2015/11/10 のログ
朝宮 小春 > 「………そうね、ジョギングくらいがいいかもしれないわね。
 ……いや、別に他ができないってわけじゃないのよ?」

相手の視線に気がつかないほど鈍感でもない。
相手の目を見て、自分のプライドを守ろうと必死になる。

………それでも、ジョギング以上はできそうにないから走るけど。

「……七生君はもう帰るところ?」

ぐ、っとストレッチをしながら尋ねる。

東雲七生 > 「………。」

出来ないっすよね、と言いかけたのをぐっと堪えて曖昧に笑みを返した。
何か出来るような気が全くしない。全くしないが、ここは先生の立場を立てて何も言わないで置くことにした。

「俺もちょっと色々やろうと思って来たトコだったんすけどね。
 まさか先生が居るとは思わなくって。」

自分の有する異能の力を偶には使わないと、と思い至ってきた訳だったのだが。
先客が居るとなるとそれは少し躊躇われる。あまり人前で披露したい類の能力ではないから。

朝宮 小春 > 彼女は得意な運動は特に無い。
強いて言うならば、黙ってじっと立っている際に弱音を吐かないくらいだ。
とても地味だった。

「…あら、そうだったの?
 何をするつもりだったのかしら。」

ぐい、ぐいっと腰を捻って身体を動かす。
屈伸運動だけでふーふー言ってる気がするが、それはきっと気のせい。
相手が何の運動をしに来たのか、くらいのつもりで聞いているから、察してくれるわけもない。

東雲七生 > 「いやまあ、それは色々っすよ。色々。」

嘘が下手なのが災いし、曖昧な言葉を口にしながら軽く肩を回し始める。
目的である異能を使うことが出来なさそうな以上は、何か別の目的を早く見つけてそちらに切り替えるべき。
……頭ではそう解っているものの、咄嗟に何をすべきか思いつかない。
日課のマラソンも逆立ちも授業の空き時間に済ませてしまっている。

「ええと、色々、なんすけど……。」

残るは授業の復習くらいだが。
対魔物戦闘訓練なんてものは、自分の異能と同等くらいにはこの先生に見せるものでもないだろうな、と。

朝宮 小春 > 「色々、ねぇ………あれね、ボール遊びでもしようと思ってたとか。」

とんちんかんなことを言いながら、こっちも真似をして肩を回す。
ストレッチを入念にこなす……というより、ストレッチを真面目にやったらもう汗が。

「……なんだけど?」

首をちょこん、と傾げながら、何かしら、なんて思考を回す。
先生に言いたくないこと、なのかしら。 少し悩んで、空気を読むべきか、と考え始める。

東雲七生 > 「ん………まあ、色々っす。」

結局咄嗟に何も思いつかず小さな溜息と共に溢した。
いっそ正直に元々の目的を話して場所を移して貰おうか、とも思ったのだが、
流石に不得意に挑もうとしているところに水を差すのは申し訳なく。

「まあ一人で何かするつもりでしたけど、先生居るし丁度良いんで先生に付き合いますよ。
 ……ほら、何かあった時にすぐ補助できた方が良いっすよね?」

大きく伸びをした後に、首を回せば。関節の鳴る音が少し響いた。

朝宮 小春 > 「色々、ね。 先生は走ってくるから、気にせずにやっていていいのよ?」

そりゃまあ、気を回す。
教師に見られたくない何かをするのだろう。 なんだろう、未だに?だけれど。

「………え。 ああいや、別にいいのよ。
 私なんてジョギングするだけなんだから、ジョギングに補助なんて初めて聞くでしょう?」

でしょう?って首をちょっと傾げて、相手に待って待って、と掌を向ける。
ジョギングで何があるか分からないからついてきてもらいました、なんて心が折れる。

東雲七生 > 「いやいや、そういうわけにも。」

相手が教師だからというわけでもなく。
基本的に他人に見せる様な代物ではない。一歩間違えたら、どころか自傷ど真ん中の行為である。
余計な心配をされるのが目に見えているので、やっぱり正直に言っておくべきか、と軽く肩を竦めて。

「能力の、制御確認っすよ。
 ……普段あんまり使わない方だから、あんまり使わないで居ると何かあった時に暴走させるんじゃないかと思って。」

使いたくない能力ではあるが、使わない事で制御のカンを鈍らせていくのはあまり良い事ではないと授業で教わっている。
それに、そろそろ真面目に自分の力と向き合わなければならないと思っていたのだ。
何だかんだで学祭などもあり延ばし延ばしになっていたのだが。

