2016/10/22 のログ
ご案内:「病室」に東瀬 夏希さんが現れました。
東瀬 夏希 > 数日前、異端に打ち破られ入院することになった東瀬夏希。
入院している彼女が何をしているかと言うと……

「ふっ……!ふっ……!」

―――腕立て伏せをしていた。

東瀬 夏希 > 「あろうことかっ……!一週間もっ……!鍛錬を……!怠ってしまった……!」

焦燥感を滲ませて腕立て伏せにいそしむ夏希。
彼女は、ブロードソード2本を同時に軽々と扱える筋力の持ち主である。
それは、先天的に筋肉が強かったというのもあるのだが、やはり日々の訓練のたまもの。
異端への憎しみを力に変えるべく、ひたすらに重ねてきた鍛錬の成果である。
だが、流石に一週間も何もしない、どころか病院でほぼ寝てるだけとなると、筋力は落ちてしまう。
それを少しでも取り戻すための筋トレ中なのである。

東瀬 夏希 > じゃあ何故一週間も怠ったのかと言うと、まともに動けるようになるのに一週間もかかってしまったのである。
夏希の体は元々過剰なまでに与えられてきた負担に悲鳴を上げていたのだ。
そこに、あの大打撃。「何とかならんのか!」と焦る夏希に、医者は「どうにもこうにも、しばらく休ませないと駄目に決まっている」と一蹴。
ある程度回復してきたところをぐっと我慢して安静にし……我慢の限界に達して筋トレを始めてしまったのである。
ちなみにまだ早い。

「ぐ……ええい、情けないぞ、私の体……!」

まだ早いだけあって、夏希の体はまだ全快していない。
だというのに、これ以上の安静は体が鈍ると体に走る痛みをねじ伏せているのである。
……ちなみにこの病室、鍵はかかってないし面会だって可能、医者が見に来る可能性もあると言う事をすっかり失念している夏希である。

東瀬 夏希 > 体中に汗を滲ませ、必死の面持ちで筋トレに励む少女。
どう考えても入院患者の姿ではない。

「くそっ……アイツを、アイツを殺すまで、立ち止まってなどいられんのだ……!」

異端……否、己が憎悪の直接的対象を脳裏に思い浮かべ、自分を奮い立たせる。
―――あの日のことは、いつも夢に見る。
家族が全員死んだ日。
家族を全員×××日。
自分の全てを……失った日。
その仇を見つけ出し、復讐するまで。
東瀬夏希は、止まれない。

東瀬 夏希 > 壁にかかった二本のブロードソードを見やる。
Anti Heresy Holy Weapon Series Prototype『Innocentius』。
Anti Heresy Holy Weapon Series Assault type『Helsing』。
それは、異端を狩る力。そして、夏希の復讐を果たすための力。
特に「ヘルシング」は……夏希の仇を殺すのに必須である。
何故なら、その仇は『不死』なのだから。

「待っていろ……いつか貴様の心臓に、ヘルシングを突き立てて燃やし尽くしてやる……!」

復讐は虚しく、何も産まないと言う人もいる。
だが……復讐を果たさねば、過去と別れを告げられない人もいるのだ。
無念を。怨嗟を。憎悪を。嘆きを。悲嘆を。
それを産み出した相手にぶつけてやらないと、止まった時を動かせない人と言うのは、間違いなくいるのだ。
止まった時計の針を動かすために、自分の過去を乗り越えるために。
東瀬夏希は、復讐に狂う。

東瀬 夏希 > そのためには、竜人とはいえ、異端一人に負けてしまっているわけにはいかないのだ。
強く。より強く。もっと強く。どこまでも強く!
仇を殺し、果てには世の異端を狩り尽くせるように。
あらゆる敵を抹殺するに足る力がなくてはならない。

