2017/08/07 のログ
クローデット > 「………。」

膝上に力なく乗せた手を、ぐっと握りしめる。
目を閉じて息を吐き出すと…「性格の悪い魔女」の不敵な笑みを貼り付けて、青年の方を見た。
今の相手ならば、話せば「理解」する。…ここで引いたら、いよいよ、「加害者」として、惨め極まりないことになってしまう。
クローデットは、狼狽えるそぶりを見せなかった。

「本質を歪めてしまって苦しむのでも…あたくしを憎んで「学園の敵」に堕ちるのも、どちらでも構わなかったのです。
異邦人(ヨソモノ)・異能者(バケモノ)は、ひいおばあ様の、「大切な人」の敵…苦しめるのも、憎まれるのも栄誉。
後者の方が、いつでも「処分」出来る大義名分になって、都合は良かったでしょうけれど」

「性格の悪い魔女」の笑顔のまま、クローデットはすっと目を細めた。

「………理解、出来まして?」

万全ではない体調の中、クローデットは精一杯の虚勢を張り、甘ったるい声を作ってみせた。

ヴィルヘルム > 「……………。」

貴女の言葉,その悪意は,青年の理解を少しだけ超えていた。
ジェンダーに関する部分と,それから,出自や異能に関する部分。
けれどそれは,驚くに値するものではなかった。
青年の表情を見れば,彼がそれを素直理解したのだと,すぐに分かるだろう。

青年は小さく頷いてから,柔らかく笑んだ。
まるで,無理をしないで,と言っているようでさえあった。

「……でも,どっちにもならなかった。
 僕は“マリア”になることは拒んでしまったし,クローデットを憎むこともできなかった。」

「……だって,僕は最初から,クローデットの事が気になって仕方ない“ヴィルヘルム”だったんだもの。
 “マリア”になれば,クローデットと一緒に居られたから,だから僕は“マリア”の仮面を被ってただけ。
 だから,心まで“マリア”になるつもりは無かったし,クローデットを憎むはずもなかった。」

ふふん、と少しだけ得意げな顔をする。

「性格の悪い魔女さんと,シュピリシルド家の魔女の戦いは……
 ……最初から,僕の勝ちだったみたいだね。」

ここに居るのは,被害者と加害者ではない。互いの思惑をぶつけ合った魔女と魔女に過ぎない。
ヴィルヘルムはそう言いたいのだろう。

クローデット > 「………最初、から………。」

青年の言葉を聞いて、クローデットは驚愕に目を見開いて、表情を失った。
無理をして作っていた「性格の悪い魔女」の表情を崩して、力なく笑う。

「…ずっと、「家」の「外」は敵ばかりだと、思って、生きて参りました。
悪意を読み取られずに、返されずに「外」で生きられるなんて…考えたことも、ありませんでした。
…最初から、”ヴィルヘルム”の存在を確信した上であの振る舞いをしていたあたくしを、それでも好意的に見るなんて…

………本当に、女性の趣味が心配になってしまいますわね」

そう言って、ソファに力なくもたれかかり、ぐったりする。

「………「負けるが勝ち」とは、よく言ったものです」

ぐったりしながらも、クローデットの浮かべる笑みは、良い意味で力が抜けているようだった。

ヴィルヘルム > 力の抜けた貴女に,青年は柔らかな笑顔を向ける。
女性の趣味が心配だ,なんて言われても,首を横に振り,

「ううん,クローデットは確かに性格が悪い魔女さんだったかもしれないけれど
 …本当は優しい人だって,分かったから。」

貴女にとっては罪の意識からの行動もあっただろうが,
青年からしてみれば,貴女の厚意や献身は,そう捉えるに十分すぎるものだった。

「…………。」

続ける言葉を,青年は少しだけ躊躇した。

「……隣,座ってもいいかな?」

クローデット > 「…「情がないわけではないけれど、振り向け先が限られているのだ」なんて、申し上げたこともございましたわね?」

呆れたように軽く肩をすくめながらも、くすくすと笑う。
厳密には違う言い回しかも知れないが、クローデットも一応人の子だ。流石に一言一句まで覚えていない。

「………ええ、どうぞ」

青年の申し出を、クローデットは断らなかった。

ヴィルヘルム > 青年は静かに,貴女の隣に腰を下ろした。
クローデットの事が気になって仕方が無い,なんて表現を使ったけれど,
実際には,もっと直接的に,女性としてのクローデットに惹かれていたのだ。
こうして“ヴィルヘルム”として隣に在ることは,まるで夢のようだった。

