2016/10/31 のログ
ご案内:「寄月家」に寄月 秋輝さんが現れました。
寄月 秋輝 >  
寄月の家、その和室。
茶の用意と座布団の用意は出来ている。

「……うん」

来客、というよりは患者待ちだ。

今日のために、準備は整え、訓練もぬかりなく行ってある。
今日もそうだ。

負けるつもりで挑むわけではない。
彼のためならばなおさらだ。

ご案内:「寄月家」に羽切 東華さんが現れました。
羽切 東華 > (うん、まさか先輩の自宅でとは思わなかったけども…)

今夜は何時ぞやの妖怪もどき騒ぎで受けた右手の汚染の治療、みたいなもの。
完治はさすがに無理だろうが、それでも元の状態に限りなく戻せるなら有り難い。
右手だけに嵌めた黒い革手袋を一瞥してから、取り合えず玄関の前に立ちインターホンがあれば押して待機。

(まぁ、でも実験台も兼ねてるわけだし気楽に行こう)

ある意味でぶっ壊れてる少年はこの時点で半ば達観気味だ。

寄月 秋輝 >  
インターホンの音が鳴ると同時に立ち上がり、すいっとわずかに浮いたまま家を移動する。
扉に手をかけ、ゆっくり開ける。

「いらっしゃい、羽切さん。
 お待ちしていました」

どうぞ、と招き入れる。
そのまま和室へ、お茶とお茶菓子に座布団付きだ。
治療のための場所とは思えない。

羽切 東華 > インターホンを押して少々待機していれば、ややあって扉が開いて和服姿の寄月先輩が姿を現す。

「あ、どうもです。今日はよろしく御願します寄月先輩」

ペコリ、と一度礼をしつつ中にお邪魔する少年。竹刀袋まで持参してるのは最早癖である。
一応、何かあった時の為に…と、いう事で備えみたいなものだ。
そして、先輩に先導されて和室へと赴くのである。

(…先輩の家凄いなぁ。と、いうお茶菓子とか座布団完備…治療じゃないみたいだな)

と、いう感想は心の内に留めておこう。軽く右手を握り締めてみる。矢張り感覚は死んでいた。

寄月 秋輝 >  
「少しゆっくりしていてください」

促しておいて、部屋の隅に移動し、そこにぺたりとお札をくっつけた。
万が一失敗した場合、最悪の事態を避けるために結界を張っていくのだ。
というのも、被害がこの部屋の内部だけになるように、というものだが。
部屋の四隅に付け終えて、術式を展開した。

「お茶が終わって落ち着いたら、腕を見せてくださいね」

そう告げて、自分の愛刀を取り、刀を抜いた。

羽切 東華 > 「あ、ハイ了解しました」

ゆっくりする…と、いうのもこれからの治療を思えば変な話だが。
ともあれ、お茶を頂きつつ彼が部屋の四方にお札を貼り付けているのを眺める。

(俺が人外殺しの刀を持ってきたように、先輩も万が一の備えはキチンとしてる訳、か)

まぁ、この先輩が準備を抜かる、という事はおそらく無いだろう。
と、なれば問題はこの右手の汚染の度合いか。と、彼の術式に反応して右手がやや震える。
左手で湯飲みを持っていたので、何とか中身を零したり湯飲みを落とすのは防いだ。

「…ん、寄月先輩始めましょう。最悪右手首ごと斬ってくれて構わないので」

既に覚悟は完了している。いや最初からだが。竹刀袋は己の左脇に携えておきつつ。
右腕の服の袖を捲り上げ、右手につけた黒い革手袋を外す。

――被害は右手の指先から右手首まで。これ以上は汚染されていないが。
既に完全に右手と同化してしまったのか真っ黒な右手がそこにある。
もう感覚も無いが、自分の意思で動かせるだけまだマシだろう。

寄月 秋輝 >  
「最悪の場合はそうしますよ。
 ですが……そうならないようにするためにここへ呼んだので、そこは忘れないでくださいね」

露わになった右手を見て、ふーむと考え込む。
思った以上に『ひどくない』というのが感想だ。
肩まで行っているのも正直考えたものだが。
ただ同化されている密度はかなりのものだ。

「……完璧に治せるといいんですが。
 さて……」

今の自分の能力でどこまで出来るか。
刀を逆手に握り、左手で東華の右手に触れる。

無理な浄化は、腕ごと吹き飛ぶ可能性もある。
ならばやはり、固着した悪意をゆっくり剥がし、『あるべきところへ還す』べきだろうか。
悩みながらも、浄化の巫力は高めていく。

