2016/02/22 のログ
■五代 基一郎 > 「わからないよな」
そう。わからないだろう。
目の前の少年には。自分が六道凛と呼んでいる彼には。
「自分で普通を感じろ、とか普通の中にいて普通はどうだったと聞いていおいてだけどさ。そらわからないよ。」
ふと、茶に写る自分の口元を見れば笑っていることに気付き、
口を正す様に手で揉みながら続ける。
「俺はそうした繰り返しの中で生きてきたし、その外に行かざる負えないことになって非日常だのどうのというのは理解できたよ。
所謂多くの人が持つだろう日常とか非日常の区別はもてた。
でもさ凛。君はどうなのさ。最初はそういった中で生きていたのか、
それとも最初から多くの人が非日常と呼ばれる中にいたのか。そして今普通の日常にいるのか……
それは、そう……とても曖昧じゃないかな。
君にとってはかつての生活が日常であっただろうし、今が非日常かもしれない。」
そう言いつつ、いや違うなと切った。茶は既にカラだった。
それでも視線は湯呑の中にあり。
「この世界はかつてあっただろう、今も残っている日常と非日常の区別が曖昧だ。
何が普通で何が異質なのかもわからなくなってしまっている。
退屈と感じるのは……そうだな、当事者になったからだからかな。
きっと、恐らく。かつての生活に戻っても今とあまり変わらないと思う。
それはこの世界に生きる人間になった今では、どれもが日常であり非日常、普通であり普通じゃないものと感じられるだろうから…かな
生きることは退屈だ、なんて〆るつもりはないけど、さ。今は生きているように思えるよ、君がね。」
■六道 凛 > いっている意味は理解は出来た。
お世話になっている彼が、生きていると実感できたのは良いこと、なのかもしれないなんて。
他人事のように思いながら――そっと髪を指でいじろうとして。
ウィッグを付けてないのを思い出した。今は、そうである必要も無いのだ。
「……日常も、非日常も線引はない、か。そうかも。だから、その線をくっきりしてくれる舞台が恋しかったのかな? ううんちがうね。線が見えたことに、感動したんだ。ぼくは」
思い出す。あのときの劇場を。初めて見た劇場を。
団長が作った。死があった。犯罪があった。本当が、そこにあった。
劇なんて思えない、いや劇だからこそあった現実感。
そこに、感動し憧れて――その特等席でずっとみていたかった。
彼女の本は、団長ほどではなかったけれど特等席に自分をいさせてくれたから。
だから、あの特等席をもう一度と、願う。
もうかなわないと知りながら――
「……うん。それで? お話ってなんなの? ぼくが生きているかどうかを、知りたかったの?」
だとしたら、きっとお眼鏡通りかもしれない。
普通の幸せなんて全くもって理解できない。でも、それでも。
生きるという結末を望んだのは自分で、今こうして退屈でも自殺をしないのはそういうことだ。
でも――それだけの話しだとはどうも思えなかった。
「なにか、お仕事?」
■五代 基一郎 > 「混沌とした世界の中で、ハッキリとした世界が見えた劇だから、か。ある種の信仰だな。」
言っていることは解かる。混ざり合った世界で自分が何ともわからぬ中で確かに見える何かが己を規定するようなもの。
人は他者との目で規定されていくとも言われているが。
しかし、だがそれは
「それは異世界ということさ。まぁ異世界を作り出していたことは能力者にしても芸術家であったにせよ賞讃に値するだろうが……
自分のいる世界と、異なる世界の境界が引けるかどうかが大事さ。
自分と他人を比べることで自分をはっきりさせるように、自分の世界と異なる世界を比べて己の世界を浮き立たせることは自分を規定する世界を持つことだ。
生きる、というのは簡単に思える言葉だし軽く思えるかもしれないが
この混沌とした世界では何よりも重要なことだ。自分という存在を確定させることだからな。」
おそらく。今はまだその混沌の中にいることを実感しづらいかもしれないが。
それでも混沌の中にいた者ならば、理解するのは他の人間よりも早いかもしれない。
そうして一区切りのようにまぁ仕事といえば仕事だがと返事をし