「……………っ…。」

この夢がいつまでも続けばいいと思う。
素直な青年で居る限り,それは決して叶わぬことではないかもしれない。
けれど,どうしても,その先を意識してしまう自分が居る。
ましてこのソファと貴女の服装は,つい最近,口づけを交わした時と同じだったから。

今度は青年が,貴女を見ることが出来なかった。

クローデット > 「………。」

クローデットはくったりとソファにもたれかかっているから、青年と隣同士で座っても、肩が触れ合ったりはしない。
…けれど、青年の様子が、おかしい。
クローデットは、ソファの背もたれに身体をもたせたまま、青年を斜に見ていたが…

「………もう寝心地の良い「ソファ」はございませんから、こちらで休んでいくことは出来ませんわね」

何でもない口調で…「優しい怪物」だった彼とだったら、まあまあ普通にしていたはずの話題を、青年の耳に放り込む。

ヴィルヘルム > 「……そう,だね。このソファじゃ,固くてつらいし……。」

そう当たり障りのない答えを返しつつも,青年の鼓動は早まっていた。
この場所で,優しい怪物の仮面を被り,貴女と共に夜を過ごしたこと,柔らかな貴女の感触や,香り,重さ。
その全てが……無防備な貴女のネグリジェ姿までもが,鮮明に思い出される。

「…………………。」

そして青年はまた,黙り込んでしまった。
こうして隣に並んでいることだけで幸せなのに,馬鹿なことを考えるな。
そんな風に自分に言い聞かせて。

クローデット > 「それもそうですし…わたしがこのソファを占領してしまったら、ヴィルヘルムには「固くてつらいソファ」すらなくなってしまいますわ」

自分がもたせかかっているソファの縁を、優しい手つきで撫でながら。
ソファの上で二人同時に寝る選択肢は、クローデットとしてはない、らしい。

「………。」

口を噤んで何やら煩悶しているらしい青年の様子を、やや呆れたような目つきでしばらく見ていた。
「この」ために「加害者・被害者」の関係の解消を試みたのだろうに、黙り込むのは何なのだろうか。

「………「被害者と加害者」の関係でなくなったとして………これから、どう致しましょうね?」

仕方ないので、クローデットの方から話を振ってやることにした。
口調はたおやかだし、青年を見る目は、弟を見る姉か何かのような、「上から目線」の優しさがあるのだけれど。

ヴィルヘルム > 「僕は,別に床でも構わないんだけれども……」

貴女はもう,酷く魘されるようなことはなかった。
だから無理をしてここで夜を過ごす必要は無いだろうとも思った。
青年としては残念なことだが。

そして,青年の内心を見透かしたかのように,貴女がこれからのことを尋ねて来る。
青年はそこでやっと顔を上げて…貴女を見た。

「……これから…。」

「僕は…こうやって,クローデットの隣に座っていられたら,すごく幸せなんだけれど…。
 けれど………。」

逆説の接続詞の,その先がなかなか出てこない。
それを言ってしまったら,この関係さえも壊れてしまうような,そんな気がしたから。

「……僕は,クローデットの事が好きだ。
 これまでもずっとそうだったけれど…その……好きっていうのは……。」

自分で自分の想いを客観視し,どうにかそれを説明しようとしているのが,貴女にも伝わるだろう。
耳の先や頬を紅色に染めて,青年は…続きを語る。

「…こんなこといったら嫌われるかも知れないけど,隠し事は,したくないから……。
 僕にとっては,クローデットが,どうしようもないくらい,魅力的なんだ……初めて会ったときから,ずっと…!」

