2016/06/05 のログ
ご案内:「商店街のカラオケボックス」に雪城 括流さんが現れました。
■雪城 括流 > 誰かと誰かが重要な相談をしているかもしれない、その隣。
生活委員会保健課の参加希望者(関係ない人間もなぜか混じっている)によるカラオケ大会が開かれていた。
括流はとりあえず片っ端からスマホで適当に連絡をつけたようで。
人型の姿でマイクを両手に持ち、北欧か何処かの歌を高らかに歌い上げる。
いつも微笑んでいる受付さんが、いつもどおりの微笑でその歌に合いの手を入れていた。
…合いの手を入れるような歌ではないのだが。
■雪城 括流 > やがて静かな歌がゆっくりと終わりへと至る。
ぱち、ぱち、ぱちちち、ぺこっ とかいう変な拍子に導かれて。
括流は気にしない。
結局のところ歌って盛り上がれればいいのだ。
古代の祭りも酒が入ればこんなものだったのが懐かしい。いや、歌はごく一部だけやたら上手かったが。
「―――。
こんなものかな。次は誰がいく?」
周りを見渡して、問いかける。
■雪城 括流 > 自信ありげにこくりと受付さんが頷いて、小さく挙手をする。
「―――では、私が。」
そちらへマイクが渡された。
彼女がステージへと歩いていく。選択された曲は―――
両生類の鳴き声が聞こえてくる、という歌。
かのものの鳴き声を真似するような、シュールかつ静かな歌声がカラオケを支配する。
そしてやがて両生類は爬虫類に進化し、爬虫類は鳥類に、哺乳類へとその生と死を繰り返して
やがて最後に鰻を持ってきたところを鉄砲で撃たれてしまった。
生命の物悲しさがカラオケルームを包む。
どうしてこうなった。
■雪城 括流 > 気分を取り戻そうと隣の部屋に烏龍茶を持っていった店員を誰かが呼び止めて、コーラを頼む。
マイクは次の人に回され、無難にテンションの挙がるJ-popが流れ始めた。
「静かな曲が続いたから、楽しい曲もいいね。
あ、ホットコーヒーをください。」
括流はフォローをかけつつ、店員に暖かいものを注文する。
やがてステージは予備のマイクを持ち出して、二人の生徒が熱く絶叫していたりした。
この歌が終わればまたマイクは次の人に渡って、一曲流れれば次のひとへと回っていくのだろう。
一曲だけ歌っていくのはどうだろうか。
■雪城 括流 > 「隣は歌ってないのかな…。」
「どうしました?」
「ううん、気のせいかも。」
マイクはまた次の生徒の手に渡り、削岩機で天を貫きそうな曲へと変わっていた。
あいかわらず受付さんは手拍子をしているが、何とか会う曲なのが救いかもしれない。
あと手拍子のリズムは恐ろしいほど正確だった。メトロノームか。
ふと括流は妙な気配を感じたような気がしたが、すぐにカラオケに意識を戻す。
■雪城 括流 > 扉の外を女子生徒たちが通って行ったような気がした。
だがそんなことに気をとられるより、目の前に差し出されたマイクを受け取るほうが優先で。
「一通り回りましたよ、くくる先生。」
「うん?
そうだね、じゃあ…。」
氷架がよく歌ったりしているので日本語の歌(意味深)も知ってはいるけど、今度もまた外国語の歌を選ぶ。
最初とは違い、今度はペースの速い激しい曲だ。
―――神代の言葉で、歌い上げる。
終わらない戦いの歌を。どんなに死を繰り返してもその場にいなければならない歌を。
そうして、大切な誰かが笑っていられたら。その場所を遠くから眺めていることができたなら。
今まではそれでよかった。
でも今は最後にそっと付け加える。
自分も彼らの元にそっと寄り添えるという、望みを。
そしてまたマイクは次の生徒の手に渡る。
カラオケ大会は、続いていく―――。
あっ、と思ったら受付さんがまたマイクを手に取った。そこはかとなく自信ありげだ。
ご案内:「商店街のカラオケボックス」から雪城 括流さんが去りました。