっとりと纏わりつくかのように
じわり……じわりと空気を蝕むかのように、強くなっていくのが感じ取れる

「声がどんどん大きくなるのに、姿が見えないどころか、足音や気配すらも感じられ――……」

そう言って、蒼穹の方へと振り向いた瞬間だった

自分の目の前に、床下まで伸びた漆黒の髪をした、白いワンピースを纏った
死人の様に蒼い顔をしながらも、大きな眼の焦点が合わないままに
何とも言い辛い、水死体を目の前にしたかのような 不気味な女が自分の真ん前に立ち
薄気味悪い顔が視界全体に飛び込んできたのは――……

「きゃああああああああああああああああっ!!!」

思わず悲鳴をあげて、素早く隣に居る少女の手を掴んで
その女から逃げ去るように、走っていく
……が、気味の悪い女もまた 恐ろしい素早さで後ろを追い掛けてくる

逃げども逃げども廊下は続き、こんなに長かっただろうか?と疑問に思う程
永遠に続きそうな長さである

真っ直ぐに行けばきりが無い……
途中にある十字の道を、追手の目を眩ませるようにして曲がりながら

「蒼穹嬢!此方へ!」

と、手を引きながら素早く曲がって姿を一瞬、女から眩ませたかと思えば
その障子を素早く引いて、中へと隠れて身を顰める

『ぽ……ぽぽぽぽぽぽぽぽぽ……ぽぽぽっ……』

女の素早く此方を追う声が聞こえるが、そのまま声は素通りして……
どうやら、女は通り過ぎて行ったようだ

ホッとして、頬が緩む

「……どうやら、何とかやり過ごせたみたいですわね」

と、小さく隣の少女に囁いた
……が、それも束の間で――……

怪異が去り、胸をなでおろして安心すれば……その部屋はやけに生臭い
……甘酸っぱい様な、嗅いだ事の無い異様な匂いと共に
良く知った鉄の匂いが空気に混じっている……

嫌な予感がして、恐る恐る目の前を照らせば――……
































…………目の前には、首の無い死体が

白い着物を真っ赤に血に染めて横たわり、その頭の方には、血で北斗七星が描かれていた

蒼穹 > …うん。気味悪いね、流石に。

(蹴り飛ばした後の部屋は、普通の和室だった。どうして無理に閉じていたのかはともかく。
障子を蹴った後の声はと言えば、己はどうかさておくけれど、人の耳には当然いい気味の声には聞こえまい。
子供が殺されたような悲鳴が響くのだから。

掛け軸に管轄―――権限によって支配すること。また、その支配の及ぶ範囲―――と書かれているのは何を意味するのか。
土着神の権限の下、支配されているとでも言いたいのか。まるで分らない。)

…他の部屋にも、いるのかな。それとも。

(尚もわらべ歌が響き渡るとすれば、それくらいか。
そもそも、あの子供たちがわらべ歌の原因だったかも実際は不明なのだから。
障子襖がある部屋など長屋なのだから沢山ある。虱潰しに調べていけば分かるかもしれないが、
どうにも、そういう気分ではない。なにより彼女は長いしたくないのだからさっさと最短ルートが見つかればと思う。

盛り塩と御札。己はそういった神道の邪神ではないから、原理もその効力も実際は知らないけれど。
ただ、魔を寄せ付けざるものとして在るのは知っている。)

…瘴気。

(禍々しい独特の気配。怪異が纏う湿り気のある、正しく不吉と不気味を体現させたような気配。)

…。

(一瞬だけ体が浮いた気がする。それ程に必死だったのだろう。二歩分ほど宙を舞えばやっと足が着く。
彼女に遅れて、真っ白な怪異が見えた。
見えた巨躯の女。…いや、あれはそもそも女か…?まるでゾンビの様な肌色。
ああいう生き物もまぁいるだろうけれど、ああいうやつは大体目が悪い。代わりに聴覚か嗅覚が強いのが定石だ。
であれば今叫んだのはいけなかっただろう。
あの「ぽ」という音波を当てて弾き返して自分の位置や障害物との距離を計算しているのだろうと憶測しつつ…。

