2015/10/09 のログ
ご案内:「女子寮内・サヤと畝傍の自室」に石蒜さんが現れました。
■石蒜 > 「……ただいま。」
少し緊張した声とともに、石蒜が帰宅した。
石蒜が千代田の前に姿を現すのは珍しい、当初は普段通りサヤと交代していたが、次第に千代田の前では交代しなくなり、最近は千代田が現れるとすぐサヤに交代するか、下手な言い訳をしながら出かけるのが常だった。当然、外であっても挨拶もそこそこに逃げるように立ち去るのだった。
草履を脱いで部屋に入ると「あの…ええと…」両手の指を合わせて、弄くりながら、歯切れ悪く何かを言い出そうとする。
「あの、千代田…さん、今…話、いいですか…?」おずおずと言い出す様はサヤにそっくりである。
ご案内:「女子寮内・サヤと畝傍の自室」に千代田さんが現れました。
■千代田 > 「……お帰りなさい」
つい先程まで静寂が包んでいた室内。
椅子に座り、机に向かってひたすら思案に耽っていた千代田であったが、
久方ぶりに自身の前へと姿を表した石蒜の声を聞けば、振り返ってそう告げる。
その動きに合わせ、眼帯の下の左目から溢れている灰色の炎が揺らめいた。
「貴女の方から千代田に話だなんて、珍しいですわね。それで、その話というのは一体何なんですの?」
問いかける千代田の表情は、どこか冷たく感じられるかもしれない。
■石蒜 > 「……。」どこか突き放すような態度を感じる。だが当然だ、露骨なほどに避けてきたのは自分なのだから。
叱られた子供のように、上目遣いで相手を見ながら、近くの椅子へ座る。
「あの…その…。ごめんなさい。ずっと…失礼な態度をとっていました。千代田さんを、避けてました…。」祈るように指を組み合わせ、頭を下げる。
「千代田さんを見るたびに、畝傍に会えないってわかって、辛くて……私のわがままです、自分のことしか考えてなくて……ごめんなさい。」
■千代田 > 「……何だ、そんな事でしたの」
椅子に座り、話し始めた石蒜の顔をまっすぐに見つめていた千代田は、
小さな溜め息の後、拍子抜けしたような声で言葉を返す。
それと同時に、鋭くなりかけていた千代田の眼差しも、幾分か柔らかいものに戻っていた。
「別に、千代田はそのような事気にしてはいませんわ。貴女に避けられるのだって、仕方無いでしょうし」
千代田はその出自からして、畝傍の親友たる石蒜から決してよい印象は抱かれないであろうことへの自覚はあった。
そして千代田自身、一刻も早く畝傍との交信を復活させ、人格交代を行わねばならないという焦燥感を抱いている。
そこで今度は千代田の側から、石蒜にある話を切り出そうとしてみる。
「……石蒜さん。千代田は、先日、ですけれど……行ってみましたの。常世神社に」
畝傍と石蒜にとっての始まりの場所である、常世神社。
そこへ向かえば何かが掴めるのではないかと考えていた千代田は先日、そこに向かっていた。
■石蒜 > 「でも、一緒に暮らしてる家族ですし、このままでは良くないと思って。」思っていたより深刻な事態ではなかったようで、ほっとする。
「常世神社…何が、あったんですか?」常世神社の鎮守の森、そこは石蒜が生まれた場所であり、畝傍と出会った、二人にとって大事な場所だ。何か収穫があったのだろうか?