羽切 東華 > 「あはは…そこは承知してます。常に最悪の事態を想定しろ、と婆ちゃんに言われてたので」

そしてその事態に直面しても動じないように心掛けよ、とも。
実際汚染に関しては酷くはない。が、問題はこの少年の人外殺しの体質だ。
彼の治療の術式すら緩和してしまう可能性が高い。善悪問わず、異物に反応する血筋だ。

(そうなると、汚染の完全な除去はやっぱり無理だろうな…最悪の事態は、多分免れるだろうけど)

自分の体の事だからよく分かる。ただ、限りなく元の状態に戻せるなら重畳。

「いや、後遺症は残ると思いますので、そこはお気にせず」

汚染だけでも取り除いてくれれば、後は自分自身で折り合いを付けていく。
少年が考えているのは完全な治療ではなく、この汚染の除去のほうなのだ。

左手で右手に触れられるが何も感じない。既に触覚が死んでいるのだ。
なので、ただこちらはこの後の治療を見守るのみ。

寄月 秋輝 >  
「どうせなら完璧に治した方がいいでしょう?」

最悪の結果も考慮するが、目指すのは最高の結果。
そこに妥協するつもりは一切ない。

「そうですね、多少のリハビリは必要になるでしょうね」

ただ治らないものでもないだろう。
きっと特にこの常世島ならば。

(……いつも通りやるか)

左手から力を注ぎ、浄化していく。
悪意そのものを『あるべきところへ還す』、消すでもなく壊すわけでもなく、還す。
それが寄月秋輝のやり方だ。

ゆっくり、優しく、東華があるべきところではないと教え、離れさせる。

羽切 東華 > 「まぁ、そうなんでしょうね…」

やや煮え切らない笑顔で誤魔化す。完全より不完全を旨とせよ。
これも祖母の教えだ。どうにも祖母にスパルタされたせいか考えが染み付いているらしい。

(まぁ、完治するならそれに越した事は無い、んだけど)

血筋ばかりはどうしようもない。別に異能でも魔術でもない、ただ受け継いだだけのもの。
故に、自分の血肉に等しいそれはどうしようもできない。

黙して治療の様子を眺める。右手を覆っていた黒いソレが紐が解けるように徐々に分解されていく。
その光を眺めつつ、やがて右手が元の形に―形、に。

「………。(これはどう解釈すればいいんだろうか)」

そう、汚染は順調に除去され、そして失われた右手の感覚が久しぶりに戻ってくるのを感じた。

が、汚染が除去された箇所に「何も無い」。そう、感覚はあるのに右手が「消えている」。

(幻肢痛…?いや、違う。確かに右手は汚染から解放されてる。なのに「見えない?」)

ともあれ、彼の治療は順調に進むだろう、程なくして大した異変も無く完了するはずだ。
――右手首から先が「透明になっている」事を除けば、だが。

寄月 秋輝 >  
「終了、と」

透明になった手首を見ながら、とりあえず満足したように刀を納める。
力を十分に借り、その刀に感謝をしながら。

そして改めて、その腕を見て、眉根を寄せる。

「……さて、どういう風に無くなったのか……
 痛みはありますか?」

綺麗に無くなった手首だ、聞いてみないといけない。
とはいえ痛みがあるわけではなさそうだ、そういう類の表情はしていない。

羽切 東華 > 「…えーと、俺の所感ですけど…まず、汚染で失っていた右手の感覚は戻ってます」

まずそこを彼に報告する。刀使いとしては手の感覚が無いのは或る意味で致命的。
それが解消されただけマシだろう。彼も感じていると思うが、もう汚染の気配はゼロだ。
で、そうなると問題なのがこの――…

「いや、痛みはないです。なので幻肢痛、とは違うかと思います」

一度試しに外していた黒い革手袋を嵌めてみる…と、ちゃんと右手の形に収まった。
どうやら透明になってる以外はほぼ元の右手と変わらないようだ。

「…多分、ですけど長時間汚染されてたんで浄化の反動で変質したのかもしれません」

とはいえ、悪い方向とは限らない。少し考えてからフと思い立ち。

「先輩、何かこう簡単な魔術を展開出来ませんか?俺の目の前に」

心当たりがあるのか、唐突にそんな事を彼に頼む。

寄月 秋輝 >  
「感覚はある、痛みも無い……
 問題なく手はそこにある。
 ……浄化の反動、でしょうかね……」

浄化術でこんな作用を起こしたという事態は、秋輝の頭の中にある限りでは存在しない。
となると祓った存在の問題か、彼の持つ体質の問題か。

「魔術を、ですか。
 構いませんよ」

ぴっと指先を立て、小さな魔術を展開する。
防御術を応用し、硬化させた魔力の玉。
それを赤い光で彩り、存在をわかりやすくしておく。
その玉をふわりと、東華の正面へ移動させた。

