2015/09/19 のログ
ご案内:「魔術学部棟・第三研究室」に獅南蒼二さんが現れました。
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獅南蒼二 > かつて書類の束と数々の魔導具に埋もれていた、小さな液晶テレビ。
この研究室の主がここに居座りはじめてから、ずっと、何年間も使われていなかった無用の長物。
それが、ついに光を浴びる日がやってきた。

何という理由があるわけではない。
あるとすれば、忘れかけていたこのアイテムが、整理整頓によって顔を出したこと。
そらから、英国のハイジャック事件によって、《レコンキスタ》関連のニュースが増えていること。

「…………。」

授業の構想が一段落したところで、白衣の男はソファに腰を下ろし……ついに、このテレビを起動した。

獅南蒼二 > 液晶のモニタは初めの数秒間は暗闇を映し、やがて、午後のニュース番組を映し出した。
整った顔立ちの男が交通事故のニュースや、国際情勢、経済、雑多な内容を次々と紹介していく。
データ通信によってその中から情報を選択できるのだが、特に詳しく知りたいような内容の話題は存在しなかった。
例のハイジャック事件も、邦人の死者は出たもののテロそのものが未遂であったためか、
事件への報道熱は急速に冷め、今やトップでも終末でもなく、話題と話題の間に紹介される程度の扱いに転じていた。
裏腹に、増加してきたのは、一躍して英国の英雄となった法人男性の素性やテロを未然に防いだ行動の経緯を報じるもの。

「……………。」

そして、嘗て英雄とされながらもやがてテロ組織へと堕し、マイノリティと化しながら活動を続ける組織の正体を探るドキュメンタリー。

獅南蒼二 > だが、そのいずれもが、陳腐な内容でしかなかった。
世界の変容によって居場所を奪われた集団であるとか、自らの価値を失った集団であるとか、
嘗て実際に“英雄”や“守護者”としての地位にあり、異変によってその立場を追われた者たちの自己顕示欲がそうさせるのだと、多くの専門家が語っている。

一面の真理ではあるのだろう。
だが、どの番組も、異能者の脅威やその理不尽な力に言及することはない。

古来より存在したが、魔女狩りを初めとして常に弾圧され続けてきた魔術。
この世に突如として発現し、世界を変容させてしまった異能。

その違いを、明確に語る専門家は誰一人としていない。

獅南蒼二 > 果たして、そのどちらがより“人類的”でありうるのだろう。
答えは明白ではないだろうか。
嘗て秘匿されていながらも、古くから人類が発見し、編み出し、発展させてきた魔術。
万人に平等な恩恵をもたらすことのできる可能性を秘めた魔術学という学問。

「…………………。」

だがそれは、一般には正確に認識されていないのだ。
異能も魔術も、それらから縁の遠い一般市民にとっては同様に脅威であり、
自然に発現する異能は“やむを得ない”という側面があるのに対し、
積極的に学ばれる魔術には“危険な技術”という側面がついて回る。

獅南蒼二 > 今の人生こそが大切だと感じる者たちは、敢えて力を得ようとはしないのだ。
敢えて力を得ようとする者たちを、それこそ秩序を乱す危険分子と認識するのだ。
唐突に発現し制御すらままならずその対策すら立てようのない異能者には、ある種の同情すら集まっているというのに。

「…………………。」

この世界を包み込む理不尽に、気付こうとする者は多くない。
理不尽は自分から遠い場所に常に存在し、その被害を被るのは自分以外の誰かである。
そう、誰もが思っている。誰もが他人事のように感じている。
だからこそ、他人の庭にまで上がり込む≪レコンキスタ≫は、その本質が理解されず、危険な集団と認識されてしまう。

獅南蒼二 > テレビを消そうとした時、懐かしい声が聞こえてきた。
もう20年以上前のことだろうか、両親とともにシベリアの研究所を訪れた時に聞いた声だ。
≪レコンキスタ≫のロシア支部の幹部である男。表向きはコヴァルチュク研究所の所長である彼が、
英国のテロ事件に対する声明を発表、全世界へ向けた会見を行うらしい。

「………………。」

迂闊な事をするものだと、呆れてしまう。だが、そうしなければならない必然性があったのかもしれない。
もしくは、姿を隠している意味がなくなったのかも知れない。

……イギリス支部は幾多のセキュリティにより厳重に隠された3つの拠点すべてが暴かれた。おそらくは、後者だろう。

獅南蒼二 > 表向きは異能と魔術を専門に扱う研究所であり、今回の事件はその双方に密接にかかわっているとして…
…獅南からすれば、苦笑を漏らすことしかできないような、老人の会見が始まる。
だが、獅南はその後の数分間で、この老人への認識を改めることになった。

あろうことか、彼は壊滅したイギリス支部の関わったテロ活動の全てを列挙したのだ。
今もって容疑者や関連組織が不明であった、組織として大成功をおさめたテロも含め、全てを白日の下に晒してしまった。
それによって犠牲となった者の数は、計り知れない。

獅南蒼二 > …尤も、他の支部に追及の手が及ぶ可能性のある事件は伏せていた。
列挙した事件を解説することは無く、犠牲者のリストを提示する。
そして、すべての事件にはある共通点があると、静かに語った。

「…………………。」
獅南は、今や、画面から目を離すことができなかった。

“所長”はリストの中から次々と人物を紹介してく。
一見、何の変哲も無いように見える、その人物たち……だが、彼らの来歴は、明らかに異常であった。
≪レコンキスタ≫は確実に、政府や軍、警察組織、大企業、財閥、貴族社会、それらに“割り込んだ”者を排除していた。
明らかに来歴に違和感のある大物政治家、なり替わるようにしてトップの座を奪った若手社長。
上司の連続てきな“殉職”により上り詰めた警察署長、不可解かつ虐殺的な暴動の鎮圧を行った軍人。

獅南蒼二 > 犠牲になった人間の数を考えれば到底許されることではない。
そう前置きをしながらも、彼は“政府や司法ではどうすることもできない悪”の存在と、
それを非合法かつ冷酷な方法ではありながらも排除してきた≪レコンキスタ≫という組織の存在を、淡々とした口調で述べた。
そして、最後にこうとだけ、告げる。

『彼らは自らの手で、悪を裁いた。
 ……そして、彼らは自らの行為の裁きを、その身に受けたのだろう。』

獅南蒼二 > ロシア支部らしい、直観的で迂闊だが大胆で効果的な手法だと、素直に感じる。
文書ではなく言葉で語ること、そしてあくまでも研究所を代表した専門家の1人として語ったこと、
さらに、≪レコンキスタ≫にとって不利な情報を多分に盛り込んだこと。
不利を被るべきイギリス支部はすでに消滅しており、これ以上の被害を受ける心配はないという事実。

これでも多くの一般人たちは、やはり魔術に携わる人間は危険思想の持ち主なのだと、一蹴するだろう。
……だが、僅かでも種をまくことはできるはずだ。

この放送が、この会見が、そしてこの事実が、多くの人々に広まることを願おう。
人々がこの世界を緩やかに支配せんとしている理不尽に気付いてくれることを願おう。

ご案内:「魔術学部棟・第三研究室」から獅南蒼二さんが去りました。