2016/07/01 のログ
ご案内:「異邦人街 異界化した個人事務所」にライガさんが現れました。
ご案内:「異邦人街 異界化した個人事務所」にレイチェルさんが現れました。
ライガ > 異邦人街のメインストリートから少し離れた通りに、ライガが所有していた事務所がある。……いや、あった。
その前にたたずむ、白髪褐色肌、長身の男。
いつもなら特徴的な黄金色の眼は、充血して赤っぽくなっている。
睡眠をとっていないのだろうか、眼をこすりこすり、めんどくさそうに元・居城を見上げた。

建物の周囲50mはできるだけ人払いをして、退魔の簡易結界を張ってもらっていた。事情を知らない人が見れば、『KEEP OUT』と書かれた赤いテープが張り巡らされているとしかわからないだろう。

「あーぁ、よりによってここで出ちゃうとは、なあ。せっかく貴子に掃除してもらったのに、滅茶苦茶だ。
ただでさえ異界化した建物ってのは面倒なのに、自分ちがこうなるとは……」

時刻はもうすぐ夜の時間、だが外はまだほんのり明るい。
スラックスのポケットからスマホを取り出し、友人を待つ。
悪魔的なことで、困ったことがあれば力を貸す、そう言っていた。今回は二度目の依頼となる。

レイチェル > まもなく訪れる夜の到来を告げる生温かい風と共に、薄暗がりの中。
流れる金の髪を揺らしながら、彼の待ち人は現れた。

「待たせたな、ライガ。……まさか自分の拠点をこんなに派手なパーティー会場にしちまうとは、
 思ってたよりずっと思い切りのいい奴だな、お前」
クロークの内に両手を突っ込んだまま、金髪眼帯の少女はそう口にする。
異界化した事務所を見て、おーおー、と、呟きなどして。
軽口とは裏腹に、普段よりも何処か冷たく落ち着いた口調のように感じられなくもないだろう。
レイチェルは真剣な表情で、ライガに語りかける。

「さて、呼ばれたからには仕事を片付けちまいたいところだな……今回は、前回と違って
 それなりに準備をしてきてあるから、呪文でこしらえた急造の聖水なんかに頼る必要はねぇ……
 ってライガ、お前大丈夫か? 眼が真っ赤だぜ……」
つかつかと近づいて、心配そうな表情を浮かべてライガの顔を覗き込むレイチェル。

ライガ > 声のする方へ、振り返る。そろそろ時間のようだ。

「いいや、そろそろかなって、思ってたんだ。
すごいだろ?今夜は貸し切りなんだぜ、どれだけ鉄火の嵐でも近隣住民から一切苦情が来ない。……

……ふぅ。
例の悪魔、覚えてる? バエルの劣化体、出ちゃってさ。
不幸中の幸い、って言っていいんだろか、夜間しか出ないんだけど」

冗談にはおどけて返し、深刻な状況を吹き飛ばそうと試みたが、やはりそれなりには堪えているようだ。
眼が赤い、と指摘され、疲れたように答える。

「ふふ、ここ連日ずっと騒がれてね。夜はほとんど寝てない。
せめて捕縛くらいはって頑張ってみたんだけど、精神力がガリガリ削られちゃってさ。
申し訳ないけど、今回も動けないんだ。
ただごちゃごちゃしてるとはいえ出現ポイントは捕捉してるんで、そこまでのルートは何とかするけど」

そう言いつつふらりと先頭に立ち、扉……に似た、手や足が生えている奇妙な四角い物体を渾身の力で蹴り開ける。
内部の玄関──どくんどくんと脈動している廊下に向かって何かを投げ入れると、ゆがんでいた廊下の一部分がぼんやりと青白く光り始めた。

「光を辿っていった先は、書斎なんだけど。だいたいいつもその部屋に出現するんだ。
じゃ、僕は玄関先で待ってるから」

そう言うと壁に寄り掛かり、目を閉じる。
本人にはもう、突入する気力はないらしい。この戦闘におけるライガの心配はしなくてよさそうだ。

レイチェル > 「貸し切りとは豪勢なこった。近隣からの苦情も来ないとなりゃあ、これ以上に楽しいパーティーは
 ねぇだろうさ」
ライガの言葉に、ふっと笑って返すレイチェル。