4つも年下の青年は,性自認が強化されたとはいえ,まだまだ未熟だった。
だが未熟なりに,自分の感情をどうにか言葉にしようと努力したのだろう。
結果的に,これからのことを話すのではなく,単純に自分の想いを語るだけになってしまったが…。

クローデット > 「………。」

青年が、必死に想いを言葉にして…それを、クローデットは、身体を少しだけ起こして、真っすぐに見つめて聞いていたけれど…

「………ふふっ」

終わった後、まるで耐えられないかのようにクローデットは笑った。
その笑い方はおかしげだけれど…姉か、母かのような優しさが籠っている。

「服越しに伝わるほど、熱い身体でわたしを抱いて…口づけまでして、わたしがそういった気持ちに気がつかないとでもお思いでしたの?」

楽しげにそう言ってから、腰に下げたポシェットから小瓶を取り出して…中身の液体を一気に呷る。
それから深呼吸を一つすると…信じられないくらい、クローデットの顔色は改善した。
体調不良の原因を…足りなかった魔力を、補ったのだろう。
ヴィルヘルムに向けて、ほんの少し身体を前のめりにして…優しい笑みを口元に湛えて、ヴィルヘルムを見た。

「…あなたの気持ちの激しさを、理解しているというつもりはありませんけれど…少なくとも、あなたが抱くような気持ちがあることを、知っていて受け入れました。抱擁も、口づけも。

…不快に思っても、あの時だけならば我慢するつもりでおりましたけれど…少なくとも、不快ではございませんでした」

そして、笑みを深めた。

「…以前話した通り…「あたくし達」は、異能者の、異邦人の…それを受け入れる社会の、敵でした。
国に戻ってすぐ追い回されるようなことはありませんけれど…わたしには、既にそういう「色」がついているんです。

…きっと、こんな関係性を男性と築くことは…もう、二度とないでしょう」

そこまで言ってから、一度視線を落とし………それから、再度青年を見た。

「………今日は、わたしの家で…わたしの部屋で、一緒に休みますか?
普段は一人で使っておりますけれど…二人でも眠れるくらい、広いベッドですし。このソファよりは、間違いなく快適ですし」

満面の笑みで、とんでもない爆弾を放ってきた。

ヴィルヘルム > 貴女がおかしげに笑ってしまえば,真っ赤になった耳がより熱をもっていくのを感じる。
自分でも馬鹿な事を言っていると思うし……けれど,貴女は,全てを理解した上で,笑っていた。

「…………ほんとに,意地悪なんだから…。」

貴女の楽しげな言葉に,青年はそう呟くことしかできなかった。
けれど,不快感は全くない。むしろこの関係が,とても心地よかった。
僅かに身を乗り出すクローデットの瞳を,今度はちゃんと見ることが出来た。

「…不快じゃなかったっていうのは,すごく嬉しいんだけれど……。
 あんまりそうやって詳しく言われると,なんかこう,すごく,恥ずかしいっていうか……。」

もとい,最初の10秒だけはちゃんと見ることが出来た。

「…………………そんな,こと……。」

社会の敵であることは以前に聞いていた,しかしもう二度と,こんな関係性を築くことはない,と言われると青年は返答に困ってしまう。
それを嬉しく思っていいのか,そんなことないと否定すればいいのか,分からなかった。
……もっとも次の言葉で,そんな悩みなんてすぐに吹き飛ぶのだが。

「………え……?」

一瞬,完全に固まった。それから数秒の間の後に…

「クローデットが,許してくれるなら…
 …ベッドで寝るのも,すごく久しぶりで嬉しいし……いつだって,クローデットと,一緒に居たい,から。」

そう,控えめに答えた。耳の先までも真っ赤に染めて。
完全に貴女のペースに乗せられてしまった青年は,夢でも見ているのではないかとさえ思っていた。

優しい怪物として迎える孤独な夜は去り,ヴィルヘルムとして迎える初めての夜。
青年にとってそれは,忘れられない夜になることだろう。

クローデット > 「鈍感なふりをして怖がってみせる方が、よほど性格が悪いと思われませんか?」

多分…いや間違いなく、楽しげに笑っているのが良くない。
しかし…自らの意思で「加害者・被害者」の枠を完膚なきまでに壊しておいて、今更うじうじしている青年の方を、面白がるなという方が無理だろう。
寧ろ、イライラしない懐の広さを認めて欲しいところ…とまでは言わない程度の悪気はあるのも、なおさら良くないのだが。

