2016/07/23 のログ
レイチェル > 「何故そうもオレ達異邦人を憎んでるのか知らねーが……ご苦労なこった」

打ち上がった剣にちら、と目をやった後に、再び剣士の方を見やる。
その気配は先よりもずっと捉え辛いものとなっていた。
成程、敵意を剥き出しにしていたあの剣と共に在ったことは、ある種の枷だったか、と。
納得したように心の中で頷くレイチェル。相手の位置が正確に掴めないとあれば、
いつ何処から致命の一撃が放たれるか分かったものではない。自らの周囲に全身の神経を集中
させる。

「ちっ、そいつは……」

上空から一斉に襲い来るミストルテインのやどりぎを視認するレイチェル。
いつか落第街に調査に訪れた際に、見た、身体の内側、その到る所にびっしりと植物の根が張られ
た死体が頭を過る。
四囲から襲い来る数多のやどりぎ。このままではレイチェルも例の異邦人と同じように、この場に無残な死体を曝すことになってしまうであろう。

右方向、床へ叩きつけるように身を転がす。
次いで、腕で以て跳躍。続くやどりぎの追撃を回避。
遅れてやって来た最後のやどりぎを魔剣で弾き返すと、レイチェルは静かに笑って見せた。

「何つーかてめぇ……世話焼きか? 忠告には感謝するが、な」

ふっと、その表情から一瞬の内に笑みが消えて、狩人の瞳が闇の中に灯る。
微かに紫色の煌めきを放つそれは、暗闇の中で幽微なものとして在った。

「今夜のオレは真剣《マジ》だぜ。柵がねぇからな……」
そうして彼女は、漆黒の大剣の柄を強く握りしめた。
近くに居る筈の男の気配を感じ取る為に、神経を集中させ、闇の中を見据える――。

五代 基一郎 > 神経を集中させたレイチェルが見据えた闇の中……そこには
いくつものやどりぎが、ミストルテインの枝葉のようにバラ撒かれたそれらが
存在感を異様に放つ。目くらましのように、闇の中を塗りつぶすような……
レイチェルという異邦人への敵意と憎悪が

■翆の剣士「……何故?」

その閃光の如き存在感を煌めさせるやどりぎよりも一層強く鋭く
レイチェルの真正面から突き刺すように明確な殺意と共に気配が現れる。
それは翆の、やどりぎを両手に……片手剣のように持ちまた剣のように成長させたそれを持った剣士が
その存在感を叩きつけるかのように現れた。

■翆の剣士>「何故……?お前が何故……異邦人が、えぇ……?」

その殺意と敵意は、翆の長剣よりも強い。それと共に漆黒の大剣へ叩きつけるかの如く。
怒り。抑えきれない怒りが溢れだしている。

■翆の剣士>「お前……前と変わっていないな。”喧嘩”が前よりうまくなっただけじゃねぇか……えぇ……
       お前、喧嘩しに来たのか……?何が真剣”マジ”だ……冗談じゃねぇ。
       こんなガキ送ってきやがって……!!」

隠しきれない、隠す必要などないというほどに殺意と敵意、怒りが広がっていく。
それ自体が既に力を持つかのように、広がりそして燃え上がるように高まっていく。
先のレイチェル曰くの世話焼きな雰囲気など消え失せて……

■翆の剣士>「お前、なんで【この世界”ここ”】にいるんだよ。
       何考えて【この世界”ここ”】で生きてるんだ……えぇ……?
       わかるぜ、お前。自分が【この世界”ここ”】でどういう存在か考えたこともねぇだろ……
       くだらねぇクソガキだ!」

翆の光が炎のように揺らめく。実際に燃えているわけではないが、今この廃墟ビルの屋上に植え付けられた
やどりぎから出た、その剣士の精神と呼応するかのように煌めく光は炎のように燃え盛る……

レイチェル > (……こいつは、予想以上に乗ってきたな)
異邦人という者達を憎む彼らのような存在に対して、
『自分達が何故憎いのか』などと惚けた声をあげて首を傾げれば、
彼らの怒りもめらめらと湧き上がろうというものだ。
そんなことは百も承知。
レイチェルの言葉は目の前で姿を消した剣士の感情を浮き彫りにする為に放たれたものなのだから。

事実、目の前の剣士の憎悪と殺意は、今や剣のそれよりもずっと強く、強く在った。
レイチェルの瞳はと言えば、小さな火を灯して、未だ静かなままだ。
増幅する怒りを見据えながら、闇の中で懸命に狙いを見定めようと目を凝らす――。

