2016/05/30 のログ
■レイチェル > 「くっ……」
その剣士の言葉に対しては、返す言葉も無かった。
確かに隙を作っていたのは自分自身だ。言い訳の一片すら心に浮かべる気にならなかった。
魔剣を握る手に自然と力が入る。
喧嘩の上手下手で自分を語るのはガキだ、と。
かつての師に似たような言葉を厳しく浴びせられたことがあった。
あの時から自分は、成長していないというのか。
その事実に打ちのめされて、ただただ悔しさだけが心に渦巻く。
「…………」
ただただ無言のままに。
目の前の人物がその剣を消し、五代の拘束が解かれたのならば、
レイチェルもまた自身の鉄をクロークの内にしまい込む。
小さな歯軋りは、夜風にかき消される。
魔族と戦い血を流し、敗北した事はあった。
守るべき者を守りきれずに、乾いた目のまま心の内で涙を流したこともあった。
だが、このような敗北は16歳のレイチェル・ラムレイという少女にとって、
初めての経験であった。
溜息をつき武器を収めた相手の背中を見ながら、レイチェルはどうすることも出来ずに、
ただただ拳を握りしめることしか出来なかった。
■五代 基一郎 > 音もなく、特に言うこともないというように
翆の剣士はまたこの落第街の闇の中に消えて行った。
後に残されたのは、サマエルにより無理矢理立たされた五代と
レイチェル一人。
コンクリートの床も何をしてもよくある風景だとばかりに傷だけが残った。
「実際に見たほうが速いとは思ってだったけど、想定が甘かったかな」
それは存在を察知しているだろうから仕掛けてこないだろうと思われる相手が
向うから刃を向けてきたことか。
それともこの世界ではなく、異世界を流浪しこういった戦いにレイチェルが慣れているだろうという
自身の想定の甘さだろうか。闇の中に潜む魔を狩るという戦士と思っていたことか。
何がとは言わず、立ち上がれば誇りを叩いて間を切った。
■サマエル>「”速かった”だろう実際。いいことじゃないか。こういうことは”早い”に限る。
喜べレイチェル・ラムレイ。ここは入口だ。ようやくな。」
「帰ろうか。いつまでもここにいても仕方がないしさ。」
そう。戦力的にそも何かできるわけではない五代もだが
ここにこれ以上にて何が出来ると言うのだろうか。
いつものように、落第街で騒ぎになることを出来ることと言うのならば……別であるが。
■レイチェル > 「……はぁ。ったく……」
溜息一つ。己の無力さに打ちのめされた後であったが、
そこは、レイチェル・ラムレイである。
これまでの狩人としての仕事の中でも、そして常世に来てからも。
経験は積んできたのだ。それは決してゼロではない。
だからこそこの状況で、彼女はあろうことか笑みを浮かべた。
自嘲だけではない、もっと色々な感情の混じった笑みがそこにはあった。
何よりそこに感じられたのは、微かな灯火である。
そう、今の出来事が彼女に火をつけたのだ。
「完全に負けちまったぜ……ああ、オレの完全敗北だ。
相手に呆れられて武器をしまわれちゃどうしようもねぇ。
あいつの言うことは理に適ってたし、オレとしては何も言い返せなかった。
ここまで完全にやられちまうと、清々しさすら覚えるぜ!
まずは身を隠して同化する手段だったな。
じゃあオレに教えてくれよ、そいつを」
かつての魔狩人の仕事では、師匠に頼っていた所が大きかった。
彼女は引き摺り出された闇を、ただただ打ち払うのみであった。
ただこれからは違う、彼女は真の狩人となる為の第一歩を、この島で
新たに踏み出したのである。
そこまでまくし立てて、最後にもう一度だけ溜息をつき。
「……そーだな、帰るか」
大きく伸びをして、レイチェルは五代の言葉に応えた。
■五代 基一郎 > 「いや……こう、それは抽象的な表現で……」
■サマエル>「わかるだろうさ。それもまた見せた方が早い。」
そうしてサマエルは離れ、羽ばたいて飛んでいく。
帰り道を見定めるために。
おそらく。これからが始まりであり、これからが
今までにない……今までは見えなかった場所への道のりなのだ。
その先は恐らく果てがない。闇の底が存在しないように。
しかしそれでも今レイチェルに宿った”火”は、決してかき消されるものではないのだろう。
そんな保証のない、そうであるからそうである……というような予感をしまいながら
「ま、これからだよこれから」
そうして今日はひとまず。帰っていくこととなった。
恐らく次にまた来るときは、より厳しさを増すだろう場所を背にして。
ご案内:「落第街廃ビル群」から五代 基一郎さんが去りました。
ご案内:「落第街廃ビル群」からレイチェルさんが去りました。