■千代田 > 「……養護教諭の、蓋盛先生。石蒜さんは知らないかもしれませんけれど、銃をお借りしたり、相談に乗っていただいたり……畝傍はよく世話になっていたそうですわよ。彼女と偶然ですけど、お会いしましたの」
かつて銃を失い苦しんでいた畝傍にショットガンを貸し、
石蒜の体についての相談にも応じるなど、畝傍が何かと世話になっていた養護教諭の蓋盛椎月。
千代田は先日常世神社を訪れた際に偶然彼女と出会い、会話を交わす事ができた。しかし。
「ですが……畝傍との交信までは、戻りませんでしたわ。恐らくですけれど……千代田一人では、駄目なのかもしれませんわね」
全ての始まりの場所たる常世神社を訪れてもなお、途切れている畝傍との交信が復活する事はなかった。
その結果から、千代田の頭の中にはある一つの可能性が浮かんでいたのだが――
■石蒜 > 「ふたもり……ええ、会ったことはないですね。そうですか、畝傍が…。」入院したことはあるが、サヤも石蒜も健康的なほうだ、養護教諭の世話になることはほとんどなかった。
特に進展はなかったようだ、少しがっかりする。
「一人では、ということは誰かの助けが必要ということですか?」
何か、思い当たる可能性でもあるのかと、少し上体が前のめりになる。
■千代田 > 「そういうことになりますわ」
畝傍と記憶を共有する千代田が思い至った可能性。
千代田一人では交信が戻らずとも、誰かと共になら。
そして、その『誰か』とは、他ならぬ――
「……石蒜さん。今度の休日……千代田と一緒に、常世神社まで行ってみませんこと?」
畝傍の最大の親友である石蒜と、初めて出会った常世神社の鎮守の森へ向かう。
そうすることで、一人では成せなかった交信の復活が可能となるのではないか。
交信が途絶える以前の畝傍の記憶を共有している千代田は、そう考えていたのだ。
■石蒜 > 「はい、わかりました。」躊躇なく答える。畝傍のためなら、石蒜はなんだってするだろう。休日を使うぐらいお安い御用だ。
何かもっと困難な要求を覚悟していたが、それぐらいならどうってことはない。椅子の背もたれに体を預ける。
「うまくいくといいですね。千代田さんには悪いですけど…実を言うと、寂しいです。」足をぶらぶらとしながら、サヤと石蒜のスペースに置かれた画用紙、まだ描いている途中のそれに目をやった。
■千代田 > 「そう……ですわね」
石蒜が視線を向けた方向に合わせ、千代田も若干首を動かし、しばしそれを見つめる。
幼い子供が描いたような拙くも見える絵ではあったが、千代田にもまた、描かれているそれが畝傍の姿であると認識できた。
石蒜から畝傍に向けられ続けている、強い思い。
それをはっきりとその目に焼き付けた千代田の目頭がわずかに潤みかけ、溢れ続けている灰色の炎の勢いが若干弱まる。
「千代田も……いざ、こうして畝傍と話せなくなってしまうと……寂しいものですわ」
現在の千代田が抱いている寂しさ。どこか弱々しい声色で、それを素直に、言葉にした。
■石蒜 > 「畝傍が戻ったらやっぱり体は共有するんでしょうね。まさか二人してそんな状態になるとは思いませんでした。体は二人分なのに、実際居るのは四人なんて。」場を支配しかけた、湿っぽい雰囲気を意に介さず、クスクスと笑う。先ほどまでの怯えていた石蒜は消え失せて、いつもの子供っぽい仕草の石蒜が戻ってきている。
「絵、急がないといけませんね。畝傍が戻ったらすぐに飾れるようにしておかないと。」ぴょん、と椅子から飛び降りて、画用紙を拾う。あの夜以来ほとんど進んでおらず、まだ畝傍が途中まで描かれているだけだ。まだまだ描きたいものはたくさんある。
■千代田 > 「もし畝傍が戻って、そのうち安全に交代できるようにもなったら……賑やかになりそうですわね」
笑う石蒜に、千代田も微笑みかけ、そう語る。
もともと交信が途絶えてしまったのは人格交代の影響であり、
再び人格交代を行ったことによって、また何かしらの問題が起きない保証はなかった。
しかし、今の石蒜とサヤのようなある程度安定した人格交代が可能になれば、
二人、否、四人の暮らしは今よりも賑やかになるかもしれない。
そんな明るい展望も、心のどこかに抱きつつ。
「ええ。千代田も楽しみにしていますわ」
絵の完成を急がんとする意思を表す石蒜には、そう伝える。
■石蒜 > 『部屋の使う広さとか、交代する時間とか、揉めると思いますよ。経験者は語ります、ええ。』部屋の隅に立てかけられた刀から、寝ていたのか今まで沈黙を守ってきたサヤが呟くように言った。
実際サヤと石蒜はその点に関して揉めに揉めていて、落ち着いたのは結構最近である。
「まぁそこは経験者が助言すればいいでしょう。ふふーん、そういうことに関しては私たちに一日の長がありますからね。」揉めていたのは石蒜のわがままが原因なのだが、まるで収めたかのが自分の手柄であるかのように、薄い胸を張った。
「ええ、期待していて下さい。ちゃんと完成させますから。」
乱雑にものが置かれた石蒜用のスペースから、色鉛筆のケースを探しだすと、テーブルに画用紙と一緒において、続きを描き始める
■千代田 > 部屋の隅から聞こえてきた、少女の呟く声。
それがサヤのものであると気付けば、そちらを向いて。