「何だよ、ちょいと聞いてみただけでぎゃあぎゃあ喚きやがって。ガキなのはどっちだ?
 オレこそがっかりだぜ、こんな奴の為にくだらねぇ修行してたなんてな」
続いて、相手を挑発するような言葉を紡ぎ、溜息をついて見せる。
無論、本心ではない。積んだ修行はレイチェル自身を、一つの答えへと導き始めていたからだ。

「さぁて、な……?」
目の前の剣士の言葉。そう返しつつも、レイチェルの心の内に彼女なりの答えはある。
世界と同調する修行は、その答えを見つけ出す為のものでもあったからだ。
自分はこの世界では紛れも無い異物であり、ある者からすれば外部からやって来た脅威である。
本来、『居るべきではなかった存在』なのだ。それでも、今自分はここに居る。
今自分が成すべきは、この世界にとっての脅威となることではない。
無闇に力を振るって、己の存在を示すことではない。
この世界の人々と同調し、彼らの力となることだ。
それこそが、異邦人としての自分の存在意義であると。レイチェルは修行の中でそう感じていた。
そして、目の前のこの剣士が、この世界を破壊する者であるのなら、自分がやることは一つ――。

「……来な、安っぽいレプリカでオレをやれるってんならな」
屋上全てが、剣士の戦士と呼応するように、燃え上がるように煌めく。
光を前に、確かな意志を胸に抱きながら、レイチェルは魔剣を後方へと振った。

五代 基一郎 > レイチェルの言葉に応えるように、その炎の如き煌めきがより力を増して
集束するように、レイチェルを中心にするように勢いを増して行く。

それは、正しくレイチェルの思惑の通りのように高められた結果か。
感情。怒りと憎悪が力となり塗りつぶすかのように絡み合うかのように
それ……レイチェルを飲みこみ、磔でもなくすり潰すかのように光が溢れていく……

その先に予想されるのは、最初にレイチェルが異邦人の殺害現場を見たのよりも
大きい力……即ち、廃ビルごと大樹と化してしまうような力が……
剣士のその、一振りが始まりとなり解放された。
ミストルテイン”やどりき”が、怒りの種が芽生え活きて伸びるように!
言葉はない。全ては感情に同調し呼応した力が力のため、叩きつけられる……

レイチェルの答えなど知らぬ、聞かぬというばかりに
飲みこみ、消し去るために怒りの力は放たれたのだ。

レイチェル > (……流石にここまでのは、さっぱり予想外だっての!)
感情を剥き出しにさせたまでは良かったが、相手の持つ剣の力は際限なく増幅していくように
感じられた。恐らくは、このビルごと樹木と化してしまうような、そんなレベルの力。
自分が気圧されているのを感じて一つ、大きな呼吸をする。魔剣を握る拳に、改めて力が入る。

(しかし、感情のままに振るわれる力ってのは……)
目の前に迫り来る光。圧倒的な破壊の力。
その本質が、何だかとても醜いもののように感じられた。
それは今まで理由なく、自分の許せないものに対してこの世界で剣を振るってきた自らのそれと、
似通っているように感じられた。それはまるで、過去の自分の写し鏡。
膨大な力の事も相俟って、一瞬目の前がくらりと傾きそうになる。
魔剣を持つ手が緩む。

そうして、光に呑まれて。
落第街のビルは巨大な樹木へと変わり。
世界の異物であるレイチェル・ラムレイは無残に殺される。
巨大な憎悪に、呑まれて。


呑まれて。

呑まれて。

呑まれて。

呑まれて。







――『憎悪』なんかに呑まれて、たまるかよ!

そんな結末を、彼女は認めない。


「――今のオレはもう、てめぇとは違うぜ!」

こちらの言葉を聞く気はないらしい。レイチェルとて、相手に言葉を届ける気はなかった。
ただただ、今度は正真正銘、本心からの言葉を放った。
それはごく自然に、口をついて出たものであった。
激しく滾る怒りの感情は無い。許せないから、と言った漠然とした理由も無い。憎悪も無い。
今此処に振るわれるのは、確かに『この世界』を守ろうとする剣の一撃だ。
その意志で以て、これまでに無く強い、確かな力で柄を握りしめる。

全力で以て、暴れ狂う力を迎え撃つように、自らの魔剣を叩きつける――!