羽切 東華 > 「でも、想定してたよりは全然マシです。特に右手の感覚が戻ったのは正直助かりました」

これは同居している相棒に良い報告が出来る。この先輩には本当に感謝するしかない。
そして、彼に魔術を展開してもらったのは、心当たり、というか理由がある。

彼が小さく展開してくれた魔術…魔力の玉。普通はそれは素手では掴めない。
魔力で手を覆えば別だろうが…ともあれ、革手袋を外して透明の右手を伸ばす。

(俺の推測と予感が正しいなら――…)

透明の右手首から先。手の中に赤光で彩られた魔力の玉を――【掴んだ】。

「……あー成る程。寄月先輩。これ、後遺症というか浄化の反動…副作用かもしれません」

魔力の玉を透明な右手で弄びながら苦笑を浮かべる。

「一度汚染されてそれが浄化された。けど、俺の人外殺しの血筋は異物に反応する。
だから、副作用…いや、ある意味で進化、なんでしょうかねこれ。
異物…魔力とか触れられないモノに直に触れられる手になったのかと」

まぁ、右手首から先…元・汚染部分限定だが。汚染、先輩の浄化、そして己の体質。
いわばこの3つによる予想外の結果だ。術式や霊に直接干渉できる、触れられる手というべきか。

寄月 秋輝 >  
「剣士としても、手の感覚は重要ですからね」

ひとまずそこには同意しておく。

さて、この魔力の玉をどうするのか、と見ていて。
それを掴んだのを見て、もう一度小さく眉をひそめた。
確かに対衝撃的な作用もある魔術防壁の応用だが、ここまでしっかり掴まれるとは思わなかった。

「……ふむ、なかなか……これは……」

不思議な事態に遭遇した。
多くの特異体質持ちとも出会ったことがあるが、これはまた不思議だ。
それも異能とは別、体質の進化、という予測。

「……なんと言えばいいのやら……
 完治を越えたとも、状況が悪化したとも言える……」

こめかみを指先で抑えながら、ぽつりと呟いた。
これはどう評価していい結果なのか、非常に困る。

羽切 東華 > 「ええ、正直そこはまぁ…自分も剣士の端くれとして不安ではありました」

苦笑い。剣士として手の感覚が無いのは冗談でなく致命的なことの一つだ。
で、彼が眉を潜めるのも無理は無い。別に魔法を解除したとか強引に破った訳ではない。
ただ、日常動作の延長で【掴んだ】。つまり魔術を壊さずに干渉した、という事だ。

「まぁ、俺の体質がトリガーなのかもしれません。汚染もこの程度で済んでたんですし。
そして、先輩の浄化術式がそこに加わって…まぁ、化学反応みたいなのを起こしたのかと」

彼がこめかみを指先で抑えて呟く様子を眺め、取り合えず魔力の玉を手放す。
解除は彼がしてくれるだろうから、玉はそのままにするとして。

「まぁ、でも浄化そのものは完全に成功してる訳ですし。えーと、現状はここが落としどころかと。
問題があるとすれば、透明なままなんで手袋で誤魔化すのは続けないとですが」

誰だって右手首から先が無いままだとそれとなく注目するだろう。
だから、また黒い革手袋を嵌めておく。握ったり開いたり…うん、自由に動く。
そして、失っていたはずの触覚も戻っている。

(――体質の進化、一部だけとはいえ予想外過ぎる…先輩もだろうけど)

しかも、現時点ではプラスともマイナスとも言い切れない。
と、一つ思い出した事がある。

「先輩、取り合えず現時点では俺の治療はこの辺りでいいでしょう。
一応、俺の方で今後経過などを見て何かあれば直ぐに報告しますんで。
――あと、俺の友人にもう一人、汚染されてるぽい人物が居るんですが」

己のアパートの部屋のお隣さん。そこに済む友人だ。彼も汚染されていたはず。
この先輩なら気に掛けてくれるかもしれないし、対処してくれるかも。
だから、一応切り出しておく。