なんて冷静に分析しながら彼女に手が引かれるままである。
もう少し落ち着いてほしいと思うのだが、やはりというか、残念ながら人間と恐怖感はあわなさそうだった。
ほぼ同等のスピードで、走って行く。己は疲れないけれど、彼女の方はと言えば、走りつかれていそうだ。
嫌な時間は長く続く。故、彼女にとっては、例え廊下がそのままの長さであったとしても、一分一秒が長く感じられただろう。
此方へ、と言われて導かれるままカクッと曲がり角を。

…多分目も鼻も悪いらしい。

直進して行った、その奇妙な後ろ姿が見える。
去り際も、あの巨躯に似つかわしくないスピードだった。)

そうだね。
あのね。…どっちかっていうとアリスの叫び声に吃驚したんだけど。
も、もうちょっとさ…落ち…付かない?

(何だか驚いている焦点が違う。)

………見ちゃダメだよ。こりゃ。

(ワンドを持って照らした彼女を有無を言わさず押し退けた。
人が見るには宜しくない光景だろうから。

死体はまぁ、これでも邪神だった。嫌と言うほど見てきたと言っても差し支えないかもしれない。
首なし死体というのも、猟奇的な中では割とましな方だと思うが割愛しておく。
見事とは到底言えないが紅白のカラーリング。
血生臭い香り、汗臭い、腐臭の様な、何とも言えない香り。

嫌に北斗七星のマークが頭に残る。…わらべ歌でも何か言っていたか。
今血生臭いと言う事は、まるでたった今殺されたような、そんな匂いだ。)

アリストロメリア > 「本当に……」

それ以上、言い様の無い返事を返す
不気味な現象とは裏腹に、至って普通の和室に見えるのが、また気味が悪い
……何故、無理に閉じていたのかと尋ねたくなるほどに
あの障子に、小童の魂でも取り込まれていたのだろうかと思ってしまうかのような声も
子供の殺された様な悲鳴が響けば、死体自体が目の前になくても
嫌に耳にこびりついて、思わず顔を顰める

「どうでしょう……?
他の部屋に居たとして――……」

それを考えて、ぞっとした
……この物の怪屋敷に小童が居たとして、それは、きっと人では無い何かの可能性が高い
それを考えれば、不気味な事には変わりないが 声の主が出てこないだけましかもしれない

虱潰しに全ての部屋を開けて調べて行けば、きっとどこかでその正体は判明するかもしれないが
……あまり、この場に長居しない方が良いだろう。紫色の少女の言う事は、そういう意味では的を得ていた

『管輅……?』
その言葉に、眉を顰める
何を示していると言うのか

盛り塩も誰がしたのか?置いたばかりの綺麗な塩である
お札も然り……一体誰が用意したのだろうかと思うほどに
実際に盛り塩をしてみると理解できるが、こんな湿気った空気の中に放置すれば
10日も経たずに駄目になる
つまり『常識的に考えて』その盛り塩は時間的にも置かれたばかりである事は確実であるのが見てとれる
……最も、怪異現象に常識等を持ち出す所で無意味かもしれないが


―――――――――……

濃くなる瘴気から逃げるかのように、必死に追手から逃げていく

振り向いた瞬間、目の前に顔があったけれど……あんなに大きかっただろうか?
いや、自身の身長自体2m以上もある筈が無い

それ以上は深く考える事も出来ずにただただ真っ直ぐ懸命に逃げるしか出来なかった
己とは裏腹に冷静な邪神様の手を惹きつつ……嫌に長い廊下を走って逃げ隠れて

無事にやり過ごしたと知れば、ホッとして

「……驚かせてしまったみたいでごめんなさいね
蒼穹嬢は、流石邪神だけあって冷静ですわね……」

笑みを見せるが、その顔色は真っ青である
まぁ、邪神と人間で焦点が違ってしまうのは、いささか仕方ないのかもしれない

『見ちゃダメだよ』と、押しのけられて その光景を見られなかったのは、幸いかもしれない
得体の知れない女に追いかけられた後に、立て続けに首の無い死体を見れば、精神的に持ちそうにない
……匂いから、そしてこの場所から『それが何か』という事は、薄々気付きながらも
立て続けに起こる恐怖に、力無くその場にへたり込み、蒼い顔で小さく震えていた

