2015/06/16 のログ
楓森焔 > 「くらげ……くらげ……」
 彼女の技は、その多くが思いつきから始まる。
そして、その三分の一ぐらいはなにかの模倣だ。
自然の、動物の、植物の、或いは一定環境下の人間の。
 であるならば、くらげの模倣ぐらいなんということはないはず、である。
「くらげっていうとこう……ぶよぶよしてるだろ? それで、こう……透明なんだよな」
 逆さになったまたイメージを広げていく。
眼下の雲をじっと見つめながら、あれなんかくらげって感じの雲だな、とかアタリをつける。
「雲……風……水……くらげ……」
 自分の身体が柔らかくなっていくイメージ。だが、それだけではいまいちうまくいかない。
 身体をうまく脱力させ、まさにくらげ!とばかりに身体をふにゃふにゃしなくてはならぬ。
「難題だー!」
 数学のテストぐらいの軽い絶望感であった。

楓森焔 > 「…………は、まてよ?」
 数学のテストをといている時頭がぐらぐらする感じ。
あれはふにゃっとする感じに近くないか。
なんというか足元がおぼつかない感じがする気がする。
 そう思いたてば、ごろりとまた身体を転がし半回転。
あぐらの姿勢のまま足に力を込め、ぐっと飛び上がった。
「よおっし! やってみるかぁ!」
 ダン、と力強く大地に立つ。狙うは一発。数学テストの時の自分への擬態――。

楓森焔 >  目を閉じて意識を集中させる。
目の前には机が広がっていて、周囲からはカリカリと黒鉛を削る音が響いてくるイメージ。
せわしなく、急かすように響く時計の音。時折聞こえる数学担当の咳払い。
 手元には大難敵の因数分解。
意味の分からぬ数字とアルファベットだかなんだかの羅列が彼女に頭に乱舞する。
 解け、解け、と急かす自分の身体。これを逃せば補修決定だ。
「(わ、わけわからねえ……!)」
 そのイメージは正確だ。正にまったくもって理解不能。目の前の数式が異次元の言葉に思える。

 ――そんなイメージが展開される中、徐々に徐々に彼女の頭は揺れていた。
心なし、体温と鼓動が高まっているようにも感じる。
順調だ。頭はぼーっとしてきたし、いい感じにごちゃごちゃと理屈ができていく気がする。

楓森焔 > 「(おお、おおお――)」
 意識内の時間が一気に加速していく。迫るテストの終了時間。猛烈な焦りとともに手を動かしていく。
 ドッドッドッドッ。
 そんなイメージの中、心臓が高鳴り力がこもり、握る拳が音を立てた。
「あと一問――!」
 そんな叫びを上げながら、大きく一歩前へ踏み出した。
 同時、頭のなかに響くチャイムの音。
「だ、だめだったーーーー!!!」
 イメージの中で机に突っ伏す自分が、現実の自分と重なる。
がくりと落ちた身体から、滑りこむような下段突き――。

「見、見えた! 新技!」

 力を限界まで高めた後、それを体勢を崩しながら開放する。
俺流・数学崩し。イメージの中のテストは崩せていないがここに開眼。

「って! これじゃねええええ!!」

 頭を抱えた。

楓森焔 > 「う、うう。ダメだな。いんすぴれーしょんが足りない……町へ出て、技の師匠となるものを探しに行くか……」

 肩を落として歩き出す。俺流を極める道はまだまだ遠い。

ご案内:「流派・俺流道場」から楓森焔さんが去りました。
ご案内:「常世学園電脳領域」に《銀の鍵》さんが現れました。
《銀の鍵》 > ――没入する。

格子状に形作られた電脳の世界の中が視界の中に生み出されていく。

――没入する。

マトリクスが現れる。この常世島に張り巡らされたネットワーク。
その中に没入する。電脳世界へ、仮想でありながら一つの現実である疑似世界へとダイブする。

目を開けば、そこには仮想現実が広がっていた。
常世島が電子的に再現されたような世界。といってもそれはこの電脳世界の一つの姿でしかない。

橿原眞人――否、《銀の鍵》はこの仮想現実の世界に降り立った。
場所は、電脳世界における学園地区であろうか。

《銀の鍵》 > 「……久しぶりだな。この感覚は」

最近、遊びすぎていたと《銀の鍵》は思う。
この学園の電脳領域に消えた“師匠”を探すことが《銀の鍵》の目的だったはずだ。
だが、《銀の鍵》はその情報を何も得れていなかった。
常世財団のコンピューターに侵入して“師匠”の手掛かりを探そうとすれども、彼らの《氷》に阻まれるのだ。
全てのセキュリティを突破できる。全ての門を開くはずの《銀の鍵》の力でさえ――それは突破できなかった。

