2016/05/21 のログ
ご案内:「常世港」に烏丸秀さんが現れました。
烏丸秀 > 夜の常世港。
何人かの男たちの中央に、烏丸は立っている。
目の前には開かれたキャリーバッグが3つ。
その中には――

「――ボクはね、キミ達は凄く、運が良いと思うんだ」

うんうんと頷きながら話しかける。
『キャリーバッグに』

烏丸秀 > 「だってそうだろう」

常世港、あたりには誰も居ない。
そこに居るのは烏丸の引き連れた裏社会の人間達と――

「人生の最後に、凜霞の肢体を思うがまま貪れたんだもの
なかなか出来る経験じゃないよ?」

キャリーバッグに入れられた少年たちは必死に何かを言おうとする。
だが、その口には枷がされており、言葉にはならない

烏丸秀 > 「ま、そういうわけだから」

烏丸の合図とともにキャリーバッグが閉じられ。
そして、船へと詰め込まれる。

「あ、ちゃんと重しつけて、潮流にも気をつけてね」

烏丸秀 > さて、これで凜霞に平穏な日が戻ってくる。
彼らは――まぁ、行方不明とでもなり、そのうち学籍が削除されるだろう。
世はまったく事も無し。

「いやぁ、平和でいいねぇ」

烏丸は満足そうに呟く

ご案内:「常世港」に鞍吹 朔さんが現れました。
鞍吹 朔 > 「ええ、随分と平和そうだこと」

港に積まれたコンテナの陰。そこから、女の声がする。
灯台の光に照らされて、その影は姿を見せた。

「『予定』だった人物を付け回してみたら、終着点は海。
 貴方は何者かしら。」

烏丸秀 > 「うん?」

ふと見れば、一人の少女。
なにやら地味そうだが、うん、なかなかカワイイ。
悠薇ほどではないけど。

「キミと同じだよ、たぶん。ただの学生」

へらへらと笑いながら答える。
おおよそ緊張感というものがない。
あたりが深夜の港でなければ本当に学生に見えた事だろう。

鞍吹 朔 > 「ええ、私や貴方が普通の学生なら世は並べて事も無し、でしょうね。
 それなら貴方の部活は輸出業部かしら。」

灯台の光が回ってくる。
照らされたその顔は整っているが…右目の周りには無数の傷、右目はハイライトの抜けた瞳。
その瞳が、胸元から取り出したメモ帳のページを追う。

「烏丸秀。自称部活経営コンサルタント。
 そんな貴方がどうしてあんな剣呑なモノを輸出してたのかしら。」

烏丸秀 > 「輸出業部……あったけな、そんなの。
何せボク、色んな部活に名義だけ入ってるから――あ、輸出は無いね。輸入代行部はあるけど」

メモ帳をめくりながら言う。
彼女の顔を見れば――

(うーん、壊れた後かな? 結構、好みではあるけど)

「で、あんなモノ。まぁあんなモノねぇ――うん、ボクはね、嫉妬深いし独占欲が強い。まぁそんなとこかな?」

鞍吹 朔 > 「…そんな物があったのね、初耳。」

驚いたように肩をすくめるが、その表情は凍ったように動かない。
能面、という表現が一番しっくり来る。

「そう、破綻者ね。メモしておくわ。」

カリカリとその頁に書き加えた。

「それで?どうしてあんなものを輸出してたのか、その理由をきっちり聞きたいところね。
 同じことを何度も言わせないで欲しいのだけど。」

烏丸秀 > 「あるある。島の『外』のモノを欲しがる連中は多いからね」

輸入代行はなかなか実入りの良い部活だったはずだ。
今度顔を出しておこう。

「んー、これで理解できない?
となるとそうだねぇ、場所を変えてなら話を聞いてもいいよ。
ボクの部屋のベッドの上とかオススメ」

おどけた口調で彼女にそう、語りかける

鞍吹 朔 > 「『推理』はできても『確証』はないから。『理解』を含めた云々は確証を得てからするものよ、烏丸。
 私は、何故、貴方がここに居て、あの墨袋共に執行したのか、を聞いてるの。」

その言葉には、感情の揺れがなかった。
口説かれても、一切の油断がなかった。
その表情にも、全くの変化がなかった。

「答えなさい烏丸秀。貴方が何をしているのか。何をしていたのか。何をしようとしているのか。」

烏丸秀 > 「――っく、あはははははは!」

烏丸は笑った。
おかしくてたまらなくて笑った。
よりにもよって聞くか、このボクに?