寄月 秋輝 >  
「……人外殺しの血、というのが僕にとっても初めての遭遇ですからね。
 何が起きてもおかしくはない、か」

東華の手から離れた魔力の玉が、少し過ぎて霧散する。
光の粒子がきらきらと舞い落ちた。

「そうですね……透明というのは厄介だ。
 簡単に色でも塗れればいいんですけどね。
 特殊メイク用の手袋でも付けてみますか?」

軽くそんな提案をしておく。
もちろん現実的な解決策とは言い難いが。

「ええ、僕で出来ることなら、いつでもどうぞ。
 手を出した責任もありますしね。
 ……しかしご友人、ですか……」

悩む。正直なところ、今ので自信が少し薄れたのだが。
しかしあの事件で漏れた存在のせいでの被害者なら、責任は自分にある。

「わかりました、紹介してください。
 その人も見てみましょう」

羽切 東華 > 「…ですよね。我ながら血筋云々はあまり普段は意識して無いんですけど」

だからこそ、異能や魔術と違って消す事も投げ出す事も出来ない。
けど、今回のこの結果で否応無く自覚する。この血筋は蔑ろには出来ない。

「あーいや、暫くはこの革手袋で通してみますよ。もしどうにも行かなくなったら先輩の案で」

恥ずかしい話だが、この右手だけ手袋の状態に慣れてしまっている。
なので、これはこれでもう違和感が無い。それに、触覚が戻ってるのは矢張り有り難い。

「あ、ハイ一度俺の方から彼に連絡してみます。えーと、寄月先輩の連絡先を一応教えておいていいでしょうか?
「滝川浩一」君っていう俺の隣の部屋に済んでる友人なんですが…。
以前学園であった妖怪もどきの騒動で、どうも彼もあの現場に居たみたいで」

そして、傷跡、というか黒いアザが脇腹辺りに出来ていた事を彼から聞いたと補足しておく。
アレはある意味で自分より厄介だろう。汚染が広がってる可能性もある。

寄月 秋輝 >  
「悪いものではないのでしょうけれどね。
 でもせっかくなら、綺麗に戻してほしいところです」

苦笑しながら呟いた。

「その手袋の方が見た目もいいんじゃないでしょうかね。
 僕はわざわざ特殊メイクのものに頼る必要はないと思いますよ」

そう告げておいた。
特殊メイクのものは、まさに不気味の谷という言葉がよく合う出来のものしかない。

「滝川……あぁ、彼ですか。
 構いませんよ、僕も知り合いですから、伝えておいてください。
 ……彼もあの場の被害者ですか……」

頭が痛い。
大規模討伐もそうだったが、結局こうなってしまった、という感じが否めない。
だがそうなれば、確実に治しておいてあげたいものだ。

羽切 東華 > 「それは流石に欲張りすぎですって。汚染は全部消えて感覚が戻っただけでも御の字です」

完璧に戻るならそれに越した事はない、が世の中何もかもがそうは行かないのが常。
ただ、一度こうして浄化して彼も経験は出来た訳だし、このノウハウを次に生かして貰えればいい。

「ですね、実はちょっとこの状態も愛着が沸いて来てまして」

笑って頷く。それに、手袋をしていればさっきみたいに変に干渉する事も無いだろう。
あくまで手袋を外して直に触れた場合だけの干渉だ。先ほどの結果を見た限りでは。

「あれ?先輩と面識あったんですか?ハイ、じゃあ明日にでも伝えておきます。
…えーと、多分結構な人数が居たのでは。確か俺と鈍がグラウンド、滝川君は…校内に居たとか言ってた気が」

あの場での関係者は意外と多い。つまり、巻き込まれた者や自ら関わった者はそれなりに居る訳だ。

「と、もういい時間ですね。先輩、今日はありがとうございました。鈍が心配してそうなので俺はそろそろ…」

と、言いつつお茶はしっかりと最後まで頂いてから立ち上がろう。
竹刀袋をよっこらと担ぎつつ。しかし、先輩には大きな借りが出来てしまった。

寄月 秋輝 >  
「……そうかもしれませんね。
 それで羽切さんが納得してくれているなら、僕もよしとしておきましょう」

何より当人の感覚が大事だ。
彼がそれで満足しているならば、それでいい。
自分の結果に対する不満は、次以降で挽回すればよいのだ。

「ええ、以前訓練場で少し。
 ……なるほど、あの中に居た彼らか……」

あそこに到達した時点で、色で誰かがどこかに居るのは把握していた。
校内にいて戦闘をしていた二人のうち、どちらかが彼だろう。
脱出した二人の話は、当人のうち片方から聞いた。
あの場に居た全員はこれでほぼ把握出来たようなものだ。