対して、邪神の彼女は人の死体なぞ平気、或いは見慣れたものの一つだろう
平気そうに死体を見るが、それにしては死体を見る時間が長い様な……?
或いは、何か考え込んでいる様にも見える

「何か……気になる物でもありまして……?」

背中越しに、小さく声をかける
振り向く先には、死体があるから振り向かない方が良いだろうと思って

「……死体は、この屋敷に私達の様に誘われた犠牲者のものかしら……?」

見ていないから分からないけれど、匂いからして血や死体があまり古い様には思えなかった
それに、怪異屋敷での死体という物がどうなるか分からないけれど、放っておいたら死体に蛆でもわく可能性も大いにある
仮に、新しいものだとして……その犠牲者はいつ頃被害に合ったのだろうか……?

謎は、尽きない


声をかけて、暫くして
延々と続くわらべ歌の中に、ぱちり、ぱちり……と囲碁を打つような音が少しだけ混じった
屋敷の奥の方からだろうか……?

そして、しくしくしくしくと啜り泣く女の鳴き声と

『こっち……こっちだよ……こっちへきて……?』と、誘うかのような少女の声が聞こえてくる

蒼穹 > んまぁ。…ああいう化け物とか一杯見てきたしね。
ってかさ、どっちかっていうと私も化け物とか怪異の方だから。

(所謂、仲間である。否、仲間ではないが同業者みたいなものか。
人を初めとして、生ある者へと害をなす、命に対する絶対悪、それが怪異。)

困ったね。

(もう誤魔化しきれないほどに彼女は恐怖しているのが目に見える。薄っすら青色になっているのは、何も暗さの所為ではなかろう。
瘴気、怪異の嫌な気配は、当てられただけで衰弱させるような、生きる心地を失わせるようなものでもあるらしい。
これも、やはりというか、己はどっちかといえば怪異側であるが故に、平気なのだが。)

…あー。何だろう。

(気になるものでも、と問われれば振り向く。
多少長く死体を見ていたのかもしれないが、もう用もない。)

北斗七星、じゃないかな。何がとはいわないけど、そんなマークがあったよ。
…いや、どうだか知らないけど。

(死体は、あると分かっているだけならまだましだ。
魔女であろうと、"普通"の人間…それも、彼女の様に、学生の、それも女の子というべきなら直視できないのが普通らしいから。
それも、殺された、猟奇的なこれは、みたら精神崩壊しそうな代物だ。)

さぁ…どうだろう。分かんない。
怪異には経験や法則は一切通じないんだってさ。私の知り合いの受け売りだよ。
怪異は気紛れ。それは幻影かもしれない、現実かもしれない。
或いは、単に夢を見ているだけかもしれないし、本当に誘われたのかもしれない。
あの死体だって、作り物かもしれない。全部"かもしれない"。確定要素は一つもない。
だからさ、演出は恐いって感じるかもしれないけど、やってることは転移荒野を散歩してるのと同じ。

…さて、これくらいにしておこうか。
何でも、向こうから御呼びみたいだしね。罠だろうけど、正面から蹴破るしかないよね。
それに、罠だとしても、何か手がかり見つかるでしょ。
掌で踊らされてる気がするけど、まあ…そういうもんかな。趣味の悪い御遊戯《アトラクション》だよ。
最悪このわけわからない世界全部吹き飛ばすから安心しといて。

(己は、何時だって考えることをせず、こうやって愚策に走る。
真正面から衝突して負ける事などまずないと、そんな過剰な自信を抱いているから。

管轄の掛け軸が貼られた部屋を後に、屋敷の廊下へと戻る。
奥側へと続く道。邪気、瘴気が漂っている気がするが、そういう物だろう。

はたして、こっちへ来いと要求する声の主が善であろうはずもないと推測するのは容易だった。
何かを打つような音より、そっちに気が行ったようで。襖の外で手招きすれば一足先に出て行った。)

