2016/12/14 のログ
ご案内:「露天温泉」に東雲七生さんが現れました。
東雲七生 > ──またちょっと無理をした。
左肩から右わき腹に掛けて、ばっさりと切り傷を作った七生は、深く深く反省をしながら温泉に浸かっていた。
先日の『喧嘩』の末に痛めた首が完治してすぐに連日の様に転移荒野へと通い込み、現れる魑魅魍魎と戦って戦って、戦い抜いた結果。
ちょっとした気の緩みから手痛い一撃を受け、こうして湯治にあたっている。

「いや、緩んでた覚えは無いんだけどなー……うーん。」

何だったんだろう、あの怪物。
夜空を見上げながら、ぼんやりとさっきまで戦っていた相手を思い返す。

東雲七生 > 変な生き物だった。
いや、生き物と称して良いのかもわからない。
何せ全身が刃物で出来ていた。
毛の一本一本が、鋭利な刃で出来ていて、四肢にも牙もすべてが切れ味の鋭い刃物だった。
そんな異形の化け物が、突然姿を現して七生に襲い掛かったのだ。

「いきなりだもんな。びっくりしたわホント……」

あまりに突然のことだったので、反応が鈍ったところを袈裟懸けにバッサリと斬られて。
今も綺麗に痕になっている胸の傷を抱えたまま、どうにかこうにか相手の四肢を叩き折ってここまで逃げて来たのだった。
異能が異能で無ければ、死んでいたと思う。

東雲七生 > 「──情けない。」

ぽつりと呟きが漏れる。
このところ、ちぃっとも強くなっている気がしない。
挑んでは怪我をして、挑んでは怪我をして。
同じことの繰り返しで、怪我ばかり増やしてちっとも進んでる気がしない。

「……傷跡を残さない事ばかり上手くなっても仕方ないよなぁ。」

既に出血も納まった、胸の傷を指でなぞる。
痛痒は残るものの、多分明日の朝には蚯蚓腫れ程度になっている事だろう。
切り口が綺麗だったのも幸いしたのだろう。
しかし、そもそもこの傷が必要なものであったかどうかは、如何にも疑わしかった。

東雲七生 > ぼんやりとお湯の中に身を揺蕩えながら、湯気に煙る月を見上げる。
そこに理想を重ねて、何となく手を伸ばしてみても一向に掴める気も、届く気さえもしなくて。

「──強くなりたいなあ。」

夜空に手を伸ばしたまま、絞り出すように呟いた。
今、自分がどんな顔をしているのか。
少なくとも笑ってはいないな、と他人事の様に考えながら。

東雲七生 > どっかに浸かるだけで強くなれる温泉とか無いものか。
伸ばした手をそっとお湯の中に戻しながら、そんな事を考える。
まあそんなものがあったら苦労は無いし、何よりあったとしてきっと浸かりには来ないだろう。
楽して強くなっても、きっとつまんないだけだ。

「……待てよ。
 だとしたら、今とそんなに変わんねえな?」

結局のところ、満足しきるという事は無いのだろう。
何しろ理想が遠すぎる。ただの人間が、神性にどれほど近づけるというのか。
もしかしたら、まだ月に行く方が現実的かもしれない。

東雲七生 > 「ふわぁぁぁ……あー、眠い。」

欠伸と共に身を起こして、大きく伸びをする。
充分体力も回復したし、そろそろ帰らないと心配される頃だろう。
強くなりたい気持ちと、あまり心配を掛けたくない気持ちは相反するのは仕方ないのだけれど、出来れば両立させたいところだ。

「……もしかして、欲張りなのかな。」

そんなことを呟きながら、お湯から出て持参したタオルで水気を拭うと、
綺麗に切り裂かれた服を着直して足早に温泉を後にしたのだった。

ご案内:「露天温泉」から東雲七生さんが去りました。