2015/07/16 のログ
桜井 雄二 > 「ああ、あの衣装か……確かに射的という感じじゃあないな…」
「あの時も祭りに行ったから、一ヶ月に三回祭を楽しんだ計算になる。どんな祭好きだ、俺たちは」

「……重曹と砂糖以外に何か入るものがあるのか…?」
なんだか怪しい白い粉。でも美味しいのだったらいいのか?
「ああ、それじゃこのリンゴ飴は泪のものだ」
「お主も悪よのう」
無表情かつ棒読みで言いながら交換。Win-Win。
「あ、確かに砂糖だけじゃないなこのカルメ焼き」
二人でわいわい言いながら、人の流れに沿って歩く。
それも、手を繋いだまま。二人の距離は今までと同じ?

花火が始まる。大輪の花が次々と夜空に咲いては散っていく。
轟音と、美しさと、儚さと。
「なぁ、泪」
花火が鳴る。
「好きだ、正式に俺の彼女になってくれ」
手を繋いだまま、彼女の横顔を見て微笑んだ。

三千歳 泪 > 「私にとっては毎日がお祭だよ! どこかの誰かのハレの日で、一世一代の大舞台ならそれはお祭に違いないはず」
「君がいたから迷子にならずに楽しめた。一緒についてきてくれるなら、どこへだって行けそうな気がする」

君と私はそういう関係。危ない時には手を引いて、危険から遠ざけてくれる。
なんて呼ぶのかよくわからない、何だか都合のいい関係。今まではそう。
私は君の好意に甘えていたのかも。ううん、まだまだ甘えていたい。飾らない言葉で許してくれたから。

リンゴはまだ少しだけ青い味がしたけれど、赤い色をした糖衣が溶けてフォローを入れてくれた。

遠い爆音につられて夜空を仰ぎ見れば、文字どおり満点の星々が落ちてきた。全ての花火は道を譲れって感じです。
網膜に焼きつくほどに色彩が溢れ、綺羅星のごとく降りそそいで。視界が歪み、震えて一筋の雫をこぼした。
大輪の華が咲き乱れるたび歓声が上がって、会場のボルテージは最高潮まで高まっていく。

声が、聞こえた。歓声の渦の中でもはっきりと。朴訥に。飾り気もなく。
――――あれ。泣いてるの? なんでさ。ヘンなの。おかしいよ。理由もなく泣くなんて。

「………あっ、は。ごめっ…あは、はははは。えっと!……え、と……ね…」

こんなにたくさん人がいるのに、泣き出したのは私だけ? どうしよう。どうしようもなくて余計おろおろしてしまう。
君に甘えるのは簡単だけど、今は私ひとりで答えないといけない。
みっともなくしゃくりあげながら、そっぽを向いて手のひらで泪を拭った。
人が見てる? いいよ。減るものじゃなし。

「―――――ああもう。もう!! 私はずっとそのつもり。だったのに、今更だよ。そんなこと言われちゃったらさ!」
「わかんないんだ……私はどうしたらいいのかな、桜井くん…待って、駄目。今のなし。言わないで!!」

