2017/04/16 のログ
ご案内:「路地裏?」に楊柳一見さんが現れました。
楊柳一見 > 人工色の密林は無機質にして無人だった。
そこを通った事のある者が見れば、人気のなさだけが奇妙に映る。
見ただけならば。
その他の感覚を以てすれば、場の氣そのものが歪められているのが解るだろう。

「……奇門遁甲、かな? またご大層なお膳立てしてくれちゃって」

襟巻にくぐもる声が、異界の空気になおひずんで響く。
くつくつ笑えば、魔女か何かの嗤い声じみて。

――昨日の今日で、学んだ事を行動に移してみよう。
そう思い立って、この地に潜伏する結社の連中に、符牒を打ったのだ。
結果はこの通り。見事にもてなしてくれる気満々の様子。

「……ま、人払いにゃちょうどいいよねえ」

道教の流れを汲むこの魔陣は、魔術に通じた者か――
あるいは大層運の悪い者ぐらいしか、能動的に入り込む事は適わない。
まあ何だ。要するに、無礼講って訳だ――。

楊柳一見 > びょう、と頭上から感じた風圧に、ターンを踏む軽やかさで横合いへ遁れる。
自身より数センチの誤差を挟んで、虚空から降った朱総付の槍が三条。
地面へと続けざまに突き立つそれの来し方へ向け。

「ハイ、ざーんねん賞ッ」

身を翻した勢いを載せ、手刀をぶん薙いだ。
生み出した圧が真空を帯び、カマイタチとなって腐った色の虚空へ吸い込まれる。
数秒のラグの後、びしゃあと朱色が地面に散る。
空気のどよめきに、怨霊じみた苦悶の声が重なった。

「この前と言い、結構な人数つぎ込んでると思うんだけど。
 ダイジョーブ? 本部すっからかんなんじゃね?」

姿なき術者らを口先ばかりで案じる言葉を投げ、近場の壁を蹴って跳ぶ。
わずかの後、その壁から青龍刀が澄んだ音立てて刀身を突き出した。

楊柳一見 > 「うーん、アレだ。久々に顔…は合わせてないけど。
 アンタらほんっと会話する気ゼロだよね」

闇しか映さぬガラス窓から、割れもせずに放たれる矢。
それらを、腕を薙いで強化された風圧のみでいなしつつ、悪態を吐き続ける。

「……少しはツラ見せろよ。でもって恨み言吐かせろよ」

貴重な青春時代の大半を食い潰されたやるせなさ。
物理的にぶつけて――それで一つ、自分にとって満足が行く。満たされる。
この前、花見会場跡を賑わしてくれた野郎には拳を一つくれてやったが。
そんなものではまだまだ足りない。満たされない。

『裏切り者と語る舌はない』

男だか女だか分からん声が、おおんと呻いた。

「しゃべってんじゃん、今」

けたりと笑ってツッコんだ。瞬間。
足下に不意の隆起。
飛び退いた鼻先数ミリを、点鋼叉が雨後の筍よろしく伸び上がる。

「っぶねえ――」

その回避の足が地を踏まぬ内に、背後よりもう一閃。
ぶっとい鉄鞭ががら空きの背面を襲った。

「げあっ…!?」

隙を生じぬ二段構え、とか言うフレーズが、そんな場合でもないのに脳内にチラついた。
だからって痛みが誤魔化せる訳でもないんだけど。

「……ッ!」

地面に這いつくばったままでおられるはずもなく。
即座にその場から一転二転ごろんごろん。
その後を矢の根が追従して来る――。

楊柳一見 > 転がる速度が増して行く。
体幹を撓らせる動線はつむじを描き――即ち、一箇の旋風となる。

「――ァイッ!!」

裂帛。
わずかに半身をもたげれば、その旋風を纏ったままに跳ね起きる。
小竜巻と化した身が、狙い撃たれた矢玉を捉え、円の動きに載せ再射出。
お返しとばかり八方に乱れ撃った。
矢の吸い込まれた虚空で、また新たな朱が咲く。

『――《カミマイ》はどうした』

先刻の性別不詳声が訪ねた。
カミマイ――《紙舞》。
それはあの公園でドツいて、風紀の縄に預けたサラリーマンだ。
地面に降り立ち、ケ、と唾吐くジェスチャー。

「……奴なら死んだわよ。ざまあ見やがれ」

嘘だけど。
……そもそも知らんけど。
まあ多分生きてて今まさに拷も――もとい尋問されてるんだろうなあ。

「初めっから無理だったんだって。
 アタシら――《九品蓮台》なんて木っ端結社ごときが。
 この島から上前ハネようなんてさ」

この前の生きた兵器なんて、素面で対戦車ミサイルぶっ放したしなあ。
基本、火薬と魔術って相性最悪なんだ。どっちが弱いかって?
言わせんな情けなくなるから。我らがサイドながら。