バッグに手をかけて開き……中から分厚いファイルを取り出す。
取り出せば開き、凛に渡して寄越す。ファイルの先頭には一枚挟まれており
それらは凛があれらの所在を確かめるためににアクセスしていた履歴が挟まれていた。
「この島は簡単にいうと学生……こどもの世界だ。
色々理念や目的はあるが学生のための世界である……学生自治の学園島だしさ。
その中に異質な大人の世界があり……ということは今までの話よりわかりやすいかな」
■六道 凛 >
信仰、うん間違いではない。
きっとアレ以上はないし。アレ以上の輝きを美術屋は知らない。
まだ自分は孵れてないのだから、当然だ。
でもそれを別として――言っている意味がわからないというほどに”六道凛”は狂っていない。なにせ普通に生きることを享受して今ここに居るのだから
わからないというのは、もう――意味を成さない。
だから、理解はできる。言っていることは。これもまた納得とは程遠い――いや、受け入れるといったほうがいいか。
思考を切り替える。分厚い、ファイルを見ればそういうことかと思ったからだ。
そして特別――驚きもしない。
消さずに残したのだから、当然だ。
「うん、それで?」
■五代 基一郎 > 「学園自治の社会としつつも、学園のシステム上4年で多くは入れ替わる。」
それは国家の社会システムとは大きくことなる。
学生の世界だからこその特徴であるが、逆にそれは大きな穴でもある。
「多くは4年で卒業する以上、社会的なノウハウが継承されづらいのさこの島は。
ここで骨を埋める人間なんてそうはいないからな。特異な島なんだが、そういうものはちょっとした街未満までと言ってもいいか。
よってここに集まる特異なものを狙って外部から大人の世界の介入がたびたび行われている……ひそかにね。」
そこにあるのは全部把握できた工作の仔細、という。
常世島に集めた異邦人や異能者。その中でも社会に迎合、適合できなかったもの。
あるいはしなかった者……弾かれたものを狙ったものや
そこを足掛かりにした工作活動。それは確かに行われていた。
或いは異世界の技術や異能者の研究のためのサンプル収集、また外部に情報を流すための人間の教育や
この島を経由しての何がしかの工作活動等……
「俺が人を集めていたのは汚れ仕事をさせたいから、や工作活動をさせたいからではなくてさ。
大人と戦うために大人の世界を知っているものを集めていたんだよ。
大人の世界を知らない人間でなければ対応することは難しいからな、こういうのは」
そしてまた一つ、ファイルを取り出せば続けて寄越す。
ページは開いたまま……先程とあまり変わらない厚さ。
開けば、それはアクセスしていた先の者達のリストや現状が記載されていた。
「大体は修復させていたからいつでも動かせるんだけど、まぁ場所が場所なんでしばらく静かにしてもらっていたわけでさ。
なるべく早いうちにと思っていたんだが艦の改修が延びていたから伝えるのが今になった。遅れて悪かったよ。」
その二つ目のファイルにはオートマトンやドローン、航空機等の他に艦船のデータも記載されていた。
電子的な装備と自動機械郡により小数で稼動運営される移動拠点の潜水空母のような艦船が。
■六道 凛 >
目を通す。
一瞬、家主へ。いいや、隊の長としての彼に尋ねる。
――使っていいの? と。
能力を使えば、把握には2秒もかからない。だが、それは禁じられているから使えない。
使えるのはイタズラ程度の”技術”と”知識”。
限定されたものだ。
「ちょっと待って。まるで、戦うべき存在を識ってる、みたいな言い方だね?」
つまりもう敵はいるということだ。
そしてそれに手を焼いている、もしくは対処できてないということも指す。
それにこの数は――扱えるもの以上の供給だ。
つまり、美術屋の件の幕引きのような。
一人でこれを操作することも、視野に入れているということ。
「……何? 戦争でもする気なの?」
■五代 基一郎 > 「そのために引き抜いたわけなんだけど、もしかして別の目的で傍に置いておいたと思ってた?」
今更何を言っているんだろう、というようなニュアンスでその問いに応えた。