「答えがいるなら、答えてあげる。したい様にするから、これでおあいこだよ」

とっさにストップをかけて、ぐいっと手を引いた勢いのまま唇を当てた。

桜井 雄二 > 「……そうか、それなら俺は泪にどこまでもついていかないとな」
「お前は結構、危なっかしいところがあるからな」

綺麗な花火。美しい星空。可愛い三千歳泪。
そのどれに目を向けていいのか、わからなかった。
どれもとても良いものだと思ったから。

でも、今は彼女を見るべきなんだ。
彼女は今、泣いているのだから。

「お、おい泪……………?」
ひょっとして、断られるパターンかと心臓がぎゅっと握られたような感覚に陥る。
だが違うようだ。

「……俺は、二人の関係をもっとはっきりさせたかったんだ」
「それがお前を泣かせることになったのだろうか」

「答え…………?」

その時、唇に柔らかい感触が当たった。
リンゴ飴と、涙の味がした。


それから二人はどうしたのかは、今日は語るのはやめることにする。
ただ、二人で花火を見てから一緒に帰っただけだし。
劇的に何かが変わるわけではなかったから。

ただ、確かなものを二人の間に築いた。それだけの話。

俺はNo.10と書かれたメモ帳の1ページ目に、一文を書いた。
『大切な人ができた』と。

ご案内:「円上神社の夏祭り」から三千歳 泪さんが去りました。
ご案内:「円上神社の夏祭り」から桜井 雄二さんが去りました。
ご案内:「ホテルシーザスターズ」にギルバートさんが現れました。
ご案内:「ホテルシーザスターズ」にレイチェルさんが現れました。
ご案内:「ホテルシーザスターズ」に墨田拓也さんが現れました。
ギルバート > 「レイチェルさんに、ギルバートさんですね。どちらも一年生……と。確認しました。
「どうぞ、ご案内します。」

ボーイは二人に学生証を返却し、奥のパーティ会場へと誘った。
煌びやかなシャンデリア。グラスに注がれたドリンク。
まるでオトナの社交場であるが、不思議なことに、本日招かれたのは全て学園の一年生である。
まだこの場の雰囲気に不慣れなのだろう。幾らかの参加者からは、何処か初々しさすら感じられた。

「風紀と合同(捜査)だなんて、驚いたよ。」
「これで何もなけりゃ、いいんだけどさ。」

グラスカクテルを舌で転がす少年は、日ごろよりも大人びた印象を与えることだろう。
フォーマルベストを基調にツートンカラーのシルエット。
長い前髪を全て後ろに流し、小さいシュシュにて後ろで纏めている。

彼らがこのような場に現れたのは理由があった。
フェニーチェと呼ばれる犯罪組織が、どうもこのパーティに関与しているのではないかと噂されている。
一年生を対象とした歓迎パーティという名目であるため、力ある歴戦の風紀・公安委員を送り込むには難しい。
そのため、一年生の中でも指折りの二人が、それぞれの委員会から送り込まれた。
はからずしも、かねてより検討されていた風紀・公安による合同捜査といった形である。

レイチェル > 「こっちだって驚きだぜ。しかも組むのが同級生のお前とはな、ギルバート」
そう言って、両腕を頭の後ろに回すレイチェル。
そんな、普段通りの仕草をしているのであるが、服装は白を基調としたドレスである。
パーティー会場ということで、それなりの服装をしてきているようなのだが。
なんとも、居心地が悪そうである。
髪も、普段の様にツーサイドアップにしているのでなく、ストレートに降ろしている。
一歩一歩歩く度に、艶やかな金色が踊るように揺れる。
仕草に目を瞑れば、パーティー会場に相応しいお嬢様、なんて風に見えなくもない。


「クロークをつけてねーと、どうも落ち着かねぇ……」
そう言って、肩の辺りをぽんぽん、と叩くなどしつつ、
それとなく辺りの様子を窺っている。

墨田拓也 > パーティが始まってしばらくして。
痩せぎすに猫背の男子学生が壇上に上がる。

「はい、皆さん! 今日は歓迎パーティにお越しいただきありがとうございます!」
「ところで皆さん、演劇に興味はありますか?」
「今日は余興として、皆さんの中から女優を選出してみたいなぁ、なんて!」

ヘラヘラと笑って声を上げる。

「ある劇団が次期の主演女優を求めているんですよ!」
「いやぁ、皆さんは本当に運がいい!」
「簡単なオーディションを受けて皆さんもスターダム!」

軽い調子で最後の言葉に合わせてピースサイン。
周囲が騒々しくなるのを確認してから満面の笑顔。

「さぁ、誰かオーディションを受けてみたい方はいませんか!?」
「生憎と僕は一人しかいないので一人ずつお願いします!」
冗談を交えて興味を誘った。女生徒たちの間で牽制ムードが生まれる。

ギルバート > 「いいじゃん、結構似合うし。」
「最初は深窓の令嬢かと思ったよ。」

所見で思わず吹き出してしまった手前、あまり説得力はないのだが。

さて、墨田のMCが始まった。
少年の目から見ても、会場の平均レベルは高い。
主演女優という肩書きは少し早すぎる気もしないでもないが、心躍らせるのその気持ちは理解ができる。
だがしかし、"ついに来たか"という気持ちもあった。
あまりにも露骨すぎるきらいがあるが……まさか、誘われている?

