2016/08/09 のログ
ご案内:「常世病院・待合室」に伊都波 凛霞さんが現れました。
■伊都波 凛霞 > 「………」
妹は、伊都波悠薇はまだ目を覚まさない
連絡を聞いて駆けつけた父と母には、自分が残るからと言って、帰ってもらった
看護師さんに泊まりこみの部屋の準備をしてもらって、しばらく
ほんの数時間、暇ができた
……父は厳しい表情だった
無理もない、伊都波を捨てると言って家を出たのだ
父からしてみれば……長い長い時間をかけた、裏切りだろう
両手を組んで、何かに祈るように頭を垂れる
■伊都波 凛霞 > 妹が鼻血を出して倒れたのは、これが初めてじゃない
以前にも二度ほど…ただ、そのたびに状況がひどくなっているのを感じる
健康上の理由?
違う、だってそうなった時は、いつも───
「………いつから?」
ふと、そんなことを思う
子供の頃は一緒に過ごしていてもこんなことはほとんどなかった
異能が発現していなかったのか、とも思ったが…
もし、他に理由があるとしたら?
■伊都波 凛霞 > 自分の胸元に手をあてて、目を瞑る
何か忘れていることがあるのかもしれない
何か、気づいていないことがあるのかもしれない
自分自身へのサイコメトリー
本来ならば、生きている生物へは記憶情報の多さから行えないもの
リアルタイムで更新され続ける思念は、読み取っているとって情報が多すぎる
…けれど、自分自身ならば話が違う
心を無に……といえば言葉には易いが、実際には至難の業だった
結局30分くらいの時間を擁してしまったが…記憶は、開けた
■伊都波 凛霞 > 本当に微小な"差"が生まれたのは、本当に子供だった頃
青垣山の、入ってはいけない場所へ二人で行き…魔物に襲われた
その時、自分はあの子を守るために前に立った
命を投げ出してでも、妹を守る。その一心で
思えば妹が自分の隣ではなく後ろを歩くようになったのは、それからだ
もし、妹の異能が芽吹いたとすれば……きっと最初は、そこだろう
「……じゃあ、どうして」
それから10年近く…今この時まで誰も気づかなかったのか
ありとあらゆる矛盾の中で、周りは愚か本人達すら
■伊都波 凛霞 > 最初は、自分の思い込みが強いせいだと思った
でも違う
冷静に分析し、思考を巡らせれば…
天秤は均衡を取ろうとする
振り幅が大きければ大きいほど、反動も大きい
逆に互いの差が小さければ、その振り幅も小さい
そうだ、明確に妹との差ができはじめたのはいつからだったのか
それはきっと……
■伊都波 凛霞 > 「…学園に、入学してから」
そう、先に凛霞が学園へと進んだ
二人で過ごす時間は大きく減り、二人に明確な違いが生まれた
その一年後に入学した妹、悠薇は
自分とは正反対のような学園生活を送り…それは季節を経ると更に差が生まれた
大きな差
その均衡を取ろうとした、妹の異能が……
自分にも
そして妹にも
色んな事件を起こす切欠を与えていったのだろうか
二人の差が離れれば離れるほど、その異能は強く効果を発揮する───
■伊都波 凛霞 > 妹と過ごす時間が減ったこと、それは成長を重ねれば当然のことだと思っていた
いつの間にか、二人の間の距離や、差が自然なものだと思っていた
「………」
そうだとしても
腑に落ちないことがあった
なぜなら、あの場所で、あの時
対峙した姉と妹は……二人ともが泣いていて、二人ともが、不幸だったはずだ
異能的な側面からすればそれは大きな矛盾
天秤の両側の皿が共に下へ落ちようとすれば、支点に2つの重さの負荷がかかる
悠薇が倒れたのはそのせいだろうと、思い込んでいたが……
■伊都波 凛霞 > 違う、あの時もあの時も
二人が顔を合わせて話していた時間
その間に均衡なんてものは存在していなかった
再開したばかりの時、逃げるつもりでいた自分の言葉だけがその後への矛盾を生んだ
あの時自分の言葉は自分の意思とは関係なく180度ねじ曲がった
本当なら、ずっと悠薇を遠ざける言葉ばかりを吐いたはずだ
悠薇は、私と一緒にいたいとずっと訴えていたのだから
「………まさ、か……」
その前も、その前も
自分が、妹…悠薇と顔を合わせて話をした時は…
二人の感情が、一致していた
そこに、互いの均衡を保とうという力を感じたことは一度もなかった
そう、その近い距離は…子供の頃の二人は自然にもっていたもので
……入学後に、少しずつ、開いていってしまった距離だ
■伊都波 凛霞 > 「………」
無言のまま、立ち上がる
昏睡状態のままの妹のいる病室を一瞥して…その眼と閉じた
確証めいたものは何一つない
ただ、以前抱いた疑問の一つの答えとしてそれが提示されるならば……
色んなことに、辻褄があうのだった
現在凛霞は二年生
一年生の間は異能の開花コースを専攻していた
そこで、凛霞の持つ力は、物質の残留思念を読み取る力…サイコメトリーとして分析された
当然それは異能として分類されるべきものではある
しかしそれ自体は『大変容』以前も認知され、稀ながらも名が知られる力の一つだった
それとは別に、自分にも悠薇のように……当時では見つからなかった異能があるとしたら…?
悠薇のように、姉…自分を対象とした異能のように、自分にも───
■伊都波 凛霞 > ……あの時
二人で話した、つい数刻前
自分がその本音を、剥き出しにした時
何かが軋むような音がした───ような気がした
あれが……
気のせいではなかった
としたら……
「…迷ってる暇なんかないわよ、凛霞」
自分に言い聞かせるようにそう、小さく、力強く呟く
■伊都波 凛霞 > その日、妹の眠る病室で一夜を過ごした凛霞は、明朝、両親と入り替わり足早に病院を去る
その足でまっすぐに、列車を乗り継ぎ向った先は──異能学園都市常世、その研究区だった
ご案内:「常世病院・待合室」から伊都波 凛霞さんが去りました。