2015/10/02 のログ
ご案内:「《サイバーアレクサンドリア大図書館》」に食屍鬼さんが現れました。
ご案内:「《サイバーアレクサンドリア大図書館》」に《銀の鍵》さんが現れました。
■食屍鬼 > ――俺は認識する
無機質な緑のワイヤーフレームで創りだされた空間を
――俺は認識する
その中に存在する俺自身を
電脳空間に存在する仮想空間、食屍鬼と名乗るハッカーは、《大電脳図書館》の巨大な門の前に居た。
ここのセキュリティはまだ破れていない、定期的に訪れて僅かな情報の断片を集めてはいるが、まだ門を破るのに有用な情報はない。
「身持ちが固すぎんだよ、誰にでもってんならわかるが、一人だけ素通りしてんのがムカつくぜ。」屑データを漁りながら憎々しげに呟く。
そう、この堅牢極まるセキュリティの門を、正規の手段ではなく出入りしている存在がいるのだ、ここの所鳴りを潜めていたが、また動き出したらしい。
こうしている間にも、門を破ろうとするハッカーどもがひっきりなしにアタックしている、それを気配を消して眺めなている。
お前らには無理に決まってんだろ、俺だって無理なんだ。
■《銀の鍵》 > ――〝没入(ジャック・イン)”する。
我は神意なり
俺の視界に電脳世界(マトリクス)が広がっていくとともに、《I AM PROVIDENCE》の文字が表示される。
俺が使っているサイバーデッキ《プロヴィデンス》の起動画面だ。
アーカム・ハウス社のこのサイバーデッキはいい感じだ。伝達速度も最高クラス。
俺は《電脳化》はしていないが、このサイバーデッキのおかげで、没入率は格段に高い。
その分、脳髄に与える影響も大きいんだが――
「ここに来るのは久しぶりだな」
ハッカー《銀の鍵》の姿を纏った俺は、サイバーアレクサンドリア大図書館の前に来ていた。
師匠を失ってからしばらく経った。長い間俺は腐抜けていたが、もうそうはいかない。
《グレート・サイバー・ワン》、《GCO研究所》、《ロストサインの門》……師匠から貰ったデータの断片は数多くある。
それを、確かめに来たのだ。
「――開錠」
俺は急いでいた。ここのセキュリティは堅牢だ。あまりぐずぐずしていると《氷》に見つかってしまう。
俺は電子迷彩のプログラムを起動しながら、図書館の門の前に立つ。
そして、使う。俺の《異能》
俺が手をかかげ、鍵を回す所作をするだけで、その扉は開いていく。
すかさず、俺はその中へと飛び込んでいった。
門の前で見ていた誰かに、俺はその時気づかなかった。
後からわかったことだが、奴は魔術師級だったからだ。
■食屍鬼 > 「マジかよ。」小さく呟く。
また木っ端ハッカーが来たと思ったら、まるで迎え入れるように門が開かれちまった。
「俺とは随分態度が違うじゃねぇかよビッチが。」だがこれはチャンスだ、アイツ相当急いでるな、迷彩されてるとはいえまだ門は開いてる。
三流相手ならばれないだろうが、生憎俺は超一流だ。
開いた門が再び閉じる前に、中に滑りこむ。
俺の背後で門が閉まった。後ろ手にドアに仕掛けを施す。一度内側に入っちまえばこっちのもんだ、これで次からは入り放題。
同時に、先客の背中へと向けて小さな蜘蛛の形をした追跡プログラムを放つ、それなりに電子迷彩はかけているが、相手が俺の想定しているハッカーなら、難なく気付けるはずだ。つまり挨拶代わりのちょっとしたじゃれあい。
「(ちょいと確かめさせてもらうぜ。)」
■《銀の鍵》 > 《電子魔術師》である俺の師匠は消えた。
俺の起こした自体のために、電脳の海の中に消えた。
そして、俺はあるものを解き放ってしまった――それらはまだ、鳴りを潜めている。
しかし、確実に俺を狙ってくるはずだ。それまでに何としても、奴らの事を調べておかなければならない。
今日はそのためにここに来た――しかし。
やはり、早々上手くもいかないようだ。
「――俺を追ってきただと?」
サイバーアレクサンドリア大図書館の電子回廊を突き進んでいると、不意に気配を感じた。
俺を追尾してきているプログラムがある。俺は師匠に鍛えられたから、ある程度ハッカーとしての自信は持っていた。
そこに、こんな見え見えの追尾プログラムがやってくる。
明らかに仕掛けてきている。
「舐められたもんだな」
俺の思考が回転する。俺の組んだ特製のプログラムは、俺の後ろを追ってくる追跡プログラムを捕えていく。