「レイチェル、どうする?」

レイチェル > 「てっめぇ、さっきめちゃくちゃ笑ってたじゃねーか!」
顔を少し紅くして、片拳を握りギルバートに突っかかるレイチェルは、
声を抑えながらもそんな、抗議の声をあげる。

「少しばかり様子見といこう。何、この場ですぐに生徒に危害が及ぶ、
 なんてことがねーなら、そこまで焦る必要もねぇ」
腕組みしつつ、そんな風に返す。
誘われている、その予感はレイチェルにもあった。
誘いに乗ってやってもいいが、今はまだ様子見をするのが賢明だろう。
そう考えたレイチェルは、周囲の女子の反応を見ながら、肩を竦める
のであった。

墨田拓也 > 次に声を上げた女生徒を壇上に招く。

「あなた、お名前は? なるほど、布施加奈子さん!」
「顔立ちも美しいし、声も良い!」
「こちらに簡単なプロフィールの記入をお願いします!」
「えっ、合唱集団フールコロイデのメンバーだったの!?」
「わぁ、これはいきなり当たりを引いてしまったかもなぁ!」

あれこれと喋りながら、壇上への興味を継続させるような軽妙な喋り。
物怖じしながらも、女生徒たちが2人3人と壇上へ。
女生徒たちを見定めながら、慎重に選ぶ。

自分たちの劇団を導く、次代の主演女優を。

ギルバート > 「審査って何をするんだろうな。」
「演技力、とか?」

いやいや、アドリブはハードル高いだろと思い直し
横目にてレイチェルを見据える。
随分と目立つ格好ではあるが、確かに綺麗なのは間違いがない。
ただ面白さが勝ってしまったのは、普段の彼女"しか"知らなかった故なのだろう。
あまりジロジロ見るのも悪いな、と壇上へ再び目を向けた。

レイチェル > 「さて、な。劇団なんだから、歌唱力なんかも入るんじゃねーの?
 とは思うけどな。しかし成程、主演女優か。そいつは若い方が良い
 に決まってるぜ」
そう言って、腰に手をやるレイチェル。
壇上で簡易オーディションを受けている女子生徒達を見やって、再び
肩を竦める。

「しかしまぁ、何だってそんなスターなんかに憧れるのかね。
 オレには理解できねーぜ。スターになんざなっちまったら、
 ぎっちぎちの生活を強いられるっつーのにな。
 あいつら皆おどおどしてるように見えるが、余程目立ちたがり屋なんかね」
呆れたようにそう言い放つと、一度ギルバートの方を見やって小首を傾げた。

その後、再び壇上へと視線を戻すのであった。

墨田拓也 > 「なに………あなた、劇団ジョイスの出身なんですか?」
「いやぁ、それは興味深い!」
「こちらに簡単なプロフィールの記入を……それと」

「少し話があるのでこちらに来てくれませんか?」

男の瞳が邪悪な色を見せる。
しかし目の前の女生徒はそれに気付かない。

「さぁさぁ! 一次審査はこれで終了として!」
「一次審査を受けてくださった方は後ほどの二次審査をお楽しみに!」
「さて、それでは続きましてパーティをお楽しみください!!」

「さ、あなたはこちらへ」

そう言って事態が飲み込めていない少女を舞台裏に連れ出していく。
「いやぁ、即戦力を求めているんですよねー!」
「……下手な鉄砲も数撃てばヒットするかも知れないし…」

舞台裏にて少女にどこからか取り出した無貌の仮面を被せる。
抵抗していた彼女が、すぐにぐったりとして動かなくなった。
いや、動いてはいる。だが、感情をなくしたかのように大人しい。

