2016/08/17 のログ
ご案内:「風紀委員会本部 レイチェルの個室」にレイチェルさんが現れました。
ご案内:「風紀委員会本部 レイチェルの個室」に加賀智 成臣さんが現れました。
レイチェル > 風紀委員達に加賀智を運ばせたのは、
レイチェルが普段利用している個室だった。
女子寮の部屋と違い、仮眠スペースや休憩スペースとして
使っていることが多いこの部屋であるが、それでもここには
レイチェルの色が強く在る。例えば、デスクやベッドの上に置かれている
ぬいぐるみがそれである。また、部屋の一角には簡易的な射撃訓練スペースも
備え付けてあった。勿論、防音は完璧である。

「さて、いつになったら目覚めるかね……」

自分のベッドの上を占領しているでかい身体を見て肩を竦めながら、
レイチェルは壁を背にして彼を見守っていた。

加賀智 成臣 > 「……………。」

ぱち、と目が開いた。まるで、今まで何事もなかったかのように。
そのままむくりと起き上がる。長身の動きに合わせて、ぎしりとベッドが軋んだ。

「……。ん?」

死んだ金色の目で、ちらちらと辺りの様子を窺う。
路地裏ではない、別の場所で目覚めたのだろうか?ここはどこなのだろう?
あたりを見回せば、射撃スペースに……ぬいぐるみ?

「あ、レイチェルさん。」

壁にもたれるその姿を見て、思い出した。
ということは、ここは風紀委員会の一室だろうか?

レイチェル >  
ベッドからは、いや、部屋全体には女子の甘い香りが立ち込めている。
それから少しばかり、火薬の香り。その二つが何ともアンバランスではあったが、
それこそまさに『レイチェルの個室』であった。

「ようやくお目覚めか。ここは風紀委員会の、オレの部屋。
 他の風紀委員達がお前をここまで運んでくれたんだ。
 お前を嬲ってた奴らは今、下で事情聴取を受けてるところだろう。
 ま、ひとまずリラックスしてくれればいい」

手間かけさせやがって、と。普段なら冗談混じりに言う所であったが、
この男にそのような言葉をかければ、また平謝りさせることになってしまう。
喉元まで出かかったその言葉を飲み込んで、
レイチェルはふっと笑うに留めた。


「……すげぇな、お前の異能。あれだけずたぼろになっても、もうすっかり
 元気そうじゃねぇか」

起き上がったその身体を見て、レイチェルは感心した声をあげる。
半端なダンピールである自分よりも、ずっと優れた再生能力をこの男は
持っているようであった。

加賀智 成臣 > 「…………。えっ、女性の部屋に……
 あああ、すいません……僕なんかが部屋に入ってしまって……
 ああ、ベッドまで貸して頂いて……すみません、僕なんかが……」

いい香りだなぁ、と思いつつも申し訳無さが勝ち、ぺこぺこと謝る。
その謝罪のしかたも卑屈で、どうにもネガティブさが強いようだ。
だが言葉の限り…女性の部屋に入るという行為の価値はある程度わかっている模様。

が、その途中で激しく咳き込み、口を押さえる。
その指の隙間から、赤い血が流れ出た。

「げほっ、げほ……っ。す、ずみま"せ…げっほ、げほ…」

どうやら、突き刺された鉄パイプのせいで喉に血が溜まっていたようだ。
多少落ち着いて、冷静になる。

「けほ、けほ……
 ……そんな良い物じゃありませんよ。僕は早く死にたいのに……」

手に付いた赤い血を眺めながら、少しうんざりしたような口調で語る。

レイチェル > 「別に、オレはそういうの気にしねーから。
 気にしてたら運んでねーからさ」

この部屋は、普段使いしている訳ではない。
あくまでも、仮眠と休憩の為のスペースだ。
女子寮の方に招くとなれば少しばかり躊躇いもあろうが、
風紀委員会の個室であれば、招くことに何の躊躇も彼女の内にはなかった。


「おいおい、大丈夫かよ! いいから、謝る必要はねーって!」

つかつかとベッドまで近づけば、クロークの内からハンカチを取り出して
加賀智に渡す。油断のならない男である。


「……にしても、早く死にたい、か。本当に、そう思ってるのか……?
 死ねば楽になる、とでも?」

確認するように、問いかけるレイチェル。
声に棘はない。柔らかな口調だ。
しかし眼差しは真剣そのものといった色で、加賀智を見つめている。

加賀智 成臣 > 「そ、そうですか……?いやでも、こういうのはこう……
 すいません……」

何がなくとも謝る。謝り癖の付いている男である。
なにせ、人の家に招かれたことなど生まれてこの方一度もない。
招いてくれる間柄の人物も居たことがない。

「……はい、大丈夫です。吐血じゃなくて、喉に血が溜まってただけみたいで……
 ああ大丈夫です大丈夫です、出した血くらい自分で処理しますから……ほんとに……」

そう言って、手についた血を舐め始めた。汚い。


「………。はい。これ以上、色んな人に迷惑かけたくないですし……
 …例えばレイチェルさんが、ですけど……老衰したり、事故にあったり、任務失敗したり……
 ……不吉で、すみません。でも、こう、えーっと……」