故に、《銀の鍵》はこうして地道に電脳領域に没入して、手掛かりを探すほかなかった。

《銀の鍵》 > ここは電脳領域である。別に現実の姿のままに自身を構成する必要などない。
だが、《銀の鍵》は自分のほとんどを、現実の自分、橿原眞人と同じように構成していた。
電脳世界の技術は向上した。自分を少女の姿に変えることもできるだろう。
しかし、その姿でこの世界に没入し続ければ、いずれ現実との齟齬が生まれてくる。
ハッカーの仲間には現実世界と完全に違う姿で電脳世界に現れる者もいたが、《銀の鍵》はそうはしなかった。
姿を隠すにはそれが一番だが、現実の自分を保てなくなる可能性がある。
そのためであった。

「……財団の領域に進むにはまだ手段が足りない。あそこには師匠のデータもあるはずだが、今はあまりに危険だ」

《銀の鍵》は思索する。
今は電脳世界の学園領域、現実を再現した校舎群の中に《銀の鍵》はいた。とはいえ、その見た目はかなり電子的だ。
時刻は深夜。人もほとんどいない。

《銀の鍵》 > 「……あいつは、電脳世界にいても俺を探せるんだろうか」

先日、シュリクという機械人形に頼まれて、管理権限者――マスターとなった。
彼女曰く、遺伝子情報も登録されたということで眞人の居場所はいつでもわかるのだそうだ。
だが、今眞人は電脳世界にいる。その体(ボディ)は、現実世界のセーフハウスの一つにある。
今、眞人はそのセーフハウスの一つの機器を使い、《銀の鍵》として電脳世界に没入していたのだ。
意識は電脳世界にある。だが体は現実世界だ。
恐らくは電脳世界までは追えまい――《銀の鍵》はそう判断した。

《銀の鍵》 > 「この世界が俺の本領発揮の場所だ。――行くか。調査開始だ」

本来ならばわざわざ電脳世界に没入する必要はない。21世紀の初頭のように、パソコンの前でハッキングを行うだけでも十分だ。
深く情報を探れる分、危険も多いためだ。だが、《銀の鍵》は敢えて没入する。

「……師匠がいるはずの《ルルイエ領域》……だが、おそらくは普通じゃ辿りつけねえ」
改造したプログラムの一つを起動する。
そうすれば、《銀の鍵》のサイバーレッグが光を放つ。
本来、電脳世界にはセキュリティがある。電脳世界とはいえ、早々の無茶は出来ない。
違反行為に当たるようなことは早々に出来ない。だが、《銀の鍵》はハッカーである。
自分の周囲の領域をハッキングし、禁止行為を可能にすることは容易かった。

「行くぞ……!」

電脳世界で《銀の鍵》は駆け出す。それはかなりのスピードだった。
普通では出すことのできないスピード。まるで空をかけているようだ。
人気のない電脳領域を、《銀の鍵》は駆け抜けていく。

「俺の情報は残したくない。消すのも面倒だ。
 とにかく、今は――」

ご案内:「常世学園電脳領域」にルナさんが現れました。
ルナ > 電脳領域の中に新しい反応がひとつ。
隠されたものではない。否、隠すつもりもない。

干渉。

誰かが入り込んでいる。

《銀の鍵》 > ひとまず、直接財団のコンピューターにハッキング、侵入するのは保留だ、そう《銀の鍵》は判断した。
今はできることをするしかない。《ルルイエ領域》については当然ながら学園の公式データーベースにその情報はなかった。
研究区の研究所などにもハッキングを試みたものの、大した情報はなかった、
とにかく、妖しい所を探してみるほかなかった。昨日は住宅街を当たったが――