「ねぇお嬢ちゃん、キミは世界の全ての事象に理由があると思うの? 
それを理解できなくちゃ生きていけないのかい?」

まったく、おかしくてたまらない。
そうか、なるほど、彼女は『理解できない』のだ。

「理由なんてないよ。
ボクは己の欲するままに生き
愛するがままに愛し
壊したいがままに壊す
その為のゴミ掃除に、わざわざ理由なんて必要?」

相変わらず笑いながら。
少女の顔を見つめる。

「それとも、キミはあれかな。
『私のした事には理由があったの、どんな事にも理由があるの、だから私を赦してください』
っていう、そういう系の人かな?
人間のする事にはすべて理由があると『思い込んでる』タイプ?」

鞍吹 朔 > 「………そう、理由はないのね。
 それなら良いのよ、私も理由なんて無いから。」

ふぅ、と息を吐いた。
ああ寒い、この季節になっても夜の海辺は寒いものだ。
その程度だ。結局、この世界はそんなものだ。
夏暑いように、冬寒いように。
世の中というのは理不尽で、サディスティックで、理由など無いことに人が納得できるよう理由をつけることが大半なのだ。

「いいえ?理由なんて無いわ。この世のほとんどに意味は無い。人間の後付が大半。
 もし理由があったら、人はこんなに苦しむ必要なんて無いもの。
 苦しみの原因を取り除けば、
 苦しんでいる相手の心境を理解すれば、
 苦しんでいる世界そのものを作り変えれば、
 それだけで世は並べて事も無し。
 ただ……」

そう言って手帳を畳み、胸元に戻す。
笑うその顔を見つめ返す。

「それを知っても理由を付けて『納得』し、自らを押し殺して生きるのが人間よ。
 理屈と理由と理性で自らを律して生きるのが人間だもの。
 それが出来ない、望むがままに欲し、飢えるがままに食らうのはどこまで突き詰めても畜生よ。

 望むがままに愛するあなたも、望むがままに殺すわたしも。」

烏丸秀 > 「くだらない生き方だねぇ。
所詮、100年たてば灰になり、1000年たてば記憶からも忘れさられる。
そんな人間の生を謳歌せず、理屈と理由と理性なんていうつまらないものに縛られる。
つくづく人間は度し難い」

心底バカにしたように言い放ち。
烏丸はやれやれと溜息をつく。

「望むがままに殺すねぇ。
さて、キミがそんな事を望んでるなら、まぁ――本気で人を殺す事が生きがいのやつも居るけどさ。
でも、そうやって言葉を並べるキミはなんだい?
理由なき理由を求め、理屈と言葉を相手に求める。
まるで、何かを探すように」

さて、この少女が求めるのはなんなのか。
少しだけ、興味が沸く。

鞍吹 朔 > 「獣が人を解すことなどできないでしょうし、当然ね。
 結局、獣はどこまで進化しても巻き戻っても、
 そこでもここでもあそこでも、人間になることなんて出来ないんだから。
 獣が人間の性を説くなんて、猿回しの猿を見ているよう。」

心底から凍りついたように言い放ち、
朔は烏丸を正面から見据える。

「私は獣だから、獣としての理由はない。出来るのはせいぜい、自分の衝動を正当化するだけ。
 私が殺すのは、私が人の踏み台になりたいから。
 私が殺すのは、私が人の敷き布になりたいから。
 私は私があるがままに、人にあって人にあらざる貴方のような『墨袋』を処分するだけ。
 これでいいかしら?