「くっ……まだ、まだ……!」

腕立て伏せを500回やったところで、今度は腹筋に移行する。
体中が痛い。筋トレによる筋疲労もそうだが、やはり継続的に溜まっていた肉体の疲労が苦痛を訴える。
だが、無視。
自分の体など大事にしていては、少女の身で異端を狩り尽くす事など出来はしない。
短い命でいい。
若くして死ぬのも本望だ。
この身の全ては……憎き異端を滅ぼすために使い潰す。

東瀬 夏希 > 「256……257……ぐっ!?」

こちらも500回繰り返そうと続けたが、257回目で体に無視できない激痛が走る。

「あ、がっ……!」

オーバーワークに次ぐオーバーワークのツケ。更に体がボロボロな状態で更に筋トレ。
体がいい加減に限界を突破したのだ。

「ふぐっ……が、あ……!」

痛みに悶え、なおも懲りずにトレーニングをしようとし、そして失敗する。
完全に逆効果であり、悪循環である。
だが、彼女にそれを指摘してくれる人はいない。
基本的に、彼女は独りぼっちなのだから。

東瀬 夏希 > 「……………………」

痛みを堪えつつ床を転げまわる。
ナースコールのボタンは遠く、手が届かない。
そこそこ広い個室の中で、救いもなく一人で転がっている現状は、孤独を強く意識させた。

「……パパぁ、ママぁ……!真冬ぅ……!」

『自分にそんな資格はない』。
そう分かっていながらも、失った家族を呼んでしまう。
一番辛い時、やはり縋ってしまうのは家族だった。
そんな資格は、ありはしないのに。

東瀬 夏希 > 「寂しい……寂しいよ……!」

思わず弱音を漏らす。
―――人の熱量には、限度がある。
人は心を燃やし、何かしらの行動をする。その熱量には個人ごとにある程度の限界点があり、それは振り分けたり、燃やし続けることで消費し続けてしまうものだ。
覚えがあるのではなかろうか。新しい趣味に熱中し始めたら、以前の趣味に対してそこまで熱が入らなくなったと言う事が。
そして、夏希は常に『憎悪』と言う形で心の炎を燃え滾らせている。
……心なんて、とっくの昔に限界なのだ。

「疲れたよぉ……うぅ……!」

普段の苛烈さはなりを潜め、年相応の弱さで涙をこぼす。

東瀬 夏希 > 常に何かを憎み続けることなんて、普通の精神では出来はしない。
ましてや、夏希は判断基準こそ歪められていても、心はまだ狂っていない。壊れていない。
『憎む』と言う精神的行動に、疲れを覚えてしまうのだ。

「痛い……痛いよぉ……」

それでも。
この弱さは人に見せてはいけないと、必死になって声を抑える。
零すのはあくまでぽつりと。だが、故にこそ悲痛な響きがそこにある。

「わたしが、あんなことしちゃったから……だからこんなことになってるんだ……」

次に襲ってくるのは、激しい後悔。
あの日、もし、あんなことにならなければ。
自分があんなことをしないで済めば。
全ては平和なまま、田舎でのんびりと暮らしていたはずなのに。