「言葉にしないと、伝わらないと思われませんか?」

恥ずかしがって視線を逸らす青年の様子…恥じらいがいちいちおかしいらしく、くすくすと笑いながら。
二人の間の前向きさの差が伝わるよう、丁寧な表現にしたつもりだけれど…「不快ではなかった」で喜べる彼は、あまり気にしていないかも知れない。…それはそれで、ちょっと心配しなくもない。
それでも、投げられた爆弾発言に、予想通り固まる青年の様子に、してやったりと満面の笑みだった。

「…それでは、決まりですわね。
寝間着は、ヴィルヘルムに合ったものが用意出来ないのが申し訳ないのですけれど」

それから、クローデットは転移魔術で、青年を連れて帰宅する。

その後のことは…。

【続きは後日】

ご案内:「廃屋の一室」からヴィルヘルムさんが去りました。
ご案内:「廃屋の一室」からクローデットさんが去りました。
ご案内:「柊真白の私室」に柊 真白さんが現れました。
ご案内:「柊真白の私室」に飛鷹与一さんが現れました。
柊 真白 >  
(自室のソファに座ってじいと来客を待つ。
 灯りは付けていない。
 真っ暗な部屋で壁を見つめながら、ぼんやりと。)

飛鷹与一 > 今日はとある約束の為に訪れた。とはいえもう何度も通ったり泊まったりしてるけれど。
部屋の前に立てば、インターホンを一度押して来た事を告げる。
後は、勝手知ったる何とやら。合鍵を使ってガチャリ、と扉を開けてお邪魔しようか。

「どうも真白さん、お邪魔します。」

何故か、後ろ手にラッピングされた小袋を持ちながら靴を脱いで揃えてから彼女の部屋へと向かおう。

柊 真白 >  
(インターホンが鳴る。
 立ち上がり、電気を付けて玄関へ。)

いらっしゃい。
――なにそれ。

(袋を目ざとく見つけ、覗き込むように身体を傾けてから彼に問う。)

飛鷹与一 > 「どうもです。…え?ああ、これ…あまり大した物ではないですが。」

と、ラッピングされた小袋を差し出す。中身は軽いのか重みは然程無いのが分かるだろう。

「真白さんほら、5月に誕生日だったじゃないですか。あのケーキ騒動の時の。
で、誕生日プレゼント渡すの忘れてたので今更かと思いましたが用意してみました」

とはいえ、彼女は嵩張る物とかお洒落な物にあまり興味なさそうだから実用的なもの、と考えた結果…。

「…リボンにしました。髪の毛を纏めるのにいいですし、気分転換に髪型変えたりとかもありかな、と思いまして。
真白さん髪の毛長いですから無駄にはならないかな?とは思うんですけども…どうでしょう?」

中身は折り畳まれた水色のリボン。安物に見えてそれなりに高いのか材質は地味にしっかりとしたものだ。
一応、2本セットの奴を購入したから1本無くしても予備がある感じだ。

柊 真白 >  
君がいきなりケーキ切り分けて祝えなくしたあの。
――とりあえず、座ってて。

(わざとその時の状況を口に出す。
 包みを受け取り、とりあえずテーブルへ置いた。
 台所へ言って冷たい麦茶を二つグラスに注ぎ、戻ってくる。)

はいお茶。
――そう。
ありがとう。

(彼の前にそれを置き、包みを開く。
 中に入っていたリボンをひとつ取り出し、ひとしきり眺めてから礼を。)