どもりながら、言葉を流す。
目はきょろきょろと泳ぎ周り、目線を合わせようとしない。

「……僕以外が死んだり、不幸になったりとか……
 嫌じゃないですか。だから、早めに……」

レイチェル > 「……あー……もしかして、女の部屋に入るの初めてか?
 まぁ、何つーか、気にするなって言ったら気にするな、って。
 そんな反応されてたらこっちが恥ずかしくなってきちまうぜ」

などと、レイチェルは冗談半分で投げかける。


「ほら、じゃあその手もハンカチで拭け。良いから、気にしねーから、ほら」

これでは何だか母親みたいだ、と。
そんなことを思うレイチェルであった。
彼の血を見て、思わず胸がどくり、と動く。そのことは秘めつつ、
会話を続ける。

「誰かの不幸せを見たくないから、死にたいって。
 そういうことか? は、そりゃ優しいこった……」

今度はベッドの近く、加賀智のすぐ横にある壁に背を預けて
腕を組んでいたレイチェルであったが、彼の目が泳いでいることに気がつけば、
ベッドに手をついて、加賀智の目と鼻の先にまで顔を近づける。
真剣な表情だ。目を逸らさないでくれ、と言わんばかりの。

「それで、迷惑をかけたくないから死ぬ?
 迷惑をかけて生きてるのは、お前だけじゃねぇんだぜ。
 オレだって、色んな奴らに迷惑をかけてるし、かけられてる。
 それでも、お互いに力を借り合いつつ生きていって、それで世界は
 回っていってんだ……皆、そんなもんだと、オレは思うぜ」

加賀智 成臣 > 「………はい。」

母親の部屋に入ったこともない加賀智には、多少威力が強すぎたようだ。
謝るな、と言われれば素直に従うが、それでもその顔はものすごく申し訳無さそうである。

「いえ、そんな……ハンカチを汚すわけには……
 あ、あぁ…すみません……」

そう言いながら、謝りつつ手を拭く。謝らなくていい、と先程言われたばかりなのに。
ハンカチはあっという間に真っ赤に染まった。血が染み込み、すぐに赤黒く変わる。

「………………。」

ずい、と体を乗り出すレイチェルの態度と顔に、つい視線を合わせる。
しかし、また少しずつ目線が外れていき、再び泳ぎ始めた。
レイチェル特有の、火薬と女性が入り混じった香りがする。

「…………。生きる意味も見つからないし……
 正直、もう疲れたんです。親も死んで、最初のクラスメイトは大変容で居なくなって。
 常世島に来てみたけど、勉強は難しいし、無能力扱いされればそれだけでいじめられるし。
 別にもう、どうでもいいんですけど……疲れました。」

目を伏せる。悲しそうに、そう呟く。
とうの昔に、生に喜びを感じなくなってしまったのだ。
何をしても死なないというのは、死んでいるということに一番近いのかもしれない。
ならば、いっそ死にたい。これ以上、生の喜びを見失う前に。

レイチェル > 「……いいさ、別にハンカチくらい……って、だから謝るなって。
 オレは気にしねーんだから」

ようやく謝罪の言葉が止まったかと思えば、また謝る言葉が出てくる。
しかし、染み付いてしまったものというのはなかなか拭い去れないものだ。
その都度注意するよりも、もっと彼の根本的な所をどうにかした方が良いの
かもしれない。それはきっと、大変なことなのだろうが。

再び泳ぎだす彼の目。
仕方なくレイチェルは突き出していた身体を引っ込めて、
再び壁へ背を預けることとした。
彼の放つ血の臭いが、胸の内側を掻きむしるような感覚を
微かに覚えながら。

「加賀智……」

彼が語りだした、自身の過去。それを、遮ることなく最後まで聞いてから、
ようやくレイチェルは語を継いだ。

「オレもずっと昔に、親は死んだよ。殺されたんだ、魔族の襲撃でな。
 友達も、一緒だった。故郷に居た人間……オレ以外は、皆死んだよ。
 故郷を襲われた直後は、オレも確かに今のお前と同じような心境だった。
 生きることがただただ辛くて、死んでしまえば皆に会えるかも、
 だなんてそんなことを思って、自分の口に震える銃を向けたことが何度も
 あった。それを、止めてくれたのが、襲撃からオレ一人を救い出してくれた
 師匠だった。こっちの世界に来て師匠とは別れちまったが、それでも
 オレは生きてる。オレと共に居てくれる、この世界の一人一人のお陰で
 な」