「アクトレス――――行動できない女」

ギルバート > 「拙い……後手にまわったな。」

彼の他にも、墨田の不可解な行動に首をかしげる者は少なくない。
だがしかしそれも、場の雰囲気を押し返すほどの力はなかった。
すぐに他の参加者は輪に戻る。―――彼らを除いては。

「あの、すいません。」
「彼女が急に腹痛を……奥で休ませてもらえるとありがたいのですが……。」

ボーイを呼びつけ、途端に深刻そうな表情でレイチェルの顔を覗き込む。
"合わせろ"と唇を動かして、再びボーイへと向き直った。
既に彼らの頭には、このビルのマップが頭に叩き込まれている。
ただ舞台裏直通の裏口には、ボーイらが所持している鍵が必要なのだ。

レイチェル > 「勝敗は先手後手じゃ決まらねぇさ」
墨田の表情の変化は、レイチェルも見逃さなかった。
事が裏で動いたのは間違いない。
ならば、今すぐに動く必要がある。
時が来たのだ。


輪に戻るパーティー参加者を尻目に、ギルバートと共に行動を開始する
レイチェル。


「ちょ、ちょっともうほんと無理だから……お願い、静かな所で休ませて……」
ギルバートの合図に、レイチェルも申し訳なさそうにボーイの方を見やった。
何処と無く、か弱そうな声色と表情で、ボーイを見上げるレイチェル。

墨田拓也 > 感情をなくし、言うがままに動くようになった彼女を椅子に座らせる。

「さてと……岸田麻友さんでしたね?」
「あなたを誘いましょう――――フェニーチェと言う炎の中へ」

彼女がつける無貌のマスクの、瞳の部分から涙がこぼれた。

「はははっ、これは珍しい!」
「その仮面をつけられてなお、感情を出せるとは!」
「あなたはきっと良い女優になれる……」
「できればその頃には私は舞台監督になり、あなたへ演技指導ができていればいいのですが」

涙が流れ続ける彼女の顎に指をかける。

「……他の狂人など、関係ない………」
「僕は、僕のためにフェニーチェを……団長の遺志を継いでみせる」

ギルバート > 会場を後にする三人。ふいに訪れた曲がり角で、ボーイは一瞬にして倒れこんだ。
床に倒れこんで痙攣してるかと思えば、ぐたりと手足を弛緩させる。

「あんまり名演なんでお産かと思った。」

監視カメラの位置から算出したポイントは、何者にも悟られない完全な死角。
少年は紫電を帯びた棒状のガジェットを懐に仕舞いこみ、ボーイから鍵を接収する。
実に手馴れた手付き。訓練の賜物だ。
迅速に裏口から進入し、二人が見たものといえば―――。

レイチェル > 「てめーが合わせろって言っといて馬鹿言ってんじゃねーっつの……!」
普段通りの表情と口調に戻ったレイチェルは、またもギルバートに対して
つっかかるのであった。
「あーもう、お前と話してるとイライラするぜ! さっさと終わらせるぞ」
きっ、と。真剣な表情を取り戻したレイチェルはギルバートと共に
舞台の裏口へと辿り着いた。

ご案内:「ホテルシーザスターズ」に『癲狂聖者』さんが現れました。
ご案内:「ホテルシーザスターズ」から墨田拓也さんが去りました。
『癲狂聖者』 > 舞台裏に辿り着いた二人に、墨田拓也がゆっくりと振り返る。
「…………見ましたか…」
「全く、こんなやり方は全く持って好きじゃあないんですがね…」

どこからか取り出した謎の動物の仮面をつける。
すぐに外套が作り出され、仮面の男がくるりとターンをする。

「私の名前は癲狂聖者(ユーロジヴィ)、信じようと、信じまいと」
「死に行く者に祈りを、そして沈黙を!」

外套をはためかせるとレイチェルとギルバートの足元に向けて強力な粘着テープが十字状に射出される。
演劇用語で、バミテ――――立ち位置を決めるためのテープ。
それが相手の足を縫いとめるために放たれた。

ギルバート > 「悪いが、オレは演劇見たことないんだよ!」

手近な音響機材を張り倒し、即席の盾とする。
べちゃりと音を立ててテープを止めて、続いて少年の足場と化した。
指先に握られるは先程のガジェット。円柱状でまるでカラオケマイクのような握り心地ではあるが、多機能であり高性能。
スタンガンのように使えもすれば、竹刀のように延長することも可能である。
殺傷能力は抑えているが、威力は折り紙つき。
常人ならば掠っただけで、一撃で意識を奪い去るだろう。

「その子を放せよッ!」

眩い雷光が、舞台裏の闇を斬り裂いた!

