2016/05/13 のログ
ご案内:「常世島上空」に寄月 秋輝さんが現れました。
寄月 秋輝 >  
遊覧飛行中。
遊覧、というほども可愛らしいものではないのだが。
気圧が低く、恐ろしく空気が薄い。
だがその息苦しさが、少しだけ懐かしくもあった。

「……ここは落ち着くな」

夏が近い中、マイナス何十度の世界。
並みの人間にはつらい……というか、似たような環境で鍛えた秋輝にも、この気温は厳しいものだ。
だいぶ寒いのか、かちかちと奥歯を鳴らしている。

寄月 秋輝 >  
しかしここである必要があった。
聞こえるのは風の音ばかり。
集中し、考え事をするにはちょうどいい。



先日の少女の言葉を反芻し続ける。
実際すぐに答えが出せるものではないのだが、少しでも考えなければならないことに思えた。

ぐるりと体をねじる。
それに合わせるように、横に少し体が流れた。

寄月 秋輝 >  
「どうすべきなんだろうね、母さん」

胸元の首飾りに問いかける。
もちろん答えなど帰ってこない。

「……夏樹もそれを望むんだろうか」

ぐるり、体を大きくねじる。
少しだけ、前方に加速する。

寄月 秋輝 >  
「……僕はどう生きたいんだろうね」

魔法の才が発覚しなければ、義務教育を終えたらどこかで働くつもりだった。
魔法の才が発覚してからは、死ぬまで戦う『駒』となるか……
生き残れたならば、彼女のような人を失くすために戦うつもりだった。
では今、最後の戦いに敗北して、無様に生き恥を晒して、何をしたいと願うのか。

加速する。
ぐるりぐるりと体をねじりながら飛翔する。
世界が回る。
雲と太陽の位置がめまぐるしく変化する。

寄月 秋輝 >  
そう考えると、かつては楽だった。
頼れる上司が居た。
恐ろしいが常に支持を寄越す上司兼師がいた。
助けを求めてくれる仲間がいた。
何か、自分で思考して戦ったことはあっただろうか。

「……無いよね……全然……」

はぁ、と息を吐き出した。

バレルロールをしながら飛行し続ける。
速度勘を取り戻すこと、バランス感覚を叩き直す目的もある。
高速飛行戦になったときの感覚を思い出すために。

寄月 秋輝 >  
ではどうやって生きたいのか。
平和に生きられるほどではない。何せまだ懸念は消えていない。
刀を手放すか。それ以外の生き方なんて知らないのに。
素直に土木工事とかでもやろうか、などとぼんやり考える。
そんなことしても、結局目の前の『悪行』に自分を止められず、『悪』を殴り倒してしまうだろうな、と。

これどうやって生きればいいんだろう、と考えてしまう。
この世界で、現代日本に近いこの世界で。平和に生きるという選択肢が、自分にあるのだろうか。

「……微妙だな……」

生き方を模索していると、どんどん憂鬱になってくる。
やっぱり軍や警察に属する場所に居て、ただ前線で刀を振るっていたほうが生きやすい。

どんどん加速してくる。
非常に低い大気圧の中、すでにその飛行速度は音速を越えていた。

寄月 秋輝 >  
生き方が欲しい。
驚くほど重い考え方になってしまった。
人斬りは所詮人斬りを脱せないのか。



憂鬱なため息を吐き出しながら、バレルロールを続ける。
正面に魔力の盾を錐状に展開し、超高速で常世島の高空を恐ろしい速度で旋回している。

寄月 秋輝 >  
「……加速しろ」

生き方など、そう簡単には変わらないものだ。
まだどう生きればいいのか、わからない。

ただ、言われた通りに……夏樹に生き方をすがるのはやめようと思った。
いつまでも幻影に縛られて生きていては、結局はこうなってしまうのだ。

「……『あの子』よりも速く……光のように速く……!」

さらに加速する。
正面の錐状の盾が赤熱する。
もっと速く、さらに速く。
信じられない速度で常世島の輪郭をなぞるように飛び、周回数を重ねていく。

寄月 秋輝 >  
不思議なことに、その間は全てを忘れられた。
刀と魔法は、この身から迷いを捨て去ってくれる。

最高速に達したまま数十週ほど回ったあたりで、じわじわと減速する。
疲れたか、魔力限界が来たか。

減速しながらバレルロールを継続し、螺旋軌道を取りながら地上に降りていく。
ぎゅるん、と減速してふわりと自宅の屋根の上に降り立った。

「……もう少し……ゆっくり決めよう」

そう考えて。
やはり寒かったか、くしゃみを一つしてから屋根から降り、自宅へと入っていった。

ご案内:「常世島上空」から寄月 秋輝さんが去りました。