2015/07/07 のログ
ご案内:「地下超大規模用水路」にルフス・ドラコさんが現れました。
ルフス・ドラコ > 地下。
落第街や転移荒野が地上の果てならば、ここが地下の果てだろう。
都市の底にしてはゴミも見当たらないが、至る所の水たまりが下水の臭いを放つ。

ここが、常世島地下超大規模用水路。
時に常世島を襲う超大型台風に備えるための施設であり、
高さは20m、広さは常世島の川の全てが流れ込んでも耐えきると見込まれている。
視界内には、地上の重みと、地下水の突き上げ…どちらにも耐えられるよう、
まるで神殿のように数多の柱が立ち並び、
実に希少なこの場所を訪れる者達へに畏敬の念を与える。
今この空間に注水が始まったとしても、それは、
この水底に自分を捧げるために必要なことなのだと―

果たして。今ここにいる二者にそのような思いが通じるかどうかは甚だ疑問であったが。
「ええ、目標を発見しました……独立機動兵器、仮称アピス。」
「これより対象を捕獲します。」
片や全高15mに届こうかという、自立行動する人型機動兵器。
片や、今まさにその兵器を身一つで拿捕しようとする赤龍…ルフス・ドラコである。

ルフス・ドラコ > ルフスが機動兵器を捕獲するはめになった理由は勿論度重なる違約金にある。
ギルドにおいて違約金とはほぼ隠蔽工作費のことを指し、
先の落第街での失敗についての工作は担当の風紀・公安委員を数名買収するだけで済んだが、
学生通りでの失敗についてはより大規模な工作が必要と見られていた。
偽装幻術の簪によって初対面の者や監視カメラなんかは偽りの姿を目撃していたはずであり、
火術の使用者など幾らでもいるのだからもう少し安く収まるはずだったのだが。
何分知り合いが居たのがまずかった。取り調べに出頭していないことを願うばかりである。

ともかく。至急大金を必要としたルフスは、現状の最高額の依頼を受注してこの地を訪れていた。
この用水路はギルドにとっても必要な通用口でもあるのだ。
こんなところに突然出現した機動兵器など、邪魔で仕方ない。
それはそれとして、その期待に秘めた未知の技術も当然、欲しくて仕方ない――

結果として、実に強欲なこの「捕獲依頼」が提示されたわけである。
捕獲した機動兵器を転移させるための札も無償支給されている。
この大きさの物体を、転移術についてはかじった程度の人間に無事転移させるような魔具である、よっぽど売ろうかと思ったほどだ。

ルフス・ドラコ > であればこそ、慎重に事は進めなければならない。
破壊してしまった場合の報酬については規定がないのである。
とんでもなく足元を見られていた。

そこで慎重策をとり、柱の陰を飛び移りながら背面に回り込もうとしていたルフスに対して、
それまで擱座したかのごとく停止していた機動兵器アピスは突如として眼部に碧色の光を灯して起動。
ルフスを肩部前面の機銃で以って迎撃に出た。
戦端は切って落とされた。

盾にした柱を粉砕する機銃の威力は単に口径に依存するものではない。
「…なるほど。これが質量偏重弾頭ですか、そちらの部隊がなすすべなく壊滅するのもわかりますね」
通信先へと皮肉を返しながら、ルフスは更に加速する。
多大な圧力を弾倉内部で加えて生成された弾丸はその密度故に、着弾後に小さなブラックホールを形成する。
それに足を取られれば、
もはや連続発射していると認識することは一切不可能なほどの密度で放たれた機銃弾にズタズタにされるのみならず…
「そしてこれが、超々初速発現弾頭ですか…!」
アピスの口径を絞り込んだ左肩部砲塔から放たれる一撃は、着弾地点において本来の戦艦主砲並みの質量を発現しその一切を破砕する!
「まだ……間に合わせます!」
ディアンドルの裾を引き裂いた弾頭が本来の威力を発揮する前に蹴り飛ばし、そのまま更にルフスは敵機動兵器へと接近。
蹴り飛ばされた弾頭は柱を五六本はまとめて粉砕しながら天井に直撃。常世島全体を揺るがすほどの振動をもたらした。
彼我の距離は既にルフスの一足一刀…つまり、龍腕が届くまであと少しとなりつつあった。