五代 基一郎 > 憎悪が広がる。異邦人への、その途方もない憎悪という感情が溢れて行く。
水を与えた植物が根刺し広がるように、その感情に寄り根を張り広がるように。
故に際限なく広がる。その怒りが、そも剣自身にあればこそ広がり増えていく。
怒りが、溢れていく。レイチェルを呑み込みこの異物を”浄化”せしめんと

萌え盛り

燃え盛り

萌えて盛る

燃えて 盛る

その、憎悪によりて暴れ狂う力に叩きつけられるのは
世界を守らんとする……即ち、レイチェルが出した答え。
かの憎悪が何故生まれたか、考え続ければそれらしいものは出るかもしれない。
だからこそ、故にそのレイチェルの出した”答え”の一撃は
レプリカの聖遺物には響く。魔剣がどうのではなく、有効だとか
効力がとかではなく……響く。

故に、その、大樹たらんとした憎悪という燃え盛る光の幹は砕かれた。
水晶を砕く様に、翆の長剣を砕いたかのように光は音を立てるように砕かれ
霧散していく。光の霧雨のように消えて、風に吹かれて吹雪かれていくかのように………


後に残ったのは、相応に疲弊した廃ビルの屋上と剣を失った剣士のみだった。

■翆の剣士>「参ったな。お蔭さまで覚めちゃいたがここまで出来るようになったとはな。」

覚めた、というようにその剣士に闘志も怒りもない。殺意もなく……
ここでの始まりを思わせる雰囲気だ。
先まであったのは正しく殺意と怒りであったが、それはそう……あの翆の長剣のものであったのだと。
雰囲気で察せられる程度には剣士は平然としているように見えた。

■翆の剣士>「流石に”さぁな”はないぜ。いくら熱しててもそこで覚めてしまう。
       お前もうちょっと受け答えのTPOを考えたほうがいいぞ」

ゆっくりと廃ビルの屋上……その縁に後退しながら語りかける。
レイチェルに問いかけた真剣な問い。挑発ではあったが、それはたしかに真剣にあった問い。
それをはぐらかせばいくら怒り心頭でも、なにかもう”既に答えはある”と思わせるに十分だったのだ。
本当に考えていない者の答えではないと察するに十分だったのだ。
故にあの後、すぐに剣士は意識を切り替えし戻し……その気配を長剣で隠すかのように
なすがままにさせて、こうして離れていたわけであり

■翆の剣士>「さておきお前はもう決まっているわけだ、答えがある。
       答えがあって俺らと戦うわけだから俺らの敵としては十分ってことだな……
       俺らも俺らなりの”答え”があるわけだからな、まぁそういわけだ。

       これからお前との戦い、お前の戦いは果てがなくなるぞ。
       まーがんばってくれ、じゃぁまたなレイチェル・ラムレイ
       報告書にはきちんと書いておくわ」

そして剣士は、その気配を消しながら屋上から後ろ向きのまま飛び降りた。
そのまま気配は消えて、この落第街の中に霧散するように……
それが戦いの終わりとなり……と同時にレイチェルの端末に一通連絡が入った。

お疲れ様、合格と。
それはここに呼び出した人間からのものであり……
一つの、通過点がありそれに君は十分な成果を得たのだと伝えるものだった。

レイチェル > 憎悪の幹が砕かれれば、魔剣を構えたまま立つレイチェルの姿がそこには在った。
彼女の意志を持った瞳は確かに、離れた位置に居る剣士の方を見据えていた。

「TPOだ? はっ。だからやっぱり、てめぇは世話焼きなんだよ。
 こいつはマジで思ってることだから改めて言っておくがな」

クロークに魔剣を仕舞う。とはいえ両の手はクロークの内に滑らせたまま、だ。
と。同時にクロークの内側、魔剣を手にした両腕が、脈動しながら蠢く。
力を受けての傷ではない。内側でのた打つ何かが、彼女に脳天まで貫くような痛みを与える。

(……あのでけぇ力に反応しちまったか。まだお前の出番はねぇよ)
心の内で舌打ちをしながら、レイチェルは深呼吸をして気を落ち着けた。
クロークの内で魔剣を手放す。そうすれば、痛みはすっと引いていった。
両の腕も、普段の様子に戻る。声を落ち着けたまま、レイチェルは語を継いでいく。

「答えが違えば、考えが違えば、ぶつかり合うのは仕方ねーことだ。
 オレも全力で行くぜ」
この剣士にも、この剣士なりの考えがあってこの場に立っている。
百も承知。
レイチェルにも、レイチェルなりの考えがある。
そして彼らの考えはどうしてもぶつかり合わなければならない位置に、互いにあるものなのだ。


「ちっ、やっぱり知ってんじゃねーか、オレの名前……」
以前この場で会った時に『有名人』だの何だのと揶揄していたことから、
そうであろうと思ってはいたが。自らの名を呼びながら消えていく剣士の方を見やり、
溜息をつくレイチェルであった。


そうして。
端末に入った連絡を見やれば、何処へともなく、適当に。
ひらひらと上下に手を振って見せたのであった。

ご案内:「落第街廃ビル群」から五代 基一郎さんが去りました。
ご案内:「落第街廃ビル群」からレイチェルさんが去りました。