ご案内:「路地裏?」にイチゴウさんが現れました。
楊柳一見 > 「まあ、そう言う訳なんで。
 身の程も弁えないアホとおんなじ舟乗って溺れる趣味ないから」

ひらひらと小馬鹿にしたように手を振る。
振る先に相手なんぞ見えやしないが。向こうにゃ見えてるだろう。

『だからこのまま逃げ遂せよう、とでも――?』

そうはさせじと、そこらの隘路から新たな影がわらわらと湧く。
それは数多の人影。けれどもそこに生気はない。
刀槍や弓で古めかしく武装したそれは兵隊と軍馬の陶俑。
数十騎に及ぶ兵馬俑であった――。
現界にいながらにして異界を顕現する、奇門遁甲ならではの豪儀な布陣だ。
しかし。だからこそ。

「――アンタ、アタシの事ナメてない?」

術を解けば、その陣は容易く崩れ去るのだ。
不敵な笑みを浮かべつつ、剣指を立てる。
その所作に勘付いたか、

『――射て! 殺せ!』

兵馬俑に――あるいはその操者に号令する。
即座に放たれる矢は横殴りの雨の如く、こちらに殺到する、が。

――やっぱナメてるわ。堕ちたモンだ。

ぶん、と地面へ向け振り下ろす剣指。
魔術行使の初弾――その動きに、異能の力を添える。
そう、お馴染みの風圧だ。
異能と魔術の合わせ技――と言っていいかは微妙だが――
――が見れるとは、ツイてるんじゃないかねこいつら。

「――げに元品の 無明を払ふ 大利剣――」

すとんと落とした指が、天から地に掛けて空間を裂く。
割れた虚空の向こうに、いつもと変わらぬ夜の景色が覘き見える。
異界が、壊乱の兆しを見せる――。

楊柳一見 > 『貴様、やめ――』

こっちが何するか分かったらしい抗議の声。
知った事かと、指を横にぶんと薙ぐ。
一閃した風の刃が、懲りずにこちらへ突き掛かろうとした陶俑の列を断首する。

「――莫邪が剣も 何ぞ如かむ――」

十文字に掻っ捌かれた虚空を中心に、辺りを烈震と轟音が包む。
自分のものであるはずもない、数名の男女の悲鳴がどこかに紛れている。
くつくつ笑いも消さぬまま、空いた両手を空間の亀裂へ突っ込んで――

「 破 れ 六 方 ! 」

喝破と同時。力任せに引き裂いた。
空を掻くそのフォームが顕した風を後方へ流し、推力と変えて。
鳴動し崩壊する異界を文字通り尻目にして、こちらは“表側”へ――。
ちょうど路地裏通ってる奴は、ちょっと驚くかもね。
何もないとこからスポンと女が出て来るんだから。

楊柳一見 > 帰還して、最初にやった事は。

「……う、ぇ――――」

脂汗ダラッダラになりながら壁に手ェついて、胃液垂れ流す事だった。
この術、負担掛かるから乱用出来ないんだ。
あと、ドツかれた背中もまだ痛いし。

「――……」

出すモン出してから、背後を顧みる。
なあんの変哲もない、乱雑な街並みのほんの一角。
そこにのたくる小汚い道の一つが横たわっているに過ぎない。
魔陣は解かれ、異界は消えた。
中にいた術者?
余波でぶち割れた陶片喰らってどこかに吐き出されてるんじゃない? 半死半生で。
んな事考えてたら、近場の廃ビルの屋上からけたたましい破壊音が聞こえた。

「……おー」

そっちを仰いで間の抜けた呻吟。
うん、お帰り。生きてるかは知らんが。

楊柳一見 > 生きてたら、殺す。
――ちょっと前までは、そうしただろうが。

「……風紀の人に感謝しときなよ」

止めた人の事がどうにも頭ン中をチラついて、その気が失せる。
多分、そうするべきじゃないんだろう。今は。

「……まあ、辞表代わりにはなる、かな」

見なくても何となしに分かる、術者連中の惨状にしばし思いを馳せて。
それを断ち切るように、くるりと踵を返す。

「今夜はおかゆさんにしよう。うん」

暢気な独り言だけぽそりと残し、学生街の方へふらあり消えて行く――。

ご案内:「路地裏?」から楊柳一見さんが去りました。