「そりゃあ、覚えてるぜ。こっちに飛んできてからこなした、唯一の本業依頼だからな。
 ったく、そんな顔じゃせっかくのいい顔が台無しだぜ。まぁ、そいつとやるのは任せときな。
 その為にオレは来たんだからな」

ライガが放った光を目で追いながら、レイチェルはこくりと頷いた。

「じゃあ、ゆっくり休んでな……」
そう言って、壁により掛かるライガに軽く手を振りながら。
まず中の様子を窺おうと、慎重に建物の内部に目を凝らす。
いつでも銃が抜き放てるよう、クロークの内に両手を滑らせたまま――。

ライガ > 青白い光の筋は、やがて一つの部屋にたどり着き、霧のように溶けて消えている。
扉は半分ほど開いており、蛍光灯のような淡い光が漏れている。
中は意外にも広い。周囲には棚があり、机がなぜか天井にさかさに張り付いて、窓がずっとずっと向こうに見える……。
外から見た事務所の数倍はあろうかという広さ。どうやら、室内の空間が歪んでいるようだ。

──窓の外はすっかり暗くなり、漆黒の闇に包まれる。
と、部屋の中央付近に、黄色と黒の靄のようなものがたち込め始めた。それは見るうちに形を成していき、よく知るライガと似たような姿をとる。
だがしかし、その姿はずっと透き通っており、風もないのにゆらゆらと揺れ動く。両手の指は鋭い爪のように尖り、二本足で立つ亜人か獣人のようにも見えるだろうか。
そのうちに頭のような部分から黄色い目がひとつ、ばちばちと瞬き、明滅する眼球が室内をぎょろりと眺めはじめた。
扉をこのまま開けていれば、見つかるのは時間の問題であろう。

レイチェル > 半分ほど開いている扉。
その先に広がる空間は、思っていたよりもずっと広いものであった。

(大分歪んじまってるみたいだな、こりゃ……)
混沌とした世界。まるで狂気に駆られた画家の描いた絵だ。
この手の空間に慣れていない者が見れば、正気を失ってしまう可能性もあるだろう。
対しレイチェルは、真剣そのものといった表情でその空間を観察し――
部屋の中央に現れる黒の靄を見据える。

(来やがったか……)
黄色の、悪魔的な眼球がぎょろり、ぎょろりと室内を眺めている。
このまま待てば、先手を取られてしまう。ならば。
下手に、受動的に姿を曝すよりは――。

ちらり、と足元を見やる。
そこにはライガの事務所に備え付けられていたであろう大きなテーブルが一つ、転がっている。
レイチェルは、テーブルの足へ右足を引っ掛けて――思い切り、蹴り放した!

同時に、テーブルを追いかけるように疾駆。
悪魔へ向けて一直線に飛んで行くテーブルの影で、二挺の銃を抜く――!

ライガ > 靄は、ひと通り部屋を見渡しながら、いつもの存在が見当たらないことに焦りを感じていた。
かの者の精神はとうに限界まで来ているはずだ。いつぞやの誰かは失敗したが、今度こそは──
と、不意に大きな音がして、黄色の目玉が鋭く扉を向く。その視界にとらえたものは、迫る大きな机であった。
この飛び方は、明らかに自然ではない。誰かしらが動かし、敵意をもって移動させたのだ。

テーブルはまっすぐに、怪しげな靄に向かって飛んでいく。
レイチェルがその陰で銃を抜いたのとほぼ同時に、向こう側から、ゴロゴロと猫が喉を鳴らすような音がしたようだ。
次の瞬間、バチリと大きな音が、何かがはじけたような音が聞こえ、大きなテーブルの天板を黄色い光の筋が縦横に幾つも疾走る。
綺麗に裁断され、バラバラになっていくテーブルの向こうに、両腕から銀色の爪を刃のように生やした、一つ目のワータイガーが、侵入者を睨みつけていた。
高さは3mはあろうか。

『グルル ルルゥ……』

異様な姿の妖虎は、腰を落とし、姿勢を低くしているようだ。

レイチェル > 一瞬の内に。レイチェルの目の前で斬り刻まれる天板。
破片が派手に飛び散りながら、混沌とした空間へと散り散りになって消えてゆく。

「もう少し頑丈なテーブルを置いといて欲しいもんだぜ!」
後ろで壁に寄りかかっているであろうライガへそんな言葉をレイチェルは飛ばす。

目の前で跳躍の準備を始めている一つ目の獣。
もしこのまま真っ直ぐ飛び込んだのであれば、レイチェルも先のテーブルと同じ運命を辿る
ことになる。

(――そいつは御免だな)