俺は一気に振り返り、攻性プログラムを解き放つ。姿形は何でもいいが、一応はナイフの形にしてある。
それが追跡プログラムに向かう。
――ハッキングすればこんなのは一発かもしれない。だが、それをしないのは、どんな奴が背後にいるかわからないからだ。
「出てこいよ、今更迷彩なんて意味もないだろ」
同時に、俺はこの周辺の区域にハッキングをかける。
迷彩を解けば、当然《氷》に見つかるからだ。
迷彩より少々面倒だが仕方がない。
■食屍鬼 > やはり気付かれた。まぁそうでなくては面白く無い。
蜘蛛はその背中の赤い模様にナイフが突き刺さり、0と1のノイズに分解されて消えた。
不用意にハッキングで触りに来たら、毒(つまり感染型の攻性プログラム)を流し込めたんだが…
そして、《氷》に見つからないように周囲の情報を改ざんしてくる。
ああ、大した腕だ。俺にはこんな芸当は出来ない、やるならスプライトの援護と準備が必要だ。
電子迷彩を解いて姿を現す。「ハ、ハ、ハ。」断続的な笑いをあげるのは、ボロ布を纏う、灰色の皮膚をした痩せこけた人型。グールのアイコン。
「良い腕だ、良い腕だなぁ、おい。だが門を開ける時とは全然違う。あれはハッキングじゃなかった、痕跡が残ってねぇもんなぁ。ってことは異能だ、そうだろ?」
虚ろな眼窩の奥で、赤と青の光が相手を捉える。
「聞いたことがある、どんな鍵でも開けられる異能を持ったハッカー。お前ェ、《銀の鍵》だろォ。」口の端が歪み、不吉な笑いを見せる。目に宿るのは強い敵意。
■《銀の鍵》 > 「……こいつ、まさか」
電子迷彩が解かれる。俺の目の前に現れたのはぼろ布を纏った人型のアイコン。
そいつが断続的な哄笑を響かせる。
俺はこいつを知っている。実際に出会うのは初めてだが。
「そういうお前は、《食屍鬼》だろ」
化物みたいなアイコンを取る奴は少なくない。
むしろ、現実に近い姿を取ってる俺のようなハッカーの方が珍しいぐらいだ。
だが、この悪趣味な姿は特徴的だ。そして、この腕前だ。
こいつがわざわざ追跡プログラムを出してくるまで、俺はこいつの存在に気づけなかった。
魔術師級のハッカ――そして、このぼろ布を纏った鬼のような姿。
こいつは《食屍鬼》だ。
「そうだ――俺が《銀の鍵》だ。
俺がどんな手を使っていようとお前には関係のない話だろ。
しかし、まさかお前が常世島にいるなんてな」
見られてしまった以上隠しても仕方がない。どの道、こういうハッカーに一度姿を見られれば、その正体にはおのずと気づかれてしまう。
俺は名乗りながら、奴を見る。
《食屍鬼》というハッカーは有名だ。特に金庫破りで。
ある大銀行のセキュリティーを突破した事件は有名だ。
正体不明で、その現実での姿は色々説がある。幼女、老人、青年、女――
アイコンを見ても相手の現実の姿が見えるわけじゃない。現実での姿などここでは無意味だ。
わかるのは、こいつにつけられてた以上、簡単に逃げることもできないということだ。
俺の《異能》を見られてしまったのは厄介だが、今更どうしようもない。俺のミスだ。
「……それで? 俺に何の用だ。
残念だが、弟子入りとかは断ってるんだが」
俺はそんな軽口を叩きながら、いくつものプログラムを起動しはじめる。
俺はこいつのほとんどを知らない。こいつの技は謎に包まれている。
こちらから仕掛けるのは危険だし、何より。
こいつは、間違いなく俺に仕掛けてくるはずだ。
■食屍鬼 > 「おう、そうだよ。俺は《食屍鬼》だ。知っててもらえて嬉しいぜェ、かの高名な《銀の鍵》様によォ。」
食屍鬼の名はそれなりに知られてはいるが、《電子魔術師》や《銀の鍵》に比べれば一段劣ると言わざるを得ない。それが《食屍鬼》が今敵意をぶつけている理由だ。
お前が受けている賞賛も、畏敬の念も、俺が受けるべきものだ。俺こそが最高のハッカーで、《電子魔術師》の名を継ぐべき存在だ。それを教えてやる。笑みが獰猛に深まる。
「ここの宝箱はかてぇからよう、開けたくなっちまったんだ。ハッカーってのはそういうもんだろ?中身なんかどうだっていい、宝箱を見つけたら残らず開けたくなる。だから俺はここにいる。」
ここに居る理由、それは常世財団のセキュリティが世界最高だと謳われているからだ、それを開けて。世界にしらしめる、《食屍鬼》の名を。