ルフス・ドラコ > 「さて、ここからどうします機動兵器とやら、それとも会敵距離が近かったとでも?」
ルフスは踏み込んでからの全力打撃の構え。自立機動兵器とやらも大規模なショックを受ければ止まるかもしれない。テレビと同じである。
対して人型の上半身にホバークラフトのような下半身を持つ機動兵器はその軽快な機動性能を活かして後退、
右肩部ミサイルポッドを開放すると発射タイミングをずらして高誘導ミサイルを連続発射。

ルフスのようなほぼ人型、機動兵器の十分の一の大きさの目標であっても…
ミサイルは射手の意思を忠実に代行し、発射タイミングとおなじ感覚でルフスに降り注いだ。
一陣目を加速で躱し二陣目は乗り越えて走る。だが三陣目は三方向から囲い込むように迫り…
苦境に立たされたルフスが羽ばたいて上へ逃れると、猟犬のごとく追いすがる。
身を捻っても無駄。その程度でかわせるような誘導性ではない。猟犬が獲物を認識し、信管が起動する。
爆炎が空中に花開き、少女は完全にその中に飲み込まれた…

いや。爆炎は円に開くことはなかった。どこか歪に、アピスに背を向けて開く焔の花達。
赤龍の炎の支配が一瞬早かった。その爆発力は全て前進する力へと変わり、
ついに、ルフスはアピスの下半身、ホバークラフト部分へと龍腕の爪を立てた。これで機動性は絶たれただろう。
「ようやく捕まえましたよ、これで三度目の失敗とはおさらば、です」

だがしかしルフスが言い終えるよりも早く。人型機動兵器は下半身のホバークラフト部…
否、ウェポンマウントから抜刀していた。

ルフス・ドラコ > アピスが抜き放ったきらめく刃は薄く輪郭を震わせている……振動剣だ。
反射的に龍の腕を消す一瞬の間に、鱗をバターか何かのように切り裂いている。
その傷はルフス自身にも反映され、袖から肘までが切り上げられた格好となった。

「いいじゃないですか、どのみち…袖まくりは必要でした」
ルフスとてなんの犠牲もなくこの機動兵器を攻略できるとは思っていない。
殴り合いの段階に来るまでに負った負傷は、左足に軽傷、右手のこの傷は血こそ出るがそう深い傷ではない。
つまりほぼ無傷。そう結論に達すると、再び龍の腕を伸ばした。
機動兵器もまた、二刀で持ってこれを迎え撃つ。

だがしかし。
十分の一ほど、その機動兵器の手ほどの大きさしかない少女が、
振動剣の柄を打ち、腕をいなし、その大振りな長剣を無効化しながらダメージを積み重ねていく。
ルフスの龍の腕はタイムラグなく消し去ることができるが、アピスはそうは行かない。
となれば必然的に標的は地面にいる小さな少女になるが、それでは遠いのである。
振ろうが、突こうが、少女が剣を弾き飛ばすほどの勢いで腕を振る方が早い。

そして度重なる妨害によって同じくダメージを受けていた腕関節部が、ついにその機能を十全に果たさなくなれば。
「これで……終わりに!」
相手の一拍遅れた防御を突き通し、頭部へと赤い閃光をまとった一撃が突き刺さる。

