2015/06/16 のログ
■クローデット > 「あら、見知らぬだなんて冷たい」
正規の手続きで編入しましたのに…と、羽根扇子を広げて顔の下半分を隠すが、扇子の上から覗く瞳は極めて楽しげだ。
「禁書を扱う能力でしたら、所属していた機関での実績をサマリーにまとめて参りましたわ」
ご確認下さいませ、と、A43枚のレポートを取り出す。
そこには、
・異世界の異形を召喚する魔術が術者の精神を蝕む原理についての研究
・攻撃の無効化を可能とする強力な障壁魔法を封入した魔道具の量産
・異世界の門が開く前に警告出来るシステム開発に向けてのデータ整理
など、様々な魔術探究についての報告が簡潔にまとめられていた。
更に、
「貸し出しではなく閲覧許可ですので期限の申告は不要かと思いましたが…差し支えなければ、こちらで記入させていただいても?」
と、禁書庫入室許可申請書を見せる。
そこには
「Claudette Renan」
という典雅な書体の署名と、
「魔術により、意図的に異世界との門を開く方法論についての詳細な調査」
という調査目的が記されていた。
■クローデット > ご丁寧に、閲覧したい禁書の書名まできっちり数冊記入されている。
どれも
「その魔術理論書に書かれている内容が実践されれば世界を危険にさらしかねないため」
という理由で禁書扱いにされている理論書で、魔術媒体になる種類のものではない。
そこに書かれている難解な理論を理解出来なければ、押し花の重しにでもなるしかないような代物ばかりだった。
■獅南蒼二 > レポートを受け取れば、それにざっと目を通した。
驚くような斬新さは無いが、この島での研究と比べても実に先進的な研究だ。
特にこの島や日本では、異世界についての研究は遅れている。
「十分に分かった……名前は…クローデット、ルナン…か。」
署名を見れば、肩を竦めて笑った。
疑念が確信に変わる。煙草を取り出せば、それに火をつける。
「4冊は図書館の禁書庫に、2冊はそこの棚に。
残念だが、最後の1冊は欠品中だ……貸し出していてね。」
常識的に考えれば、禁書を持ち出して研究室に置いたり、貸し出したりなど言語道断だろう。
だが、彼にとっての優先順位は全く別のところにある。
彼女にそうとだけ情報を与えれば、静かに煙草を吹かし始めた。
「………アルベールの奴は、相変わらず冷遇されているのかね?」
なんて、聞きながら。
■クローデット > 「ありがとうございます…許可を頂けただけでもあり難く思いますわ」
欠品の報に落ち込んだ様子も無く、花の綻ぶような笑みを崩さない。
………が、「アルベール」の名を聞けば、一瞬だけ顔が強張り…そして、その笑みから柔らかさが消える。
笑みが消えたわけではない。その笑みが、傲岸な冷たさを湛えただけだ。
「…本人が選んだ道ですわ。籍を置く事を許しているだけ、十分に寛大です」
クローデットが、「ただの魔術に堪能なご令嬢」の仮面を自らはぎ取ったのだ。
■獅南蒼二 > 「あぁ、相変わらずのようで安心した。」
僅かに目を細めながら、楽しげに笑う。
クローデットという生徒と、獅南という教師の会話はここまでだ。
とは言え、もとより獅南は仮面など被っておらず、素の表情のまま、教師をしているのだが。
「安心したまえ、この部屋での会話は誰にも聞かれん。
……で、アンタほどの女が、こんな辺境の島に、何をしに来たんだね?」
■クローデット > 「血縁の縛りさえなければ、一番抜けたいと思っているのは本人だと思いますわ」
あの「裏切り者」、と吐き捨てる声には、上品な振る舞いでも誤魔化しきれないほどの軽蔑が籠められていた。
「あれだけ強固に魔術的な防御が敷かれておりますもの、その点は心配しておりませんわ。
…ただ、不肖の父の話でしたから、あなたの人となりを確かめずにはおりませんでしたの」
無礼はお詫び致しますわ、と、軽く礼をしながら。
「………魔術の探究と言うのも、嘘ではありませんのよ?
この島には、なかなか余所では見られない魔導書が豊富にあるのは事実ですから」
「目的」については、ぼかした。
ただ、その瞳は傲岸な色を隠さない。
■獅南蒼二 > 「酷い言い草だな…まぁ、あれはあれで好き勝手にやっているのだろうさ。」
楽しげに笑うこの男は、その“裏切り者”ともそれなりに親しい。
それを、クローデットが知っているかどうかは、定かではないが。
「だが、大人しく学生の真似事をしていられるようなアンタでもないだろう?