レイチェル > 「ちッ……!」
床を蹴り、バックステップ。
射出される十字を間一髪、躱す。
少しでも反応が遅れていれば、十字テープは彼女の脚を縫いつけていたことだろう。

「ダメだなこりゃ、次の捜査はもっと動きやすいドレスを用意して欲しいもんだぜ」
言うや否や、ドレスのスカートを両手で掴んで、思いきり力を込めて
破った。ダンピールの腕力の成せる業である。

そして、すかさず両の腕を思いきり下に振り下ろした。
衝撃によりスリーブのストッパーが外れ、彼女の袖口から二挺の強化テーザーガンが
掌の内に滑り落ちる。

「泣いてる女を無理やりってぇのは……いくら演劇が上手くたって、
 モテやしねぇぜ!」
躊躇なく、テーザーガンをありったけ『癲狂聖者』に撃ち込んだ。

『癲狂聖者』 > 大きく仰け反ってギルバートのガジェットを回避する。
そのまま相手に強烈な蹴りを繰り出しながら回転する。ダンスで言えばウィンドミルが近い。

「遠慮することはありませんよ」

そのまま腕の力だけで後方に跳ぶ。

「どうぞ、御観劇ください」

レイチェルから撃ち出された強化テーザーガン。
背後に立てかけてあったパーティ用のテーブルを一つ投げつけて回避。

「君たちのその装備、どうやらフェニーチェを追う者たちのようですね」

コツコツと音を立てて歩きながら浚った女から離れる。
次代の女優を傷つけることがあってはならない。

両手を広げ、芝居がかった口調でギルバートへ。

「サルトルの悩みを知っているかな?」
「飢えた子を前にして、一編の小説がどれほどの力になれるだろうかというサルトルの悩みを」
「小説とは所詮、娯楽だ」
「だから小説が腹の足しにならなくて当然」

「サルトルが悩むべきは、その小説が飢えた子をも楽しませることができるかどうかだったのです」

「私の演劇はギロチンにかけられ、縄を切るだけで首を刎ねられる状態の罪人をも楽しませる!!」
「演じるべき物語に拍手を!! 今宵、集まりし演者たちに喝采を!!」

そして恭しくレイチェルに一礼。

「MASQUERADE―――というスペイン語起源の優雅な遊戯の名称には変装する、という動詞の意味も含まれる」
「我が異能、仮面異形界(マスカレイド・スタイル)をお見せするに絶好の舞台」
「ホラブルでファンタスティックでミステリアスな夜会に相応しい賓客たちよ!!」
「あなたたちが持つ仮面という異形を!」
「あるいは、仮面の下の異形を!」
「私に見せていただきたい!!」

どこからか仮面を取り出し、それを動物の仮面と交換する。

「第一章……ベルン王ディートリヒ降臨」

男の姿が巨兜ヒルデグリムや輝鎧オルトニトを装備した伝説の王の姿へと変わる。
手元に創造されるは、魔剣エッケザックス。
凄まじい速度で前進、レイチェルに向けて袈裟掛けに斬りかかる。

ギルバート > 「ちっ!」

蹴りを受けた勢いそのまま、靴底を滑らせて壁へと激突!
背中に走る痛みはあるが、まだまだ序の口。拳銃を構えトリガーを引き絞る!
瞬く間にマガジン一杯を全て撃ち尽くすが、外装に阻まれるばかりで効果なし。
それどころか、発砲音に驚いた会場の生徒たちがざわめいた。

「とっとと逃げろッッ!!!!」

ギルバートの怒号を合図に、人の波が出入り口目掛けて雪崩れ込む!