「――何だ?」

自分の視界の周りに、いくつものモニターを出現させ、周囲の様子を探っていた《銀の鍵》だったが、不意に何かの反応を検知した。
何かがこの領域に干渉してきている。
隠すつもりはさらさらないようだ。《銀の鍵》は現在偽のIDで没入しているため、痕跡は大して残りはしないものの、人に見られたくはない。
瞬時に《銀の鍵》の顔をモザイクめいたものが覆い、それは仮面となった。
ひとまず顔を隠すためのものだ。
そして、《銀の鍵》は脚を止め、あたりを伺う。

ルナ > 電脳空間に干渉している誰かがいる。
こちらは空間まで没入しているわけではなく、端末から
ハッキングしているようだ。

ただ順番に情報を集めては、必要ないと判断し次の情報を探す。
機械のように正確で恐ろしく早い作業。

ふと、《銀の鍵》の存在に気づいたのか情報の動きが止まる。

《銀の鍵》 > 「……ハッキングか? それにしては稚拙すぎる。バレバレだぞ」

プログラムを起動する。
対《氷》用のプログラムの一つだ。《銀の鍵》の異能はネットワーク上でも発現できるが、異能は反応を検知されると厄介だ。
今はまだ使えない。相手の正体もぼんやりとしている。故にいまはプログラムで何とかするしかない。《電子魔術》もまだ未完成だ。
相手はどうも没入しているわけではないようだが……?

「速い――とんでもない演算能力だ……何をする気だ?」

ハッキングをしていた者が、《銀の鍵》に気が付いた。
まだ《銀の鍵》は武器を顕現させはしない。様子見だ。
こちらが深くかかわる必要はない。危険性がないのならすぐにこの場を後にすればいいだけのこと。

ルナ > 「こんばんは。」

突然、前ぶれなく目の前に誰かが現れる。
隠すつもりもく情報を曝け出す。

ハッキングしていた人物がいつの間にか没入して目の前にいる。

《銀の鍵》 > 「――馬鹿な!?」

思わず声を上げた。
外からハッキングしていたはずの者がこんなにもすぐに没入してくるなど考えられない。
というより、殆んど肉体をデータ化し、存在ごと没入したと思われるほどだ。
そんなことをできるのは、眞人が知る中で一人しかいない。いないはずだった。
《電子魔術師》――テクノマンサーと呼ばれた、自らの師匠ぐらいなものだ。
彼女は、どういう原理かわからないが、存在ごと電脳世界に没入できた。
故にこそ、電子の妖精のようなものだったのだが――目の前の存在も、それを成し得たというのか。

「……あんた、何者だ? ハッキングしてる割に隠そうともしねえ。まるきり初心者だ」
いつでも《氷》用のプログラムは起動できる。準備は万全だ。

ルナ > 「ん……すこし、つかれてるから……隠れるのが、面倒。」

何者か、という問いは無視して後半にだけ答える。
少なくとも、発言はハッカーらしくない。

「探し物してたら、面白そうなひとをみつけたから、気晴らし。」

事も無げに言う。

《銀の鍵》 > 「……チッ、わけのわからねえのに絡まれちまったな」

《銀の鍵》は悪態をつく。この領域なら、電脳世界なら現実世界と比べて自分にかなりの利がある。
だが、目の前の相手はあまりに不可解だ。《銀の鍵》からすれば意味不明と言っていい。
ハッキングをした割りには何も情報を隠そうとしていない。
しかも気晴らしなのだという。――理解ができない。

「ふざけたことを……それで、探しものって何を探してるんだ?」

相手の電脳に直接ハッキングもできなくはない。だがそれには相手の情報が不足している。
少女の姿をしているが、これが本当の姿かもわからない。《銀の鍵》は自身のことに話題が向かないように、少女のいう探し物に話を向ける。