「はぁ。
 ……じゃあ、俺も準備運動って事で走りますから。一緒に走らないっすか?」

朝宮 小春 > 「………ああ、なるほどね。
 いろんな能力を見てきたから、大丈夫よ。 そんなに怖がることもないわ。」

自分の胸をぽん、と叩いて、安心なさい、と微笑んでおく。
多少の勘違いというか、認識のズレはありそうだけれど。

「それよりも、……そういうのは大事だと思う。
 身体もそうだけど、若い内に「自分のイメージ通りに動かせる」ように、イメージと身体のすり合わせをしている人は、………運動が得意になるそうだからね。」

軽く言葉をかけながら、身体の動きに例えてその行動を肯定する。

「………いいけど、短めにね? あと、ゆっくりよ?」

不安そうにしつつ、ぱたぱたと走り始める。

東雲七生 > 「いや……まあ、そうっすか。」

学園の教師であれば、生徒の能力の把握もされている事もあるだろうと思ったのだが。
どうやら目の前の先生はあまり事前にそういう情報を仕入れておくという事はしないらしい。
……らしいといえばらしいな、と思いつつ七生は運動靴の紐の確認を済ませると小さく息を吐いた。

「……何か、説得力があるんだかないんだか分かんないっすね。先生が言うと。」

理屈は通ってるがどこか空論めいて聞こえてくる。
それはきっと語る本人が中身を伴わせていないからだろう。
苦笑しながら一つ頷いて、言われた通りに先生のペースに併せて走り出した。

……ある程度覚悟していたが、普段走るペースの10分の1ほどの速度になってしまったけれど。

朝宮 小春 > 「ええ、そう。………まあ、実際にあまり見ていないからこそ、見なきゃいけないんだけれども、ね。」

小さく笑う。能力に関しては莫大な量になることから、全ては把握できていない。……文字で記載された能力なんて、何の色味もないものだし、教育だけをする教師に対しては然程明確な開示もされない。

「……あら、生物の先生なのだから当然よ?
 ……説得力が無いってどういう意味かしらね……?」

全くもう、と不満気に走りながら、ううん、っと唸る。
ペースを上げる度に、少し唸ってペースを落とす。走ると胸が痛い。ちょっと手で押さえ。

東雲七生 > 「へぇ……
 割とあんまり自分の能力を見せびらかしたいって奴以外は入学時に書類にぱぱっと書いたりしただけで学校側には周知されてるもんだと思ってるフシもあるっすけど。」

やっぱり担当する内容によっては全然触れずに過ごすことも多いんだな、と納得する。
文字情報として頭に入れておくのと、実際に見るのとで何か違いがあるとは七生には思えなかったが、そうでもないのかもしれないな、と独りごちる。

「割とそのままの意味っすけど……。
 ああ、しんどかったら言ってくださいね。つか、大丈夫っすか?やっぱウォーキング程度にします?」

唸る声に僅かに眉をひそめて。
そもそも話しながら走ること、それ自体も初心者には厳しいだろう。余裕の有り余ってる七生ならともかく。

朝宮 小春 > 「そういう人もいるわね。………ただ、私の場合はその能力をどうこうする、立場にはないからね。………まあ、いるのよ。そういう情報を調べたり、買いたがったりするような人。
実際に自分がしっかりと指導しなくちゃいけない、担任みたいな子ができれば、また別なんだろうけれど。」

少しだけ言いづらそうにしながらも、首を横に振って。
そういう大人もいるのだ。誰とは言わないけれども。自分の母親も、今いたら送れって言うんだろうなあ、なんて思わなくもない。

「………だ、大丈夫。 こうしてれば痛くないから。」

ぎゅっと腕で胸を抱えながら走る。何が痛いとかは言わないけれど。

東雲七生 > 「ふぅん……。」

人の集まるところには自然と数多の思惑も集まるものだというのは七生も知るところである。
しかもこの島の様に特殊な環境であればそれはさらに顕著だろう。一つ間違えれば大変な事態になりかねない能力や情報といった物も、表立たないだけで当然の様にある。
……まあ、それがこの島に限った事じゃないだろう事は置いておくとして。

「担任………ねえ。」

進行方向へと目を向けてから、ぽつりと復唱する。
それは担任というよりは、担当に近い気がする。
危険な実験やそれによる産物を危険なく扱う為の担当者。

何か頭の奥の方で、チリチリと何かが刺激されたが明確な物は何も浮かんで来ず、七生はそっとそれを掻き消した。

「こうすれば、って……あ、えっと……走り辛くないっすか?」

すい、と視線が先生の腕を、そしてそれが押さえる胸へと向けられて、慌てて視線を戻す。
少しだけ赤らんだ頬を冷ましながら、訊ねる。少なくとも、走るにはあまりに不格好ではないだろうかと。