レイチェル > 「変身ッ……!? そいつがてめーの異能か!」
咄嗟の袈裟斬りに、反射的に二挺のテーザーガンを構えて防御姿勢をとるが、
魔剣の一撃によって双方共いとも容易く切り裂かれる。

迫る魔剣。
無防備な少女の肩口。
魔剣が、レイチェルの肩口から胸、脇腹までを引き裂いて真っ二つにせんと
唸るその瞬間。

「時空圧壊《バレットタイム》――!」
レイチェルの首筋から、紅の血が滲み出たその瞬間。
舞台裏の時が。
雪崩れ込む会場の生徒たちが。
そして、目の前の魔剣が。
急激にその速度を落としていく。

「こりゃマジでやりあわねーといけねぇ訳だ。先輩が対ロストサイン用の
 装備の許可について言ってたのも頷ける話だぜ!」
口にすると同時に、自らの眼帯を数度、叩く。
眼帯に走る紅の光が明滅を繰り返す。

「さあ、あとは突っ切ってこい……!」

飛び退り、袈裟斬りを躱す位置にまで移動した後、
最後にそう口にした。

時間切れだ。

――そして時は、再びその刻み方を思い出す。

『癲狂聖者』 > 「無駄ですよ、龍の権能を持つ輝鎧オルトニトにただの拳銃など」
兜の下で嘲笑う。
「伝説の剣でも持ってくるべきでしたね」

パーティの参加者が逃げ出す中、戦いは続く。
癲狂聖者という男の一人舞台が続く。

魔剣エッケザックスは全てを断つ刃。
テーザーガンを切り裂き、そしてレイチェルを両断しようとした時。

相手が加速した。いや、そうとしか見えなかった。

「何……!」

エッケザックスが勢い余って床を切り裂いた。

「ならば!!」

その場で回転斬り。周囲をなぎ払う魔刃。
それは魔剣エッケザックスの切れ味を持ってして、全てを切り裂く必殺の攻撃と成る。

ギルバート > 「生憎とオレはただの人間だからな……ッ!」

幕間からちらりと会場を覗き込めば、会場のスタッフと生徒が組み合いとなり、至る所で摩擦が起きている。
現状で癲狂聖者に有効打を見出せない以上、倒れる少女を抱きかかえながら、一目散に飛び出していった。
蒼光が尾を引く様、まるで一種のイルミネーション。
白熱し過ぎた手合いに打ち込んでは、群集に任せ会場の外へと追い出していく。
やがて人は疎らになり、最後尾の生徒に少女を託すと自身は踵を返した。
この間にも、レイチェルらは戦いを続けているのだ。

「頼んだよ、I-RIS。」

≪誘導はお任せください。≫

ネクタイを絞め直しながら、ピンマイクにて。
返答するは公安護島が誇る高性能AI、I-RIS。
混乱に乗じて電子系統を掌握し、機会制御のキーシステムから擬似的な一本道を形作る。
裏口の錠が古典的な金属製の鍵穴でなければ、ボーイの一人も気絶させられずに済んだのだが。

「……あの人、逃げ遅れてなきゃいいけど。」

ガジェットの熱量を絞り切り出力を上げていく。
伝説の剣にしては色気はないが、こちらは最新のテクノロジー。
御伽噺になんて負けてられないというのが、開発メーカーの本音だろう。
鎮圧用なら先の機能でも過ぎた程だが、イレギュラーがザラに起こるのがこの島だ。
当然、相応の機能は想定されている。

一歩二歩。掌の中の"兵器"を握り直し、一息に駆ける!