ただ違反者の構成のために引き入れたわけではないことは理解していると思っていたが、どうやらそうではなかったらしい。
加えて言えば能力使用を禁じていたのはこれらの準備が出来ていないことがいくばくかと
また一応の観察期間であったためなのだが。
「実態として出てくるまでは…そうだな、社会的に受け入れられない者達がどうなろうと。
別所でどうこうしてくれるならというのもあってなぁなぁで済ませていたんだが
だいぶ前にその害が実態として出てしまったものだから対処の必要性が出たのさ。
島外の諜報機関からの工作活動、専門的な組織の行動に四年で入れ替わる治安維持組織が全て対処しきれるわけはないよ。
そりゃあるところには専門の対処する場所はあるけど、異質になるが故に小数であるし
かといって外注で組織を作るわけにもいかないしさ。
だから外から来た俺とかがこの組織再編時に手を挙げたわけだし。」
もしかして、飾りであの類の兵員や兵装を用意していたと思っていたのだろうか。
ある程度の数を揃えられることを求められていたし必要だったからのあれらであり彼らだったのだが。
「戦争ならもう始まってるよ。非日常と日常の線引きが出来なくなっているように、ただ見えにくくなっているだけで。」
■六道 凛 >
……なるほど。
経過観察。それは重々に承知していたが――
しかし、これなら理解はできる。それに、これから相手取るものも、面倒なこともよく分かった。
自分では太刀打ち出来ない相手という事実も。
「ふぅん、それでいつもご飯が冷めるほど遅かったわけ? 同居人も一緒?」
ということは彼も、そうなんだろうかなんて思う。
線引ができなくなっている、見えにくくなっている。
いいや、こればかりは違うと訂正させてもらおう。
そうしているの、間違いだろう? と……
「別に、いいけど。言っておくけど、ボクは背景にしかなれないよ? 知っての通り、主役なんてハレナイから」
■五代 基一郎 > 「あいつは別。ある程度のラインまで育ってもらわないと対処はできないからな。」
相手は見えないが存在している者達。直接戦う必要がある者なら、見えていた者達を相手にしていたものとは違うことを重々染み込ませる必要がある。
それにはまだ時間が掛かることも承知だし、その間は一人でなんとかできる部分はしてきたわけだからこそ
遅くなっていたわけだったが。
事実まぁ、この島が地理や政治上で独自の軍事力を持つわけにはいかない事情があるし
それらを穴として付け入る勢力もいるわけだから対処するのに必要な場合、戦力と呼べるものは隠匿する必要があるわけだから……というのが重なっているが故に見えないようになっているし
見せないようにはしているのだが。
「見せない戦いに主役が出てきてどうするのさ。背景だからこそ出来るんだよ。こういうのは。
見える部分はいくらでもあるし、いくらでも出る”主役”はいるからな、彼らに任せておけばいいよ」
我々は我々のやるべきことをやるのだし、やれる人材を集めているつもりだけどと足して茶を淹れて
「ところで第一は異能や魔術を含めず装備や能力をなるだけ統一して、というコンセプトに対して
第二は実験的にだけど異能や魔術、個性特化での小数をとしているわけだけど……
凛は電子制御主体の艦船なら一隻ぐらいコントロールは可能だよな」
出来ると思ったけど、出来ないならそれなりに改修してもいいしと
いやそれらは実際に接続してからのほうがいいかとも続けた。
お茶に梅干しを入れたくなりながら。
■六道 凛 > 「あのさ、五代基一郎。キミは、ボクの幕引きに選んだ相手だけれど……どこをみていたのさ」
重々承知だ。わかっているならいい。
ちゃんと、理解していたなら。うんと頷くだけだったのに――
「馬鹿言わないでよ。望む主役がいるなら、望むままの背景を描くのが美術屋だ」
そこは譲らない。
だって、ボクがあの特等席にいることができたのはそれのおかげだ。
そこだけは、その席にいる権利の何一つだって誰にも譲ってたまるものか。
「その席は、ぼくのものだ。彼らが望むんだったら世界を機械にしてまでも、全部描くよ」
頭が焼き切れる?
識ったことじゃない。
人間業じゃない?