朝宮 小春 > 「………ま、そういうのは他の先生が得意なのだから、あまり私が入ることは無いのだけれどもね。」

苦笑を一つ浮かべて、ぱたぱたと走る。
よく分かっているは、いる。 それでも理想は掲げるし、あくまでも他の、普通の学校と同じ言葉を使う。

「………走りづらいはづらいけど、でも仕方ないじゃない。
 ………痛いんだもの。」

真面目にそんなことを言いながら。
これだけ走っただけで、ぜーぜーと言っている。

東雲七生 > 「まあ、先生は来たばかりだし、数年は頑張ればいずれ立場も変わるんじゃないっすかね。」

釣られて苦笑しつつ、その言葉に慰めやお世辞といった色は無かった。
そんな彼女の掲げる理想に同調しつつある自覚は無い事もない。

「……そろそろ歩きます?」

息も上がってきているのを確認すると、走った距離を確認し始める。
まあ、普段から運動しているわけではないから妥当か、と冷静に判断する少年は軽く額に汗が浮かんでいる程度で行きは全く乱れていなかった。

朝宮 小春 > 「そういうことね、まあ、………もうしばらくは修行期間といったところ。」

ふう、ふう、と吐息をつきながら、言われるがままに歩き始めて。
汗を浮かべた彼女は、ジャージの袖で汗を拭って。

「寒いかと思ったんだけれど、だいぶあっついわ…………。
 こういう時って、涼んだら風邪をひいてしまうのだっけ。」

隣の少年に、元気ねぇ、なんて微笑みながら、のんびりと歩き始める。

東雲七生 > 「まあ、先生は生徒と一緒に成長してくの、お似合いだと思うんすけどね。」

一方的な教える/教わるだけでなく、相互的に得られるものもあるだろう。
そんな事は言わなくても解ってるだろう事なので、にひ、と笑みを浮かべるに留める。

「そっすね、あんまり汗冷やすと良くないっすから。
 ……ジャージ、上だけでも脱いでおいて、走ってから着た方が良かったかもしんないっすね。」

酷く今更だな、と自分でも思いつつ軽く自分の首筋に触れる。
軽い運動で血行も良くなっている事が、僅かな体温の上昇から感じられた。よし、と一つ頷いてからズボンのポケットに手を突っ込んで。
……隣にまだ朝宮先生が居る事を思い出した。

朝宮 小春 > 「………それでいいって言ってくれる子ばかりならいいんだけれどもね。」

小さく苦笑。先生には完ぺきを求める人も、やっぱり多いのだ。
それでも、そんなことは口にはせずに。

「それじゃあ、………ちょっとだけ涼んで、もっかい着ましょうか。」

そんなことを言いながら、ジャージの上を脱いでTシャツ姿になる。
汗に濡れたTシャツのままに、涼しそうに腕を伸ばして………。
隣の少年の仕草には気がつかない。

東雲七生 > 「あはは……まあ、そこはまあ、それも勉強のうちってことで。」

お互い同じ人間なのだから、至らない所があって当然だろうと七生は思う。
しかし、誰しもが同様に考えられるかとなるとそう上手くいかないのも理解している。
そんなことが実現するのなら、とっくの昔に世界は平和になってるだろう。

「……え、あ、えっと……。」

この先生は何かもっと根本的に学ばなきゃならない事がある気がした。
しかし、最近は七生も異性に対する無頓着さというか無防備パンチにはある程度の耐性がついてきたと自負している。
そう易々と取り乱したりはしない。しないのだ。慣れてるから。

「………」

でかい。
ポケットに片手を突っ込んだまま、それとなく目を向ける。
……ジャブくらいなら慣れているという自負はあったが、重量級のパンチにはちょっとまだ不慣れだったことは否定できない。

朝宮 小春 > 「あら、勉強は得意なのよ。 一つ一つ学んで、それを忘れないように繰り返して。
 更にそれを応用する。………そういうことは好きなんだけれどもね。」

くすくすと笑って、……根本的に真面目なのだろう。
そんなことを言いながら、脱いだジャージを腰でギュッと結んで、ふー、っと手で顔を仰ぐ。

………? 相手の死線をちら、と感じて視線を向けて。

「ふふ、やっぱり疲れちゃうとダメね。
 こういうのは継続して続けないとね。」

拳をぐっと握ってやる気だけはある様子。
ジャブどころではないそれは握りしめただけで揺れた。
自覚が無いから軌道が読めないパンチ。

東雲七生 > 「なら先生の仕事だって、人付き合いだって同じなんじゃないっすか?
 そう考えれば、割と上手くやれる気もするんすけどね。」

反復と応用の重要性、それは武術にもいえたこと。
なので七生には他人事には思えなかった。形は違えど、やるべきこと、やらなきゃならない事は同じように思える。
そういう意味では、性根は近しいのかもしれないと少しだけ微笑んだ。