レイチェル > 魔刃による回転斬り。絶対的な質量と力で持って振るわれるそれは、
凄まじい勢いでレイチェルを飲み込まんと、彼女の眼前に迫る。
まともに喰らえば、彼女には細切れの肉塊となる未来しか残されていないだろう。

レイチェルの異能を使い、時の法則を一時的に破壊すれば、先の様な回避
行動も取ることが出来る。
しかしながら、時空圧壊《バレットタイム》は時空に干渉する大技。息を
つかぬような連続使用は、不可能だ。

回転する殺意の刃を前に、何を思ったかレイチェルは腕で顔を覆った。
防ぎきれぬと分かっていても、本能が防御の姿勢をとったのか。
迫る死の刃を前に、恐怖に駆られて現実から目を背けたか。

否。
レイチェル・ラムレイは、退かない。

「突っ切って来たか――相棒!」

轟音が鳴り響き、漆黒の装甲を纏った重二輪が舞台裏の壁をぶち抜いて
現れたのは、まさにレイチェルが腕で顔を覆ったその直後であった。
降り注ぐ壁の破片を腕で振り払い、レイチェルはにやりと笑った。

風紀から支給された装備の一つ、ブラスレイター。
漆黒の鎧を纏った騎馬を思わせるその二輪は壁を突き破った勢いを失わぬまま、
法術シールドを全力展開。
死神の巻き起こす旋風へと全力で激突せんと宙を疾駆する。

『癲狂聖者』 > ギルバートの行動に舌打ちをする。
「むっ……先に少女の救出を優先させるとは!」
「これは失態、だがまだ手はある!!」

王は魔剣を持ったまま戦闘を続行する。
レイチェルを斬り倒し、ギルバートを殺し、このドサクサに紛れて彼女を浚えばいいだけのこと。
順序としては何も間違ってはいない。

「………!?」
法術シールドを展開し、突撃してくる大質量。
意外、それはバイク。
広範囲を攻撃することに意識が向きすぎていた彼を二輪が轢く。
「うおおおおぉぉぉ!!!」
鎧も兜も、この衝撃は逃がしきれない。
吹き飛んで地面を転がり、即座に起き上がる。
「それがあなたの相棒ですか、忌々しい鉄騎を!!」
そして男は再び剣を構えたままゆっくりと歩き始める。

「新年が過ぎ、二月が過ぎると、鬼が参る」
「この近世の節分の行事の原型となったのが、『追儺の儀式』」
「つまり『なやらい』や『鬼やらい』の儀式である」
「七世紀末、文武天皇の頃から宮中にてはじめられた―――という、この疫病払い、鬼払いの儀式」
「もともとは大陸に由来し、《方相氏》とは、古くは周の時代からその名が伝えられる存在だ」
「黄金の四つ目を持つ異形の仮面を被るそのアンビバレンスでフリーキッシュな存在が実に! 興味深い」
どこからか仮面を取り出し、ディートリヒの仮面を外して付け替える。
「右手に三叉の矛、左手に盾を持って四つ目の面をつけた者こそが」
「師走の晦日(つごもり)に疫鬼を祓う存在」
膝から首まで覆うような大きな盾、右手には魔や邪心持つ者を断つ三叉の矛。
儀礼用の衣装を着た、魔を祓う者―――方相氏。
「だからこそ言おう! 高らかに! なやろう! なやろう!!」
完全なる演技で方相氏となった男が、両手を広げた。
「第二章……魔を断つ矛」

完全にレイチェルの素性を見切った上で退魔の面を使ったわけではない。
ただ、仮面を見せびらかすように次々と付け替えているだけだ。
それが相手に見切る隙を与えない彼の特殊性を表してもいる。

「さぁ、なやろう!!」
レイチェルに向けて三叉矛を連続で突き出す。
退魔の力だけでなく、儀礼用であっても刃のついたそれは威力も高い。

ギルバート > ≪大質量の移動物体が来ます。≫
≪識別出ました。風紀委員会所有の大型バイクです。≫
≪第四の騎士。死の呼び声。終わりを告げる者≫

≪識別コード。『ブラスレイター』。≫

「バイクってお前……バッッッカじゃねーの!?」

冗談のような光景に飛び退き、瓦礫の雨の最中にその雄姿を見る。
不意の一撃にしてもあまりにインパクトのある光景であるが、相対する癲狂聖者も一介の演者。
奇抜な風貌へと姿を変えるも、むしろ好機とガジェットを振り被る。

「待たせたなッ!」

雷刃は散乱した埃を焼き滅ぼしながら、癲狂聖者の背中を目指す!