2016/08/14 のログ
ご案内:「農業区 - すずなり園」に癒斗さんが現れました。
癒斗 > まだ、朝日が大地を照らしきるには、時間がある。

薄暗い朝方のあぜ道で、収穫や雑草取りをしにきた人々に混じり、癒斗はねこ車を押す。
がらがらと小石を踏みつける音を遠くに聞いて、虫をついばむ鳥が逃げていった。
牧歌的だなあと、空を見上げる。今日もきっと晴れるのだろう。
気温がグンと上がり始める前に、作業を終えたい。欲を言えばちょっとお昼寝もして、海にでも出かけたい。

「がんばりますかー」

担当しているぶどう畑までやってくると、両手を上にやって背伸びをした。

癒斗 > 癒斗は学生である。
商売よりも勉学に傾いてはいるものの、異邦人であるために軍資金は常に一定量をおさえておきたい。
学生街や繁華街などのにぎやかな場所でバイトをかけもちしても良かったが、
どうせならば魔術や魔法、異能が使える場所での働き口は無いかと探してみたところ、この農業地区に落ちついてしまった。

もともと、癒斗の能力はひどく限定的なものだった。
身体からぶどうの香りが漂うとおり、癒斗はぶどうの木だけを自在に操れる。
生やすも成らすも枯らすも、全てイメージする通りだ。

「さあて、まずは虫をぜーんぶ下に落して―――」

タクトを振るように、指先を躍らせる。

癒斗 > 集中する指先をとおして、魔力が箱を作る。
担当している区画全てをできるだけ覆う様に、地図から、眺めた景色から、大きくイメージを膨らませた。

「"風よ"」

朝方とはいえ、今の季節に見合わない冷風が駆け抜ける。

「"私の声を聞いているならば、どうか謡って"」

詠唱と共に風は大地を舐め、ぶどうの枝を揺らす。
魔術で呼び出された冷風に驚き、虫たちはポトポトとそこを落ちていく。
うねうね、くねくねしているものが多い。

「…………鳥たちがみーんな食べちゃえばいいのに……」

癒斗 > 指先の動きで冷風をその場に留め、そのまま地表ぎりぎりまで冷気を滞留させる。
落ちている虫たちの半分以上は、毛の生えたやつらだ。とてもじゃないが、そのままは触りたくない。
軍手の具合を確かめながら、ねこ車に乗せてきた大きなちりとりを運び出す。

「"歌は終わり、その髪をひかれることもなく"」

「"風よ、廻る道に終着が訪れますように"」

ちりとりを出来るだけ前に押し出し、そう唱えると――毛虫や芋虫やらが、凍った状態で転がって来る。
風にまとめられたそれらは、そのままちりとりの中までころころと。

「……あっ、うごいてる……」

しぶとい。凝視するものじゃあなかった。

癒斗 > ちりとりの中身を紙袋へ全ておさめ、口をたたむ。
それをさびた一斗缶に放り込み、火をつけた。ぶどうを蝕む害虫は消毒されねばならない。

「今日はどのくらい収穫できるかなぁ。
 ぶどうの機嫌が良いと嬉しいんだけどなー」

市場が開くまでに、作業場に持っていかなきゃいけないし。
自分の能力でぶどうをたわわに実らせるのはわけないが、この規模の畑にそれを行うと、どうも味が落ちるらしい。
2,3本の木に働きかけるならば極上の実りを手に入れられるのに。

「はさみよーし、かごよーし」

さあ、お金稼ぎの時間だ。

ご案内:「農業区 - すずなり園」から癒斗さんが去りました。