2016/06/18 のログ
綾瀬音音 > ――――――――――、…………。
(言葉では、返せなかった。
それが何よりの答えだ。
“彼”が選ばなかった何か。
何かを選べていればまた違う今もあったのかと思うが、考えるのすら意味が無い今更だ。

彼は行き詰まって飛び降りた。


――――――それは、嫌だ)

ん……そうですね。
学生は確かに学費――出処は何処から、と言うのは置いておいてそれは一つの貢献ですね。
……数字は可視化して判断材料にするには一番解りやすいもの、だとは思います。
資格はそれだけの技術や知識を持っている証ですし、それだけで能力――力、アピールポイントですしね。
それがなにもないのは、裸で放り出されるのと同じです。
――普通ならそれで生きていけるんだと思います、いやまあ、何処かで理解しないと行き詰まりはするでしょうけれど。

(能力はそれだけで武器だ。
それを証明するものも当然武器。
また、“自分はこれだけ出来る”と言う自信にも繋がるだろう。
身分証については一時期使えなかった時期もあったため、言われれば納得するする以外に出来なかっただろうが。
財団の権力の恐ろしさや大きさは、未だ至るまではいかないが――)

親からのは子供に対する“投資”って考えるのが良いですかね。
差し出したものは、差し出せるのものはそれも結局は社会に繋がっていく――
(果たしてそれがどの様な社会であれ。
少しずつ、社会の仕組み、それこそ授業や普通に生活しているだけでは思いも至らない事実が見えてくる。
学園という優しい世界の裏の、実力的な世界。
地下と言うには余りに近く。
遠いと最早言えなくなった世界である。

自分は試験を受けさせる側からの、オリエンテーションを受けている段階だ。
まだ何処かに飛び込んでいけるわけでもない。
が。
見え隠れする黄昏時が、恐ろしくも。
否、恐ろしいからこそ――)

なら、私が出ても――大丈夫ですかね
(出たところで落第生なのは解ってはいるが。
嫌な予感を潰してしまいたくて。
黄昏時が目の前に迫っていて、それに怯えているよりも、と。

無謀でしか無い言葉を口にした)

五代 基一郎 > 「俺は、君を消させないために招いたんだが」

それを態々言葉として、綾瀬に伝えるように出した。
あの時。この先に制度や何というわけでもなく、綾瀬がそもそも
世界に順応できず行き詰まり……消えるのではという予感の下に行った招き。
それがどういったことから申し出たものか。
綾瀬をこちらに引きこんだという後悔はあったが、その理由をこうして諌めるために言葉に出すことは
それが如何様な形であっても使うには自分にとって好ましくなく……
憚られることではあった。
故にその顔は、複雑にただ一度歪んだ。

そしてそれは、言わずとも出れば死ぬだけだということを伝えていた。
闘技場だけではない。

綾瀬が感じている、身近ではないが遠くもない世界。
剥きだしの実力の世界という黄昏時に出れば……

「心配しなくても出れるようにはするし、それまでは……まぁ
 守るから。」

自分がどれだけ出来るかわからない者に、何をさせるというのか。
裸で放り出すのとまさに変わらず同義ではないだろうか。
故に綾瀬のいうように本来教育やらという”投資”が普通はこれにあたる。
何ができるかを教え、伝えて育て成長させる。
ただしこの場合”投資”というよりも全く別の意味になる。
それが何であるかは、言葉では表すには重い。

「今日はこれまでにしよう。もう”座学”は十分だろうしさ。」

そうして席を立ち上がる。
無論立ち上がっても、離れた場所にいる観客らは誰一人見ることもなく。
ただそうこうしている間にも、ブザーとファイルの紙束はどんどん薄くなり
最初の半分以下にまで減っていた。