アンタの実力は知っているが、くれぐれも早まった行動は慎むことだ。
………フランス人はどうも、頭が固すぎるきらいがあるからな?」
話が分かるのは、アルベールくらいのものだ。なんて、苦笑する。
■クローデット > 「好き勝手すぎて、お母様も困らせておりますのよ」
笑い事ではありませんわ、と真面目に憤る姿は、そこだけ見れば
「父と母の仲を心配する娘」
に見えなくもない。そこ「だけ」見れば。
慎むよう釘を刺す相手には、
「………そうですわね、『掃除』には少々興味がありますけれど、今はその程度ですわ」
いきなり大事が出来ると思うほど自惚れてもおりません、と、冷淡に言い放った。
■獅南蒼二 > 「傍から見ている分には、だいぶ面白い。」
ククク、と、意地悪な笑みを浮かべながらそうとだけ言い、吸い殻を灰皿に押し付ける。
それから、クローデットの言葉に小さくため息を吐いて…
「…“掃除”か、潔癖症かどうか知らんがフランス人らしい。
だが私は、“掃除”そのものよりも、その後のことを考えている。」
手元の魔術所を、ぺらぺらとめくり…
「…アンタも私も、1人だけでは、多勢に無勢だ、何もできん。」
■クローデット > 「…家族との軋轢が存在しないのでしたら、羨ましい限りですが」
その口調には、たっぷりと毒が含まれている。
『家族との縁もないなどと、虚しい事この上ありませんわね』
くらいの言外の意図は籠められているかもしれない。
…そして、「1人」という言葉に、口を妖しく三日月型に歪めた。
「………あら、誰が「1人で」やるなどと申しまして?
最終的な目的は違えど、『掃除仲間』には困りませんでしょう?」
(…そう)
(…最終的には、全員殺し合って頂かないと)
「人形」には似つかわしくない悪意を込めて、女は笑った。
■獅南蒼二 > 「そうだな、死人との軋轢など、存在しようが無い。」
クローデットの言葉に対し、事も無げに、そうとだけ答えた。
この男の家族構成に関しては、恐らく、クローデットの知るところではあるまい。
同様にして、クローデットには何の価値も無い話であるはずだ。
だからこそ、この男もそれ以上言葉を続けるつもりは無い。
「ほぉ、フランス人にしては頭が回る。
必要なら、公安委員会の知り合いにでも紹介状を書いてやろう。
……面白いショーを見せてくれるんだろうから、な?」
数年来、この学園に勤務している…生徒の構成も、異能者の割合も知っている。
だからこそ、この女の目論見が成功するなどと、微塵も思ってはいない。
だが、やらせる価値はある。
そして、この女がしくじったところで、この獅南蒼二には何ら実害は無い。
■クローデット > 「…あら、これはとんだ失礼を…お許し下さいませ」
慇懃にそう言って、深く、深く礼をとる。
内心でどう思っているかは…先ほどの「毒」に感づければ一発だろうが。
「公安委員会?おあつらえ向きですわね…
さぞかし、「裏」を敵に回しているのでしょう?
お願い出来れば、非常に有難いのですが」
口元に、久々に柔らかい笑みを零す。
…が、それはこの女の内心が朗らかである事を意味しない。
(…この男、つくづく高みの見物のつもりでいますわね…暢気だこと)
「………ところで、あなたはどのような目的で『ここ』に勤めていらっしゃいますの?