疾駆の勢いはそのままに。
姿勢を低く、銃口は前へ。
スライディングの形で、目の前のワータイガーの間近まで滑りこむ。
跳躍を潜って躱せるように。

「――良い夜だな! 遊ぼうぜ、虎ちゃん!」
レイチェルの言葉が終わらない内にレイチェルの掌の内で吠える、二挺の鋼鉄の獣。
けたたましい銃声《グリーティング》が二、三度。一瞬の内に弾ける。

ライガ > とんだクレームである。
一体どこの世界に、即席のバリケードとして運用されることを想定したテーブルがあるだろうか。
目晦ましをして一手を封じただけでも勘弁してほしい。……それでも、学園商店街のどこかには該当商品、ありそうだけど。

ともあれ、哀れ木片となったテーブルが一つ、この空間から消え去る。
部屋の中にはまだまだ、弾力のある【ソファー】や謎の金属部品が詰め込まれている【棚】や、【電気スタンド】などがある。
奥の方には重くて頑丈な【金庫】が置いてあるようだ。

虎が、床を蹴って跳んだ。
そのまま両腕を構え、前方へ飛びかかるも、相手の姿はそこになく。
足元から聞こえる、挑発の言葉とともに浴びせられる銃弾。それらは悉く命中したかに見えたが、靄のように虎の体をすり抜け、上方向に飛んでいく。
──ただ、一発だけ、咄嗟に左の爪を振りぬき、はじき返した弾を除いては。

ワータイガーが、吼えた。
空中で前転するように体を回転させ、後ろ足で天井に着地する。
ぐぐ、っと反動をつけ、下方向のレイチェルへ右腕を振りかぶる。狙うは左右の拳銃を横薙ぎに。

レイチェル >  
――一発。ワータイガーの眉間を貫く。天井とも床とも判別のつかない彼方へ。
――二発。身体の中央部。こちらも上方向、逆さに張り付いていた電気スタンドに風穴を開けた。
――三発。弾かれる。鉄片が、レイチェルの頬を掠める。

頬から鮮やかな赤の筋を散らし、ソファーへ突っ込むレイチェル。
その間、二挺の拳銃はワータイガーへとしっかり向けたまま。
続く引き金を絞ろうかといったところで、ワータイガーによる横薙ぎの一撃が、
レイチェルの手元を掠めて行く。
ワータイガーの強烈な薙ぎ払いに対し、レイチェルは狙いを悟ったか、銃を持っていた手を
引っ込めたものの――

「っとぉ……!」
――完全には対応しきれなかった。
一挺の拳銃が彼方へと弾き飛ばされる。
残ったのは、左手の内にあるマグナムのみ。
吹き飛んでいった愛銃に目をやることなく、残ったマグナムを、撃ち放つ。
目標は、先ほど手応えのあった、目の前の獣の爪。
撃ちながら、軽く跳躍しての後退を試みる。

ライガ > 黄色い光はないが、銀の一閃が放たれる。

レイチェルが素早い判断をしたおかげで少しずれたようだが、爪先に衝撃を感じた。
手ごたえあり。

左手の拳銃は残ったものの、右の銃を弾き飛ばした。
しかし敵の戦意は衰えてはいない。振りぬかれた右腕ではなく、空いている左腕に銃撃が飛ぶ。
今度は不意を打たれたのか、剣のような爪部分の何本かが銃弾で歪み、変形した。どうやら、こちらに対する物理干渉はある程度有効のようだ。
しかし、両腕を攻撃に費やさなかったのには理由があったようだ。
ひしゃげた左手の剣先を、それでもググッと動かし、空を掴むように折り曲げる。
すると、先ほど虎の眉間を通過し、上へと消えたはずの一発の銃弾が弧を描いて戻ってくる。
また、棚がガタガタと動きだし、扉の隙間から金属の螺子や蝶番、その他細々とした金属部品がばらばらと姿を現し、ゆっくりと飛んできた。
一つ目のワータイガーは唸り声を上げると、金属片をいくつも操り、弾力のあるソファーから跳躍して距離をとるレイチェルへ向けて投擲する。
虎の手元に引き寄せられるように集まった金属片が、何か見えない力に弾かれたような速度で放たれた。