しかし。装甲板を割砕かれ、火花さえ飛ばす機動兵器の顔面で、瞳が赤く色を変えた。
機体下部、ホバークラフト兼ウェポンマウント部内の火薬が一斉に炸裂。
ルフスが顔を手で覆い、この用水路内をなめ尽くさん勢いで広がった火勢を支配して退けた後。
アピスはそこに居なかった。残されたのは完全に破壊されたホバークラフトのみ。
「自爆…ですか…?」
さ、っとルフスの顔から血の気が引く。だが次の瞬間には龍の右手を掲げて"何か"を受け止めていた。
「これは…発現弾頭ッ!?」
展開した質量が、少女ごと押しつぶさんと床を大きく割砕いた。

ご案内:「地下超大規模用水路」からルフス・ドラコさんが去りました。
ご案内:「地下大規模用水路~竪穴~」にルフス・ドラコさんが現れました。
ルフス・ドラコ > 「……ごほっ、げほっ……ずいぶん…吹っ飛ばされましたね」
ルフスの服装はもはやボロ雑巾に近い。出血した太ももは剥き出しだが、すぐに血が覆い隠す。
右腕の傷は再び開き、今度は握るのも開くのもおぼつかない。

機動兵器は空に逃げていた。
ルフスが転がってきた竪穴の上で、何によって飛んでいるのやらただ静かに、赤い眼部を向けてルフスを見ている。
この退路を確保した上で、火薬を一斉に破棄し、上空から再び攻撃を仕掛けたのだ。
火花を散らす頭部、
ひしゃげた腕関節は長剣を保持できなかったらしく竪穴に横に突き刺しているし、
先ほどまでホバークラフトの中に隠れていた人型の足も無傷ではない。
左肩部前面の機関砲もルフスとの白兵戦の最中で破損しており、その後ろに据えられていたミサイルポッドは有効でなかったからか廃棄済み。
……残る武装といえば肩部砲塔のみ。その照準が、ルフスに定められていた。

「……聞こえますか」
アピスの思考は未だ不明である。
転送されて以来この用水路の中に入ったものを掃討するのみであったが、
この竪穴まで押し込まれたのは初のことだ。

「……聞こえてるんでしょう」
肩部砲塔は砲身も未だ無事に見え、先ほどの砲撃から言えば、
もう一発まともに食らえばルフスは跡も残らない。
つまり一攫千金を夢見た多くの二級学生と同じ道をたどる。

かすかな音がした。砲塔内から聞こえる、かすかな音。
以前の二射の際は気づけ無いほど、かすかな……
弾薬の形成音。
機銃と同じく弾薬を形成、発射する完全自立型の機動兵器にとって、
攻撃していない時間というのは、補給の時間なのだ。

たとえ飛べたとしたところで、こうまで頭を抑えられては機動性に劣るルフスに勝つ手段はない。
腕も、足も、この位置からは届かない。
……だから、ルフスはもう一度虚空に呼びかけた。
首元、かすかに残るボロ布に隠された通信機がようやく反応を返す。

ルフス・ドラコ > 空には――、遠い空には、一筋の白い輝きが見える。
「こちらロッソ……より…スターゲイザーへ」

スターゲイザー。現実には存在しない"ギルド"、
その学生相互扶助サイト運営の責任者、
全てのハッキングに対して脳を焼き切ることで返礼してきた、反財閥企業連合の最悪の首輪付きの切り札。

「"ミルキーウェイが見えた"」
今夜だけ星空を走る、鉄道委員会謹製の特別列車ミルキーウェイ。
そのコンパートメントの一つに積み込まれた中継装置はスターゲイザーのPCとすでに同調させてある。
そしてルフスの合図と同時にハッキングが開始され、二秒と掛けずに全ては完了した。
機動兵器の眼部が、真っ青に染まる。……警戒態勢の解除。

「あぁ、まったく、本当に…
……この手を使わなければ、もう少し儲かったんですが」
ごろりと転がって星空をただ見上げて寝転ぶ。
お世辞にもあたりに漂う下水臭のせいで居心地は良くなくて、
全くお似合いだとルフスは少し口角を上げた。

ご案内:「地下大規模用水路~竪穴~」からルフス・ドラコさんが去りました。