「でしょうね。畝傍と千代田では飲み物の好みも違いますし」
オレンジジュースを好んでいた畝傍に対して、千代田の好みは紅茶。
といっても今の時点では本格的なそれではなく、ペットボトル入りのものを飲むことが多い。
「そうですの。ならその時はご教授願いますわね」
胸を張る石蒜のほうへと向き直れば、くすくすと笑いつつそう告げた後。
「……千代田も楽しみにしていますわ」
絵の続きを描き始める石蒜の姿を、かつての畝傍とはまた異なる微笑みを浮かべて見守る。
■石蒜 > 『ああ、千代田さん達もですか。私と石蒜も違うんですよ。石蒜はえーと、コーヒーか、あれが大好きなんですけど、私には苦すぎて…。お茶を入れても石蒜は濃ゆーくしますからね、とっても渋いんです。ご飯だって野菜は残してお肉ばかり食べるんですよ。』共感できる話題に、サヤも少し饒舌になっている。まるで手のかかる妹について語る姉のような口ぶりだ。
「もー、集中してるんだから!サヤうるさい!」石蒜が抗議の声をあげる。自分を話題にされて照れくさいようだ。
■千代田 > 同じ体を共有していても、人格が異なる以上好みに違いが生じるのは当然ではあった。
サヤの言葉に耳を傾けながら相槌を打ちつつ、やがて石蒜が恥ずかしそうに声を上げれば。
「うふふ」
千代田は頬に両手を当てて微笑む。
「……もう、すっかり仲が良いんですのね」
記憶自体は共有しているとはいえ、こうして表に出て二人と会話を交わすことのなかった今までの千代田では、
二人の仲については知識として知る事はあれど、実感することはなかった。
突如として人格間の交信が途絶えてしまったことこそ不幸ではあったが、
こうして自らの目と耳で、直接それを知ることができている現在の状況は、まさしく塞翁が馬、と言うべきであろうか。
■石蒜 > 「良くなーい!」頬を膨らませて、石蒜が否定する。色鉛筆を握る手は紙の上を走ることなく、指を器用に動かしてペン回しをしているだけだ。微かに耳が赤い。
『素直じゃないんです。』刀に宿っているサヤの表情はわからないが、声色からして笑っているのだろう。
『寝ても起きても一緒ですし、考えていることもわかりますからね。千代田さんも、きっとすぐ仲良くなれますよ。』石蒜が畝傍から聞いた限りでは、あまり二人の関係は良くないようだが。それもそのうち良くなるだろう、とサヤは考えている。
『私達は最初、仲が悪いなんてもんじゃありませんでしたからね。』体の主導権をめぐって憎みあい、互いを消そうとしていたのだから。
■千代田 > 「仲良く……なれると、良いですけれど」
千代田の表情は、若干曇りかける。
畝傍と千代田は、かつてのサヤと石蒜のように、お互いの存在を消そうとまでするほど憎しみ合ってはいない。
しかし、千代田は畝傍に対し、責め苛むような棘のある言葉をたびたび吐きかけていた。
仮に交信が戻ったとして、畝傍がそんな千代田を許すであろうか?
千代田が表出しての生活に馴染んでゆき、また畝傍の人格を取り戻さんと強く願うほどに、そのような思いもまた強くなっていた。
■石蒜 > 石蒜が振り向いて口を開き「『大丈夫ですよ』だよ」二人の声がハモった。数秒の沈黙の後に石蒜がまた口を開く。
「畝傍は石蒜を、あの時最後まで拒絶して、刃を向けさえした石蒜を受け入れてくれたから。悪いと思っているなら、きちんと謝れば許してくれるよ。」
悪事に手を染め、サヤを殺しかけていた自分を許し、居てもいいと言ってくれた、聖母めいた優しさを持った畝傍に対しての、全幅の信頼。
『そうですよ、万が一畝傍さんが怒ってても、私達が説得しますから。今は畝傍さんの人格を起こすことが先ですよ。』今それを心配してもしょうがないし、やはりサヤも畝傍の人の良さは知っていた。
■千代田 > 「……そう、でしたわね」
二人の言葉を受け、再び千代田に笑顔が戻る。
畝傍の性格であれば、一時的に憤りを見せる事こそあるかもしれないが、
これまでの自身の行いをしっかりと詫びれば、完全に拒絶されてしまうことまでは無いだろう。
「畝傍が戻ったら、千代田は……これまでのこと、しっかり謝ろうと思いますの。そのためにも……早く畝傍を、姉君を起こす方法を探らねばなりませんわね」
決意を秘めた声で語る千代田。その左目から溢れ出る冷たい灰色の炎は、それまでより大きく燃えていた。
■石蒜 > 「うん、それがいいよ。」いつの間にか、石蒜の口調は気易い、子供めいたそれに変わっている。
「きっと神社に行ったら何かわかるよ。そのまま畝傍も戻るかもしれない。」色鉛筆を握り直し、今度こそ絵の続きを描き始める。
『畝傍さんはお姉さんになるんですか。しっかりした妹さんが出来て畝傍さんも助かりそうですね。畝傍さんは石蒜には甘くて、あまり叱れないみたいですから。』基本的に石蒜を叱るのはサヤの役目になっているが、サヤもあまり強く出れないので、石蒜のわがままは大体通ってしまっている。
『石蒜、お風呂に入る時間ですよ。』少し怒った声でサヤがいうが、石蒜は振り返りもせず、絵に向かっている。
「いいよ、明日土曜でしょ、外出しないから大丈夫。」
『もう…。』呆れた声、あとで石蒜が寝た後でも交代して入ればいいと思い、サヤもそれ以上は何も言わない。