2016/06/14 のログ
ご案内:「とある病室」に紫刃来十さんが現れました。
紫刃来十 > 常世島、とある病室の前…病室の前に書かれているのは柴刃の名前。

その手前では、病院という場にはふさわしくない、野蛮な雰囲気を纏った拳法着の男。
だが、普段の彼と比べれば放たれるその凶暴さは殆どなりを潜め
その顔もいつもの彼を汁物からすれば、驚くほど柔和な表情を浮かべていた。

「入るぞ、光(ひかる)」
ドアを軽くノックすると、病室のドアを開け、中へと入っていく。

紫刃来十 > 「やあ、兄さん。久しぶりだね。」
簡素な病室の中、ベッドで本を読んでいた少年が来客…彼の兄へ向かい、挨拶を返す。

拳法着の男…柴刃来十は、その声に年相応の笑みを見せ
「おう、干乾びてないか確認しに来たぜ、兄貴の優しさに感謝しろよ?」
そういうと、ベッドの横に備えてある椅子に座る。

紫刃来十 > 「ひどいなあ兄さん、幾ら僕でもそこまでひ弱じゃないよ…多分」
光と呼ばれた少年は、兄の冗談に苦笑して返す。

「わりいわりい、で、調子はどうだよ?」
彼を知る者ならば、おそらく驚かない者はいないだろう。
それ程に普段とかけ離れた穏やかな様子であった。

彼、柴刃来十の弟、柴刃光…
特殊な病に罹患している彼は、極端な虚弱体質のため
こうして病院で寝たきりの生活を余儀なくされていた。
その病は大変容の際異世界から持ち込まれたウイルスとも
あるいは異世界から来た何らかの物質がこの世界に来た際に変容した結果だとも言われているが
今もって原因は不明であり、それ故治療法も確立されず
一度かかれば最後、体中を蝕み筋組織や内臓機能の低下、発作、発熱や嘔吐を繰り返し
やがて苦しみのなか死を迎えるという凶悪なものであった。

「今は大分落ち着いてるよ…兄さんが顔を見せる少し前は本当にひどかったけどね」
そういって笑う少年…その体中には、いくつもの点滴や何らかの機械の管が取り付けられていた。

紫刃来十 > その様子を見れば、紫刃の表情が曇る。
「…わりいな、今月分と来月分の入院費のため、どうしても仕事に専念しないといけなくてよ…
で、でも安心してくれよ!おかげで2ヶ月は入院費に困らないし、しばらくは
ちょくちょく顔出せるから…」

そう言って安心させようとする紫刃からは、どこか許しを請うような様子が伺えた。

「本当に悪い、お前が苦しんでる時に何もしてやれなくて…」
その続きを言おうとした紫刃を、少年は
片手を紫刃の目の前に突き出し、待ったをかける。

「謝らないでよ、兄さんは僕のために頑張ってくれてたんだから。
感謝こそすれ
憎んだり、恨んだりする事なんてありえない。
寧ろ、謝るのは僕の方だ…こんな体で、兄さんに迷惑ばかりかけてしまって…」
そう言うと、自己嫌悪と罪悪感から俯き、黙ってしまう。

紫刃来十 > 「そんな事言うなって!俺達この世でたった二人の家族じゃねえか…
俺は、お前に生きていてさえもらえれば…」
そう言って、今度は紫刃の方が黙る。

咄嗟に出た本音
生きていてさえくれれば…彼の弟がかかった病気の事を思えば
それがどんなに難しく、残酷な事を相手に望んでいるか
言ってから気づいたのだ。

「…そうだね、せっかく兄さんが頑張ってくれてるんだ。
僕も僕で、頑張らないといけないのに…気持ちで病に負けてたら
勝てるものも勝てないよね」
そんな紫刃の気持ちを察してか、少年は先程と同じように笑顔で柴刃に向かい
言葉を口にした。

紫刃来十 > 「そ、そうだ!お前は何てったって、俺の弟だ。
その気になれば病気何ざ、直ぐに治るって!」
こちらも弟の気遣いを察してか、何とか前向きな言葉を口にする。

「湿っぽい話ばっかして悪かったな…ってやべ、もうこんな時間か…」
時計を見れば、もう次の仕事の時間がそこまで迫っていた。

「悪いな、また近いうちに顔出すからよ、それじゃ!」
そういって飛び出そうとした柴刃に、少年は手を振りつつ、最後に

「ねえ、兄さん…僕のためだからって…危ないことはしてないよね?」
と、最後に質問を投げかけてくる。

「…当たり前だろ、俺に何かあったら、お前の入院費を稼げる奴が
いなくなっちまうからな」
そう言って、今度こそ病室を抜ける。

弟の質問に、振り向いて答えることはできなかった。

ご案内:「とある病室」から紫刃来十さんが去りました。