ルナ > 「金髪の子。白い服着ててずっと笑ってる……
無理強いとか、そういうのはできない、けど。
偶然でも、見つけたら教えてほしい。

代わりに、電脳系のお仕事なら、多少は手伝えるかもしれない。」

質問に答えているようにも聞こえるし、
半ば一方的な要求のようにも聞こえる。

嘘は言っていない。

《銀の鍵》 > 「……そんな奴は見てねえな。この電脳世界にいるのか?
 ふん……まあいい。見つけたら教えてやるよ。」

《銀の鍵》は少女の欲求にそう答えた。
下手に刺激をしたくはなかったのだ。ここを早急に去れば問題もなさそうだが、相手は彼の《電子魔術師》に近しいことをできるようだ。
あまりこちらの手をさらけ出したくはなかった。

「……名乗りもしない奴に、仕事を頼もうと思わねえな。
 俺は……《クラネス》だ。
 話はそれからだぜ、お嬢ちゃん」

偽名である。元々今使っているアカウントは偽のものだ。それを名乗ってもよかったのだが、急遽検索して出てきた名前を《銀の鍵》は名乗った。

ルナ > 「偽名を使わなくても嫌なら名乗らなくていい。」

見抜く、というよりは知っていたかのような反応。

「私はルナ。偽名でもなんでもないし、外でも通じる。」

「あなたに頼んだのは、『貴方に近しい人形』があの子を見たことがあるから。」

「もちろん、ハッカーの腕と情報収集能力も。」

「あの子はここにいるかもしれないし外かもしれない。」

「わたしは探す自信がない。」

「断ってもいい。でも、お願いだけはしたい。」

丁寧に、頭を下げる。

《銀の鍵》 > (……どうなってるんだ? 何なんだこいつは!?)

サイバーマスクの下で《銀の鍵》は顔をしかめる。
自分の情報など《銀の鍵》は何も出していない。
今は橿原眞人ではない。《銀の鍵》だ。さらに言えば、今用いているアカウントは偽の者だ。
ちゃんと調べればこの世のどこにも存在しない人間であることがわかるはずだ。
全ては秘匿している。
そのはずなのに、目の前の少女は《銀の鍵》どころか、橿原眞人の事まで知っているようだ。
『貴方に近しい人形』――思い当たるのはシュリクだ。
それすらも見抜いているとは、警戒心が否応に高まるのも無理はない。
嘘は言っていないように思える――だが、ここは電脳世界だ。
いくらでも、自分は偽れる。

「……答えてくれなさそうだが、何でそこまで知っている?
 どうせはぐらかしても無駄だろうから今更隠しはしねえが」

少女は頭を下げた。
《銀の鍵》は舌打ちする。自分からは何もしてないのに、少女に頭を下げさせてしまう場面が多い。
先日はシュリク、次はこのルナという少女だ。彼女がいうことが正しければ、彼女は現実でもこの姿なのだろう。
少女に頭を下げさせてしまうのは、どうにも気まずい。居所が悪い。

「……俺は《仕事》は受けない性質なんだがね」
はあ、とため息を吐く。
「……わかった。俺には目的があるから、あんたの頼みを優先的に調査はできねえ。
 だがいつもここには潜ってる。そのときに何か情報を見つけられることもあるだろう。 そのときは……あんたに教えるさ」

ルナ > 「私の、『異能』。知りたくなくても、知りたくないほど、知ってしまう。」

ぽつり、呟く。

「『仕事』じゃなくて、『お願い』。だから、失敗しても無視してもかまわない。」

瞳が揺れる。藁にもすがる思い。

「つりあわない頼みでも、聞く覚悟はある。」

マスクに隠れた顔は見えない。
それでも目を合わせるように、努めて、願う。

「勝手だってことも、わかってる。」

「用事の邪魔して、ごめんなさい。」

《銀の鍵》 > 「……なんだ、その滅茶苦茶な異能は。
 その力と、この領域への直接介入。
 そんなことができるなら、すぐにでも探し物は見つかりそうだが……」

少女の言葉には何かしらの苦痛のようなものが感じられた。
知りたくないほど、知ってしまうのだという。《銀の鍵》には想像もできない世界だ。
《銀の鍵》は知りたいからこそ、もがいているのに。

「……そうかよ」

《銀の鍵》はそれ以上聞かなかった。その視線が痛かった。
故にそっと顔を背ける。

「事情はよく知らねえが、わかった、わかったよ。だからそんな顔をしないでくれ。
 お前の願いは聞いたよ。わかることがあったら俺も教える。
 だから……今日俺に会ったことは誰にも言わないでくれ。
 あんたが知ってしまった俺の正体も、俺の過去も、全て。
 黙っていてくれ。それが、条件だ」