 出来損ないの理屈と理想と理由に身を包んで身を守った、臆病な獣と笑うが良いわ。
 それでいいもの。私は、人のために人を殺し、人のために人に殺される人狼でいいもの。」

それは、あまりにも脆い理由だった。
波打ち際の砂の城のように。溶けかけた氷の鳥のように。
獣が人に憧れ、人を真似ただけのちっぽけな制約だった。

烏丸秀 > 人間の性とやらは、随分と高尚なようだねぇ。
何せボク、そういうものに囚われた無様な人間は見てきたんだけど、
そういうものを使いこなした人間を見た事なくてね」

くくっとあざ笑うように少女を見つめる。
やれやれ、ご大層な事を言うが――

「でも、キミはきっと獣にはなれないなぁ。
だってそうだろう? キミは言葉を紡ぐ。まるで誰かに赦しを請うように。
だってそうだろう? キミは理屈をこねる。まるで己を赦そうと足掻くように。
もしキミが本当に獣になろうとするなら、言葉ではなくその爪を突き立てる筈さ」

結局、彼女は『殺し以外を知らない』類の人間のようだ。
獣になりたくてもなれない。
人間に戻りたくても戻れない。
中途半端な人狼(ワーウルフ)。

「ま、話は終わりかな?
それじゃあボクは失礼するけど。この後さ、約束があるんだ、色々とね」

鞍吹 朔 > 「貴方に理解できるかどうか分からないくらいには高尚なんじゃないかしら。
 私が言えたことでもないけど、歴史書や宗教書にも目を通すことをおすすめするわ。歎異抄なんかおすすめよ。」

嘲笑うように言葉を紡がれれば、ようやくその眉を顰めた。

「……ええ、でしょうね。
 泣いた赤鬼は青鬼を打倒することでしか人に受け入れられなかった。人というのは、そういうものなんでしょう。
 人に憧れて、人に紛れて、抑えも効かずに血肉を食らって、最後は首を吊られておしまい。

 それでいいのよ。私の命に理由を付けても、私の本質には理由も理屈も理想も無いんだから。
 塵のように生きて芥のように死ぬのがお似合いなのよ、人狼は。」

人は眩しいのだ。神聖で、美しい。 人は汚らわしいのだ。ズブ泥に塗れ、醜い。
その二つのどちらにも在れず、どちらにも憧れた人狼。
ただ、皮を裂き骨を砕き肉を食らう本能に、理性という人の皮を被せただけの怪物なのだ。

「……ええ、そうね。貴方を始末しようかと思ったけど、確証がないんじゃどうしようもない。
 尻尾を人間に踏まれないように這いずり回りなさい、毒蛇。」

烏丸秀 > 「いやぁ、それは無理じゃないかなぁ」

歩き出しながらからからと笑う。
この少女はどうしても、悪鬼羅刹の類になりたいらしい。
だが――

「キミの本質は、言葉と慰めを欲しがる寂しがり屋の女の子だよ。
獣になるには、理性がありすぎる。悪鬼になるには、頭が良すぎる。
その理想と現実の狭間で、キミはもう一度、自分自身と人間の姿を、嫌というほど見せ付けられるだろうね」

くくっと含み笑いをしながら。
振り返りもせずに。

「もし、その時に絶望したらボクの所へおいで。
あます所なく、壊(アイ)してあげるからさ」

烏丸秀は、闇の中へ消えた。

ご案内:「常世港」から烏丸秀さんが去りました。
鞍吹 朔 > 「………。」

ふっ、と肩の力を抜く。眼帯と眼鏡を付け直す。
もはや先に見えるのは闇だけ。時折回ってくる灯台の明かりも、毒蛇の尾を照らすには至らない。

「言葉?慰め?そんな物欲しくないわけがない。
 理性と知能なんて、捨てるに捨てられないに決まってる。」

くるりと振り返り、ローファーをかつんとコンクリートに鳴らした。
冷たい潮風が漣を起こし、体温と浜辺の砂を奪っていく。

「絶望して助かるなら幾らでもしてあげましょう。
 尻を振り、娼婦のように媚びて鳴いて、それで全てが救われるならそうしましょう。
 
 ……救われない。自らの恥と罪の足枷を誰かに抱えてもらって、それでは何も終わらない。
 人はそんなものではない。私が愛した人間という生き物は、そんな物には屈しない。
 毒蛇め、人が二度も林檎を齧ると思うな。」

その言葉を聞くものは、誰も居ない。
潮騒に蝕まれる小さな声が、水平線の彼方へと溶けて消えていった。

ご案内:「常世港」から鞍吹 朔さんが去りました。