「うう……うああああ……」

普段の夏希なら、その元凶を激しく憎悪し、心を奮い立たせるところである。
だが……今の夏希は、それすら出来ない程に弱り切っていた。

東瀬 夏希 > 完全に、今の状態も焦りが招いた自業自得だと分かっていても。
単純に、安静にしていなかった自分が悪いだけと分かっていても。

「だれか……たすけてぇ……」

弱弱しく助けを求めてしまう。
それは、今の苦痛からだけでなく……彼女を取り巻く全てから助けてほしいという、魂の悲鳴だった。

ご案内:「病室」に相楽 満さんが現れました。
相楽 満 >  
「呼んだ?」

ひょこっと、病室のドアの隙間から顔を出した。
いつの間にドアを開けたのやら。
のこのこと扉に入ってきて、少女の前でしゃがむ。

「どーしたんだよ。
 怪我してんのに無茶したら危ないだろ?」

起こしてあげたいが、傷がどうなっているかわからない。
ふーむ、とじっと夏希の体を見ている。

東瀬 夏希 > 「なっ……!?」

びくっと反応する。
心が弱っていて気配察知が鈍ったのだろうか。何より、誰だコイツは。

「き、貴様、人の病室に何を勝手に……!?」

助けを呼んでおいて勝手な言い草だが、聞こえてないと思ってたのだから仕方がない。
誰かが聞き届けてくれるだなんて、一切期待していなかったのだ。

相楽 満 >  
「ん、なんかつらそうな声が聞こえたからなー。
 ちょっと大人しくしててな」

じーっと見つめ、よしと頷く。

大人しくしていろという指示が通ったなら、体の下に手を通し、おそらく少女の体にほとんど痛みが走らないように抱き上げるだろう。

東瀬 夏希 > 「いや、た、確かに辛そうにはしていたが……!」

言いつつも素直に大人しくする。
と言うより、暴れる気力もなければ、体もそんな状態ではないのだ。

「おい、貴様いきなり何を……!?」

そして、抱き上げられれば狼狽する。こんな事、されたことないのである。

ご案内:「病室」から相楽 満さんが去りました。
ご案内:「病室」に相楽 満さんが現れました。
相楽 満 >  
「何ってお前……」

そのままふんわりベッドに寝かせる。
細腕にしては力があるように感じるかもしれないが、それはさておき。
とっても満足げに頷いたら、近くの来客用の椅子に腰かけた。

「怪我人はベッドに、だろ。
 早く治さないと、外に遊びにも出られねーじゃん」

けらけら笑った。
元病人の立場からしても、あれはよくないな、と思うわけで。

「お前学生だよな、学園の。
 俺は相楽、二年。
 名前なんつーの? 学年は?」

そして今度はこちらからと言わんばかりに質問攻め。

東瀬 夏希 > 「そ、それはそうだが……!未婚の女性に、馴れ馴れしく触るのはだな……!」

少し動揺したように言い返す。
夏希は幼い頃はともかく、家族を失ってからは教会で暮らしてきた。
なので、貞操観念とか古いのである。

「む……東瀬夏希、1年だ……」

だが、素直に質問には答える。
虚偽や不必要な沈黙は、厭うべきものだからだ。

相楽 満 >  
「東瀬なー、よろしく。
 んーまぁ未婚云々より、怪我の方が大事だし。
 それで嫁に行けない体になったら大変じゃん。
 男の医者に治療してもらうのと、男の生徒にベッドに上げてもらうのと、何も違わなくね?」

手をぱたぱた振りながら、少女の言葉をぶった切った。
けらけらと白い歯を輝かせながら笑う。

「んで、どーしたんだよ。
 なんかヤなことでもあった?」

笑顔の質が変わった。
少し落ち着いた感じの笑みを浮かべながら、後輩の悩み相談開始だ。

東瀬 夏希 > 「そ、それはそうであるが……」

やり辛そうにする。
異端なら取り敢えず殺せばいいのだが、そうでない以上普通に接さなくてはならない。
加えて、ここまで距離感の近い人間は初めてだ。勝手がわからないのだ。

「……いや。単に体が治っていないのに無理をしてしまったのでな。自業自得だ」

だが、悩み相談はそっと流す。
……この嘆きは、誰かに言うようなものではないのだから。

相楽 満 >  
「ふーん。
 いやまぁ、気持ちわかるけどなぁ。
 俺も病気治るまで、だいぶ焦ってたところあるし」

不調とは本人を乱すものだ。
それは自覚していようがしていまいが、本来のペースから大きく外れることもある。
よくわかるぞ、とうんうん頷くが。

「んで?」

続きを促す。
というより、本題はと尋ねるような聞き方だ。
表情は……先ほどまでと変わらない。

東瀬 夏希 > 「……いや、だから単に自業自得でのたうち回っていた、と言うだけだぞ?」

虚偽、ではあるが。
それでも、これを人に話す気にはならない。
こんな話、誰にとっても気分のいいものではないし、自分だって話したくないのだ。
―――東瀬夏希が、罪深いことを暴露することになるのだから。