顔を背けながらそう言った。全て知られているなら先程名乗った偽名など阿呆のようなものだ。
だが、少女からは純粋さが感じられる。たとえ電子で形作られたものだとしても。
電子の世界で生き生きと、まるで生きているように見える少女は、“師匠”を思い出してしまう。
願いを承諾したのはそれも、あったのかもしれない。

「……俺も、人を探している。この電脳世界に消えた人だ。
 《電子魔術師》……《ルルイエ領域》……そう言ったワード。
 そういうことをもし知りえたら、教えてくれ。
 それが第二の条件だ」

ルナ > 少女は、頷く。
小さく、しかし確かに頷いた。

「約束、する。誰にも言わない。」

「もし、なにか分かったら教える。」

最後にひとつ礼をして少女は消える。
『電脳世界に彼女が存在していた全ての痕跡』ごとまるごと。

今の会話がなければ、電脳世界は何事もなかったように
どこまでもいつもどおりだった。

ご案内:「常世学園電脳領域」からルナさんが去りました。
《銀の鍵》 > 「……まるで、電脳世界の妖怪、《怪異》だな。
 あれじゃあまるで“師匠”だ。
 電脳世界を自在に駆け回る電子の魔術師。
 ……何者だったんだ、ほんとに」

電脳世界から消えていく少女を見ながら呟く。
どうにも、彼女が消えたことによって、電脳世界で先ほどの少女が存在していたという痕跡全てが消えてしまったらしい。
《銀の鍵》のデータベースにも、彼女との邂逅記録は残されていなかった。

「なるほど。ハッキングを隠す必要もねえってか。羨ましい限りだな」

どんな原理かは全く分からない。
まるで師匠の《電子魔術》のようだ。
ハッキングのやり方がかなり稚拙だったのも、本来は電脳世界を主体とする存在ではなかったのだろうと彼は思う。
だが、今は想像したとて詮無き事だ。

《銀の鍵》 > 「俺も細工せずに済んだから、それはそれでよかったけどな」

あの少女が何者なのか、結局はよくわからなかった。
人間なのかどうかすらわからない。謎だらけだ。
恐らくあの能力をもってすれば、《銀の鍵》が欲しがっている情報は手に入るかもしれない。
だが、元より期待はしていない。当てにはしていない。たとえ自分よりも情報を効率よく集められたとしてもだ。
情報を集められるのは、少女にとって苦痛のようでもあった。
そして何より、《銀の鍵》は自分が見たものこそを信じる男だった。

「……師匠は俺が助ける。あの事件の真実も俺が明らかにする。
 人の力なんて、元より借りねえよ」

《銀の鍵》は視線を《大電脳図書館》に移す。

《銀の鍵》 > 《大電脳図書館》――またの名を、《サイバーアレクサンドリア大図書館》とも呼ばれる電脳世界の図書館の一つだ。

「考えてみれば、一々現実の図書館に入り浸る必要もなかったわけだ。
 電子化されている情報があるなら、それを使えばいいわけだ。
 ……そして、あそこには秘密領域がある」

彼方に聳え立つ《大電脳図書館》を見る。
以前は《氷》の妨害があったために調査しきれなかったが、あそこには隠された領域があるのは調べがついていた。
あそこに秘匿されているデータはなにか――それを確かめるのが、今回の《銀の鍵》の狙いだった。

《銀の鍵》 > 「……変な雰囲気になっちまったな。
 まあいい。やることは同じだ。
 さっさとやっちまおう」

「――プログラム起動」

プログラムを起動する。それは、ステルスプログラム。
自身の姿を隠すためのプログラムだ。欠点としては、長時間使用を続けると電脳にかなりの負荷がかかる。
故に、対象に近づいてからでしか使えない。

「……今日こそ、師匠に繋がる情報を見つけてやる」

仮面の下でそう呟くと、再びサイバーレッグのプログラムを起動し、《銀の鍵》はかけて行った。

――《大電脳図書館》へ。

ご案内:「常世学園電脳領域」から《銀の鍵》さんが去りました。