「ま、まあ。そっすね。
 ……これからの季節寒くなってくから、汗冷やさない様に注意するのと、自分のペースをきちんと把握するのが大事だと、思う、ます。」

何だかぼこぼこ殴られてる気がする。物理的には何ら負傷は無い物の。
ごくり、と軽く息を呑んでから頭を振って意識を揺り戻す。
……危うく本来の目的を忘れる所だった、と咳払いを一つ。

「んんっ。 そういや先生、俺の異能ってどんなのか知ってましたっけ。
 ……プールの時、四季とちょっと話してたの聞いてたかもしんないっすけど。」

朝宮 小春 > 「そうかもしれないわね。 何事も継続、継続。
 最近は仕事は上手くいってるのよ?」

少しだけ笑って、指をぴっと立てて微笑んだ。
先生を心配するなんて、まだまだ早い、っと胸を張って。

胸を張ってどうなるのかは考えいていないわけで。


「なるほど………じゃ、涼しくなってきたらもう一度ジャージを着て、身体を冷やさないようにしないとね。

……んん、少し話を聞いたくらいだけれど、実際はどんなものかはわかっていないわね。
やっぱり、見たら驚いてしまいそう、なのかしら?」

東雲七生 > 「そっか、そりゃ良かったじゃないっすか。
 上手くいかないよりは上手くいった方が良いっすもんね、何事も。」

微笑みに肯いて、こちらも笑みを返す。
どうやら杞憂だったらしい、と一安心したところまでは良かったものの。

汗で張り付き明確さが浮き彫りになった形と、激震。
一部の激し過ぎる主張を受けて、青少年の心の何処かにダメージが入る。

「そっすね、まあ、しばらくは火照りも汗も引かないと思いますけど。
 あ、タオルはちゃんと持参してくださいね……。

 こほん。
 俺の能力ってのは、ええと、自分の血を操るんすよ。つっても、そんな仰々しいもんじゃないっす。
 まあ使うには……って、見て貰った方が早いっすね。」

そう言ってポケットから取り出したのは掌に収まる程度の大きさのナイフ。
それの刃を出すと、このへんかな、と自分の親指の付け根の辺りを切り付けた。

朝宮 小春 > 「ええ、もちろん………
 そうね、タオルは持ってきたほうがよかったわ……
 ランニングシューズだけで大丈夫だと思っちゃって。」

小さく苦笑を浮かべながら歩き続けて……ようやく、息が整ってくる。
相手の言葉に、ちょっと首を傾げて……

斬りつけた瞬間には、思わず息を飲むけれど……。
叫んだり騒いだり、止めたりはしなかった。

喉をこくり、っと鳴らして………何が起こるのか、一生懸命に見ようと。

東雲七生 > 「あとは……演習施設の方にシャワーもありますし、着替えがあっても便利かもしんないっすね。
 まあ、空いた時間とかでやる場合っすけど。普通に仕事明けとかなら家帰った方が早いと思いますし。」

走るならそれなりに“揺れ”を押さえるための工夫も要るんじゃないか、とは思ったけど口にせず。
必要性を本人が一番感じているだろうし、年下の異性の口から聞かされたくも無いだろう。

手の平を切り付けた鋭い痛みに眉を顰める。
何度やっても自分で自分を傷つけるというのはいい気分がしない。しかも人が見ている前なら尚更だ。

「まずこうやって、傷を負わないと始まらないんすよね。
 それも打撲とかじゃなくて、切り傷とか刺し傷とか、皮膚が破けないとならない傷。」

そう呟く傍ら、傷口からは至って普通の、何の変哲もない赤い血が滲み、そして溢れてくる。
それを確認すると、七生は一呼吸置いて意識を集中し始めた。
掌の上で、血液が蠢き、小さな竜巻の様になっている。

「後は何か物を作ったりとか、液体のまま延ばしたりとか、結構思いのまま動かせるってだけっすよ。
 訳あって、俺にも全貌はいまいち把握しきれてねーんすけど。」

こうして話している間も血液はとめどなく溢れてくる……と言ったことは無い。
竜巻の根元、傷口から外気に触れた地点の血液が既に傷を浅く塞いでいるからだ。
しかし痛みが消えることは無く、じくじくとした痛みに七生の鼻の頭に僅かに汗が浮かぶ。