綾瀬音音 > ―――ごめんなさい。
(すみません、では無く、ごめんなさい。
正直な恥じ入るような謝罪が、その顔を見れば漏れて出た。

――忘れてはいけないことは幾つかある。
それは言葉として心のなかで認識するには些か難しいものも含まれて入いるし、言葉として認識しなければいけない物もある。
あの時の声の色。
力をもらった意味。
自分がまだ、弱いこと。
視線を落として、自分の手のひらを見る。
短いはずの爪が、食い込んで跡になっていた)

―――――正直に言います。
ほんっとうに――本当に、いろんなことが怖くてしかたがないんです。
この先やっていけるかどうかとか、
自分が持ってる力が“どういうものなのか”とか、
捨てないといけないモノとか、
手に入れないといけないものとか、
この先人を傷つけるようになったとして、自分がどう変わっていくかとか、
―――先輩に、失望されちゃうんじゃないかとか
(ダメですね、と困ったようにへらっと無理に笑う。
焦っても仕方がないが、基本的に堪え性がないのだろう。
恐怖心で動けば、それだけで黄昏は先のない本当の闇に変わってしまうというのに。
ついでに言えば、そもそも失望されるだけの信頼は得てない気がするが。

どうしたら良いのか。
答えはない。
本来答えは教えてもらうものではないと思うから、それを聞くことはしないけれど。
ヒントは沢山もらっているはずなのだ)

……ありがとうございます。
でもアレですね、出たところで雇ってくれる人がいるのかどうか……、はその時のアレですけど
(確かにそうだ。
自分が何がどれだけ出来るのかはわからない。
自分はまだ教えてもらってそれを飲み込んで、消化する段階だ。
それ以上は、まだ早いのだ。

放り出されればどうなっていたかは、もう理解している。
だからこそのごめんなさい、である)

――はい。解りました。
ううん…………
(薄くなっていく紙束。
自分は果たしてそこに立った時、残れるのかどうか。
押しつぶされそうな不安はある。
とは言え、それにここで潰されてはどうしようもない。
少しずつだ。
黄昏時は、昏いのだから手探りで進むぐらいがちょうどいい。
続いて立ち上がって、来たとき同様少し後ろからついて歩こう)

五代 基一郎 > 「そうだね」

そう。だから、というわけではないが。
わかってくれればいいというものではなく……ただそうしか言えなかった。
危険な方へ方へと誘いながら、守るとは一体何か。
その矛盾のような、それがどうしても引っかかり
そのような言葉しか出なかった。

「それは、それこそどこでも同じことじゃないかな。
 将来の不安……というような穏やかなものじゃないけど
 ただ、それを理解しているかしていないかという差はとても大きい。
 こうしてわかっているなら、まず十分なんだしここに来た甲斐はあった。」

無理に笑わなくてもいいのに、笑わせているのだろうかとも刺さる。
不安にさせているのだろうなともまた然りであり。
ただ……何を持って綾瀬は失望というのだろうか。
自身が綾瀬に望むことなど、一つしかないのだが。

綾瀬に与えていくものと、綾瀬自身が導くだろうもの。
それはまだ入り口であるからして……黄昏時の闇が阻むか。

「いやそもそも先は決まっているようなものなんだから、出てどうするのという話でございませんか」

既にかい上げている、というわけではないが
如何に力があろうと見ず知らずのアンダーグラウンドの住人に差し出すなどもってのほかである。
最もそれらについてはまだ早いとしか言いようがないのであるけれども。

「大体今回ここに来たのは君に見せるためになんだからさ。
 評価も試験も俺だよ……何を勘違いしているかは知らないけど」

なんか帰りおいしいもの食べてく?と。
先に歩いている黄昏時の住人は、そこだけはまだ暗くないと
灯火を持って歩き先導するように話しかけ、そして
黄昏時の中で漂う綾瀬の手を引くようにこの施設を後にした……

ご案内:「地下闘技場オドン」から綾瀬音音さんが去りました。
ご案内:「地下闘技場オドン」から五代 基一郎さんが去りました。