2015/09/13 のログ
ご案内:「BA008便 機内」に嶋野陽子さんが現れました。
嶋野陽子 >  正午過ぎに離陸して、機内食を食べ
終えた時点で、既に2時間半が経過し、ロンドンまでの行程の
半ばに達していた。
 陽子に用意されたのはファーストクラスの最前列、いわゆる
VIPシートだ。陽子の巨体でも窮屈さを感じない大きなシー
トは、しかし短い飛行時間を考慮してフルフラットにはならな
い。イギリスが食事が不味い事で有名だったのは20世紀の話、
ファーストクラスの機内食は優秀な出来で、しかも英国では
17歳から飲酒が合法なので、お酒も自由に頼める。
今日は敬一君からのメッセージを読むために、お酒は断って
いる。
そして、いよいよ敬一君からのメッセージを、タブレットに
映し出す。

嶋野陽子 > 【敬一君からのメッセージ】
 陽子へ、
 君がこれを読んでいるという事は、僕はもう死んでいる。
仮に死後に元の世界に戻れたとしても、その事を報告する
術は無いだろう。

 常世学園での生活がうまく行って、新しい友人を作って
いる事を祈るが、今となってはそれを教えてもらう機会も
無くなってしまった。申し訳ない。
 思えば成田空港で再会してから5年以上、陽子はずっと
僕の事だけを見て、僕の為にステラと一緒になり、最初は
看護と治療、その後はずっと僕のサポートを続けてくれて
本当にありがとう。

 このタイミングでこれを読んでいるという事は、僕は恐
らくBA001便で死んだのだろう。ならば事前に遺言を
残しておいたので、僕の葬儀は英国で行われ、君には英国
までの航空券が届くはずだ。
 ステラが君に言った事は事実の半分だけで、本当は僕が
志願してハイジャック阻止のためにこの便に乗り込んだの
だ。この便のハイジャック計画は、指導教授のポッター教
授が察知した兆候に、僕らの世界の9.11の知識を合わ
せて察知したもので、察知したのが2日前だったので、こ
うしてステラの支援を得て自分たちで阻止するしか無かっ
た。
 ロンドンに着いたらまず最初に、オックスフォード大学
に行って、ポッター教授に会って欲しい。陽子の身体で目
立たないようにと言っても難しいかも知れないが、普通に
鉄道でオックスフォードに向かい、マートン・カレッジに
いるポッター教授を訪ねて欲しい。
 ステラには、初日の宿はパディントン駅のそばに取るよ
うに指示してあるから、空港からのリムジンでそこに荷物
を置き、身軽になってオックスフォードに向かうといい。

 最後に、僕の筋肉フェチを満たす為に僕の難病が完治し
た後もひたすら体を鍛え続けて、僕の事を愛し続けてくれ
て本当にありがとう。
 死に方を選べるのなら、陽子の筋肉に包まれて腹上死す
るのが僕の理想だったが、そうも行かなかったようだ。
 僕がいなくなったのだから、ステラと相談して、可能な
限り小さな身体に戻していいよ。君はもう自由だ、過去に
引きずられないで、自分の人生を歩んでほしい。
 僕に残された財産も持ち物も、全部陽子に残すから、自
由に処分して欲しい。この世界に残るも、元の世界への帰
還を目指すも、すべては君とステラ次第だ。どちらを目指
すにしても、二人とも幸せになってくれ。

 置いて行ってしまい、本当にごめん。

 川治敬一

【メッセージ終わり】

嶋野陽子 >  オックスフォード大学のポッター教授。
魔術学、特に黒魔術からの防衛に関する研究と実践
において世界有数の権威で、こちらの世界で魔術の
素養を開花させた敬一君が指導を仰ぎに留学した人
物だ。
 敬一君がなぜ死ぬ事になったのか、詳しい事情を
教えてもらえそうな唯一の人間だ。敬一君に言われ
なくてもオックスフォード大学は真っ先に訪問する
予定だったが、このメッセージの書きぶりだと、陽
子は恐らく見張られている事を想定している。確か
に、便名まで判明しているのだから、レコンキスタ
が、ハイジャックを阻止した人物の恋人を狙う事は
充分考えられる。
 これはリムジンは無視して、鉄道で直接オックス
フォードを目指して、ポッター教授といち早く合流
した方が良いかも知れない。
 着陸するまでの間、尾行を撒いてオックスフォー
ドに向かう方法を、ステラと検討する陽子だった。

ご案内:「BA008便 機内」から嶋野陽子さんが去りました。