2015/07/12 のログ
ご案内:「無名の霧」に『別の貌』さんが現れました。
ご案内:「無名の霧」に鳴鳴さんが現れました。
『別の貌』 > あらゆる色をした霧の中、黒い男が腰掛けている。
霧に覆われれた体は学ランのようなものを着ており、肌は全て漆黒。
暗黒の穴が開いたようなそこに、三つの瞳だけが燃えて浮かんでいる。

上も下も右も左もなく、上も下も右も左もある場所で、
どこといえぬ霧そのものに尻を載せ、
霧そのものに足をつけ、
霧そのものの中で佇んでいる。

何かを待っている。
何か。
それは待つ以上は自分でなく、
そして間違いなく自分である。

鳴鳴 > あらゆる色を内包した霧の中。
この宇宙のいかなるスペクトルとも異なる光が走る空間。
その空間に一つの巨大な「門」が現れる。アーチ状の、奇怪な文様の施された門だ。
その扉が開き、童女が現れる。
褐色の肌に黒い髪、赤い瞳、額には第三の瞳が輝いている。
貌や体の半分は砕け散り、黒いコールタールのようなものが溢れていた。
混沌だ。

「……やあ、僕じゃないか」
童女は、門の先に居た貌の無い男に話しかける。無名の霧の中に腰かける男に声をかける。
それは自分ではなく、そして間違いなく自分である男だった。

「今回の僕は、こういう結末になったわけだ。君/僕も見ていたかい?」

『別の貌』 > やってきた相手/自分を見つけると、腰掛けたままそちら/こちら/あちら/どちらを向いた。
二三日ぶりに会った同級生に対するようなそれで、軽く頷く。

「ああ、勿論見ていた。俺/私/君/彼のことは。
いいざまだったな。ハハアハハハアハア。アレに燃やされてしまったか。傑作だったよ」

のっぺりした黒から口が開いて、なんの遠慮もなく声を上げて笑う。
目は爛々と輝いたまま、口だけがゲタゲタゲタと上下する。

ひとしきり笑ったあと、相手の崩れた体を燃える瞳が舐めた。

「えらく“零した”な」

鳴鳴 > 「ああ、とても楽しかったよ! 僕/私/君/彼はとっても楽しかったさ!
 まさか、本当にあいつを呼んでくるとはね。予想外だったよ」

げらげら、げらげらと相手と自分を嗤う。
いくつも存在する混沌の化身の一つ。目の前の存在と童女は同じにして、違う存在だ。
黒い男と同じように、童女は嗤う。自分を相手を宇宙を主を。

「僕はとても満足しているよ。僕は彼らに焼かれ、負けた。
 僕が大事にしていた子も取られてしまったよ。とても残念だ/嬉しいね」

崩れた体を燃える瞳が見る。それを受けて、口角を吊り上げる。

「ああ、小さな小さな人間たちが、僕を滅ぼしたんだ。
 ここまで零れてしまったよ。呼んできた他の僕も、多くが消えた」

童女は一歩二歩、あるいは無限の距離を歩いて、霧の中に佇む男に近づき、それに触れようとする。

「……君も、そうなればよかったのに。あは、あハ、アハハハ!!」

『別の貌』 > 「喜ばしくも/残念にも、炎は去った。
 あの忌々しく/愛おしい呼び手の先が楽しみだ。ハハハアハアハハハハアハハアア」

一緒に。
別々に。
霧に鳴り渡る不快な歌のごとき笑い声。

「そうだな、かなりの数だった。全く、少なすぎたな。
 ハハハ、アハ、ハハハハハハアハハハハ。
 僅かな/多くの俺/私/君/彼が零れたままあの場所に残った。
 生きている炎の焼いた……その燃え滓が」

無限に近い場所に離れ、無限に遠い場所へと寄った自分/相手が伸ばし引っ込めた、その手を右上下左から取った。

「ところで分かっていると思うが一つ面白い/つまらないことを言わなければならない」

どろりと、無い貌が崩れた。

「この貌もまた人の狂気の檻の中にあるのでな」

見える。
色のない空間が剥がれ落ちて、その内側にもはや失われた肌色が浮かんでいるのが。
ボロボロと崩れた混沌の半面には、緑の眼を持つ人の貌がある。

鳴鳴 > 「……ほう? 面白い/つまらないこと?」

手を取られると嬉しそうに声を上げる。
そして、混沌の言葉を聞く。
無貌が崩れた。

「はは、あは、アハハハ! そう、そうだった。
 あの時に、そうなったんだね。門と出会ってしまった彼が、《電子魔術師》の力によって、門と君と僕と、一つになったんだ。
 君は今、僕は今、彼の中にあるんだ!」