あたくしは、お話しさせて頂きましたけれど」
表面上は柔らかい笑みのまま…そう、返す。
■獅南蒼二 > 「そう身構えなくても構わん…必要なら、その禁書も貸してやろう。
やり方は違うが、目的はそう変わらんのだろうから…な。」
楽しげな笑みを浮かべたままに、男は指先を動かす。
すると、本棚から先ほどクローデットが指定した禁書2冊がふわりと浮きあがり、机の上に静かに降りた。
一方の男は、表情でも心でも笑っているという点で。女とは異なっていた。
女の内心を読み取ったわけではあるまいが、暢気に煙草を取り出して…
「……私か?私はご覧のとおりの研究者で、教師だ。
アンタのような“英雄”が“掃除”をした後に、世界を作り直すための人材を育てている。」
魔術学を極め、広め、凡人を異能者に対抗できる魔術師へと育て上げる。
それこそが彼の目的である。
■クローデット > 禁書が机の上に置かれれば、瞳の悪意の色は失せ。
「…有難く、拝見致しますわ。
…残りの4冊の閲覧許可は必要かと思いますので、書類を訂正してまたこちらに伺ってもよろしいかしら?」
恭しく、禁書を手に取る。
…が、相手の思惑を聞けば
「………なるほど。適材適所、というところですか。
表向きとはいえ公開の講義で異能者(バケモノ)と人間を同列に扱う、教室では異能が無いとはいえ人間と異世界人(ヨソモノ)を同列に扱うなど…あたくしには、想像を絶する苦行ですもの」
と、再び悪意が滲みだす事だろう。
■獅南蒼二 > クローデットの言葉に、ため息を吐いた。
「フランス人は、どうしてこう頭が固いかねぇ…。」
半ば呆れたように、半ば諦めたように、苦笑する。
閲覧許可の件に関しては、何の問題も無く了承したが…
…3本目の煙草を灰皿へ投げれば、視線をクローデットへ向ける。
「1つだけ忠告しておこう。
私は教師であり、お前は優秀な魔術師だが、この学園では一介の生徒に過ぎん。
私の生徒に手を出せば……どうなるか、分かっているな?」
相変わらず、この男は楽しげに笑う。
まるで、クローデットにも、“異能者とともにある”ことを強要するかのごとく。
■クローデット > 「フランス人だから、という事も無いかと思いますが。
あたくし達と交流のある『同胞』は「異能が無ければ」というほどお気楽ではありませんでしたわ」
憮然として言い放つ。
世界の混乱前に人権思想が公に浸透していた欧州であればこそ、彼女「達」が所属する組織の欧州各地の支部は、その反動で排他思想が強い者が多い。
無論、クローデットの「不肖の父」のように、例外はあるのだが。
「それならば、あなたが関わる生徒の皆様にご忠告頂けます?
『出入りするだけで犯罪になるような場所に近寄るな』と」
『意図的に狙う事はしないが、巻き込まれたら知らない』というつもりのようだった。
不敵に、どこか挑戦的に笑む。
■獅南蒼二 > クローデットの言葉に小さく頷いた。
今に始まったことではない…やがて、この女は騒動を巻き起こすだろう。
「……なるほど、棲み分けは必要だろうな。
分かった、お前の言う通りにしておこう。」
男はもう、それ以上何も言わなかった。
クローデットがしようとしていることを止めることもなく、手を貸すでもない。
ただ、彼女の通ろうとしている道を開けて、前進を促す。
その道が、何処へつながる道なのか、それを、理解しながら。
■クローデット > 「………ご理解、感謝致しますわ」
恭しく礼はするが、その声色はどこか硬質だ。
「それでは…また、魔導書の件でご相談に伺いますので」
そして禁書を2冊細い身体に抱えると、もう一度お辞儀をしてから、部屋を後にした。
ご案内:「魔術学部棟・第三研究室」からクローデットさんが去りました。
■獅南蒼二 > 「………………。」
扉が閉じられれば、小さくため息を吐いて、そちらを見た。
有能な魔術師なのは知っている…だからこそ、心配も尽きない。
とは言え、出来ることなど何もありはしない。
時計を見れば、授業の時間になろうとしていた。
ご案内:「魔術学部棟・第三研究室」から獅南蒼二さんが去りました。
ご案内:「Howling of the underdog」に犬飼 命さんが現れました。
ご案内:「Howling of the underdog」に翔さんが現れました。
■犬飼 命 > 風紀委員の制服を羽織った犬飼がそこに居た。
活動停止処分はいつの間にか終了していたようだ。
ビニール袋から猫缶を取り出して野良猫に餌をやっていた。
「んだてめぇ……俺になんか用か?」
男の気配に気がつくと振り返り立ち上がる。
■翔 > 月も、星も、何も浮かばない夜
今にも降り出しそうな空の下
一樺と話して、雨がふる前に帰れりゃいいと思ってたんだがな
どうやら、帰れそうにねーな
見覚えのある、首輪
しゃがみこんででもわかる、その身長と特徴は
間違い用もなく、アイツだった
「用、ね
ないっちゃねーが、あるっちゃあるな
よぅ、バカ犬」
空き地の真ん中に立って、そいつが立ち上がるのを見る
■犬飼 命 > 「あるのかないのかどっちかはっきりしたらどうだあぁ?