飛鷹与一 > 「…いや、あの節は本当にすいませんでしたハイ」

冷静に考えてあの時の自分は失態続きだった気がする。思わず頭を下げつつの。

ともあれ、お言葉に甘えてソファーの一角に腰を下ろして一息。
やがて、一度部屋を辞した彼女が麦茶のグラスを二つ持って戻ってくる。

「あ、どうもありがとうございます。…一応、実用性ある方がいいかなぁ?と思いまして」

麦茶のグラスを片方受け取りつつ。…反応が薄い。いや、何時もの事か。
内心、これプレゼントのチョイス失敗してないよな!?と、焦っているのは内緒だ。

まぁ、今日の本題はプレゼントではなく彼女の言っていた生命力の肩代わりという内容なのだが。

柊 真白 >  
いいよ別に。
泣かされた事も気にしてない。

(だが蒸し返す。
 本気で言っているわけではないというのは、どことなく楽しそうな自身の顔を見ればわかるだろう。)

実用性があるかどうかはわからないけど。
大事に使う。

(自身にとって「装飾品」というだけで実用性のあるものとは言い難い。
 言い難いが、それが贈り物であるならば話は別だ。
 畳んで袋に戻し、棚の上に置いた。)

――それで、本題だけど。

飛鷹与一 > 「真白さん、ほんっっとに、俺を弄るの好きですよね!ストレス解消か何かですか!?それとも趣味!?」

前々から思ってたのでそろそろマジ突っ込みをしておきたい。した。
と、いうか彼女の些細な雰囲気や表情変化にも慣れてきたので分かる。絶対この師匠楽しんでるな、と。

「まぁ、ほら。髪の毛纏める目的だけでも多少は…」

実用性、矢張り調理器具とか珍しい調味料とかが良かっただろうか?今更だけど。
ともあれ、不評では無さそうなのでホッと一息。麦茶を一口飲んでから居住まいをやや正して。

「――ええ、生命力の肩代わりについて、具体的に説明をお願いします」

自身の生命力は実はもうかなり危うい。とはいえ、肩代わりは矢張り穏やかではない訳で。

柊 真白 >  
君がかわいいからつい。

(しれっと悪びれもせず。)

確かに纏めた方が捕まる可能性は低くなるけど。
私にとっては死角を増やす方が有益。

(彼が言いたいのは間違いなくそう言うことではないだろう。
 が、いまいちオシャレなどに興味の無い自身はそう言う反応になってしまうのだ。)

説明と言っても難しい話じゃない。
君が消費するあらゆる生命力を、私のそれで補う。
ただそれだけの話。

飛鷹与一 > 「………。」

あかん、この師匠サラリと悪びれもせずに言うからタチが悪いわ、という顔。
彼女に比べれば少年は考えがやや顔に出るので分かり易い。
そもそも可愛いってそれ褒め言葉になってるんだろうか!?と大いに抗議したいが我慢だ。
多分抗議しても倍返しされるのがオチだ、という確信にも似た思いがある。

「…つまり、暗器…投げナイフとかそういうのを隠すのに適してる、とか?
真白さんの場合、髪の毛の色とか長さからしてワイヤーを仕込んでるとか…」

と、考えてハッ!?とする。違う、本題はこっちじゃない。
さて、彼女の答えは至極簡潔なものだった。一瞬黙りこくってから右手を緩く挙げる。

「師匠、つまりそれは俺の寿命も補うという事でしょうか?一応数十年分はもう削れてるぽいんですが」

例えば、基本人間が80年程度生きるとして。少年はもう4分の3…つまり60年分くらいの寿命を異能の副作用で削っている。
生まれてから17年間の間にそれだけ死の危険性と隣り合わせだった不運もあるが。

柊 真白 >  
何か、問題?