緑の眼を持つ人の貌があった。鳴鳴は彼を知っている。
二年前のあの時――この人間の中に、門が封じられたことを。

「ひひあ、ひゃはは! なんて面白いんだ! 僕たちは星辰の下で、自由に駆けまわれるはずなのに!
 君も僕も、囚われている!
 ……じゃあ、君はどうするんだ? 僕はもう一度「門」を解放させようとは思ったけれど。
 やめたんだ。面白い玩具が僕の傍にいてくれたしね。それに、あの島には君がいた」

混沌の半面にある、その人間の貌に笑いかける。

「……もうほとんど彼は君じゃないのかい?
 僕としては、君が失敗してくれることを望んでいるけれど。僕のように。
 いや、いや。僕たちはただ享楽を成すだけだ。目的なんてないのかもしれないけれど。
 それに、あの白痴の魔王の欠片さえも、あそこにいるらしいじゃないか。
 君はまだまだ楽しめそうだよ? ハハ、僕はもうこのまま、終わりを迎えようと思うけど!」

黒い男に体を寄せながら、とても嬉しそうに言う。

「……僕が手伝ってあげようか?」

そんなことを囁く。無論、本気で言っているわけでもない。そんな力はもう残っていないのだから。

『別の貌』 > 「ハハハハアハハハアハアハアハアハハハハ。
 そうだ、その通りだ。
 なんて面白いのだろう。なんとくだらないのだろう。
 俺/私/君/彼は囚えられている。宇宙の内に!星の世界に!!
 私?私は何もしない!私はただ在るだけだ。
 その通りただ愉しむだけだ……」

鳴鳴の、自分の言葉を肯定し、そして頷いた。
だが彼我個体の区別が徐々に明確化されはじめている。
お前であり自分であるものが、お前と自分になりつつある。

「ああ、その人間は九段を一歩登りあと八で消える。
 その時に私は解き放たれるだろう。
 だがそこに至るのはまだ先の因果であり……そして“今”は時間がない」

掴んでいない、もう一方の掌が開いた。その上に浮かぶは輝く黒き多面体。

「君を使おうとした者が、君の残りを浚おうと常世の道を遡りやってくるだろう!」

掲げる。
輝くトラペゾヘドロン。
それは混沌自身が作り出した非物質の世界の、あるいは己自身への入り口。

「人の狂気が求めている。君はここで私の混沌を補充してくれ」

漆黒に光る多面体を、もはや自分ではない相手へと叩きつける。

鳴鳴 > 「なるほど」

鳴鳴は嗤う。
それは自分に対して、相手に対して。そして囚われた青年に対して。
共に黒い男と笑っていたものの、もう鳴鳴の思いは黒い男と同じではない。
鳴鳴は混沌の化身の一つであったが、ついぞ一つの混沌と成り果てたのだ。

「それで、僕を使おうというわけか!
 僕は、僕になった。もう君じゃない。
 僕は僕、鳴鳴という存在だ。混沌ではあったけれど、もう「個」となってしまった。
 僕は僕でありたいと思ったんだ! 僕の享楽のために、僕のために!
 サヤと石蒜を愛してたんだ。好きだったんだ。だから、このザマさ。
 もう僕は君達の一つであるという資格はなくなった。
 だけど、とでも満足してるよ。きっと、君達の一つであったなら、この享楽にはたどり着けなかっただろう」

鳴鳴の手を掴んでいないほうの手が、黒く不揃いな多面体を手にする。
それは宇宙の深淵を映すかのように黒い。
輝くトラペゾヘドロン。宇宙の窓にして、混沌を呼び出すための入り口。

「あが、あひゃ、あは、あははははは!!」

黒い多面体が、輝くそれが、鳴鳴へと叩きつけられる。

「くく、あは、あは……面白くないな、最後まで炎に焼き尽くされていれば、よかったな!
 でも、いいのかい。僕はもう君じゃあない。僕の混沌は、僕の、好きな、ように……。
 僕の享楽のままに、君を邪魔するかも、しれないけれど」