不躾にそんな態度とは喧嘩売ってんのかぁ!?」
明らかにキレている。
いきなり失礼なことを言われたら誰だって不機嫌になる……が。
それ以上に犬という単語にキレていた。
「てめぇこそ……尻尾振ってなくていいのかえぇ? 忠犬さんよぉ!」
思い出した、あの時ヴィクトリアの近くで尻尾を降っていたやつだと。
近づくなり凶犬の顔で睨み下ろす。
■翔 > 「気に食わねーなら言ってやるよ
あるぜ、理由」
口の端が自然と上がるのが自分でも自覚出来る
まるで何も変わってねーように見えんだが、どうだよ、狂犬
明らかな挑発の言葉に鼻で笑って返し
「てめーこそ、家に帰って拾った猫の毛づくろいしなくていいのかよ、狂犬っ!」
引きづられるように、犬歯をむき出しにして、両手をポケットに入れたまま額を付き合わせるように睨みかかる
「ほら、どうした?
こんな打ちやすいところに顔があるんだ、噛み付かなくていいのかよ?」
右手をポケットから出して、自分の額をトントンと叩いてやる
ほら、打ち込んでこい、狂犬
テメーが変わったか教えてみろよ
■犬飼 命 > 「は……?」
急に冷めた。
いや違う、冷めたというよりは至極当たり前のようなカウンターが飛んできたことに呆気を取られた。
そんなことか、そんなことで……。
「ハッ……ハッハッハッハッ!
ヒーッハッハッハッハッハッハッ!
嫉妬かよてめぇ!
アッハッハッハッ!」
本当に笑ってしまう、嫉妬で喧嘩を売られるなんて、
嫉妬されている自分に笑ってしまう。
なんだってんだ、どこが凶犬だ。
発情期の野犬見てぇじゃねぇかと。
「ハッハッハッ……。
ったくてめぇ……売り方が下手なんだよ。
俺が本当の喧嘩の売り方教えてやるよ」
『門』が開く、東郷と戦った時と同じだ。
荒木の横顔に開いた『門』から拳が飛んでくる。
不意打ちだ!
■翔 > 嫉妬じゃねぇ、とは言ってやれたが
まぁ、別に嫉妬でもなんでもいい
ただ、こいつに教えてやりてーだけだ
男の拳の振り方を、な
だから、あえて反論はせず
ずっと眼だけを見続けていた
だから、まるで確認するような視線をみりゃわかる、あの空間を超える拳だ
やっぱお前、本気で殴りあったこと、ねーだろ
最初の一発は、額で受ける
最初から決めてたことだ
犬飼の眼を、見続ける
拳に込められてるものを、見てやるために
脳を揺らす一撃
早さも、威力もある
額が切れて、出血の代わりに炎が軽く揺らめいているのも
普通に見りゃ喧嘩で叶う奴なんていねーだろーな
だが
「何も変わってねーんだな」
瞳を見続けたまま言い放つ
「つまんねー拳だ」
受けてわかる
ただ、ただ、苛立ちだけの拳
そこには、
自分のためも、
他人のためも、
それ以上に大切なもののためでもない
こいつに、拳を振る資格はない
それを、教えてやるよ、狂犬
「猫を拾って変わったかと思ったが、そのままか?
いらだちをぶつけるだけならガキでも出来んぞっ、あ”ぁ!?」
反対の拳を握りしめて、一息に距離を詰めて同じように顔面に叩き込む
お前の拳が気に入らねーと
それ以上に、その拳に意味なんてねーと
悟らせるために、振りぬいた
■犬飼 命 > 避けない。
どうせ反撃が来ることはわかっていた。
その一撃ぐらいは受けてやると、顔面でそのまま受ける。
「効かねぇよ……」
本当は効いている。
まともに受ければ脳が揺れる、視界が揺れる。
それでも踏みとどまって倒れない。
(ふざけんな!
こっちはてめぇのことなんざぁほとんど知らねぇくせに、
てめぇはこっちのことを知った気で打ち込んできやがるふざけんな!
だからこの程度の拳なんざ効かねぇと思ってたのに響きやがる!)
まったくだ、苛立ちばかりが募っていく。
勝手に因縁付けられて喧嘩売られるだなんて初めてだし、
べらべらといちいち言葉が気に障る。
それでも凶犬は変わったのだ。
猫を拾って変わったのだ。
凶犬はあの頃よりも『弱くなった』。
「ごたごたぬかして……うるせぇーんだよ!」
返す拳、この距離であれば『門』は不要だ。
顎を狙って振り上げる。
■翔 > 返しの拳が、顎をかち上げる
一瞬身体が浮き上がり、意識が飛び上がるが
篭ってる言葉が
苛立ちが
自然と意識を、引き寄せる
後ろに倒れかかった身体を、後ろに伸ばした脚を地面に叩きつけるようにして踏みとどまる
切れた口の中の火を、唾を吐くようにして地面に捨てて
「効かねぇ、じゃねぇ
聞いてねぇ、んだろ?