アリストロメリア > 「……邪神であれば、神以外にも化け物や何とも言えない不思議なもの等見慣れてそうですわね」

彼女の言葉に納得しながら頷いて、削られた精神で身体の方も多少は影響を受けているのか
そのまま下を向いて暫く黙っている
もしかしたら、そのままうずくまって体力を回復させている様にも見えなくもない
彼女の『困ったね』の、一言に返せる体力も どうやら今は無い様だ
……泣き叫んだり、喚き散らすと言う事が無いだけ、人間の中ではマシな方なのかもしれないけれど
邪神から見れば人というのは脆弱な生き物である事に変わりは無いだろう

「……北斗七星……」

ぽつり、とその一言だけ反芻するように返す
歌にもあったし、見てはいないけれど……きっと間違いではないと言うか、大きなヒントなんだろうとおもう
思い返せば、いかにもと言わんばかりに、空には北斗七星と南斗六星しか星は存在しなかったし
歌にもそれらは出てくるが……
果たして何を言いたいのか……?

色んな事がいっぺんに起こって、パニックに陥りそうな脳内を少しづつ整理していく
多分、きっとあの歌は何かしら間違いなく意味がある筈
……そうでなければ、こんな風に何度も何度も言い聞かせるように
その上、それらの関連を分かりやすく示す様なものが散らばる訳も無い
……解ける謎であるならば『人が解けるように』作っている為に何かしらの意味と答えは確実にある筈だ
上手く回らない頭を、どうにかゆっくりと動かそうとする

ぱちん、ぱちんと少しだけ聞こえる囲碁の音が少しだけ心地よくて、癒された
……あれは何処から聞こえてくるのだろう?

「……怪異には経験や法則は一切通じない……その通りかもしれませんわね
正体を突き止めてないから何とも言えませんけど、幻想の可能性や、はたまた本当に実態があるかもしれませんわ
……夢なら醒めて欲しいですけれど、誘われたなら出ないと私達も囚われてしまいますわ
……何にせよ、とりあえずは"ここを出ないと"という事は変わらない気がしますの
もし、夢だとしても……永遠に夢の中に引きずり込まれると言う事もあり得そうですから……」


――……その後に、女のすすり泣く声と、少女の招く様な声に、びくりと驚きながら
声の聞こえる方向を見る

彼女の言うとおり、罠だと知っていても行かなければならないだろう
あまり気は進まないけれど、駄目だったら行った先でまた対処するしかないだろうし
本音を言えば無視をしたいけれど、何か出口に繋がるヒントがあるのなら、困りものだし
ただ、隣で『安心しといて』という邪神様が頼もしいので、小さく頷いて返事を返して
ゆっくりとだけれど、腰をあげれば再び手を取って歩きだした

はぐれないように、気を付けながらも
その手の力も大分軽くなっていて、人の寿命を思わせる様な心細さがあった

『……こっち、そう こっちへ来て』

そう招く彼女は何者なのか……?
響くのは声ばかり
時々、十字路等に出れば

『そっちじゃない……右側の方に曲がって』

等と言いながら、招いてくる

……声と一緒に、時々

『ぽぽぽ……』 『ぽ』 『……ぽぽぽぽぽ』

という声が、行ったり来たり
聞こえたり遠のいたりを繰り返して、それが罠かすらも判別がつかない

その間も、時折 ぱちん、ぱちんと囲碁をはじく音と
……奥に行くにつれて、何やら祈るかのような声が聞こえてくるが

これは、誰の声だろう……?
どうやら、声の主は男性の様だ

その奥へと行けば、一際大きな障子が目の前に広がると共に、大きな燈明七個、回りに小さな燈明四十九個で照らされているのが
障子越しから辛うじて判断できる

「これが成功すれば――……筈だな」

けれど、慌てる足音が聞こえたかと思えば、そのうちの1つの燈明が消え
「孔――……」という声が一瞬だけ聞こえたかと思えば
幻だったかのように、しぃんと辺りは静まり返るばかりである

……あれは何を意味するのか……?