「いえ、それなりの結果が出せてよかったです。
 では気を付けて、鈍さんにもよろしく伝えておいてください」

そう告げて、急いで部屋の四隅の結界札を取り除く。
外へと漏れるものを防ぐ術式、これがあっては東華が帰れない。

あとは彼の準備を待ち、見送るだけだ。

羽切 東華 > 「ええ、俺はこれで十分です。強いて言うなら…治療してもらっておいて失礼な意見ですが…。
先輩はもう少し肩の力を抜くべきかと」

彼の思いを見抜いた訳ではない。ただ不満を挽回して結果につなげるならば。
油断や慢心とは違う、「心のゆとり」を持たなければ成功はしない。と思うのだ。

(付き合いが長い訳じゃないけど、寄月先輩一人で背負い込みそうな所がある気がするし)

とはいえ、自分のアドバイスじみたそれはお節介や余計なお世話かもしれないが。
そこは少年も自覚はしている。だが、この先輩も何処か危うい気がした。それは確かだ。

「……まぁ、あの状況は結構あちこち大変でしたからね。具体的に誰がどこで何をしてるか、は把握し辛かったでしょうし」

苦笑いを浮かべている。彼のような感知能力は少年には無い。
が、殆ど勘と感覚でこちらも人数は大まかに把握はしている。
とはいえ、10人近い人数があの現場に関わっていたのは確かだろうが。

「ハイ、鈍にも伝えておきます。あ、それと今更ですけどバイトの紹介ありがとうございました。
お陰で肉屋の看板娘?みたいになってますよアイツ」

と、笑ってそんな報告をしつつ。彼が四方のお札を剝がすのを確認してから玄関へと。
靴を履きながら改めて向き直り。

「それじゃあ俺はこれで。今日は本当にありがとうございました寄月先輩。
あと、滝川君の方は俺と違って体質云々が無いので汚染が進行してると思うんで…」

と、心配そうに。つまり自分と違って確実に彼を蝕んでいる筈だ。
そうなると、どんな影響が彼や周囲に起きるか分からない。
彼も自分で模索しているだろうが、手持ちのカードは多い方がいい。
この先輩ならジョーカーにも成り得るだろうから。彼には自己承諾となるが伝えておこう。

寄月 秋輝 >  
「これでもかなり力は抜いていますよ。
 ……よくそう言われますけれど」

何とも言えない表情でそう呟いた。
以前に比べれば、かなりゆとりを取り戻した方なのだ。
そのおかげか、とんでもない失敗や大敗北は、いまのところ起こしていない。

しかし、東華の思い、予想は正しいのだ。

「あぁいえ、面接に受かって、今頑張っているのは彼女の功績ですから、お気になさらず。
 ……意外な出世をしていますね。今度店に行こうかな」

ふっと小さく笑った。
彼女が順調ならば幸い、これで主の調子もよくなったのならば、きっとこれも嬉しいニュースになるのだろう。

「ええ、お大事に。今日は手の感触を楽しんでください。
 滝川さんにも、僕の連絡先と一緒に、焦らないように伝えておいてください。
 ……あと、この札を。万が一の時の応急手当用に、ということで。
 羽切さんも、何かあったときのために一つは持っておいてください」

最後に、渡し忘れていた悪霊や妖の活動を抑える札を十枚渡しておく。
先日の大規模討伐の折に作ったものの余りだが、役に立ってよかったと内心胸をなでおろした。

ひらりと手を振って、彼を見送る。
ひとまずの良好な結果に、安堵しながら。

羽切 東華 > 「…うーん、ならいいんですけど」

納得しきれない部分はある、が。それ以上は踏み込まない。
おそらく踏み込むべきなのは自分では無い。
ただ――後輩として、同じ剣士として。彼が危うさに潰されそうになれば「止める」。
その程度の義理と情と恩はある。人斬りの本性を持てど情味が無い訳ではなく。

「あはは、そうですね。ついでになんか肉とか買っていってやってくれると助かります」

と、こちらも軽く笑ったままそんな軽口を返して。しかし手の感触が戻ってよかった。色んな意味で。

「了解です。まぁ、滝川君は突っ走るタイプではないと思うんで平気だとは思うんですが。
…と、ありがとうございます。では有り難く。」

彼からお札を受け取る1枚は彼のいうとおり己で持っておこう。
残りは滝川少年に全部渡すのがベストだろう、と考えながら。

「じゃあ、改めて今日はこれで。お休みなさい。そして重ね重ねありがとうございました!」

と、律儀に頭を下げてから扉を開けて外へと。もう一度振り返って礼をしながら帰路に着くだろう。

ご案内:「寄月家」から羽切 東華さんが去りました。
ご案内:「寄月家」から寄月 秋輝さんが去りました。