(首を傾げてみせる。
 問題しかないだろうと言うのはわかった上での発言である。)

そう言うのもあるけど、私はそれはスカートの中。
そうじゃなくて、広がるものが多ければ、それだけ相手から見えにくくなるところも多くなる。

(身を沈めながら山なりの軌道でナイフを投げる、という時など、長い髪が広がればそれだけナイフの軌道を隠せる。
 隠せると言うことは、わかっている相手に対し、選択肢を増やせると言うことでもあるのだ。)

寿命、とは違う。
あくまで生きる上で消費する生命力を私が肩代わりする。
だから私が死ぬまで君は死ねない。
大丈夫、これでも人間より生命力は強いから。

飛鷹与一 > 「………いえ」

問題大有りだよロリ師匠!!と、心の中で思い切りツッコミ入れたが。
ともあれ、そこは気を取り直しつつ彼女の暗器の使い方、ポイントについて真面目に頷いている。
自身の場合、暗器ではなく魔術によるトリッキーな不意打ちという感じになるが。

「……死なないではなく「死ねない」、ですか。それって何か契約ぽいものでもするんですか?」

そして、こういうのは等価交換、かは分からないが代償、支払いがあるのが世の常。
親しき仲にも礼儀あり。ただで肩代わりして貰えるとは思っていない。
では、その場合こちらが支払う代償は何だろう?と。

柊 真白 >  
じゃあいいじゃない。

(何も問題は無い、と言う顔。
 ともあれ、今大事なのはそこじゃない。)

私がそう言う意図を持って君へ血を飲ませる。
生命力を肩代わりする代償――と言うか見返りは、特に無い、んだけど。
あえて言うなら「一緒に居ること」かもしれない。

(なんとも煮え切らない語り口。)

飛鷹与一 > 「…あぁ、もうハイそれでいいですよチクショウが」

あ、いけないやや素の口調になってしまった。実は本来ちょっぴり少年は口が悪い。
ともあれ、大事なのはそこではないのでそれはそれ、これはこれ。

「…代償、見返りが無い?それはそれでおかしくないですか?」

敢えて言うなら、というのも気になる。一緒に居る事…今も割とちょくちょく一緒にいるけれども。

何処か煮え切らない不自然さを感じたのか、ジーーーッと無言で眺める。
いざとなったら、不完全だが天眼の異能を使ってでも彼女の煮え切らない語り口の真意を探るつもりだ。

柊 真白 >  
――。

(無言。
 しかしそれは何か隠し事をしている、と言うものではなく、伝えるべきことをどう伝えるかと迷っているような雰囲気。
 それでもやがて決心したように彼の顔を見て。)

――私たちの種族、かどうかはわからないけれど。
少なくとも私の一族は変わった風習があって。
結婚をするときに、お互いの指を少し切って、お互いの血を少し吸う、そう言う儀式がある。

(なぜだか自身の一族の結婚観の話をしだした。)

それで、同種同士だと特に何も効果は無いんだけど。
人間に対してすると、そう言うことが起きて。
多分、人と私たちは生きる年数が違うから、って言うことなんだと思う。
――だから、契約って言うより、ある意味契約ではあるんだけど。

(つまりはそう言うことである。)

飛鷹与一 > 「………ハァ……………はぁっ!?」

一度生返事で彼女の説明を聞いていた。あれ?何で結婚云々とか彼女の一族の風習の話が?と、思った矢先。
彼女が最後まで説明すれば理解が及んだらしく、先の二回目のはぁっ!?である。

よし、落ち着け落ち着け。冷静に考えよう。つまりそういう事なのだろう。落ち着けるかコンチクショウ!!
と、だいぶ混乱してるようで一先ずグラスに残っていた麦茶を一気に飲み干す。
ダンッ!と、空になったグラスをテーブルに置いてからちょっとクールダウン、もとい頭を冷やして動揺を鎮めようとする。

「……つまり、婚約の儀って事ですか。…え、マジで?」

吸血種って何かすげぇ、と動揺のあまり変なところで感心してしまう少年。ちょっと冷静になるのは難しい。

柊 真白 >  
マジで。

(マジ顔で頷く。
 正直「死にたくなければ結婚しろ」ということなので、彼が動揺するのもなんら不思議ではない。)

私が死ぬまで死なないとかなんとかより、ある意味そう言う意味の方がデメリットではあると思う。
――でも、それは私の一族の風習の話であって、別に結婚するとかどうとかは考えなくても良い。
結婚して子供をなさないと祟りが起きるって言う話なわけでもないし。