関係ない。
そのための努力は何も捨ててたまるものか。
「あんまり、見くびらないで」
■五代 基一郎 > 「そうだな……うん、そうだな。悪かったよ」
主役に成れとも言わない。ただしこの、これらの背景であれとも言わず。
外にいるからとは言うが。それ以上言わず。
主役なんているのかすらわからない。裏の世界の出来事。
それを前にちょっとした確認程度のものだったが。
案外にも怒らせてしまったらしい。逆鱗だろうか。
もちろんどの程度のものかは目にしていた。今考えうる以上のこともできるのだろう。
「わかった。任せる。後日調整に行こう。」
だがしかし、それは。つまりと。
また口が笑い言ってしまう。咎めるつもりでもなく。
ただどこからか出てきたものが、するりと。
「しかし”美術屋”の方が活きているな六道凛」
それを言ったことも、何故言ったのかも知らぬような顔で食器を片づけて流しに持って行く。先程の、調整に行くだのどうのが最後の言葉だったかのように水道の蛇口は捻られた。
■六道 凛 >
「分かったなら、いいよ」
自分はあのフェニーチェだった。
まだ孵れないし、認められなかったとしても。
それでも自分の評価は、フェニーチェの評価になる。
その自負は未だある。心にある。
だから、看過できなかった。それを”下げる”のは、自分ですら許さない。
――世界一の劇場なんだ。
「うるさいよ。もう、美術屋は終わったんだ。もう、あの席には一生座れないんだよ」
ポツリ、呟いて。
「ねぇ、家主さん。みんなは――どうなったの?」
聞いてなかった、聞けなかったことを口にする。
知っているんでしょうと、いうように。
■五代 基一郎 > 何が、うるさいんだろうかと思いつつ雑に洗剤を回して掛けてから
スポンジで洗っていく。洗い物になれたとは思うがまだ荒いとは思われている。
しかし凛の言葉を聞くに、それらの感性やどうこうについては気を付けようとは思った。
最近まで生きていた場所。
物心ついていた時期からいるのであれば、それは何であれ大事なものであることは自分にもわかる。
それが何だったのであれ自分を形成していたものなのだから。自分にはもう遠い存在だが。
「死亡確認されたのは脚本家と墓掘りと呼ばれたメンバー。他は不明。
その他のメンバーの活動は見られない。秘密にするようなことでもないし、これ以上は俺にもわからないよ」
洗い物が終わり、まだ濡れたままの手を雑にハンカチで拭きながら戻ってくる。
ただ事実だけを伝えて、梅干しと一緒にテーブルに戻ってきた。
■六道 凛 > ――は……?
「あ、え?」
いやわかっていたことだ。幕引きは人それぞれ。
でも、死んだ? 墓守が? 脚本家が?
…………ヒビヤ、が?
吐き気がする。最後を、最期の演目が見れなかった事実。
つきつけられた、万が一の希望がないこと。
遠ざけた、意図……キモチワルイ……
もう、本当に彼処はなくなったということ。
理解はしても、死んだとはどこかで思いたく、なくて。
だから――
……ダンっ……
足踏みを、一つ。
「……わかった。ありがと。ちょっともう遅いから、部屋で休む。ね?」
顔をうつむき、静かに部屋へ……
■五代 基一郎 > 確かめたいなら墓地に行けばいい。
とは言わなかった。
顔色が悪いことなど、誰でもわかるような状態の彼に
その言葉を流さない程度に思いやりというものがこの男にもあった。
「おやすみ凛」
湯呑みに梅干しを入れて、熱い茶を淹れてしばらく過ごしていた。
自分の集められる範囲で集めていた、彼らのわかる範囲での顛末を記した
凛に差し出した分厚いファイル二つよりも薄い書類束。
渡せずに、渡す前に話が切り上がったためバックの中にあったそれは。
寝る前の歯磨きのついでに、封筒に入れられて凛の部屋の前に置かれただろう……
■六道 凛 > 「ん、おやすみ……」
バタンと扉を閉じて。パーカーのフードをそのまま被り。
ゆっくりとずるずるずると、下に落ちていき……
ベッドに横になるでもなく、座り込む。
ずっと、そうしていれば。
(あ、朝ごはんの仕込み……)
気分ではない、が。明日の朝誰かに会うのも嫌だ。
だから、みんなが寝静まった頃に、そっと外に出て。
軽く作って温めたり、そのまま食べられるものを作って――
戻るったとき、見つけた。
封筒。
部屋に戻って、また中身を確認すれば……
■五代 基一郎 > 封筒の中身は所謂調書記録だった。
ある者は死亡時の状況……と言っても落第街での死であるため
状況は察してしかるべしであり顔が確認でき照合できたが故であるという
写真の付属があったり、またいくつかの遺留品や現場状況或いはサイコメトリーから死亡報告が出されたものであったり。
ただ他のメンバーに比べて脚本家、一条ヒビヤの項目は幾許か多く
死因は拳銃による自殺だった事や現場に二名が居合わせており
その二人の仔細等も書かれているが整理された書き方で綴られていた。
生活委員の一人と、孤児院の子供。参考人程度の扱いにしているのか留めているのか、必要以上には書かれず……というだけで。
故にそれもそれらは事実だけ書かれていた紙束だった。
■六道 凛 >
…………――
その事実に――六道 凛は。
何も思わないように努めて、眠った。
自分は美術屋では、もうないと、言い聞かせて。
死んだように、眠った
ご案内:「異邦人街の安アパート」から六道 凛さんが去りました。
ご案内:「異邦人街の安アパート」から五代 基一郎さんが去りました。