「ハ、ハ、ハ、その軽口、すぐに叩けねぇようにしてやるぜ。俺は準備を念入りにするタイプなんだ。だが。」
骨と皮だけの腕が伸びて、《銀の鍵》を指差す、標的を教えるように。
「そいつももう終わった。」
言うと同時に、ボロ布の下から大剣を携えた女性…いや、女性の姿をしたプログラムでもアイコンでもない何かが飛び出し、大上段から剣を振り下ろす。
「そいつはフォールト・スプライト、俺の異能で生み出した存在だ。気をつけろよ、そいつに殺されたらフラット・ライン(脳死すること)だ。」
■《銀の鍵》 > 「――俺は、そんなのに興味はない」
グールの言葉を、俺は否定する。
「俺は、そんなことのためにハッカーをやってるんじゃない」
彼の高名な、なんてわざわざ嫌味を言ってくるようなやつだ。
こいつは功名心が高いに違いない――ハッカーってのはそう言う奴が多い。
自分の技術を試したくて、世に知らしめたくて仕方ない連中だ。
「俺は、ただ真実を明らかにしたいだけだ」
俺は賞賛も畏敬もいらない。俺は自分が無名であってもいい。
俺は、世界の闇に眠る“真実”をこじ開けたいだけだ。
「俺は、その“中身”を求めてハッカーをしてるんだ。
宝箱を開けるのなんて――“当然”だ」
俺はプログラムを起動する。
防御プログラムを展開する。
奴が俺を指さす。この死体のような腕で。
――そして。
「――ッ!!」
それは、一気に来た。
速い、あまりに速い。最初から先手を譲るつもりだったとはいえ、俺が遅れを取った。
頭にサイバーデッキか何かを埋め込んでるって噂は、本当だったらしい。
単なる《電脳化》ではない、それだ。
女性の姿をした何かが俺に向かって剣を振り下ろす。
俺は一気にそれを避ける。しかし、それでも完全に躱せたわけじゃない。
防御プログラムの一つが、“死んだ”――
しかも、性質の悪いことに、目の前の女についての解析が不可能ときた。
「まるで、師匠の電子魔術、だな――!」
単なるプログラムではないらしい。奴の言うとおり異能なのか、もしくは魔術的なものか。
俺の《異能》が解析不可能なことと同様に、奴のそれもそうだというわけだ。
「俺がフラット・ラインになんてなるかよ。
俺には《電子魔術師》から教わった技があるんだ!」
俺は加速プログラムを起動する。電脳世界上での俺のスピードがアップする。
それでも、奴の伝達速度には追いつけないだろう。
俺はウェット――電脳化はしていない。速度が劣るのは当然だ。
魔導書を電子化したデータを俺の前に顕現させ、それに向かって手を伸ばす。
「鍵」を用いて――
「見せてやるよ、俺の《電子魔術》を。
――「開錠」
『倭文祭文註抄集成』より――常世神の糸!」
『倭文祭文註抄集成』は、最期に師匠に貰ったデータの一つだ。
何せ、本物の魔導書のデータだ。前に持ってた偽典なんかじゃない。
俺は魔術を電子的に使う方法を編み出し、見付けた。
それでも、普通は詠唱など行わなければいけない。
だが、俺は《銀の鍵》を使うことによって、その過程をすっ飛ばした。
魔術を行使するための過程を「錠」として、それを「鍵」で一気に解く。
俺は動き回りながら、フォールト・スプライトとかいう奴に向かって手を伸ばす。
魔方陣が出現した後に、一気に白い糸が俺の手から吐き出されていく。
ワイヤーフレームで構成されたそれは、捕縛する。
そして相手を締め上げるものだ。俺は、スプライトとグール目がけてそれを放つ。
■食屍鬼 > 「そういう態度、虫酸が走るんだよォ!!」《食屍鬼》の渇望している名声を、賞賛を、取るに足らないもののように扱う態度に、嫉妬と怒りが思考を塗りつぶす。
「そうだ、これが俺の電子魔術(エレクトロマジカ)だ!俺こそが《電子魔術師》の名を継ぐべきハッカーだ!名声も、賞賛も!俺こそが受けるべきなんだ!!」
いかなる情報技術でも、魔術でも説明の付かない《スプライト》を使役出来る。《食屍鬼》の自信の根拠である。
《食屍鬼》の怒りに呼応するかのように、フォールト・スプライトが、強力な一撃を放とうと構える。
そこに、《銀の鍵》の魔術が発動し、反撃を想定していなかったスプライトがあっさりと絡めとられる。
「クソッ!」毒づきながら、直結型のハッカー特有の反応速度で回避を試みるが、右腕を糸に絡め取られる!