(だから単純に契約すれば寿命が延びる程度に考えれば良い、と。
 自身もグラスに手を伸ばし、一口飲む。)

飛鷹与一 > 「……あぁ、うん。ある意味で凄い代償というか交換条件じみてはいますね」

冷静を装って答えるが、何か落ち着きが無い。そりゃそうだろう。
代償は覚悟していたが内容が斜め上だったのだから。むしろ何だこの展開。死神が後ろで爆笑してそうだ。

「…取り合えず、えーと結婚云々は置いておきましょう。正直そこまであれこれ気が回りませんし。と、いうか予想外すぎてハイ」

むしろ、結婚どころか子供作らないと云々だったら少年は多分気絶してたかもしれない。
自身の異能の「死神」がそもそも元凶なのだがそれはそれだ。

「……とはいえ、俺もまぁ浅ましいですが死にたくはないですしね。
このままだと20歳頃…あと3,4年の命なのはほとんど確定してるようなもんですし。
……分かりました。その契約に乗ります」

契約そのものには了承を。結婚とか子作り云々は流石にちょっと頭が追い付かないが。

柊 真白 >  
――君は。
君は、それでいいの。

(あまりにもあっさりと決めた彼に対して、思わず聞いてしまった。
 結婚云々は置いておくと言ったのは自分だし、彼が死にたくないと思うのもわかるのだけれど。)

死なない――死ねないって言うのは、多分君が思っている以上に重い。
私は多分何もしなければあと千年近くは生きると思う。
契約すれば、人の寿命よりも長く生きることになるよ。

(単純に二人分の生命力として半分で割っても五百年弱。
 彼の異能で目減りしたとしても、恐らく二、三百年。)

その時間を生きる覚悟は。
君にあるの?

飛鷹与一 > 「いいも何も――潔くあと2,3年で死ぬなんてカッコつけるより俺は少しでも長く生きたいです。
寿命で死ぬのはいい。けど異能で理不尽に削られて早死には真っ平御免です。」

利己的な理由だとは思うが本心だ。自分は悟りを開いた聖人君子ではない。
せめて人並みに生きたいのだ。そう思うことの何が悪い、と。

そして、彼女の続く問い掛けは静かで重い。少なくとも人並みの寿命以上に生きる。
契約による擬似的とはいえ少年自身が長命の異種族の仲間入りになるのだ。
ただの人間の精神では磨耗するだろうし、長く生きる事はいい事ばかりではない。
少年も、そこは勿論承知しているし目を逸らしている訳ではない。

「…えぇ、こんな異能を持ったからかその辺りの覚悟はもうとっくに完了済みといいますか」

気負わず、強がらず、虚勢を張らず。ただ微笑んでそう答えようか。

柊 真白 >  
わかった。
じゃあ、死にたくなったら、その時は言って。

(そう言って立ち上がる。
 箪笥の中から小さなナイフを取り出し、自身の左手の人差し指の先を少し切った。
 赤い液体の玉が乗ったその人差し指を、)

はい。

(彼の方へ突き出した。)

飛鷹与一 > 「その時は師匠にざっくりされる訳ですか…」

師匠に殺される弟子の図になるのは嫌だなぁ、と苦笑を浮かべつつ。
取り合えず、彼女が箪笥から取り出したナイフで左手の人差し指を切るのを眺める。
流石に、ちょっと抵抗はあるが男は度胸。覚悟も少年なりに決めている。

「では、失礼しまして……ん」

彼女の人差し指に唇を寄せ、その赤い玉雫をペロリと舐め取った。

「…と、じゃあ次は俺の番でしょうか?」

契約なのだから彼女にも自分の血を一応は摂取して貰わなければならないだろう。
あぁ、うん彼女の一族の「風習」については今はもう考えない事にする。

柊 真白 >  
言ったはず。
それじゃ死なない。

(いくら契約相手でも殺せるようになるわけではない。
 死にたいのなら、方法はひとつだ。)

ん――。

(指を舐められて、少しだけ声が漏れる。
 彼の唾液と自身の血に塗れた指を僅かな時間だけ見つめ、机の上のティッシュをとって傷口に押し当てる。)

――――え?