鳴鳴の体がさらに崩れて、混沌へと変わっていく。

「ひひ、あは、あははは……大いなる「道」の前では、君も僕も無意味で無価値だ。
 僕たちの主でさえ、この世界に囚われている。皆無意味だ。
 だけど、僕は価値あるものを見付けられた。僕と君が、嗤っていたものさ。
 ……だか、ら。きっと、君の思うままには、いかないよ。
 ……僕は、僕というナイアルラトホテップになった。だから、僕のままに、君の混沌と成り果てても。
 僕は、僕であろう。君を、嗤って、邪魔してやるさ……!」

『別の貌』 >  


         タオ      ミチ
 せやから、その『道』で俺らの『道』を拓いてくれや



 

『別の貌』 > どこかで。
白痴を取り囲む太鼓でもフルートでもない音が聞こえ。

「その通りだ私であったお前よ。
 混沌を混ぜて生まれた世界で生きる人に、混沌が響き合っている。
 だからお前はこうなった。
 だから私はこうなったのだ。
 そして門を開くものは、矮小なる人の神の力で混沌を混ぜ直そうというのだろう。
 つまらない!!!面白い!!!!!」

叩きつけられた概念上の多面体が、鳴鳴だった混沌を引きずり込んでいく。
黒くすべての色に輝きながら混沌が流れこんでいく。
それを見ながら、別の混沌が嗤う。

「ハハハハアハハアハアハハハハハ。
 どうなるかな。人の狂気(Sanity)が選んだのだ。
 この盲目白痴の世界で、それがどれほどの意味を持つのか、それを私とともに嗤って見届けるがいい!!!
 それはなんとおもしろきことか!!!!」

鳴鳴 > 「があ、は、ぁ……!!」

混沌が鳴鳴を侵食していく。引きずりこんでいく。
不揃いな多面体が奇怪な光を放ち、鳴鳴の混沌は取り込まれ、混沌を流し込まれていく。

「嗚呼、わかったよ。僕は君みたいな人間が好きなんだ。
 僕達みたいな不条理と理不尽を! どうにかしようとあがく人間が!
 だから僕が拓いてあげよう、僕の「道」で! 君の「道」を!」

不揃いな多面体の中に取り込まれていく。
最早鳴鳴の体は人としての姿を保っていなかった。

「僕という混沌が君達の中に入ることで! 君達をかき回してあげる!
 さあ、行くと良い! 道は僕が拓いてあげよう!
 君が彼の中に入ったのなら、今度は僕が彼の中に入る番だ!
 盲目白痴の世界で踊り狂う人が君をどうするのか、見ていると良い!
 僕達が真に否定されるときこそ、僕達の享楽は成就する!」

高らかに笑って言う。鳴鳴が現れた門が再び開く。
最後の力によって。

「さあ。行くと良い。人の狂気。混沌と門を宿した者よ。
 僕が君の中の混沌をかき回してあげる。
 あのグランドマスターもそう言っていたさ! 僕の好きなようにしろってね!
 僕は君に期待してるんだ! 君もまた、あのサヤと石蒜のように、僕達を裏切ってくれるとね!
 僕が愛した彼女たちの世界を! つまらなくしないでくれよ!
 アハ、あはは、あはははは!!」

狂ったように嗤いながら、不揃いの多面体の中へと、鳴鳴は消えていく。

「僕は、君が僕のようになることを、君達の中で見ているとするよ!
 さようなら! ナイアルラトホテップ、かつての僕よ!
 僕たちのカダスの小さな神々によって、全てがかき回される様を!
 僕は願っているのだから!」

「さようなら、サヤ、石蒜。こんどこそお別れだ。
 だけど君達なら、きっと、僕達のような不条理にも――
 ありがとう、愛していたよ!」

――そうして、一つの混沌が、鳴鳴が。

――混沌の中に、消えた。

『別の貌』 >  

見えなくなっていく。

消えて混沌も、残った混沌も。

全ては無明の霧に覆われて見えなくなっていく。

だとしても。

道は確かにあるのだと――――――

 

ご案内:「無名の霧」から『別の貌』さんが去りました。
ご案内:「無名の霧」から鳴鳴さんが去りました。