なら聞こえるまで何度でも殴ってやるよ
だから何発でも殴ってこいよ、狂犬
おめーが何を言いてぇのか、拳でよぉ!」
自然と脚は大きく開かれている
だから、そのまま踏み込んで右のフックを顔面に叩きつける
■犬飼 命 > 頬に熱さを感じる。
衝撃で視界が揺れて膝が落ちる。
立て直す、思うように体がついて行かない。
「クソがっ……!」
拳に勢いが乗らない。
まるで心だけが体を離れている。
離れた場所から自分自身を見ている感覚だ。
喧嘩を売られたら買うのが主義だ、それでこそ凶犬であり犬飼のはずなのだが。
拳の理由が薄れていく。
挑発される度に、その拳から理由が消えていく。
(何を言いたいかだと?
ふざけるな……そんなもんとっくに見失っちまってるんだよ。
こんなもん挑発を理由に振るってるだけだ……)
「わかるかよ……俺自身がわかるかってんだよ……。
なのにわかったつもりで説教してんじゃねーよ!」
勢いの衰えた拳は荒木の鼻っ柱を狙うが……。
■翔 > 狂犬の瞳を見据えたまま、拳を受ける
空っぽだ
何も載っていない、拳
鼻血すら出ねー拳に奥歯を噛みしめる
そうしねーと、このままこいつを殴り倒してしまいそうだった
額に手を置いて、先ほど切れた傷跡を焼いて止血する
「男が拳を振る理由、教えてやろーか」
それは、自分がまだ死んでいた時の、父親の言葉だ
「一つは、自分のため」
狂犬の丸くなった牙を掴む
「二つは、他人のため」
そのまま牙を振り払って
「三つめは、それ以上に大切なもんのためだ」
狂犬の胸ぐらを掴んで、額を合わせて瞳を覗きこむ
「おめーは今まで、なんの理由も無く拳を振るってきたんだ
だから、今、全部を見失ってる」
本当なら、何か理由を見つけるまで勝ち続けることなんて不可能だ
だが、きっとこいつはこの異能と恵まれた身体でここまで勝ち続けてきちまった
だから誰も教えてやれなかった
それが何処か悔しい
もっと早く出会えてりゃ、こうなる前に調教してやったんだがよ
「俺は今、てめーの拳が気に入らねーから殴ってる
理由としては一番だな
だけど、それすらわからなかったんだろう、犬飼」
だから、荒療治するっきゃねーだろ
握った胸ぐらを離し、距離を取る
そして、拳を構える
「なんでもいいから、打ち込んでこいよ
違ったらその度殴り飛ばしてやる
最後に残ったのが、お前の拳だ」
これは、俺自信が父親にされたことだ
そしてその先にあるもんが、お前の自信だ
信じろよ、自分自信を
理由探しは手伝ってやる
■犬飼 命 > 胸ぐらを離されてその場に膝をつく。
荒木を見上げるような姿勢になる。
放たれた言葉はたしかに言葉に響く。
正論だ、その言葉は筋が通っている。
自分のためでもなく、他人のためでもなく、大切な人のためでもなく。
少なくとも以前は自分のために拳を振るっていたはずだ。
それだというのに今は自分のためにも拳を振るわなくなっていた。
(解ってはいるんだよ……今の俺の拳にはなにもないことなんか。
でもよ、その話の筋は通ってるんだが、致命的な点が一つだけあるんだよ。
前にも言っただろうが……)
「それでよぉ……。
説教垂らしてよぉ、俺がハイハイとしたがってよぉ。
てめぇの言う自分のため、他人のため、大切な人のために拳を振るってよ……。
そこのどこに『俺』がいるんだよ……。
てめぇに都合のいい『俺』を作ろうとしてんじゃねーよ!
やっぱりてめぇの言葉はてめぇの主観論を語ってるだけじゃねーか!!」
凶犬が調教されてしまってはそこに凶犬の姿はなくなるのだ。
そんなことは凶犬の威厳《プライド》が許さない。
「誰がてめぇに調教されるか!?」
握りしめた拳は凶犬の威厳、それを荒木に向かって……。
『そうだよ、調教は駄目だね』
首輪からの電子音。
「てめぇっ!!」
犬飼に『制裁』が下る。
これ以上は認めないと風紀委員会の介入であった。
電撃により犬飼は仰向けに倒れて気を失う。
その周りを心配した猫達が取り囲んだ。