(が、次の彼の言葉に思わずそのティッシュを落としてしまった。
 別に彼の血を摂る必要は無いし、むしろ既に契約は完了して、彼は条件付の不死となってしまっている。
 もうこれ以上なにもする必要は無く、なのに彼がそんなことを口にしたので、彼の方をぽかんと見ながらがっちり固まってしまった。)

飛鷹与一 > 「…あ、そういえばそうですね。まだちょっと動揺が…」

苦笑い。そう死にたいのならば――。
ともあれ、彼女が傷口にティッシュを押し当てるの眺めていたがこちらの言葉に唖然としていた。
あ、ティッシュが落ちたとか暢気に思いつつ。珍しい顔が見れたなぁ、と。

「いや、風習云々は兎も角としてその方が契約をガッチリ固定出来るかなと」

と、いう訳でポカンとしてる彼女からささっとナイフを取り上げる早業。
軽くこちらも左手の人差し指を切って血の雫を浮かべる。

「ハイ、じゃあどうぞ」

と差し出す。師匠を珍しく翻弄する弟子の図。

柊 真白 >  
(固まっている間にナイフを奪われ、あっという間に赤い玉が浮かんだ人差し指を差し出された。
 呆然とそれを見つめ、彼の顔を見、もう一度人差し指を見る。)

――よいちくん。
きみは、でりかしーがあるのかないのか、どっち。

(呆然としながら、かろうじてその言葉を搾り出す。
 そんなことしなくても契約はガッチリ固定されているし、する必要も無い。
 と言うかさっきの説明を聞いたうえでその行動をしてくる。
 それの意味するところがわからないわけではないはずだ。
 素直に従うわけにもいかず、ただ彼の顔を指を交互に見る。)

飛鷹与一 > 「真白さんには無くてもいいかなぁ、と最近悟り始めたといいますか」

と、言いつつ結局は指は引っ込めるのだけれど。血はまぁこちらもティッシュを当てておこう。
ともあれ、これで一応契約は完了している訳だ。特に体の変化などは無い。ただ…。

「…少しからだが軽くなった気が。じわじわと生命力がこちらに流れ込んでるんでしょうかね」

流れ込むそれを巧くは感じ取れないが、少なくともここ最近の体調不良は解消されるだろう。

柊 真白 >  
与一くん。
わかった上でそうすると言う行為は、つまり私に対して結婚を申し込んでいるということで――あ。

(とかなんとか言ってるうちに指が引っ込められた。
 ちょっとだけ残念そうな顔。)

――とにかく。
不死といっても傷が早く直ったりとか、痛みが消えたりするわけじゃない。
むしろ致命傷を負っても無理矢理生かされ続けることになるから気をつけて。
君の場合はその点問題ないとは思うけど、腕とか足とかが千切れても勝手にくっつくわけじゃないから。

(一応「自分の身体だったものをくっつける力」は、普通の人間より多少強くはなっているが、それも断面をくっつけてしばらく固定している場合に限られる。
 怪我もするし血も流すが死なない、というだけのものだ。
 救急箱から絆創膏を取り出して、彼の指に巻きつつ注意事項を口にする。)

飛鷹与一 > 「――と、言いつつちょっとだけ残念そうな真白さんも真白さんかと」

まぁ、ともあれ契約は既に済んでいるのだ。条件付きの不死…とはいえ。

「分かってます、あくまで異能の副作用で死なないだけ、と思っておくに越した事は無いので。
それに生き地獄を味わうつもりもないですよ」

そうそう都合のいいことは怒らない。無理やり生かされ続ける拷問じみたそれにならぬよう努めるしかない。
指に彼女の手で絆創膏を巻いて貰う。あくまで異能の反動で死なないだけ。そう思っておくのが無難だ。

「まぁ、これで十分です。異能の反作用で寿命を削られっぱなしよりは絶対マシですから」

改めて、というか師匠に頭を下げておく。しかし、半ば人間やめた感じだが良くも悪くもそこに変化は無く。