朝宮 小春 > 「……やっぱり、部屋で自転車の機械に乗ったりした方がいいのかしらね。
 この前、届いたから組み立てたのよね。」

相手の言葉にううん、と頷きながら答える。
確かに胸は痛いし、転んで痛いし、どうにもならない。


「………そういうことなのね。
 血は、確かに人間の体の一部だから、………理解できなくも、無いから。」

少しばかりの緊張をしながらも、……相手の赤い液体の流れに目を奪われる。
全く見たことのない液体の動きに、喉をこくり、っと鳴らして。

東雲七生 > 「あー、良いっすね! エアロバイク、でしたっけ。
 俺自転車とか乗ったこと無いんで、ちょっと興味あるんすけど。」

また遊びに行ってみようか、そしたら乗れるだろうか。
なんて初等部の生徒の様に目を輝かせる。そういうところは、まだまだ子供なのだ。

「それと、あくまで操れるのは体の外に出た血だけなんすよ。
 あくまで今のとこは、っすけど。まあ試し方が分からないんで試しようも無いっつーか……。

 ──って、先生。そんな珍しいっすか?」

食い入るように七生の手の上で渦を巻きつつける血液を見つめる朝宮先生に苦笑する。
と、同時。ふと気づく。心臓との位置関係上少量の血液を操る場合は、傷口は心臓より低い位置に無ければならない。
手の平を傷つけた以上はどうしても腰の辺りに手が位置する。
それを熱心に屈んで見つめる先生と、シャツの襟元。

朝宮 小春 > 「そうなの? 大学には自転車で通っていたから、慣れたものなのよね。」

言いながら首をちょっと傾げて、乗ってみるなら今度来る? と、こちらからしっかりと手を差し伸べてあげて。
その上で、じ、っと眺めて…………。

「ええ、そうね。 こういうの初めてかもしれないから。
 びっくりしないようにしておきたいし。………珍しい、って眺めて怒られない子も、少ないだろうしね。」

相手の視線なんて、全然見ていない。肌色とその間の深淵が見えた。

東雲七生 > 「そ、そうなんすか。
 俺は何か、たまーに電車乗るくらいで大抵自分の足で移動してたんで……」

お邪魔でなければ、是非!と笑顔で頷く。
その前金ではないけれど、どうせなら気が済むまで見てて貰おうと。

「そ、そっすか。まあ、その、気持ちは分かりますけど。
 やっぱびっくりするっすよね、……それに、確かに眺めてても怒らないってのも、そんなに居ないかも……。」

これは予期せぬ役得、とついつい視線を向けてしまう。
全面的に同意する言葉の対象は、片や異能、片や無防備な柔肌であったけれど。
時折掌の赤い竜巻はその形をぐらりと揺らめかせたりしたが、変わらず七生の手の上で渦を巻き続けていた。

──そうして先生の気が済むまでその状態は続けられたのである。

朝宮 小春 > 「後は、姉さんのバイクに乗せてもらったりね?
 基本自転車だったから、乗るのは安全なのよね。」

ええ、大丈夫よ。 是非いらっしゃい、なんて小さく微笑みかけて。

「……………そういうこと。
 色々なものに見慣れて、何が起こっても慌てない、驚かない、ってことが大事よね。
 ……………しかし、不思議なもの、ねぇ……」

じーっと見つめられながら、こっちもじーっと見つめる。
気の済むまで、お互いに視線を向け合うという奇妙な二人組。

まあ、ジャージを着ていなかったせいか、くしゅん、っとくしゃみをしたことで終わったわけだけれども。

ご案内:「運動場」から朝宮 小春さんが去りました。
東雲七生 > 「そろそろ期末も近いんで、ついでに勉強も見て貰いたいっすね。
 先生の授業はまあ、それなりに点取れる自信はあるんすけど。」

ひひっ、と悪戯っぽく笑って肯く。楽しみだな、と独りごちながら。

「見慣れて、慌てない、驚かない……。」

生憎と見慣れることも、慌てない驚かないことも、そこに関してはいまいち自信は無かったけれど。
僅かに、異能の制御をするだけの理性が、違うそうじゃない、と警鐘を鳴らした。

奇妙な見つめ合いが終わる際の、くしゃみに因る激震はしばらく東雲少年の脳裏に焼き付いたのは、誰も知る由の無いところ。

ご案内:「運動場」から東雲七生さんが去りました。