空虚な声色であった。落ち込んだそれではなく、かと言って軽くもない、
透明な語りであった。

「だからさ、加賀智。お前、今は友達居ないからそんな風に考えちまう
 のかもしれねぇけどさ……オレでよければ、いくらでも友達になって
 やるよ。お前の生きる意味になれるかどうかは分からねーけど、
 一緒に探してやることくらいは出来るさ。だから、少し考えてみて
 欲しいんだ。ただ死のうとするんじゃなくて、もう少し別の手段を
 ……言った通り、オレに出来る手助けは、するからさ。
 オレは一度、助けられたんだ。今度はオレが、助ける番だ」

腕組みをやめて、体ごと加賀智の方を向けば、レイチェルはそう口にした。

加賀智 成臣 > 「……………………。」

何も言わずに、その言葉を聞いていた。
目は泳ぐのをやめ、少しだけ……ほんの少しだけ、レイチェルを見ていた。
時折、喉に残った血の塊を吐き出したり、それに顔をしかめたりしながら。

「………………。」

レイチェルの語る言葉が終わりを迎えた後、加賀智は口を開く。
何を言おうか迷い、口が少しだけ音を出さずにパクパクと動き……諦めたように首を横に振った。

「すみません。……その、僕なんかに、そんな……辛い、その……過去、というか、思い出、というか……
 あの、生きててよかったって、そういう……思いが、あったり、ですか?」

何を言いたいのか結局まとまらず、どもりながら語る。

「……でも、僕は……クズで、能無しで……頭も悪いし、委員会の業務もまともに……
 顔も悪いし、その、体も弱いし……レイチェルさんの経歴に、傷が付かないかなー、っていうか……
 ……え、えぇと……その、何ですか、あー………。」

吐き出した血が顔に付くのも厭わず、顔を覆う。
肩がかすかに震えていた。

「…………すみません。言いたいことが纏まらなくて。
 ………ああ、駄目だ。駄目だ……」

ねっとりと肌に絡みついた血を気にすることもなく、そのまま押し黙ってしまった。

レイチェル > ずっとずっと、見守っていた。
加賀智が言葉を紡ぐまで、促すようなこともなく、ただただ
見つめながら、レイチェルも黙っていた。

「気にしねぇよ。オレは、辛い過去なんかに縛られねぇ。
 過去の記憶に縛られて今の気持ちまで暗くしちまうだなんて……
 そんなの、クソ喰らえだ。絶対に嫌だね。
 過去が足を引っ張ってきても、オレは前へ前へと歩き続けてみせる。
 ……ってな。今まで、オレの手を引っ張ってくれた人が居たから、
 オレはここまで来られたんだ。一人じゃ、こんな考えにはなれなかった」

だからこそ、加賀智にも歩いて欲しいのだ、と。
その為に手を貸したいのだ、と。
レイチェルはそう付け加えた。
そうして、震えている加賀智の隣にぽふんと座った。

「独りで頑張ろうとするなよ、加賀智。
 ずっとずっと、一緒に居てやることは出来ないかもしれねーけどよ。
 ……少なくとも今は、オレが傍に居てやる。だから――」

――『一緒に、頑張ろうぜ。この世界の皆と』

レイチェルは、最後にそう口にした。
そうして彼の背中を押すように、ぽんと優しく叩いてみせたのだった。

加賀智 成臣 > 「………『一緒に』……?」

赤く濡れた顔に張り付いた指を剥がし、目を覗かせる。
ぱりぱりと赤黒い乾いた血が落ちた。

「………あ、あぁ……」

そうだ。
彼女には、僕の『永遠』は無いのだ。
いつかは彼女も死ぬ。
図書委員の彼女たちも、勇者のような格好の青年も、誰も彼もが。
それでも彼女は、『今』を見据えている。……自分は、どうだろう。

「………よろしくお願いします。」

薄く笑いかける裏で、自己嫌悪をし続けた。
なぜ断らなかったのか。後悔するのは自分なのに。
ぬるま湯につかるのが心地いいのだ。結局、我欲でしか動けていない。

ぽん、と背中を叩かれ、少しだけ泣きそうになった。

ご案内:「風紀委員会本部 レイチェルの個室」からレイチェルさんが去りました。
ご案内:「風紀委員会本部 レイチェルの個室」から加賀智 成臣さんが去りました。