「F☓☓☓!!」即座に右腕をパージ、糸の中で腕が01のノイズへと溶けていく。フォールト・スプライトは抜けだそうともがいているが、スプライトは電脳空間での魔術に対応していない、無駄な努力だろう。
「てめェ…殺してやる!」残った左腕を宙空にかざし、憎悪に燃える瞳で睨みつけながら、スプライトを呼びだそうと構える。電子の流れが渦を巻き、新たなスプライトが形作られていく。
その工程を完了させるのにあと数秒、それは隙とも見えるし、わざと攻撃を誘っているようにも見える。
■《銀の鍵》 > 「――なるほど、そいつは残念だ。
俺はこの間……二代目の《電子魔術師》になったんでね」
余裕があったわけじゃない。
だが、敢えての軽口を叩く。そして、それは真実だ。
初代の《電子魔術師》はもういない――
テクノマンサー
「最初の《電子魔術師》は、もういないんだ――!」
俺は叫ぶ。相手は俺の事情なんて知らないだろう。
それでももういない、師匠はもういないんだと俺は叫んだ。
俺は反撃をしかけていたらしいスプライトを糸で絡め取る。
さらにはグールの右腕をも絡め取る。
アツくなりやすいタイプらしい。敢えての軽口も、それを誘ったためだ。
「――チッ!」
やはり速い。絡め取ったとしても、すぐに次の手が打たれる。
グールは右手をパージする。腕が電子の記号となって消えていく。
あの女のスプライトとかいうのは、すぐに抜け出せそうにはない。
今は、目の前のグールを何とかしなければならない。
「また呼ぶつもりか!」
グールが俺を睨む。奴のプライドを傷つけることは、奴の冷静さを奪わせると同時に、危険だ。
奴が本当に怒っているのか? そんなことは俺にはわからないからだ。
奴の電脳にハッキングすれば違うだろうが、それは危険すぎる。逆に俺の脳が焼かれるかもしれない。
なにより流儀(スタイル)じゃない。
電子記号が渦を巻き、新たなスプライトを呼び出そうとしている。
あれは危険だ。俺でも解析不可能なのだから、あまり出されればこちらの劣勢は強まる。
見た所、あと数秒でそれは完成するらしい。隙か、それとも罠か――
俺は勝負を急いだ。
いくらハッキングしているとはいえ、ドンパチしていればいずれ気づかれる。
罠だろうがなんだろうが、俺は速めに奴をのしておかないといけない。
今後の調査にも支障がでかねない。
だから、敢えて飛び込んだ。
「開錠――建葉槌の剣!」
『倭文祭文註抄集成』にある術式の一つ。
かつて星の神と戦ったと言われる神の剣を呼び出す術式だ。
まさか本当にその神が使った剣が出てくるわけでもないが、それほどの力を持ったというものだろう。
俺の手の中に、ワイヤーフレームで構成された“剣”が現れる。
奇妙に光る刃を相手に向け、一気に飛び立つ。
奴が事を成す前にそれを阻止するために、一閃を放とうと。
■食屍鬼 > 「この☓☓☓野郎がァァーーー!!!」今度は剣だ、突っ込んできやがった。
畜生、スプライトを生み出してる時は動けない、睨みつけてたのははったりだ。即座にスプライトの作成を放棄して、ありったけの防衛プログラムを起動させる。
それは70層にも渡るシールドの形を成して俺を守る。
「ああ、クソッ!クソッ!!」魔術対策なんぞしていない、電脳空間で魔術を使われるなんて誰が想定するものか。
つまり身を守るためのものという朧げな概念のみが動作するだけだ、そんなもの、魔術のド素人でもわかるほどヤバい剣相手じゃ穴の空いたコンドームより頼りない。
一閃とともに、盾が砕け散り、《食屍鬼》のアイコンの胸が切り裂かれた。
「ガハッ……F☓☓☓…!S☓☓☓……!!」汚い言葉を並べ立てながら、《食屍鬼》のアイコンは仰向けに倒れた。血のように傷口から01ノイズが流れだす。
「クソッ……ありえねぇ、俺の方が……俺の方が、《電子魔術師》に近いはずなのに……。」
ヒューヒューと、空気が漏れるような音を立てながら、弱々しい声で呟く、電脳に直結しているために、本人の肉体もフィードバックダメージを受けていることだろう。
スプライトに指示を出す力もなくなったのか、もがいていたフォールト・スプライトは糸の切れた人形のようにぐったりとしている。